サプリを1本買い足すたびに、なんとなく安心してきた人は多いはずだ。マルチビタミン、フィッシュオイル、コラーゲン。健康番組で紹介された成分を、翌日ドラッグストアで探した経験がある人も少なくないだろう。
本書『服用危険 飲むと寿命が縮む薬・サプリ』の著者、鈴木祐さんは、かつてその代表格だった。20代前半、朝からカフェインとマルチビタミンを摂り、日中はフィッシュオイルとベータカロチンを追加し、アレルギー性鼻炎の薬と偏頭痛の痛み止めまで積み上げていたという。
得ていたのは健康ではなく、常に頭が晴れない感覚だった。
そこから著者は十数年かけて世界中の医学論文を読み込み、サプリと薬を1つずつ検証し直した。国内のサプリ市場は1兆円を超え、健康食品まで合わせると3兆円規模になる。
50代以降の世代が毎年サプリや健康食品につぎ込む金額も、平均で6万円を超えるという試算がある。それだけの支出が、実際には何を買っていたのかを、本書は1つずつ突き止めていく。
たどり着いた見立ては手厳しい。
「9割9分のサプリや健康食品は効果がない」
それでも本書は「全部やめてしまえ」とは言わない。薬に関しては、むしろ逆だ。自己判断で量を減らしたり飲むのをやめたりする行為こそ危険だと、繰り返し釘を刺している。

こんな人におすすめ
本書が想定する読者は、大きく2つに分かれる。
- 何かのサプリを習慣的に飲んでいるが、それがどれだけ効いているのか正直よく分からない人
- 親や自分の常用薬がじわじわ増えていく状況に不安を感じているが、何を医師に確認すればいいのか整理できていない人
前者には「やめてよいものを見分けるデータ」を渡し、後者には「医療者へ相談するときの材料」を渡す。この2段構えが、本書の骨格になっている。
医者でも製薬会社でもない、という立ち位置
健康本の説得力は、たいてい「この方法で患者を治した」という臨床経験か、「この成分が体にいい」という理論のどちらかから生まれる。本書の著者は、そのどちらの椅子にも座っていない。
著者の肩書きはサイエンスライターで、特定の治療法や商品を売る側に立たない。そのぶん、無数の臨床研究を束ねて統計的に評価し直す「メタ分析」だけを判断基準に置ける。
本書が示すエビデンスの信頼度は、上からメタ分析、次に無作為化比較試験(RCT)、その下に観察研究、最後に専門家個人の見解という順に並ぶ。RCTは、実際の薬を飲む集団と偽薬を飲む集団を無作為に分けて比較する試験のことだ。
逆に、白衣を着た専門家がテレビや雑誌で語る一人の意見は、この並びの最下段に位置し、科学的な裏づけとしては素人の体験談とさほど変わらない扱いを受ける。
この基準を貫くと、本書の姿勢は自然と引き算になる。何を摂るべきかを勧めるのではなく、根拠のないまま摂り続けているものを1つずつ洗い出す。健康情報にありがちな「あれもこれも足す」助言とは、向いている方向が逆だ。
「統計的に効果あり」という表示が、実感できるほどの効果を意味するとは限らない例も紹介されている。特定保健用食品として販売された、おなかの脂肪を減らす効能をうたう飲料の試験結果を実際の数字に換算すると、ウエストの半径がわずか2ミリ縮む程度にとどまっていた。
国の審査が見ているのは、あくまで統計的な差が出たかどうかであって、飲んだ本人がその違いを体感できるかどうかではない。
数字で「効きそう」を疑う
本書が繰り返し持ち出す物差しが、NNT(治療必要数)という指標だ。何人がその薬を飲めば、1人が実際に恩恵を受けられるかを表す数字である。
たとえば心臓病になったことがない人がコレステロールを下げるスタチンを5年間飲み続けた場合、NNTは104とされる。100人を超える人が毎日薬を飲んでも、心臓発作を免れるのは1人だけという計算だ。
しかも心臓病による死亡そのものは減らず、代わりに50人に1人は薬の副作用で糖尿病が進む。血圧を下げるベータブロッカーはさらに厳しく、心臓発作を防げた例がゼロという報告まで紹介されている。
薬の効きが薄いだけでなく、リスクの見積もりそのものが高齢者向けに作られていない点も見過ごせない。医薬品の安全性を確かめる試験の多くは、実際にその薬をもっとも必要とする中高年や高齢者を対象からあらかじめ除外し、若い世代のデータをそのまま当てはめて設計されてきたと本書は指摘する。
年齢を重ねれば代謝や肝臓、腎臓の働きは落ち、同じ量の薬でも体内に長くとどまりやすい。効果の実感は乏しいのに、副作用だけは年齢とともに出やすくなる。これが、歳を重ねた体と薬のあいだにある現実だ。
サプリは、飲むほど得とは限らない
本書の中盤は、定番サプリを1つずつ検証していく章にあてられている。とくに印象的なものを3つ挙げる。
まずマルチビタミン。慢性病やがんの予防になるという触れ込みで広く飲まれているが、ジョンズ・ホプキンス大学が過去の研究20件をまとめ直したところ、その効果を裏づける根拠は見当たらなかった。
それどころか、高齢女性を対象にした約3万8千人規模の調査では常用と総死亡リスクの上昇に関連が見られ、男性約48万人を18年追った研究では前立腺がんの発症率が上がっていた。
次にカルシウム。1日あたり数百から2000ミリグラムを摂り続けても骨密度への効果は確認できず、50〜70代1万2千人の調査では心筋梗塞のリスクがおよそ3割悪化していた。
ただし興味深いのは、この害が牛乳や野菜など食事から摂った場合には起きない点だ。サプリは血中濃度を一気に押し上げるため処理が追いつかず、余った成分が血管の壁にこびりつく。
同じ栄養素でも、体への入り方が違えば結果は変わる。
そしてフィッシュオイル。DHAやEPAそのものは必須の脂肪酸だが、サプリに加工した油は酸化しやすい。ハーバード大学医学部が市販の人気商品を調べたところ、対象になったすべての製品で酸化の度合いが安全基準を超えており、最も劣化していたものは基準値の7倍に達していた。
棚に並ぶそのカプセルは、いわば酸化した油の塊だったことになる。
ビタミンCも例外ではない。風邪予防への効果が確認されているのは、日常的に体を酷使するアスリートなど一部の集団に限られ、一般の生活を送る人にはほとんど当てはまらない。
それどころか長期の追跡調査では、常用者の白内障リスクが1.3倍以上に高まり、65歳以上に限るとさらに跳ね上がるという結果まで出ている。
ビタミンA、ベータカロチン、ビタミンE、ビタミンB群についても、本書は同じ手つきで検証を重ねていく。摂取量があるラインを超えると、特定のがんや早期死亡のリスクがむしろ上がるという報告が、成分ごとに示されている。
共通しているのは、体によいはずの栄養素が、凝縮された高用量で摂ると評価が反転するという構図だ。
薬をやめる判断は、自己判断ではできない
薬についても、本書は同じメタ分析の手法で切り込む。ただし、この章の結論は「サプリをやめる」話とは扱いがまったく違う。
米国のマーク・ビアーズ医師が1991年にまとめた「ビアーズリスト」は、高齢者にとってリスクがメリットを上回りやすい薬をまとめた基準で、今も更新が続いている。痛み止めのNSAIDs、睡眠薬、抗不安薬、胃薬のH2ブロッカーなどが並び、それぞれ消化管出血や認知機能への影響といった副作用のリスクが指摘されている。
本書はこのリストを、薬をやめるための根拠としてではなく、主治医や薬剤師との会話を始めるための材料として使うよう求めている。
自己判断で標準治療から離れることの危うさは、がんの代替療法をめぐるデータでも裏づけられている。治癒が見込める段階のがん患者を追跡した米国の研究では、手術や抗がん剤といった標準治療を選ばず、ハーブやホメオパシーなどの代替療法だけに頼った患者の死亡率が、標準治療を選んだ患者の2倍を超えていた。
エビデンスの薄い選択肢に賭けることは、健康食品を1つ間違える話とは重みがまったく違う。
「決して自分の判断で薬を止めてはいけません。減薬や断薬を行うときは、必ず医者・薬剤師に相談してください」
急に薬をやめると、もともとの症状がかえって悪化することがある。本書が読者に渡しているのは「やめてよい」という許可ではなく、「この薬についてこう質問してみる」という対話の材料であり、薬の要不要を最終的に判断できるのは処方した医師や薬剤師であって、本を読んだ読者自身ではない。数あるテーマの中でも、著者がもっとも強い言葉で念を押している部分だ。
明日から何を変えるか
削るだけ削った本書が、最後まで否定しなかったものが3つある。良好な人間関係、加工度の低い食事、そして歩くことだ。
大規模な追跡調査では、良好な人間関係を持つ人は全死亡率が半分近く低く、孤独や孤立は肥満に匹敵するほど死亡リスクを押し上げるという結果が出ている。
食事については、細かい栄養バランスより「どれだけ手が加わっていないか」のほうが健康への影響が大きいとされ、生の野菜や魚、缶詰程度の加工にとどまる食材を中心にするだけで、慢性的な病気の発症をかなり減らせるという分析結果が紹介されている。
歩く量についても、1日20〜30分ほどを目安に歩き続けるだけで早期死亡の確率が1割前後下がり、5,000歩を大きく下回ると骨や睡眠にも影響が出やすくなるという。
ここから、今日から始められることを3つに絞る。
1. 手元のサプリを1本手に取り、成分表と摂取目安量を確認する 飲み続けている理由を自分の言葉で説明できるか試す。説明できないなら、次に買い足すのをやめる判断材料にする。
2. 1日の歩数を、まず5,000歩から7,500歩に伸ばす ランニングである必要はない。歩いた日の夜にぐっすり眠れるかどうかを、自分なりの目安にする。
3. 定期的に顔を合わせる人間関係を、1つ増やす 1人で完結する趣味より、誰かと声を合わせる場のほうが効果は大きいと本書は指摘している。
薬についてだけは、この3つと分けて考えてほしい。量や種類に疑問があるなら、自己判断で減らしたり中断したりせず、次の診察や薬局での会話で、その薬について率直に尋ねてみることから始めるといい。
