本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『医者に殺されない47の心得』近藤誠|「とりあえず病院へ」は医者のおいしいお客様

健康・メンタル ✍ 近藤誠
約8分で読めます

※ 本記事はアフィリエイトリンク(Amazonアソシエイト)を含みます。

『医者に殺されない47の心得』
目次

健康診断で血圧が高いと言われた。とりあえず薬をもらっておこう。多くの人が、そう考えます。

その「とりあえず」こそがいちばん危ない、と真っ向から言い切るのが、本書『医者に殺されない47の心得』です。

しかも、そう主張しているのは医療の門外漢ではありません。慶應義塾大学医学部の放射線科講師を長く務めた医師、近藤誠さんです。医療の内側にいた人が「病院によく行く人ほど、薬や治療で命を縮めやすい」と書く。

その落差が、本書を2012年のベストセラーに押し上げ、同じ年の菊池寛賞受賞にまでつながりました。

先に一つ、はっきり断っておきます。本書には医学的に賛否が大きく分かれる主張が数多く含まれます。この記事はあくまで「著者がこう言っている」という形で本の中身を紹介するものであって、医療上の助言ではありません。

実際の治療判断は、必ず主治医と相談してください。そのうえで、なぜこの本がこれほど多くの人の心をざわつかせたのか、じっくり見ていきます。

図解

こんな人に刺さる本

まず、健康診断で血圧やコレステロールが基準値を超え、薬を勧められて迷っている人。本書は「数値を薬で下げること」そのものに疑問を突きつけます。

次に、軽い風邪でもすぐ病院に行き、いつのまにか何種類もの薬を常用している人。著者は「一度に3種類以上の薬を出す医者を信用するな」と、名指しに近い形で警告します。

そして、自分や家族ががんと診断され、すぐに手術や抗がん剤を勧められて頭が真っ白になった人。本書は、ほとんど誰も口にしない「放置」という選択肢を、正面から論じてみせます。

「とりあえず病院へ」は、医者のおいしいお客様

近藤さんの主張は、一つの逆説から始まります。日本人は年間ひとり平均14回前後も病院に行く。これは先進国平均の2倍以上だといいます。

それだけ医療を受けていれば、さぞ健康なはずです。ところが著者の見立ては真逆でした。「とりあえず病院へ」という習慣こそが、不要な検査や過剰な投薬の入り口になっている。患者は知らないうちに、医者にとって「おいしいお客様」になっている、というのです。

裏づけとして引かれるのが、アメリカ医師会の調査です。5万人以上を5年がかりで追ったところ、医療サービスへの満足度がいちばん高いグループは、いちばん低いグループより死亡率が26%も高かった。

よく医者にかかり、手厚くケアされたと感じている人ほど、早く亡くなっていた、という逆転の結果です。

この違和感の根っこにあるのが、著者の一貫した世界観です。年齢とともに血圧が上がるのも、コレステロールが増えるのも、多くは「老化現象」にすぎない。

川の流れのように自然な変化を、薬で無理にせき止めようとするから、かえって体を壊す。病気の多くは敵ではなく、老いという川の一部だ、という見方です。

正直に言えば、ここまでなら「極端な人だな」で済ませられます。読み進めると無視しにくいデータが次々に出てくるので、話がやっかいになるのです。

血圧もコレステロールも、高いほうが長生き?

第1章で著者がもっとも激しく噛みつくのが、健康診断の「基準値」です。

最高血圧の基準は、1998年には160でした。それが2000年に140、2008年のメタボ検診では130まで引き下げられた。数字を動かしただけで、「高血圧」とされる日本人は1600万人から3700万人へと一気にふくれ上がったといいます。

同じ時期、降圧剤の売り上げは1988年の約2千億円から2008年には1兆円超へ。20年で6倍に伸びました。基準値が下がるほど患者が増え、薬が売れる。著者はこの構図を「血圧商法」と呼びます。

では、薬で下げると本当に長生きするのか。著者が引くのはフィンランドの研究です。降圧剤を飲まない男女521人を調べると、80歳以上では最高血圧180以上の人の生存率がもっとも高く、140を切った人はガクンと下がっていた。

少なくとも高齢者では、血圧が高いほうが元気に生きていた、というわけです。

コレステロールも同じ扱いです。福井市で約3万7千人を5年追ったところ、コレステロール値がもっとも低いグループの総死亡率がいちばん高かった。コレステロールは細胞膜を丈夫にする材料であり、減らしすぎれば正常な細胞まで弱くなる、というのが著者の説明です。

老化現象ですよ、と言ってくれる医者は信用できる。

本書を象徴するこの一文には、数字を病気に読み替える前に、まず老いとして受け止める医者を探せ、というメッセージが込められています。

薬はすべて毒、3種類以上には要注意

第2章のテーマは薬です。ここでの立場は明快で、薬はすべて「毒」であり、必ず副作用のリスクを伴う、というものです。

わかりやすい例が風邪薬です。風邪のウイルスを直接やっつける薬は、いまだに存在しません。市販薬も処方薬も、熱や咳を一時的に抑える「対症療法薬」にすぎない。

むしろ熱や咳は体がウイルスを追い出そうとするサインなので、薬で無理に抑えると治癒力を邪魔して回復が遅れる、というのが著者の見方です。

副作用も決して軽くありません。市販の風邪薬などによる重い皮膚障害(スティーブンス・ジョンソン症候群)で、2009年からの2年半に1505人が発症し、131人が亡くなったというデータが紹介されます。

風邪薬で全身に発疹が出て左目を失明した歯科医の実例まで挙げられ、「たかが風邪薬」という油断を揺さぶってきます。

ここで本書の代名詞の一つが登場します。「一度に3種類以上の薬を出す医者を信用するな」。飲む薬が増えるほど、体内で薬同士が予期せぬ反応を起こすリスクが跳ね上がる、という理屈です。

WHOは薬は270種類もあれば十分とする一方、日本では1万種以上が認可されている、という対比も添えられます。

高齢の親が、いつのまにか一日に何種類もの薬を飲まされている。その光景に心当たりがあるなら、この章はかなり刺さるはずです。

がんは、9割が「放置」でいい?

そして本書の核心が、第3章とあわせて語られる「がんもどき」理論です。おそらく本書がもっとも激しい賛否を呼んだのが、ここです。

著者はまず、がんを2種類に分けます。

一つは「本物のがん」。早い段階から全身に転移する力を持ち、宿主の命を奪う。ただし転移が速いぶん、検診で見つかるサイズになった時点では、すでに転移を終えている。だから早期発見しても運命は変えられない、と著者は言います。

もう一つが「がんもどき」。周囲に広がることはあっても転移はせず、命を奪わない。そして検診で見つかるがんの多くは、こちらだというのが著者の主張です。

ここから、ひやりとする結論が導かれます。本物なら手遅れ、もどきなら放置で問題ない。どちらにせよ、検診で早く見つけて治療する意味は薄い。だから「がんの9割は、治療するほど命を縮める。放置がいちばん」となるわけです。

抗がん剤への評価も容赦がありません。固形がんに対する抗がん剤は、しこりを一時的に小さくすることはあっても延命にはつながらず、つらい副作用と寿命を縮める作用しかない、と切って捨てます。

根拠として示されるのが、著者自身が診てきた150人以上の「がん放置患者」の記録です。数か月で亡くなった人はゼロで、3年から9年生きた人も何人もいた、という臨床経験です。

放置すれば痛みで苦しむのでは、という当然の不安にも答えています。胃がんや肝臓がんは放置しても最後まで痛まないことが少なくない。骨転移などで痛みが出ても、モルヒネを正しく使えば中毒や死期を早める心配なくコントロールできる、という立場です。

がん検診そのものへの批判も鋭い。検診で見つかるのは命を奪わないがんが中心で、それを治療するせいで手術の後遺症や抗がん剤の副作用に苦しむ人が出る。

だから検診は「ヤブヘビ」だ、と。長野県の泰阜村では、胃がんなどの集団検診をやめたところ、胃がん死亡率が村の死亡者数の6%から2.2%へと半分以下に減った、という事例まで紹介されます。

加えて、日本のCT装置は台数で世界一であり、日本人の発がん死亡の3.2%は医療被ばくが原因だとする研究も引かれます。「念のため」のCTを軽く受けるな、という警告です。

卵と牛乳を毎日、少し小太りでいい

否定ばかりでは読後感が重くなります。本書の後半は、ではどう生きるかという代替案に転じます。ここが、この本のいちばん救いのある部分です。

第4章の食の心得は、極端なダイエットでも減塩でもありません。むしろ逆で、中心となる心得は「体重、コレステロールを減らさない健康法を選ぶ」。急に痩せると免疫力が落ち、コレステロールが減れば正常な細胞が弱まって、かえってがん細胞の増殖を許してしまう、という見立てです。

だから卵や牛乳、ステーキやトロなど、おいしいと思うものをしっかり食べ、少し小太りでいるほうが長生きすると説きます。

裏づけは東京都老人総合研究所の調査です。100歳以上の人100人の食生活を調べたら、全員が肉や魚、卵、乳製品といった動物性食品を、当時の高齢者の平均よりたくさん食べていた。

減塩についても、32か国を調べた国際共同調査では食塩摂取量と高血圧にはっきりした関係が認められず、塩分がもっとも少ないグループが最も短命だったというデータまで持ち出されます。

コーヒーには終始好意的で、1日5杯以上飲む人は肝臓がんの発症率が4分の1、3〜5杯のグループは認知症やアルツハイマー病のリスクが65%低い、といった研究が並びます。一方でサプリやコラーゲンには冷たく、胃で分解されるので目的の部位に直接届くことはない、と一蹴します。

暮らしの心得も具体的です。よく歩いて下半身の筋肉を使い、しゃべって笑って口を動かし、外が暗くなったら眠る「超早寝早起き」で細胞の修復を促す。

使わなければ心身は一気に衰える「廃用症候群」を、著者は静かな敵として警戒します。そして最期については、点滴やチューブによる延命を望まないと書き記す「リビングウィル」を家族に渡しておくことを勧めます。

手術も抗がん剤も拒み、ドラマの撮影を終えた5日後に眠るように逝った俳優・緒形拳さんの最期が、著者の理想とする「ピンピンコロリ」の象徴として描かれます。

鵜呑みにしないために読む本

繰り返しますが、この本を丸ごと信じる必要はありません。著者自身、すべてのがんや治療を否定しているわけではなく、素人が自己判断で「放置」を選ぶ危うさもあります。本書の主張を医学的な結論として受け取るのは、明らかに行きすぎです。

それでも本書には、確かな価値があります。医者に言われたことを「とりあえず」で受け入れてきた人にとって、一度立ち止まる強力なきっかけになるからです。

健診の数字を見てすぐ薬を勧められた人、軽い不調でいつのまにか何種類も薬を飲んでいる人、家族ががんと言われて呆然とした人。そうした人が、自分の頭でもう一度考え直すための、荒っぽいけれど強い問いかけになっています。

今日できることは、一つだけです。あなたが今飲んでいる薬を、何のために飲んでいるのか、自分の言葉で説明してみてください。すらすら言えたなら、それでいい。もし言葉に詰まったなら、そのときこそ、この本を開くタイミングかもしれません。


合わせて読みたい

『医者が教える長生きのコツ』佐古田三郎 病院や薬に頼りすぎず自分で健康をつくるという発想が本書と重なります。近藤さんの過剰医療批判をもう少し穏やかな養生訓として読みたい人に。

『マインドフルネスこそ最強のクスリ』山下あきこ 内科医が「薬に頼らない」アプローチを説く一冊。医療の常識を内側から問い直す視点が、本書のがんもどき理論と響き合います。

『50人の名医が教える”本当の”健康習慣』 健康診断で不健康判定を受けた人へ、過剰な数値管理への警鐘を投げる本。基準値に振り回されないという本書の食・暮らしの心得と並べて読むと理解が深まります。


この記事をシェア:

次に読む一冊

同じテーマを、もう一段深く考えるための一冊です。

健康・メンタル『超速で脳の疲れを取る 賢者の睡眠』メンタリストDaiGo|早起きするほど、脳は老けていく『超速で脳の疲れを取る 賢者の睡眠』(メンタリストDaiGo)の要約。眠っている間、脳は自分のサイズを6割も縮めます。