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『モンク思考』ジェイ・シェティ氏|「自分の価値観」は、本当にあなたのものか

健康・メンタル
約6分で読めます
『モンク思考』

あなたが大切にしている価値観。それは本当に、あなた自身のものでしょうか。

本書を読むと、この問いから逃げられなくなります。著者によれば、私たちが「自分の考え」だと思っているものの多くは、親や学校、メディアから植え付けられた借り物にすぎない。鏡が埃をかぶって、本当の自分が映らなくなっている状態です。

『モンク思考』は、元僧侶のジェイ・シェティ氏が書いた一冊です。ビジネススクールに通いながらインドの僧院で3年を過ごし、再び俗世に戻った異色の経歴を持つ著者が、3000年前の叡智を現代の日常に翻訳してくれます。

こんな人におすすめ

「他人の期待」という雑音に疲れた人にこそ、本書は静けさを取り戻させてくれます。

この本の核心――猿の心から、僧侶の心へ

本書の出発点は、二つの心の対比です。

モンキー・マインド(猿の心) 猿が枝から枝へ飛び移るように、過去の後悔と未来の不安を行き来する。物事の枝葉にとらわれ、不満と比較と批判を繰り返し、目の前の満足を求める心。

モンク・マインド(僧侶の心) 物事の根っこ(原因)に目を向ける。今に集中し、意図と目的を持って生きる。エゴや不安から自由になろうとする心。

私たちの多くは、知らないうちにモンキー・マインドで生きています。著者はそれを、僧侶のように規律ある心へ変えていく道筋を「手放す」「成長する」「与える」という3つのステージで描きます。

ここで一つ、私が驚いた数字があります。人間は1日におよそ7万回も思考しているそうです。その奔流に飲み込まれず、根っこを見据える。それがモンク思考の入り口です。

あなたの価値観は、本当にあなたのものか――手放す

最初のステージは「手放す」こと。まず手放すべきは、借り物の価値観です。

社会学者クーリーの言葉を、著者はこう引きます。

「わたしは自分が思っているような人間ではない。あなたが思っているような人間でもない。わたしはあなたにこうだと思われていると思っている人間である」

私たちは職場、家庭、SNSで、それぞれ違う役を演じています。俳優ダニエル・デイ=ルイスは役になりきりすぎて、本番以外でもその人物になり、後に「心と身体、どっちの健康にもよくなかった」と告白しました。私たちも、知らぬ間に同じことをしている。

では、本当の価値観をどう見つけるのか。著者の答えは具体的です。過去1週間の「時間の使い方」と「お金の使い方」を書き出す。人は一番大切に思っているものに、最も多くの時間とお金を使うはずだからです。

手放すべきものはもう一つあります。恐怖です。ただし著者は、恐怖を消そうとはしません。

「恐怖そのものはじつは恐くない。ほんとうに恐いのは、僕らが恐れ方を間違うことだ」

恐怖は危険を知らせる警告のシグナル。ロッククライマーのアレックス・オノルド氏は、恐怖をネガティブなものと見なすのをやめ、訓練に打ち込ませることで、ロープ無しで絶壁エル・キャピタンを登りきりました。

そして恐怖の根底には「執着」があります。これを和らげるのが「無執着」という概念です。すべては一時的で、本当に所有できるものは何もないと受け入れること。

これは無関心とは違います。レンタカーを運転するように、一時的に借りているだけだと分かっているからこそ、今この瞬間を最高に味わえる。そういう心のあり方です。

情熱とスキルが交わる場所――成長する

手放したら、次のステージは「成長する」。ここで中心になるのが「ダルマ」です。

ダルマとは、その人が最も輝ける人生の目的のこと。著者は方程式で示します。

情熱(好きなこと) + 専門的能力(得意なこと) + 有用性(他者の役に立つこと) = ダルマ

自分が心からワクワクできて、かつ人から求められる能力。この二つが重なる場所が、生きる目的になります。

ここで効くのが、活動を4つに分ける視点です。「得意だが好きではない」「得意で、なおかつ好き」「得意でも好きでもない」「得意ではないが好き」。このうち「得意で好き」な領域に、時間とエネルギーをどう増やすかを考える。

注意したいのは、ダルマを見つけても、いきなり転職する必要はないことです。テニスの元世界1位アンドレ・アガシ氏は、自伝で「テニスを憎んでいる」と告白しました。父の夢という他人のダルマを生きていたからです。

でも後に、自分の情熱(子どもの教育支援)とスキルを結びつけ、財団を設立して充実感を取り戻しました。今の環境の中で、好きを実践する小さなチャンスを探すことから始める。それで十分です。

成長のもう一つの柱が、朝のルーティンです。著者はアシュラムでこう学んだといいます。「朝の質は夜に決まる」。

最も避けるべきは、起きて1分以内にスマホを見ること。現代人の4分の1近くがこれをしていますが、朝一番に情報の洪水を浴びると、脳は一日中ストレスモードに設定されてしまう。

代わりに勧められるのが「TIME」のルーティンです。

スマホより先に、この4つに時間を使う。今より15分早く起きるだけで、1日の生産性と心のゆとりが変わると著者は言います。マルチタスクをやめ、目の前の一つに100%没入する「シングルタスキング」も、この段階の鍵です。

人生の最高の目的は、奉仕だった――与える

最後のステージは「与える」。本書全体を貫く結論が、ここにあります。

「人生の最高の目的は奉仕に生きることだ」

自分の利益だけを追うと、苦しみや不満が生まれる。逆に、他者のために自分の能力(ダルマ)を役立てると、人生は深い意味で満たされる。著者はこれを利他ではなく、自分自身を癒す道として説きます。

奉仕といっても、壮大なことは要りません。家族や友人と過ごすとき、スマホを完全にオフにして、目の前の相手に100%集中して話を聞く。それも立派な奉仕です。

与えるステージには、人間関係の知恵もあります。一人にすべてを期待しないための「頼れる四つのC」です。

1. 適格性(Competence) 問題解決に必要なスキルを持っているか 2. いたわり(Care) 自分の幸せを心から気にかけてくれるか 3. 人格(Character) ブレない倫理観を持っているか 4. 一貫性(Consistency) いざという時に確実に寄り添ってくれるか

この4つすべてを備えた人は稀です。だから相手ごとに、何を頼れるかを見極める。過度な期待を手放すことが、人間関係の摩擦を減らします。

見た目の良さや愛想を、本当の信頼と混同しないこと。これも与えるための知恵です。

明日から何を変えるか

本書には日常で試せるワークが多数ありますが、まずはこの3つから始められます。

1. 1週間、時間とお金の使い方を書き出す 睡眠と仕事以外の時間を何に使ったか記録する。自分が本当は何に価値を置いているかが、数字で見えてきます。

2. 欲求に「それはなぜ?」を繰り返す 「お金が欲しい」と思ったら、「なぜ?」と問う。「旅行に行きたい」→「なぜ?」→「刺激が欲しい」というように、自分の本当の動機まで掘り下げます。

3. 朝、スマホより先に「TIME」を1つだけやる 起きてすぐスマホを見る代わりに、まず1分、感謝することを思い浮かべる。感謝・洞察・瞑想・運動のどれか1つから始めれば十分です。

「意識する」では足りません。今夜、目覚まし時計を15分早くセットする。それが最初の一歩です。

おわりに

この本を読んで、一番ほどけたのは「比較」からの解放でした。

SNSで他人の成功を見て焦るのは、他人のダルマを羨んでいるから。でも自分の根っこを見据えれば、羨む必要のない自分だけの道が見えてくる。

「他人の人生を完璧に模倣して生きるより、自分の運命を不完全に生きるほうがよい」

明日の朝、スマホに手を伸ばす前の1分間。そこに何を置くか。その小さな選択から、あなたのモンク思考は始まります。


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『反応しない練習』草薙龍瞬さん 本書の「ネガティビティを手放す」を、ブッダの教えからさらにシンプルに説いた一冊です。日々のイライラへの心のメンテナンス法として、併読すると相性が抜群です。

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『世界一やさしいやりたいことの見つけ方』八木仁平さん 「好き×得意×大事」という公式は、本書のダルマの方程式と驚くほど重なります。自分の目的を具体的に言語化したい人に、実践的な続きとしておすすめです。


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