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『医師がすすめる 少食ライフ』石黒成治|不調の原因は、足りないことより「食べすぎ」だった

健康・メンタル ✍ 石黒成治
約11分で読めます

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『医師がすすめる 少食ライフ』
目次

毎日きちんと食べているのに、夕方には体が重い。胃のあたりが詰まった感じが抜けない。鏡を見ると、年齢以上に疲れた顔が映っている。そんな違和感の正体を、消化器外科医の石黒成治さんは「栄養不足ではなく、食べすぎ」だと言い切ります。

私たちは子どもの頃から「1日3食しっかり食べることが健康の基本」と刷り込まれてきました。ところが本書の説得力が独特なのは、それを説く著者自身が、満腹まで食べてすぐ眠り、朝は抜くという不摂生で一度体をボロボロにした「元・反面教師」だという点にあります。

そこから立て直すきっかけになったのが、必要な栄養はとりながら固形物だけを控える「間欠的ファスティング」でした。

『医師がすすめる 少食ライフ』は、単なる減食ダイエットの本ではありません。何を、どれだけ、いつ食べるか。そこに運動・睡眠・思考のデトックスまで重ねて、生涯にわたって自分の足で動ける体をつくるための、総合的なライフスタイルの設計図です。

図解

この本が刺さるのは、こんな人

健康法の本を読むたびに「なるほど」と満足して、結局なにも続かない人。知識だけが増えて行動が変わらないのなら、本書後半の「習慣化」の章こそが本命です。ここを読まずに食事法だけ真似ても、おそらくまた三日坊主で終わります。

ダイエットを何度も試しては、糖質も食欲も我慢しきれずに挫折してきた人。本書は気合いや精神論ではなく、体質を段階的に変える「手順」を示してくれます。

そして、毎日お通じがあるから自分は便秘とは無縁だと思っている人。その安心は、第2章で一度きれいにひっくり返されます。

核心は「足るを知る」という引き算の発想

本書を一言でまとめるなら、足るを知り、食と思考を自分の手でコントロールして人生を豊かにする指南書、ということになります。

著者がくり返し語るのは、健康のために何かを「足す」前に、まず体にたまった老廃物を「出す」こと。そして食べる量を減らした分、筋肉と睡眠とメンタルだけはむしろ手厚く守ること。

減らすものと、守るものを取り違えないのが少食ライフの肝だと読み解けます。やみくもに食を断つストイックな本ではなく、引き算と足し算の配分を組み替える本だと考えると、全体像がつかみやすいはずです。

説得力の源は二つあります。現役の消化器外科医としての臨床経験と、自身が不摂生から這い上がった実体験。さらに著者は、江戸時代の『養生訓』のような古い養生の知恵と、インスリン抵抗性やリーキーガットといった最新の医学知見を、対立させずに並べて語ります。

古今の知恵が同じ結論に着地していく構成が、この本独特の手ざわりを生んでいます。

なぜ「少なく食べる」と長生きできるのか

第1章のテーマは、少食と長寿の関係です。

カロリー制限が寿命を延ばすことは、動物実験でくり返し確認されてきました。酵母では寿命が3倍、ネズミでは30〜50%延びたという報告があります。

そのカギを握るのが、長寿遺伝子とも呼ばれるサーチュイン遺伝子です。遺伝子のダメージを修復し、炎症を抑えるこの遺伝子は、空腹やカロリー制限によってスイッチが入ります。

ここで著者は、少しひねりの効いた指摘をします。NMNのような高価な長寿サプリにお金を注ぐより、単に食事量を減らすほうが、安上がりで確実に長寿遺伝子を働かせられる、と。

NMNは体内でNAD+に変わり、動物実験では老化防止が示された物質ですが、それでも著者は「高価なサプリより天然の食品と空腹を優先せよ」という立場を崩しません。

流行りの健康投資にひと言釘を刺すこの姿勢は、医師ならではの冷静さだと感じます。

長寿の手がかりとして挙がるのが、世界の長寿地域ブルーゾーンです。沖縄を含むこれらの地域には、腹八分目・植物中心の食事・社会とのつながりという共通点があります。

沖縄の100歳以上の人々の血液を調べた研究では、抗酸化物質ビタミンEが高く、体のサビにあたる過酸化脂質が際立って低かったといいます。

ただし著者は、ただ食べなければいいわけではないと強く釘を刺します。健康に長生きする条件は、筋力を維持することだからです。筋肉量は50歳から75歳までに約25%失われ、入れ替わるように脂肪が増えていく。

これが進むと加齢で筋肉が落ちるサルコペニア、さらには寝たきりや要介護に近づくロコモティブ症候群へと向かいます。日本人は寿命こそ延びても、晩年の8〜12年は介助を要するのが現実です。

だからこそ、減らすのは食事の量、減らさないのは筋肉、という線引きが要になります。

最大のデトックスは、サプリではなく「毎日出す」こと

第2章は、デトックスの話です。

デトックスと聞くと、高価なサプリや特別な食品を思い浮かべがちです。しかし著者がもっとも重要だと断じるのは、拍子抜けするほど地味な「毎日きちんと便を出すこと」でした。

体内最大の解毒器官は肝臓で、入ってきた毒素を最初に処理します。著者はこれを、他の臓器を守るボディーガードにたとえます。ところが便秘で腸に便がたまっていると、せっかく処理した毒素が腸からまた体内へ再吸収されてしまう。出し切らなければ解毒は完結しない、という理屈です。

ここで例の思い込みが崩れます。毎日排便があっても、出ているのが1週間前に食べたものなら、結局1週間ぶんの便をため込んでいたことになる。著者は腸内を「真夏の炎天下に生卵を置いたような状態」と表現します。

便の通過時間は個人差が大きく、便秘のない男性で平均7.2時間、女性で31.8時間、便秘の女性では110時間に及ぶというデータも引かれます。

だから本書は便の観察をすすめます。理想はブリストルスケールでいうType4、バナナのような形の便。ビーツのように色の濃い野菜を食べ、赤い便が出るまでの時間を測る「ビーツテスト」で、自分の通過時間をざっくり確かめることもできます。

健康診断の数値より先に、まず毎朝の便を見よ、という発想は地味ですが核心を突いています。

排便以外のデトックスも紹介されます。肝臓を休ませるには食事量を抑えて消化負担を減らすこと、ミルクシスル(マリアアザミ)のハーブティーなど。汗を通じた解毒としてサウナは副作用がない点で優れ、深い深呼吸は体をアルカリ性へ導くとされます。

りんご、レモン、ビーツ、ニンニク、ショウガを使うデトックスドリンクのレシピも載っています。

「16時間食べない」が腸の掃除を始める

第3章は、いつ食べるかという時間の話です。

著者がすすめるのは、1日のうち16時間は固形物を食べず、残りの8時間で食事を済ませる間欠的ファスティングです。食べる時間と食べない時間を意図的に分ける、シンプルな食事戦略です。

なぜ16時間も空けるのか。空腹が続くと、胃から小腸へと進みながら腸内を掃除するMMC(伝播性消化管収縮運動)が働くからです。現代人は食事や間食が多すぎて腸が休む暇がなく、消化しきれない食べ物が腸内で腐敗しやすい。

つまり食べない時間は、腸が自分を掃除するための大切な時間でもある、というわけです。

効果は数字でも裏づけられます。16時間絶食を8週間続けると炎症性の物質が減り、心臓病リスクを下げるアディポネクチンが増えたという報告。絶食が11時間以下だと体重は増加傾向、18時間以上だと減少傾向というデータもあります。

ただし、回数を減らせばいいという単純な話ではないと著者は警告します。中身を考えず朝食だけ抜くと、かえって心臓病リスクが27%増えたという結果もある。深夜の食事は心臓病リスクを1.5倍にするとも。タイミングと中身はセットで考えないと逆効果になりうる、という留保は誠実です。

たんぱく質をめぐっては、昨今の高たんぱく流行にはっきり異を唱えます。人は加齢とともに胃酸や消化酵素が減り、大量のたんぱく質を消化しきれなくなる。

未消化のたんぱく質は腸内で腐敗してアンモニアなどの毒素となり、便やおならの悪臭の正体になります。50〜65歳でカロリーの20%以上をたんぱく質からとる人は、10%未満の人に比べてがん死亡リスクが4.3倍だったという調査も引かれます。

だから動物性たんぱく質や乳製品は「嗜好品」として節度を持て、というのが著者の立場です。

食事の中身としては、1975年ごろの日本食が理想に近いとされます。東北大学の研究で1960・1975・1990・2005年の日本食を比べたところ、1975年型がもっとも老化を防ぎ、体重やコレステロール値もよかった。ご飯と味噌汁を軸に、魚・大豆・煮物を合わせた一汁三菜です。

ボーンブロスと「クレッシェンド」で挫折を防ぐ

第4章は、具体的な実践法です。

いきなり何も口にしない断食は、つらくて続きません。そこで著者がすすめるのが、ボーンブロスを使ったゆるいファスティングです。牛・鶏・魚などの骨を煮込んだスープで、コラーゲンやグルタミンといったアミノ酸が豊富。

腸粘膜の修復を助け、脂質やアミノ酸を含むためエネルギー不足になりにくい。水だけの断食より格段に楽に取り組めます。

著者はファスティングを、苦しい修行ではなく「必要な栄養素をとりながら固形物の摂取だけを制限する食事戦略」と定義し直します。そして、糖質がなくても脂質やたんぱく質をエネルギーに切り替えられる体の力をファスティング筋力と名づけました。

最初の数日をボーンブロスで過ごすと、無理なく糖質依存から抜け出し、この眠っていた力が呼び覚まされていく、という設計です。

時間の延ばし方にも工夫があります。クレッシェンドファスティングといって、まずは12時間の絶食から始め、慣れたら14時間、16時間と段階的に延ばす。音楽のクレッシェンドのように少しずつ強めていくイメージで、これなら意志の弱さを言い訳にしにくくなります。

少食で気をつけたいのは、筋肉まで一緒に落ちること。これを防ぐため、毎日2分のタバタ式トレーニングがすすめられます。20秒動いて10秒休む、これを8セット。

狙うのは肩甲骨まわりのプッシュアップ、下腹部のオルタネイトレッグレイズ、お尻の椅子スクワット。BMI30以上を対象にした研究では、単なるカロリー制限より、1日おきのファスティングに筋トレを組み合わせたほうが体重が大きく減り、筋肉の減少も最小限に抑えられたといいます。

減らしながら動ける体を残す、というバランス設計がここでも貫かれています。

加工食品と小麦が腸に「穴」を開ける

第5章は、避けるべきものと、思考のデトックスです。

避けたい筆頭が超加工食品です。工業的に精製した成分を組み合わせ、添加物で味と見た目を整えた食品で、スナック菓子・清涼飲料・大量生産のパンなどが当たります。

含まれる乳化剤などの添加物が、腸を守る粘液バリアを壊し、腸内細菌のバランスを乱して炎症を起こす。日常的にとると肥満・がん・心血管疾患、そしてあらゆる原因による死亡リスクが上がることがわかっています。

小麦にも注意が向きます。小麦のグルテンは、腸の細胞同士の密着を外すゾヌリンという物質の分泌を促します。すると腸の粘膜にすき間ができるリーキーガット(腸漏れ)が起き、そこから毒素や未消化の食べ物が血中に漏れ出して、慢性炎症やアレルギー、自己免疫疾患の引き金になります。

ここで著者は独自の視点を見せます。リーキーガットそのものは完全な悪ではなく、病原体が侵入したときに洗い流すための必要な防御反応でもある。問題なのは、小麦などを毎日とることで、その「鍵」が常に開きっぱなしになること。

だから小麦を断つのではなく、毎日はとらないという落としどころを示します。

そして本書がもっとも力を込めるのが、思考のデトックス、つまり「足るを知る」ことです。慢性的なストレスは万病の元。情報や物質を際限なく求めるのではなく、今この瞬間に集中し、今あるものに感謝する。著者は、自分でコントロールできるのはいまこの瞬間の自分でしかない、と説きます。

「足るを知る」ことが、究極のストレス管理であり健康法である。(本書より)

エナジードリンクへの警告も鋭い。Red Bull1缶に80mg、MONSTER ENERGYに142mgのカフェインが含まれ、日本では5年間で101人が救急搬送され、3人が亡くなったといいます。

元気になった気がしても作業効率は変わらず、脳血流の低下や不整脈のリスクだけを負う。眠気や疲れを糖質とカフェインでごまかす生活は、長い目で見れば寿命を削る、という見立てです。

笑いと睡眠も外せません。65歳以上で毎日笑う人は43%しかおらず、笑わない人は心臓病や脳卒中のリスクが高かった。睡眠は削るものではなく、一生かけて返ってくる最大の投資だと位置づけられています。

なぜ「わかっている」のに続かないのか

本書を単なる健康法以上のものにしているのが、最後の習慣化の話です。

著者は、理屈や説明は短期的な意図を変えても、習慣的な行動までは変えないと言い切ります。アメリカのある健康プログラムでは、毎日5カップの野菜と果物をとるべきだと頭で納得した人のうち、実際に行動を変えられたのはわずか11%でした。

なぜか。脳は意識では1秒あたり50ビットしか処理できないのに、無意識では2万倍以上、1100万ビットを処理しています。しかも、何かを食べようと意識する0.35秒前には、すでに無意識の脳が決定の信号を出している。

つまり行動の主導権は、意志ではなく無意識が握っているのです。

だから習慣を変えるには、意志力ではなく無意識(大脳基底核)に落とし込むしかない。新しい習慣の定着には平均66日、最低でも28日かかるといいます。

そして著者がもっとも強調するのは、習慣化を支えるのは意志力ではなく環境だということ。誰かに宣言する、SNSで報告するなど、自分にゆるい強制力をかける仕組みこそが、続ける力になります。

少食を「頑張る」のではなく「続く仕組みに乗せる」。この一点が、本書を読み終えたあとの分かれ道になります。

明日から始める3つの行動

本書の実践は、便の観察から段階的に始まります。ここでは今夜からでも着手できるものを3つに絞ります。

1. 食後に便の形を観察する。 バナナ状の便が出ているか、毎日チェックします。出ていても古いものでないかを意識する。便秘ぎみなら、何を足すかの前に、水分と食物繊維を増やして「出せているか」を確かめます。

2. 夜20時で食事を終え、翌朝8時まで水だけで過ごす。 まずは12時間の絶食から。これがクレッシェンドファスティングの入り口です。慣れたら14時間、16時間へ。いきなり16時間を狙わないのがコツです。

3. 毎朝「椅子スクワット」をくり返す。 椅子からゆっくり立ち上がり、また座る。少食で落ちやすい筋肉を守り、将来の寝たきりを遠ざける投資になります。

加えて本書は、腹八分目・加工食品を避ける・食物繊維と抗酸化物質をとる・動物性たんぱく質と乳製品は嗜好品と考える・水を飲む、を「明日からできる5つの実践」としてまとめています。

コンビニ弁当とエナジードリンクを買い物リストから外し、寝る前にスマホを置いて深呼吸を10回。それだけでも体は変わり始めます。

この本が最後に置くのは、食事法ではなく心のあり方でした。「現状で十分に足りている」と理解し、人生を否定的に見る癖を無意識からゆっくり外していく。まずは今夜、20時で箸を置いてみる。たったそれだけで、自分の体は自分で変えられるという感覚が、少しずつ戻ってくるはずです。


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