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『読書する人だけがたどり着ける場所』齋藤孝|ネットで毎日読んでるのに、なぜ「浅い」のか

学習・インプット ✍ 齋藤孝
約8分で読めます

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『読書する人だけがたどり着ける場所』
目次

「本は読まないけど、ネットで毎日たくさん文字を読んでる」。

そう思っているあなたに、齋藤孝さんは静かにこう告げます。ネットで文章を読むとき、あなたは「読者」ではなく「消費者」だ、と。

この一言が本書の出発点です。同じ文字を追っていても、ネットの情報を消費するのと、本を読むのとでは向き合い方がまるで違う。前者をいくら積み上げても、人生は深くならない。

情報過多の時代に、なぜあえて読書なのか。本書はその答えを、「AIに勝つため」のような功利主義ではなく、「人生をどう深く生きるか」という問いから説き明かしていきます。


図解

こんな人におすすめ


この本の核心――読書は「情報収集」ではなく「体験」

著者がまず突きつけるのは、いくつかの数字です。大学生協連の調査では、1日の読書時間が「ゼロ」の大学生が53.1%と過半数。さらにマイクロソフトが2015年に発表した研究によれば、現代人が一つのことに集中できる時間は8秒で、2000年の12秒から縮み、金魚の集中力(9秒)より短くなったといいます。

なぜこうなったのか。著者の答えは、ネットの読み方が「消費者」のものだからです。

「ネットで文章を読むとき、私たちは『読者』ではありません。『消費者』なのです。」(本書より)

消費者は自分が主導権を握り、つまらなければ次々と切り捨てます。著者は、現代人がイントロを我慢できないので、いきなりサビから始まる曲が増えた、というエピソードも引きます。私たちは文字や音を「浴びている」だけで、向き合ってはいない。

一方、読書は著者をリスペクトし、逃げ出さずに最後まで話を聴く行為です。著者はこれを「体験」と呼びます。逃げずに聴ききった話だけが、脳に刻み込まれ、人格を形づくる。

「浅い情報は常にいくつか持っているかもしれませんが、『人生が深くなる』ことはありません。」(本書より)

ここで著者は、よくある発想を一つ退けます。「AIに負けないために読書をする」という考え方です。著者はこれを本末転倒だと切り捨てる。囲碁では、ディープマインドのアルファ碁ゼロが過去の棋譜すら使わず自己学習だけでトップ棋士を打ち負かした。

AIにできないことを予測しても、すぐに覆る。大事なのはAIに勝つことではなく、自分の人生をいかに深く生きるかだ、というわけです。

このスタンスは、私には誠実に感じられます。読書術の多くは「成功するため」「差をつけるため」と外向きの効用を語りがちですが、本書はあくまで読者自身の内面に矢印を向ける。だからこそ、流行に左右されない強さがあります。


「深さ」は5つのフェーズで育つ

では「深い人」とは何か。単なる物知りではありません。

「教養とは、雑学や豆知識のようなものではありません。自分の中に取り込んで統合し、血肉となるような幅広い知識です。」(本書より)

この教養の源にあるのが「リベラルアーツ」。古代ギリシャに起源を持つ「自由になるための技芸」で、偏見や習慣の呪縛から解放され、自分の意志で生きるための広範な知識を指します。

齋藤さんは、読書が育てる「深さ」を、認識力・思考力・知識・人格・人生という5つのフェーズに分けて論じていきます。

認識力――一流の「目」をインストールする

深いコミュニケーションの根底にあるのは「認識力」だと著者は言います。会話のテクニックではなく、相手の状況や複雑な感情、その場の文脈を捉えて理解する力のことです。

文学には、嬉しいとも悲しいとも単純には言えない感情が描かれている。それを読むことで、感情を感じ取り言語化する力が磨かれます。

面白いのは、この力が他人の本を通じて「借りられる」という点です。宮本武蔵の『五輪書』を読めば、60戦無敗の剣豪が60歳で書き残した、姿勢や目つきまで及ぶ細やかな認識を自分にインストールできる。武蔵は、全体を捉える大きな眼「観」と、細部を見る眼「見」の両方を研げと説きました。

世阿弥の『風姿花伝』も同じです。「初心忘るべからず」は、ふつう「始めた頃の新鮮な気持ちを忘れるな」と理解されますが、本来は違う。自分の芸の未熟さを忘れず、常に自分を戒めて自己更新し続けよ、という意味だと著者は読み解きます。

ジャパネットたかた創業者の高田明さんが、社員から「社長の口癖と同じだ」とこの本を渡され、自身の経営哲学につなげたという逸話も添えられています。

思考力――自分に引きつけて、感情を乗せて読む

思考を深める鍵は「自分に引きつけて考える」こと。『星の王子さま』を読むなら、ストーリーを追うだけで終わらせず、「この物語の狐は、自分の人生における誰だろう?」と問う。すると内容が自分の経験と結びつき、思考が動き出します。

そして著者は、思考に感情が欠かせないと言います。

「思考力のある人は、感情をよく動かしています。頭と心、両方必要なのです。」(本書より)

マキアヴェッリの『君主論』の極端な言葉に「えげつない!」とツッコミを入れる。次の展開を予測しながらページをめくる。こうした能動的な読みが、思考の回転を速める。

もう一つ、思考を相対化する手段が対話です。読んだ内容を人に話すと「わかったつもりだった」と気づく。著者はこの気づきこそ、探求を続けるための燃料だと言います。

知識――細胞分裂のように倍々で増える

知識は努力に正比例しません。10努力したら10増える、ではない。最初は実感がなくても、ベースとなる「点」が一定数たまると、点と点がつながって「線」になり「面」になる。そこから先は新しい情報が既存の知識と結びつき、吸収が一気に加速します。

だから著者が勧めるのが「1テーマ5冊」。未知の分野でも、関連する新書を立て続けに5冊読む。著者は知識量を段位でも示します。2冊でBランク(ちょっと詳しい)、5冊でAランク(けっこう詳しい)、20冊でSランク、研究者レベルは2000冊。

たった5冊で「けっこう詳しい人」に入れるなら、挑戦のハードルはぐっと下がります

そして著者は「広く」と「深く」は両立すると言います。一見無関係な分野の知識が、ある日つながって面になる。だから「今月は小泉武夫月間」のように特定の著者にどっぷり浸かり、翌月は別の著者へ移る「著者月間」という読み方も効く。

流行のベストセラーも、その時代の空気に合っているぶん吸収度が高いので、食わず嫌いはもったいない、と。

知識が増えるほど、世界はむしろ驚きに満ちてきます。光は1秒で地球を7周半する、素粒子は10のマイナス35乗メートル――そんな事実に素直に驚けるのは、教養があるからだと著者は言います。

知れば知るほど驚けなくなりそうなものですが、逆。知識が世界の解像度を上げ、知的な喜びを大きくするのです。

人格と人生――普遍性が、自分の悩みを相対化する

5つのフェーズの最後が、人格と人生の深まりです。古典には時代や国境を超える普遍性がある。数千年前のギリシャ悲劇の苦悩が、今の自分の悩みに重なる。他人の人生を追体験し、その感情を受け入れることで、一人では届かない人間理解に到達できます。

著者が挙げるのが西郷隆盛です。流された島で儒学者・佐藤一斎の『言志四録』を熟読し、心に残った101の言葉を抜き書きして読み返した。そこから「敬天愛人」という座右の銘が生まれ、深い人望を集める人物になった。

心に響いた言葉を「マイ名言」として書き留める――それが人生の拠り所になる、という教えです。

興味深いのは、著者が情報としての読書と人格としての読書を、最後は切り離せないと結ぶ点です。どんな科学的発見にも、それを捉えた「著者の目」がある。

ケプラーは太陽を神聖視し「宇宙の調和」を信じる神秘思想を持っていた。その感覚から、惑星運動の法則にたどり着いた。事実の背後にある人間の営みごと理解しようとすると、情報としての読書も自然に深まる、というわけです。


難しい本に挫折しないための技術

「でも古典は難しくて読めない」。その壁を、著者は具体的な技術で下げてくれます。

名言ピックアップ読み。 全部を読み通そうとしない。「生きるべきか死ぬべきか」のような有名な言葉を3つ拾うだけでいい。全編読破の強迫観念を捨てると、ぐっと気楽になり、それだけでも古典の精神に触れられます。

クライマックスの音読。 あらすじを把握したうえで、名場面の数ページだけ登場人物になりきって声に出す。あらすじを知るだけでは「体験」になりません。徳川夢声がラジオで『宮本武蔵』を朗読し、聴く者の頭に映像を浮かばせた伝説の番組のように、声に出すと著者の力を身体で体感できます。

漫画・映画と「グルグル回す」。 名作の多くは漫画化・映像化されている。それで世界観に親しんでから原作に入ると、難解な『カラマーゾフの兄弟』や太宰治『人間失格』にもスムーズに入れる。本、漫画、ドラマ、映画を行き来して、作品を多角的に深めていきます。

そして著者は、わからなくていいと言います。難解な本で「クラッとする」感覚そのものが深みの証。やわらかく噛み砕かれた本ばかり食べていてはアゴの力がつかない。あえてレベルの高い本を勢いで読み切ると、集中力という「アゴの力」が鍛えられるのです。


明日から何を変えるか

本書のアクションは、今日の一冊から始められます。

1. 寝る前1時間を読書にあてる。 日中はSNSの浅いやり取りで構いません。常に深くある必要はない。ただ、1日の中に「突如深くなる」時間を一つ持つ。それだけで世界の解像度が変わります。

2. 「好きな文章を3つ選ぶ」と決めて読む。 漫然と読むのをやめ、お気に入りの文章を3つ探す目的で読む。見つけたら線を引く。すると文章が浮き上がって見え、思考のフックができます。

3. 読んだら誰かに「セレクト&コメント」を語る。 選んだ文章(セレクト)と、なぜ響いたか(コメント)を、人に話すかSNSで発信する。アウトプットを前提にすると思考が動き、知識が定着します。

加えて、書店の普段行かないコーナーで直感的に気になる本を1冊買い、その場で30分読んでみる。偶然を「知の海への一かき」に変える。こうした小さな一歩が、5つの深さへの入口になります。


おわりに

『読書する人だけがたどり着ける場所』が教えてくれるのは、読書が義務でも自己投資でもなく、人生を深く味わうための体験だということです。

「教養のある人のほうが、人生が面白くなる。」(本書より)

知識や教養が増えるほど、世界に対する驚きの解像度が上がり、知的な喜びが大きくなる。逆説的ですが、知れば知るほど、もっと驚けるようになる。

ネット情報の浅瀬で泳ぎ続けるのも、一冊の本を手に取って深い海へ潜るのも、あなた次第。タイパが叫ばれる時代だからこそ、あえて時間と忍耐を要する読書がくれる「深さ」に価値がある。今夜の1時間を、まず一冊に。


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