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新しい仕事で「来週から本気」が高くつく理由

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約6分で読めます 思考法・問題解決
目次

新しい職場の最初の数週間は、周りの人がいちばん手を貸してくれる時期です。そしてその手助けは、本人が思うより早く減っていきます。

異動や転職の初週、「まずは様子を見て、慣れてから本気を出そう」と考える人は多いはずです。わからないことだらけの時期に動いても空回りする。そう考えると、様子見は慎重で筋の通った判断に見えます。

ところが、新人が職場になじむ過程を追いかけた研究を並べると、様子見には見落とされやすいコストがあります。問題は、先に準備した同僚に負けるかどうかという競争の話ではありません。時間の話です。新しい職場には、最初の時期にしか手に入らないものがあります。

職場になじむとは、3つの手応えがそろうこと

組織心理学では、新しく入った人が職場の一員になっていく過程を「組織社会化」と呼びます。

ポートランド州立大学のタリヤ・バウアー氏らは2007年、新人を対象にした70のサンプルをメタ分析でまとめました。そこで新人の適応の物差しとして置かれたのが、次の3つです。

  • 役割の明確さ:自分に何が期待されているかがわかっている
  • 自己効力感:この仕事を自分はやれる、と感じられる
  • 周囲からの受容:職場の人に仲間として受け入れられている

分析では、会社側の受け入れの仕組みや、新人が自分から情報を取りに行く行動が、この3つを通じて仕事の満足度、組織への愛着、業績、定着の意向に結びつくというモデルが、おおむね支持されました。

たとえば、配属先で頑張っているのに手応えがない人がいるとします。原因は能力より、3つのどれかが欠けていることかもしれません。何を期待されているかが曖昧なままだと、努力の向きが定まらないからです。

ジョン・カメイヤー=ミューラー氏とコニー・ワンバーグ氏の2003年の研究も、同じ方向を示しています。7つの組織の新人を4回にわたって追跡したところ、次の3つがそれぞれ別々に、仕事の習熟、役割の明確さ、職場への溶け込み、社内の力関係の理解と関係していました。

  • 入社前に、組織についてどれだけ知っていたか
  • 本人が、自分から動く性格かどうか
  • 会社や上司や同僚から、どんな働きかけを受けたか

本人の準備と周りの働きかけは、それぞれに効いていたわけです。

周りの手助けは、最初の90日で目減りしていく

では、周りの働きかけはいつまで続くのか。

カメイヤー=ミューラー氏らは2013年、新しく入った264人に14回の調査を重ね、入社後の最初の90日に何が起きるかを追いました。同僚と上司から新人への支援は、この90日のうちに減っていきました。

もう一つの結果のほうが、実務には効きます。90日を過ぎた時点の仕事の結果とより強く結びついていたのは、支援がその後増えたか減ったかより、最初の時期に受けた支援の大きさでした。研究者は、初期の支援があとの結果の土台になっている可能性を指摘しています。

さらに、支援を受けた新人ほど自分から動くようになり、その行動が後の結果の一部を説明していました。手を貸してもらえる時期に動けた人が、その後も動き続ける。そういう循環が見えます。

減っていく流れは、90日で止まるわけでもありません。フィンランドのマルック・ヨキサーリ氏とヤリ=エリック・ヌルミ氏は2009年、入社後6か月から21か月までの新人を4回調べ、上司からの支援が平均して下がっていくことを確かめました。支援の下がり方が急な人ほど、役割の明確さと仕事の満足度の落ち方も速く、給与の伸びも鈍かったといいます。

ただし、どちらも職場で起きたことを追跡した研究で、実験のように原因を確かめたものではありません。新人が一人前になり、手助けが要らなくなったから支援が減る面もあるでしょう。

それでも、最初の時期の支援の大きさが後まで響くという結果は、様子見を長く取る判断を考え直す材料になります。周りが新人に向ける手厚さには、期限があります。

最初の半年で差がついたのは、関係の作り方だった

では、最初の時期に新人は何をすればよいのか。ミシガン大学のスーザン・アシュフォード氏とJ・スチュワート・ブラック氏の1996年の研究が、この問いに近いデータを出しています。

対象は、米国北東部のビジネススクールを修了して就職したMBAの卒業生です。入社の2〜3か月前、入社6か月後、入社12か月後の3回調査し、3回とも答えた69人を分析しました。6か月時点の行動と、1年後の仕事ぶり(本人の自己評価)や満足度との関係を見ています。

結果は、直感と少しずれていました。

  • 上司との関係づくりに力を入れた人ほど、1年後の業績の自己評価が高かった(標準化係数0.56)
  • 職場の人との雑談や付き合いを重ねた人ほど、満足度が高かった(同0.31)
  • 新しい状況を「問題」より「機会」として捉え直そうとした人は、業績と満足度の両方が高かった(同0.31と0.44)

意外なのはここからです。社内の規則や手続きについて情報を集めた人ほど、満足度はむしろ低く出ました(同マイナス0.28)。上司や同僚に自分の評価を聞きに行く行動は、業績とも満足度とも関係が見られませんでした。

著者らは、情報を集めても望む答えが得られなかった可能性と、すでに不満を抱えていた人ほど情報を探し回ったという逆向きの可能性を挙げています。サンプルは69人のMBA卒業生だけです。業績も本人の申告です。バウアー氏らのメタ分析では情報を取りに行く行動は適応を後押ししていたので、「調べるのは無駄」と読むのは行き過ぎです。

それでも、この研究から実務に持ち帰れることがあります。最初の半年で業績の自己評価と結びついていたのは、資料を読み込む量より、上司とどんな関係を結ぶかでした。

経営者の伊藤嘉明さんは、自動車、飲料、IT、家電と業界を移るたびに事業を立て直してきた人です。新しい業界に入ったら、まず業界知識を猛勉強する。伊藤さんは『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』で、それを勧めていません。

用語は専門書より社内資料を読み、会議にできるだけ潜り込んで使われ方をつかめばよい。取引先や社内の関係者については、組織図や人事情報から個人の好みまで書き込む「ファクトブック」を作り、誰にどう頼めばよいかを見えるようにする。

伊藤さんは事業を立て直す立場で、新人とは条件が違います。それでも、知識の量で古株と張り合わず、人と場に早く入り込むという順番は、研究の結果と重なります。

最初の数週間に、3つの手応えを取りに行く

研究と2冊の本から、最初の数週間の動き方を2つの誤解に分けて整理します。

誤解:まず業界と仕事の知識を固めてから、上司と話す → 役割の明確さは、一人で勉強しても上がりにくい手応えです。何を期待されているかは、期待している本人に聞くのがいちばん早い。

正しいアプローチ:最初の2週間のうちに、上司と「何ができたら期待どおりか」をすり合わせる → 大石哲之さんは『図解 コンサル一年目が学ぶこと』で、「ざっくり調べておいて」と頼まれたら「資料1枚で4項目くらいで良いでしょうか」と数字で確かめる例を挙げています。新しい職場なら、たとえば「最初の3か月で、何ができていれば期待どおりですか」と聞けば、同じ確認ができます。上司との関係づくりの最初の一歩にもなります。2週間という期間は私の目安で、研究が示した数字ではありません。

誤解:人間関係は、仕事に慣れれば自然にできる → 周りの支援は最初の時期がいちばん厚く、そこから減っていきます。慣れるのを待つあいだに、手を借りやすい時期が過ぎていきます。

正しいアプローチ:最初の1か月で、仕事でかかわる人の簡単なメモを作る → 伊藤さんのファクトブックの縮小版です。名前、担当、何を頼めそうか、何に困っていそうか。数行ずつでも、次に誰に声をかけるかが決まります。昼食や雑談の誘いに乗るのも、アシュフォード氏らの研究で満足度と結びついていた「職場の人との付き合い」にあたります。

もう一つ、今日5分でできることがあります。初週の終わりに、困りごとを1つだけ「機会」の言葉で書き直すことです。

たとえば「用語がわからない」を「用語を覚えれば、会議の中身が追えるようになる」と書き換える。アシュフォード氏らが測った「状況を機会として捉え直す」行動を、紙の上でやってみる形です。ただし、書き換えれば成果が上がると研究が示したわけではありません。業績の自己評価と関係していた、という段階の知見です。

おわりに

「来週から本気を出す」とき、手放しているのは同僚との競争の順位より、周りがいちばん手を貸してくれる時期の一部です。

新しい仕事が始まる週に、上司に聞く質問を1つだけ用意しておく。始めるには、それくらいの小ささで足ります。


この記事で参考にした本

『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』伊藤嘉明 → 新しい業界では知識で古株と張り合わず、社内資料と会議で用語をつかみ、関係者のファクトブックを作るという入り方

『図解 コンサル一年目が学ぶこと』大石哲之 → 曖昧な指示を数字で確かめ、相手の期待値をつかむ技術


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