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『超ストレス解消法』鈴木祐さん|ストレス対策は「質より量」だった

健康・メンタル ✍ 鈴木祐さん
約7分で読めます

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『超ストレス解消法』
目次

カラオケで思いきり叫ぶ。やけ食いをする。とりあえず寝る。それでも翌朝、同じイライラがそっくり戻ってくる。そんな経験があるなら、解消法そのものが間違っているのではなく、「たった一つの効く方法」を探しているという構えのほうが間違っているのかもしれない。

サイエンスライターの鈴木祐さんによる『超ストレス解消法 イライラが一瞬で消える100の科学的メソッド』は、ハーバードやスタンフォードなど一流の研究機関で検証された100の対処法を集めた一冊だ。

副題にある「100」という数字が、すでに本書の主張そのものになっている。効く一手を一つ見つけるのではなく、効きうる手を大量に抱え込む。その発想の転換を、編集部なりに読み解いていきたい。

ストレス解消は「最強の一手」より「手札の枚数」で決まる

本書の出発点は、いきなり世間の常識に逆らっている。ストレス解消は質より量が大事だ、と言い切るのだ。

私たちはつい「自分に一番合う最高の方法を一つだけ見つけよう」と考える。ところが鈴木さんに言わせれば、それこそが遠回りだ。ストレスへの反応は人によって、そしてその日の状態によっても違う。

だから万人に必ず効くたった一つの技など、そもそも存在しない。正解を一点探しするより、外れても構わない手札を何枚も握っておくほうが合理的だ、というわけである。

本書はこれをRPGの回復アイテムにたとえる。一つの呪文が効かなくても、次のアイテムを試せばいい。百枚のカードを持っていれば、一枚が外れても落ち込まずに済むという「効かなければ次」の感覚こそが、心の余裕の正体だと本書は言い切る。この比喩は言い得て妙で、私たちがストレス対策で消耗する理由の多くは、実は「これしかないのに効かない」という手詰まり感そのものにあるのだと気づかされる。

もっとも、百も並べられれば「結局どれをやればいいのか」という新たな迷いが生まれる。ここで手が止まる読者は少なくないはずで、本書の真価はむしろ、この膨大なカードをどう選ばせるかの設計にある。

100の技を5つの軸で採点し、いまの自分に必要な一枚を選ばせる

そこで本書は、すべての技法を5つの軸で採点し、レーダーチャート化している。科学的な信頼度、手軽さ、即効性、効果の高さ、持続時間。この5点だ。

「今すぐイライラを止めたい」なら即効性と手軽さの高い技を、「根っこから体質を変えたい」なら効果と持続時間の高い技を選ぶ。感覚ではなく数値で自分の状況に当てはめて選べる。

精神論に流れがちな類書と本書が決定的に違うのは、この「選び方まで設計している」点だと思う。技を並べるだけの本は多いが、選択の基準を渡してくれる本は珍しい。

そして本書は、技を試す前にもう一段の準備を求める。自分のストレスに正確に気づくことだ。ダイエットでまず体重計に乗るのと同じ理屈で、今の負担量を知らずに対策を打っても効果は測れない。

最も手軽なのが「ストレスサーモメーター」で、イライラした瞬間に今の負担を0点から10点で採点する。それだけだ。漠然と「なんかムカつく」と抱えるより、「これは7点だ」と数字にするほうが、それ自体で心にゆとりが生まれると研究で示されているという。

より踏み込むなら、4つの質問に答えるPSS4、体の緊張を順に確かめるボディスキャン、状況やトリガーを書き留めるストレスダイアリーもある。心の負債を家計簿のように可視化する作業だと考えればいい。

本書はさらにストレスを3つの顔に分類する。締め切り前の緊張のように一時的な「ショートストレス」、散らかった部屋や過去のミスを何度も思い出す「ループストレス」、そして借金やブラック企業のように慢性化した「ロングストレス」だ。

厄介なのは最後のロングストレスで、最大のリスクは負担に慣れて自覚が消えることにある。痛みを感じなくなった頃には心はかなり削られている、という指摘は重い。

思考・栄養・受容──ストレスが居座り続ける3つの根本原因

その場しのぎではなく根っこから変えたい人へ、本書は原因を3つに絞る。思考、栄養、受容のアンバランスだ。ここが本書の背骨にあたる。

一つ目の思考の偏りは、明確な裏づけもないのに物事を決めつけることから生まれる。犯人は「自動思考」、つまり意思と関係なくふと浮かぶ「自分はいつも失敗ばかりだ」といった考えだ。

対策として本書が推すのが「エクスプレッシブ・ライティング」で、1日20分、悩みを包み隠さず紙に書きなぐる。単なる愚痴の吐き出しに見えて、悩みで占領されていた脳の処理能力が解放され、ワーキングメモリまで改善するという。

面白いのは「ジェネリック・ユー」で、嫌な体験を「私は不幸だ」ではなく「人は誰でもこういう理不尽に遭う」と一般論に書き換える。出来事と自分の間にわずかな距離が生まれる技だ。

夜眠れない人向けの「心配スケジューリング」も実用的で、「この件は明日15時から10分だけ心配する」と時間を先に確保してしまう。心配を自分の管理下に置くだけでメンタルは強くなる。

二つ目は栄養だ。不摂生な食事は体内に酸化ストレスを生み、それが脳を直接傷つけてメンタルを打たれ弱くする。イライラの原因が昨日のジャンクフードだったという話は、精神論では決して出てこない視点だ。

処方箋は野菜や魚、全粒粉を中心にした地中海式の「SMILES」食で、メルボルン大学の研究では大うつ病の患者が12週間続けて症状が3割改善したという。

腸内細菌がセロトニンの分泌を促し感情を左右する話も出てくる。ただし注意もあって、カフェイン感受性が生まれつき高い人はコーヒー1杯で不眠や動悸を起こすことがある。

良かれと思った一杯が引き金になる場合もある、という留保は誠実だ。

三つ目の受容は、変えられない現実を認められず否定し続けることで生まれるストレスを指す。ここで効くのが認知行動療法の父アーロン・ベック博士が開発した「AWAREテクニック」で、不安をまず受け入れ、雲のように消える様子を他人事のように眺め、不安を抱えたまま価値ある行動へ移る。

不安と戦うのではなく、存在を認めたうえで動く。この順番が悪循環を断つ。頭に浮かんだ考えの後に「……と思った」と付け足す「脱フュージョン」も紹介される。

ばかばかしく聞こえるが、そうするとどんな否定的な思考も「しょせんただの言葉だ」と実感でき、真に受けなくなる。悩みの多くは、変えられないものと戦っているからこそ生まれている、というのが受容パートの核心だ。

呼吸・運動・自然、そして脳をだます小技という即効薬

根本治療には数ヶ月かかる。だが今この瞬間の怒りを鎮めたいときのために、本書はエビデンスが特に厚い3つを「三種の神器」と呼ぶ。呼吸、運動、自然だ。

呼吸は最も手軽で即効性が高い。ペンシルバニア大学が過去78件のデータを洗い出し、学生のストレスを下げる最善の方法を調べたところ、王座に輝いたのが深呼吸だった。

吸う・止める・吐く・止めるを各4秒で回す「ボックス・ブリージング」は、グリーンベレーの隊員が緊急時に平静を取り戻すために使うほどだという。運動もハードである必要はなく、週1回1時間の軽いウォーキングだけでうつ病リスクが12%下がった追跡研究がある。

汗もかかない運動でこの数字だ。そして「バイオフィリア」、つまり人間に生まれつき備わった自然を求める本能。ダービー大学のメタ分析では、自然と触れ合うと副交感神経が働いてストレスが減り、その効果量は0.71と呼吸法や運動を上回った。

うれしいのは本物でなくてもいい点で、オフィスに観葉植物を置くだけ、スマホで自然の写真を5分眺めるだけでも副交感神経は動くという。

第4章の「脳をだますトリック」はさらに変化球だ。甘いものを我慢したいとき、おでこを軽く叩くだけで食欲の情報が一瞬リセットされる。怒りが収まらないときは、今の自分を壁に止まったハエの視点から眺める「フライ・オン・ザ・ウォール」。

オハイオ大学の実験では、この視点を取った人ほど怒りが下がり、直後のパズルの成績まで上がった。寝る前にその日の良かったこと3つを書く「スリー・グッド・シングス」など、拍子抜けするほど簡単な技が並ぶ。

意志の力ではなく脳の仕組みを利用するのが一貫した思想で、根性論に疲れた人ほど相性がいいだろう。

本当の敵は「第二の矢」を放つ自分自身だった

これら100の技を貫くゴールを、本書は仏教の教えで示す。「第二の矢」だ。

避けられないトラブルが第一の矢だとすれば、それを受けて「どうしてこうなった」と嘆き、パニックを広げてしまう自分の反応が第二の矢である。真の敵は外のトラブルではなく、それに過剰反応する自分自身だ。

ここに本書のもう一つの転換がある。ストレスは避けるべき悪、という前提そのものが崩されるのだ。短期の適度なストレスはむしろ集中力を研ぎ澄ます起爆剤になる。

「ストレスにはメリットもある」と捉え直すだけで、逆にストレスへ強くなれるという。感じ方そのものが耐性を左右する、というのは本書全体を貫く思想でもある。

だから本書は対策自体のゲーム化を勧める。自分に合いそうな技を集めた「コーピング・レパートリー」を作り、ストレスを感じたらリストから直感で選んで実行し、結果を日記に記録する。

使うたびに経験値が貯まり、自分だけの攻略本が育っていく。この設計は理にかなっている一方で、几帳面に記録し続けられる人ばかりではない。編集部としては、まず1枚か2枚の当たりカードを見つけるところから始めれば十分だと思う。

百のうち自分に効くのは数枚で構わないのだから。

明日からの一歩:イライラを採点し、回復アイテムを書き出す

読んで満足で終わらせないために、入り口は驚くほど小さくていい。まずイライラした瞬間に「今は10点中何点か」と採点してみる。0円で、今日からできて、数値化するだけで心が少し軽くなる。

次に、お茶を飲む・散歩する・猫と遊ぶといった自分に効きそうな解消法を、思いつく限りスマホにためていく。これがあなたの回復アイテムのリストになる。

強い感情に襲われた日は、20分だけ紙に書きなぐる。それだけで脳のメモリが解放され、頭が驚くほどすっきりする。

ストレスをゼロにすることはできない。仕事も人間関係も、生きている限りついてまわる。それでも本書を読むと、戦う相手が「イライラの原因」から「それに過剰反応する自分」へと静かに移っていく。そこに気づけたとき、100の手札のどれを引くかは、もう自分で選べるようになっている。


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