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『メモの魔力』前田裕二さん|「記録のためのメモ」は機械でもできる

思考法・問題解決

会議でメモを取ります。手帳にも書く。スマホにも残す。

では、そのメモから新しいアイデアが生まれたことは、何回あるでしょうか。

ほとんどの人のメモは「忘れないため」の記録です。著者の前田裕二さんは、そこに正面から異を唱えます。記録のためのメモは、極論すれば機械にもできる作業。人間がやるべきは、アイデアを生み出す「知的生産のためのメモ」だ、と。

前田さんはSHOWROOMの社長です。「どうしてそんなにメモをとるんですか」と数日に1回は聞かれるメモ魔で、映画1本につき多いときは100個以上のポイントを書き留めます。本書は、その熱量の源泉ごとメモ術の全貌を明かした一冊です。

こんな人におすすめ

精神論の本ではありません。ノートの開き方からペンの色分けまで指定される実践書です。逆に、きれいな議事録の取り方を知りたい人には向きません。本書のメモは、記録のもっと先を狙っています。

メモは「第2の脳」である

本書の前提はシンプルです。メモには2種類あります。

1. 記録のためのメモ 事実を忘れないように保存する備忘録。これは機械やAIでも代替できる作業です。

2. 知的生産のためのメモ 新しいアイデアや付加価値を生み出すためのメモ。人間にしかできない創造の仕事です。

前田さんは、メモを「外付けハードディスク(第2の脳)」と呼びます。記憶はノートに任せる。空いた脳の容量は、創造的な思考に全振りする。

背景にあるのはAI時代の危機感です。単純作業が機械に置き換わり、感情や共感のような内在的な価値が評価される「価値経済」が来る。そこで人間に残るのは創造力で、それを鍛える一番身近な道具がメモだという主張です。

メモの習慣は、5つのスキルを同時に鍛えるといいます。

面白いのは伝導率の数字です。相手が100の情報を出しても、無意識に聞いていると受け取れるのは30〜40ほど。メモを取る意識を持つだけで、60、70、80と上がっていくそうです。

聞く力の差は、才能ではなく構えの差。この一点だけでも、ノートを開く理由になります。

本書の全体像──外の世界から、自分の内側へ

本書は5章構成です。

第1章は、日常をアイデアに変えるメモの技法。第2章で、その核になる「抽象化」を深掘りします。第3章では矛先が自分に向き、メモによる自己分析へ。第4章は、見つけた夢をかなえる技術。第5章で、メモはノウハウではなく「姿勢」だと結論づけます。

外の世界の観察から始まり、だんだん自分の内側へ潜っていく構造です。メモ術の本だと思って読み進めると、後半は人生論になっている。この設計が本書の独特なところです。

アメちゃん1個を企画に変える「ファクト→抽象化→転用」

本書の心臓部がこのフレームワークです。

ファクト: 見聞きした客観的な事実を書く 抽象化: そこから「他にも当てはまる法則」を抜き出す 転用: その法則を自分のアクションに落とし込む

象徴的な事例があります。あるプロモーション担当者が大阪でチラシと一緒にアメちゃんを配ったところ、東京の3倍チラシがはけました。

「大阪の人はアメが好き」で終わらせたら、ただの豆知識です。前田さんはここから「大阪人は直接的で目に見えるメリットの訴求に弱い」という法則を抽象化します。

さらに「SHOWROOMでも大阪向けに、直接的なメリットを感じられる企画を試す」という転用まで落とし込む。事実が、自社の打ち手に変わる瞬間です。

刺さったのは、転用まで書かない人は「評論家」で終わるという指摘でした。気づきを書いて満足する。読書ノートで何度もやってきた、覚えのある失敗です。

ノートは見開き、ペンは4色

フォーマットの指定も具体的です。

ノートは見開きで使います。左ページに「ファクト」、右ページの左半分に「抽象化」、右半分に「転用」。

見開きには3つの理由があります。スペースを広く取り、思考を窮屈にしないため。左に左脳的な事実、右に右脳的な発想と、脳の構造に沿わせるため。そして右側をあえて空欄にして、「埋めたい」という潜在意識を刺激するためです。

ペンは4色を使い分けます。黒は客観的なファクト。緑は自分の主観や発想。青はやや重要なこと、赤は最重要なことです。

ポイントは、青と赤を緊急度ではなく、自分にとっての「重要度」で選ぶこと。色を決める一瞬一瞬が、意思決定の練習になります。

もう一つが「標語」です。議論やメモの内容を一言で表すキャッチーな見出しをつける。これだけで構造化能力と言語化能力が跳ね上がるといいます。

標語の威力を示すのが、AKB48の大西桃香さんの例です。300人中、下から数えたほうが早い順位だったのが、毎朝5時半にすっぴんで生配信を続けた。「朝5時半の女」という標語で呼ばれ始めた途端、一気に注目を集めたそうです。

抽象化には3つの型がある

本書がもっとも力を込めるのが抽象化です。前田さんはこれを「人間に与えられた最強の武器」と呼びます。

型は3つに整理されます。

What型: 目の前の現象に名前をつけ、言語化する How型: どんな特徴があるかを抜き出す Why型: なぜそうなったのかと本質を掘る

価値を生むのは主にHow型とWhy型です。ヒット商品に「なぜ売れたのか」と問い、理由を法則にできれば、自分の企画に持ち込めます。

難しく聞こえますが、著者に言わせれば抽象化は誰もが毎日やっている営みです。「雨」も「友達」も抽象化された言葉。特別な能力ではなく、意識して使うかどうかの差でしかありません。

例に出てくるのが山崎まさよしさんの「セロリ」です。育ちも価値観も食の好みも違うというマイナスの具体を束ねた先に、「つまりは 単純に君のこと 好きなのさ」の一行が現れる。バラバラの事実から本質の一行を取り出す作業、それが抽象化です。

抽象化を加速させる視点として「我見と離見」も出てきます。自分の目線と、自分を外から眺める目線の両方を持つこと。

さらに、抽象化した概念に印象的な言葉をまとわせるレトリックの技術。DeNA創業者の南場智子さんの「良質な非常識」、秋元康さんの「永遠は短い」。矛盾をはらんだ言葉の組み合わせが、人の記憶に残ります。

自己分析ノート30冊が「人生のコンパス」を作る

第3章で、メモの矛先が自分に向きます。

前田さんは就職活動のとき、自己分析ノートを30冊以上書きました。1冊およそ30問、合計で約1000問の問いに答えた計算です。巻末には、それを追体験できる「自己分析1000問」が付いています。

やり方は外向きのメモと同じです。過去の経験というファクトを書き、「なぜ心が動いたのか」を抽象化し、これからの行動に転用する。

前田さん自身の例が強烈でした。小学生時代、お金がなくて塾に行けなかった。駅前でギターの弾き語りをするうち、リクエストに応えて客との絆を作るほうが、オリジナル曲を歌うよりお金になると気づきます。

双方向の絆が価値になる。この原体験の抽象化が、のちのSHOWROOM立ち上げに直結します。

過去を掘る道具として「ライフチャート」も紹介されます。横軸に年齢、縦軸に感情の起伏を取り、人生を一本の線で描く。線が大きく動いた「変曲点」にこそ、自分の幸福の源泉が隠れているといいます。

それでも、やりたいことが見つからない人のために「タコわさ理論」があります。子どもがタコわさを「食べたい」と思わないのは、まだ食べたことがないから。人は経験していないものを欲しがれません。軸が見つからないなら、まず経験の数を増やす番です。

夢は、紙に書くと現実になる

オカルトの話ではありません。仕組みの話です。

夢を言語化して紙に書き、何度も見返す。すると頭の中でその夢が占める割合、いわばマインドシェアが上がり、日常で出会う情報がすべて夢に引き寄せられて解釈されるようになります。

GMOの熊谷正寿さんは手帳に「35歳で上場する」と書き、毎日見て士気を上げました。結果は、35歳と1ヶ月での上場です。

本書は、モチベーションに2つの型があるとも言います。大きな夢から逆算して燃えるトップダウン型と、目の前の楽しさから広がるボトムアップ型。自分の型を見極めたうえで、夢をSMART、つまり具体的で測定可能な形に砕き、「今週やること」まで細分化します。

地味に効くのが「自分とアポをとる」習慣です。前田さんは平日18時間ほど予定が詰まっていますが、寝る前の1時間は連絡を遮断し、自分と向き合う時間に充てています。夢に緊急度はないからこそ、予定として先に押さえるしかないわけです。

メモはノウハウではなく、姿勢である

最終章の結論がこれです。

ここまでのフレームワークも色分けも、実は本体ではありません。本体は、世界のあらゆる情報に「毛穴をむき出しにして」向き合う姿勢のほうです。

堀江貴文さんのスマホのメモには、膨大なビジネスアイデアに混じって「涙そうそう ー3」というカラオケのキーまで記録されていたそうです。技術ではなく、完全に習慣。どんな情報も素通りさせない貪欲さです。

そして本書は、一つのことに熱中できるオタクこそ、AIに代替されない最強の存在だと言います。メモは、その熱量を日常から拾い上げる装置として描かれます。

正直に言うと、前田さんの熱量は「狂気」と呼ばれるレベルで、同じ量を真似るのはハードルが高い。ただ本人も「最初は間違えてもいい」「チラシの裏でもいい」と添えています。姿勢さえあれば、量はあとからついてくる設計です。

明日からできる4つのアクション

本書のアクションプランから、最初の一歩を4つに絞ります。

1. ノートと4色ボールペンを用意する 持つだけでテンションが上がるお気に入りを選ぶ。ノートは見開きで使い、左にファクト、右に抽象化と転用のスペースを作ります。

2. 1日1回、抽象化ゲームをする 街の看板、ヒット商品、ニュースに「なぜこれはウケているのか」と問う。抜き出した法則を、自分の仕事に転用するところまで書きます。

3. 自己分析1000問のうち、まず100問に答える 巻末のレベル1から始める。過去のファクトから「自分は何に心が動くのか」を抽象化します。

4. Sランクの夢を紙に書く 絶対に何が何でもやりたいことを書き出し、「今週やること」までタスクを細分化してスケジュールに入れます。

全部を一度にやる必要はありません。ノートを買うところまでなら、今日できます。

おわりに

読み終えて残ったのは、メモの技術より、軽い焦りでした。

今日も大量の情報が目の前を流れていきました。受け取れていたのは、せいぜい30か40。ノートを構えるだけでそれが倍になるなら、やらない理由を探すほうが難しい。

「『メモの魔力』を持てば世界に敵はない」と前田さんは書いています。大げさに聞こえますが、1000問の自己分析をやり切った人の言葉だと思うと、軽くは流せません。

まずは明日の会議で、事実を書いた横に「つまり?」「で、どうする?」の2列を足してみてください。その2列が、記録を知的生産に変える入口になります。


合わせて読みたい

『具体と抽象』細谷功 本書の心臓部である「抽象化」を、理論面から徹底的に掘り下げた一冊です。前田さん自身が本文中で名著として推薦しており、ノートの右ページの質を一段上げてくれます。

『TAKE NOTES!』ズンク・アーレンス 本書と同じく、メモを「第二の脳」として知的生産に使う方法論です。前田式が手書きの抽象化なら、こちらはツェッテルカステンという仕組みで蓄積を回す。並べると自分に合う型が見えてきます。

『ゼロ秒思考』赤羽雄二 A4用紙に1分で書き出すトレーニングで、言語化の瞬発力を鍛える本です。「まずファクトを書き切る」という前田式メモの最初の段階を、スピードの面から支えてくれます。


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