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『ブスのマーケティング戦略』田村麻美|美醜格差は、戦略で覆せる

キャリア・働き方 ✍ 田村麻美
約8分で読めます

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『ブスのマーケティング戦略』
目次

集合写真を見たことがありますか。5人以上が横一列に並んだ、あの記念写真です。

あの中に自分がいるとき、たいていの人は「自分はどう写っているか」だけを気にします。目が半開きだった、隣の人より顔が大きい、肌が荒れている。要するに、自分の見た目を品定めして一喜一憂する。

ところが本書の著者は、まったく違うことをしました。自分を含めた写真の全員を、一人ずつ「商品」として採点していったのです。

『ブスのマーケティング戦略』は、税理士の田村麻美さんが、自らを「ブス」と認めるところから始めた逆転の記録です。容姿というハンデを、3C分析やブルーオーシャン戦略といった本物のマーケティング理論で攻略し、幸せな結婚と経済的自立を手にするまでを、赤裸々な失敗込みで書いています。

タイトルの強烈さに反して、中身はきわめて理性的なビジネス書だ、というのが読んでみての第一印象でした。

ここで言う「ブス」は、好みや主観の問題ではありません。本書の定義は乾いていて明快です。他人に顔を褒められた経験が20回未満なら、ビジネス市場・恋愛市場で「見た目を武器にできない人」。

それだけのことです。感情を抜いて条件で線を引いてしまうこの割り切りが、本書全体のトーンを決めています。

図解

普通の婚活本とは、出発点からして逆

世の中の婚活本や自己啓発書は、たいてい「ありのままの自分を愛そう」と言います。本書は、そこから逆を行きます。

著者の主張はこうです。ありのままの自分を愛せないなら、努力して、愛せる自分を作りにいけばいい。肩書きがないから自信が持てないなら、肩書きを取ればいい。気持ちを言葉で慰めるのではなく、ビジネスの道具で現実のほうを動かす。ここが他の本と決定的に違うところです。

自分を一つの商品とみなし、プロダクト解析、セグメンテーション、4P、製品ライフサイクルといったマーケティングの理論を、自分の人生にそっくり当てはめていく。理屈だけならよくある「人生をビジネスに例える」話に聞こえますが、本書が侮れないのは、その全部に著者自身の生々しい実体験が貼りついている点です。

なかでも象徴的なのが、100回近い合コンで打率1割という数字。理論を語る本ではなく、自分の屈辱をデータに変換してきた人が書いた、ケーススタディとして読めます。気休めではなく、実際に試して負けて修正してきた記録だからこそ、戦略に説得力が宿っています。

自分を「0点」と採点したところから始まった

戦略の出発点は、自己評価をいったんゼロに落とすことです。

著者がすすめる最初の作業は、5人以上の女性が写った集合写真を見て、自分を「商品」として客観的に眺めること。辛くても「自分はブスである」という事実を一度受け入れます。

プライドを抱えたままでは、次に何を装備すべきかを冷静に考えられないからです。ここは多くの読者がいちばん抵抗を感じるところでしょうが、戦略論としては筋が通っています。

現在地を正確に測れなければ、目的地までの距離も測れません。

そのために使うのが、5つの指標による「プロダクト解析」です。自分という製品の強みと弱みを冷静に棚卸しする作業で、指標は次の5つ。

見た目 — 他人が客観的に「かわいい」「美しい」と思うか。 経済力(仕事) — 生きていく安定性。稼ぐ才能に直結する。 学歴 — 18歳までに積んだ努力の指標。 居心地(人柄) — 話術、気立ての良さ、面白さ、品の良さ。 相性(個性) — 市場やターゲットによって評価が変わる項目。

面白いのは、著者がこの査定で自分の「見た目」を堂々と0点とした上で、自分が提供できるサービスを「気さくで居心地のよい税理士」と定義し、「居心地」を90点に設定したところです。

見た目で負けているなら、別の項目で総合点を稼げばいい。商品の改良とは、本来そういう発想です。一つの欠点で全否定するのは、採点ではなく感情にすぎない、と教えてくれます。

「いい男とやりたい」を、勉強のガソリンにした

ここで本書は、きれいごとを一つ堂々と捨てます。

著者は中学生のとき、ドラマ『ロングバケーション』を見て「ぜひとも一度やってみたい」という欲望を抱きました。その性欲を否定せず、そのまま勉強の原動力に変えています。

優秀な男と出会うには、まず自分が優秀な学校に行かなければならない。そう考えて偏差値を70まで上げ、県内一の女子高に合格しました。

本書が言いたいのは、行動を起こす最強のエネルギーは高尚な理念ではなく「俗っぽい欲望」だ、ということです。モテたい、稼ぎたい、認められたい。そういう本能に素直になることが、結果として長続きする努力につながる。

「いい男とやりたい」という下心は、普通は隠すべきものとされます。けれど本書は、それこそが勉強を継続させるガソリンになると言い切ります。立派な動機を探しあぐねて動けないより、俗な欲望をエンジンにして走り出すほうが、よほど健全だという考え方です。

これは恋愛に限らず、仕事や勉強で「やる気が出ない」と悩むすべての人に効く視点だと思います。

合コン100回で、著者は「自分の話」をやめた

本書でいちばん意外だったのが、ここです。

著者は学生時代を中心に100回近い合コンに参加しました。けれど次のデートまで持ち込めたのは10回あるかないか。打率1割です。普通ならへこむこの数字を、著者は「市場調査のデータ」として淡々と扱います。

合コンは出会いの場ではなく「店頭」だ、というのが本書の見方です。商品は店に並べてこそ真価がわかる。だから合コンは、自分という商品がどの層の顧客に刺さるのかをテストする実験の場になります。

そこで著者が徹底したのが、自己PRの全面禁止でした。自分の話、マイナーな趣味、自慢話は一切しない。ひたすら相手に質問をし、肯定し、「すごいですね」と褒め続ける。狙うのは「この人とは話が続く、居心地がいい」という評価です。

なぜそこまで自分を消すのか。本書はこう説明します。自己PRをするのは、ニーズのない市場に間違った商品を大量投入するのと同じだ、と。相手が欲しがっていないアピールは、結局は在庫の押しつけにしかなりません。

だからまず傾聴して、相手のニーズを探る。営業の基本そのものを恋愛に持ち込んだ、隙のない理屈です。私自身、良い場ほど自分を売り込まねばと思い込んでいたので、この一節には正直うろたえました。

戦う市場を変えれば、同じ自分でも評価が変わる

著者は、最初に就職した都内の税理士事務所を1年10カ月で辞めています。

ところが別の地域の事務所に移った途端、高く評価されました。商品(自分)は何ひとつ変わっていないのに、市場(職場)を変えただけで評価が逆転したのです。

本書はこれを「逃げ」ではなく戦略と呼びます。努力の余地がない場所にしがみつくより、自分が輝ける市場へ移るほうが合理的だからです。この一点だけでも、いまの環境で消耗している人には読む価値があります。

この発想を突き詰めたのが、ブルーオーシャン戦略です。ブルーオーシャンとは、競争相手のいない未開拓の市場のこと。著者は資格選びで、女性比率がわずか15%、20代だと数パーセントしかいない税理士を選びました。女性であること自体が希少価値になる市場をあえて選んだわけです。

戦い方の核は「掛け合わせ」で希少性を作ること。ブス×税理士×一芸、というように要素を組み合わせれば、ライバルのいない独自のポジションができあがります。

一つの武器だけで勝負するのはリスクが高い。複数の武器を掛けるほど、代わりのきかない存在になれる。これはキャリア論としても普遍的です。

合コンでも同じ発想を使います。華やかな男性を狙わず、競合の少ないターゲットに絞る。市場を細かく分けて勝てる場所を選ぶ、セグメンテーションの考え方です。

3C分析(顧客・競合・自社)で「自分の競合は誰か」を見極めるのも、この延長線上にあります。恋愛を需給と競合で語る冷徹さに、最初は面食らいます。

けれど「全員にモテようとしない」という割り切りは、消耗戦から自分を守る防具にもなっている、と読めました。

未完成のまま、市場に出してしまう

もう一つ、本書が常識を裏返す場面があります。

普通は「自信がついてから」「痩せてから」「資格を取ってから」行動しようと考えます。本書は逆で、総合点が低いまま、未完成のまま市場に出すことで、かえってものすごい学びが得られると言います。

これはビジネスでいう「リーン・スタートアップ」の発想です。コストをかけずに試作品を出し、顧客の反応を見ながら改良する。完璧な製品を作り込んでから出すより、はるかに早く市場のフィードバックを得られます。

著者は「とりあえず付き合ってみる」「とりあえず同棲してみる」とフットワーク軽く動き、断られても「服装がダメだったか」「誘い方が悪かったか」と原因を一つ分析して次に活かしました。

要するに、恋愛でPDCAを回したわけです。

行動を後押しするのが「期限」です。著者は「20歳までに初体験」と決め、実際は18歳で達成しています。怠惰な自分を変えるときも、5カ月という期限を切って70万円を払いライザップに入り、10キロ落としました。期限を設定するから動ける。先延ばしを断ち切る、シンプルでよく効く道具です。

ただし本書は、ここで一つ大事な留保を添えます。自分という「顧客」を無視してはいけない、と。他人の評価ばかり気にして市場に合わせ続けると、いつのまにか自分の満足を見失う。

著者自身も挫折の中で「自分も顧客の一人だ」と気づいています。売れることと、自分が心地よいこと。その両方を見るバランス感覚が、この戦略を冷たいだけのものにしていません。

美人は経年劣化する、ブスは加点方式

本書の射程がいちばん長くなるのが、この最後の論点です。

普通は美人のほうがずっと幸せだと思われています。けれど本書は、美貌には「経年劣化」という弱点があると指摘します。これは製品ライフサイクルの話です。

商品は導入期、成長期、成熟期を経て、やがて衰退期に向かう。見た目だけを武器にしてきた美人は、若さという単一の武器が時間とともに価値を落とし、衰退期で苦しむことがある、という冷静な観察です。

一方でブスは加点方式だと著者は言います。資格、経済力、傾聴の技術、居心地の良さ。若い頃からコツコツ積み上げた武器は劣化しません。むしろ時間をかけて価値を増していく。だから長期で見れば、武器を装備し続けたブスが、美しさに頼りきった美人に勝つことがある。本書はそう論じます。

ここに本書のいちばん大事なメッセージが重なります。ブスが明日美人になることはありません。そんな奇跡は起きない。けれど、ブスを「調理」することはできる。見た目という素材は変えられなくても、どう料理し、どの市場でどう出すかは、戦略でいくらでも変えられるのです。

おわりに

読み終えて私の手元に残ったのは、自己PRを禁じる、あの一節でした。

欲しがっていない相手に在庫を押しつけている、と言われると、返す言葉がありません。コンプレックスを精神論で慰めるのではなく、需給と競合の言葉でいったん突き放してから、戦い方として組み立て直す。その容赦のなさが、結果的にいちばん優しいのかもしれない、とも思いました。

著者は最後にこう書いています。ブスだったからこそ、自信がなかったからこそ、武器を装備し続けたおかげで、いまここに立っている、と。弱点が、原動力になる。コンプレックスに押しつぶされそうな夜があるなら、それをバネに変える具体的な手順が、この一冊には詰まっています。


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