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ブクドリ | BOOK DRIP

「やりたいこと」は探すのではなく、行動の中から立ち上がる

約6分で読めます キャリア・働き方
目次

「やりたいことがわからない」。この問いに、何時間考えても答えは出てきません。

ノートに書き出し、自己分析シートを埋め、適性診断を受ける。けれど、もやもやは晴れない。代わりに焦りだけが残ります。

実は、ここに大きな勘違いがあります。やりたいことは「考えて見つけるもの」ではなく、「動いた結果として立ち上がってくるもの」だという研究があります。

今日は、キャリア論と自己理解論を行き来しながら、その構造を整理してみます。

問題の構造:内省は「答え」を出さない

なぜ、考えてもやりたいことが見つからないのでしょうか。

答えはシンプルで、内省には「素材」が必要だからです。素材とは、自分が動いた経験のこと。経験が少ない状態で頭の中だけを掘っても、出てくるのは過去の延長線上の答えだけになります。

ここで興味深いのが、ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が『イノベーション・オブ・ライフ』で提示した「意図的戦略と創発的戦略」という枠組みです。

意図的戦略とは、事前に計画されたゴールに向けてリソースを投入するアプローチ。創発的戦略は、予期せぬ機会や日々の小さな決定の積み重ねから自然に立ち上がるアプローチを指します。

クリステンセンは、ホンダのアメリカ進出を例に挙げます。ホンダは当初、大型バイクでハーレーダビッドソンに勝つという意図的戦略を立てましたが、これは惨敗。失意の社員がたまたま乗っていた小型バイク「スーパーカブ」に地元住民が興味を示したことから、まったく予期しなかった創発的戦略が生まれ、大成功を収めました。

そして本書はこう続けます。キャリアの初期段階ほど、厳格な計画に固執するのではなく、創発的アプローチが極めて重要である、と。

クリステンセン自身、ジャーナリストを目指して挫折し、コンサルタント、起業、解雇という予期せぬ展開を経て、最終的に「天職」と呼べる大学教授にたどり着いた人物です。動いた結果、見えてきた道。これが現実のキャリア形成の姿です。

知見1:3つの式の前提は「経験量」

ベストセラー『世界一やさしいやりたいことの見つけ方』で八木仁平氏が提示した有名な公式があります。

「好きなこと × 得意なこと × 大事なこと(価値観)= 本当にやりたいこと」

この式は美しく、多くの読者に光を与えてきました。しかし、ここで見落とされがちなポイントがあります。

「好き」「得意」「価値観」のいずれも、頭で考えて出てくるものではなく、経験を通じて発見されるものだという点です。

たとえば「得意なこと」を、八木氏は「無意識にやってしまう、心地よいやり方」と定義しています。後天的なスキルとは違い、自分にとっては当たり前すぎて気づきにくい。だからこそ、「身近な人に聞いてみる」「過去の充実体験を深掘りする」という、外部からの観察と過去経験の棚卸しが推奨されます。

「好きなこと」も同じです。書店をぐるっと歩いて、なぜか手に取ってしまった本の棚に手がかりがある。動いて、引っかかりを観察して、ようやく像が見えてくる。

ここで重要なのは、八木氏自身が「やりたいことが見つからないのは、選択基準(自分軸)がないからだ」と指摘していること。つまり問題は行動量ではなく、行動から得た情報を「軸」に翻訳する作業の欠如にあるのです。

経験ゼロの内省は、空っぽの井戸を掘る行為に近い。まず動き、得たデータを軸として整理する。順番を逆にしてはいけません。

別の角度から見ると、これは「ジャムの法則」とも接続します。選択肢が多すぎると、人は「選択しないという選択」をしてしまう。やりたいことが決まらない原因の一つは、自分の中に判断基準がないまま、外側の無限の選択肢に圧倒されている状態にあります。

基準は、書物の中ではなく、自分が動いて引っかかった経験の中にしかない。八木氏が「好きなことを仕事にしよう」の前に「得意なことから入れ」と説くのも、この順序の問題を強く意識した設計です。

知見2:行動を止めるとき、確率はゼロに固定される

もう一つ、骨太な視点を提供してくれるのが大野晃氏の『やらなきゃ確率ゼロ%』です。

タイトルそのものがメッセージになっています。やらなければ確率はゼロのまま。動き出した瞬間、確率はゼロではなくなる。

著者は偏差値30台から税理士試験に合格し、ひとり社長として年商1億円超を達成した人物です。彼が強調するのは、「即初動」というキーワード。

ビジョンが浮かんだら、考え込む前に検索する、発信する、メッセージを送る。なぜなら、人間は考え始めると「できない理由」を探し始めてしまうからです。

ここに、行動の優位性に関する重要な心理メカニズムがあります。スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が提唱した「プランドハプンスタンス(計画された偶発性)」理論によると、ビジネスパーソンのキャリアの約8割は予期せぬ偶然の出来事によって形成されているとされます。

ホンダの社員が気晴らしに乗ったスーパーカブと同じ構造です。偶然をキャリアに変えるには、まず動いて、偶然と出会える場所に身を置くしかありません。

加えて大野氏は、行動を止める最大の要因として「常識の鎖」を挙げます。老後のための貯蓄、現状維持の幸福、後でご褒美。これらは安全に見えて、今動かない言い訳としてのみ機能します。

動かなければ、創発も偶発も起きない。確率は永遠にゼロに固定される。これが現実です。

ここで一つ、誤解を解いておきます。「即初動」は、無謀な飛び込みではありません。大野氏自身、自己投資を強調する人物です。重要なのは、完璧な準備を待たないこと。100点の計画より、30点でも動き出した人のほうが、現場の情報を手に入れ、次の一手が見えてくる。動くことそのものが、最高の情報収集になります。

実践への橋渡し:3つの転換

ここまでの知見を、明日からの行動に落とします。

第一の転換は、「探す」を「試す」に置き換えること。クリステンセンが提案する「発見志向計画法」が役に立ちます。新しい選択肢に飛び込む前に、「これが成り立つには、どの仮説が真実である必要があるか」と自問する。最も重要かつ不確実な仮説を、最小コスト・最短時間で検証する。医学部を卒業してから向いていないと気づくのではなく、その前に「医療現場のボランティアに1日参加する」レベルの小さな検証を挟むのです。

第二の転換は、完璧な計画より「即初動」を選ぶこと。1割の確信で動き出し、残りの9割は走りながら埋めていく。小さな行動が「やっている自分」を作り、その自分が次の情報を引き寄せます。検索する、知り合いに連絡する、無料体験に申し込む。10分で完了する初動を、今日中に1つ起こすところから始めましょう。

第三の転換は、経験ログを「軸」に翻訳する習慣を持つこと。動いた後の振り返りこそが、創発を「やりたいこと」へと結晶化させます。週に一度、「今週、思わず時間を忘れたこと」「逆に消耗したこと」を書き出す。八木氏の3要素(好き・得意・価値観)に分類していく。半年も続ければ、自分の輪郭が立ち上がってきます。

考えてから動くのではなく、動きながら考える。この順番の逆転こそが、停滞を抜ける唯一の方法です。

おわりに

「やりたいことが見つからない」と悩む人ほど、頭の中で答えを探そうとします。

しかし、人生という戦略は、机上ではなく現場で立ち上がります。意図した道が崩れた瞬間に、予期せぬ道が開く。スーパーカブを乗り回した社員のように、まずは動くこと。

確率ゼロを抜ける鍵は、立派な計画でも、強い意志でもありません。今日の10分の小さな一歩。そこから創発が始まります。


この記事で参考にした本

『世界一やさしいやりたいことの見つけ方』八木仁平 → 好き・得意・価値観の3要素を組み合わせる自己理解メソッド。経験を「軸」に翻訳する作業の重要性を体系化した一冊。

『イノベーション・オブ・ライフ』クレイトン・クリステンセン → 意図的戦略と創発的戦略、発見志向計画法。ハーバードのキャリア論講義を凝縮した、人生の戦略思考の決定版。

『やらなきゃ確率ゼロ%』大野晃 → 即初動、エンディングビジョン、常識の鎖。行動が確率を変えるという原理を、自身の事業実例で語った実践書。


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