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『日本人のための「書く」全技術【極み】』藤吉豊さん|うまい文章の差は、才能ではなくルールだった

コミュニケーション・文章術
約4分で読めます
『日本人のための「書く」全技術【極み】』

「自分は文章のセンスがない」。そう思い込んで、メール一通に何十分もかけていませんか。

私もそうでした。書いては消し、消しては書き、結局は遠回しで長い文章になる。送ったあとに「これ、ちゃんと伝わったかな」と不安になる。原因はてっきり、生まれ持ったセンスの差だと思っていました。

でも、藤吉豊さんと小川真理子さんの『日本人のための「書く」全技術【極み】』は、その前提をきっぱり否定します。

文章が上手な人と、文章が苦手な人の差は「文才の差」ではありません。「文章のルールに則って書いているか、ルールを知らずに書いているか」の差です。

つまり、うまく書けないのは才能ではなく、ルールを知らないだけ。逆に言えば、ルールを学べば誰でも「伝わる文章」が書けるということです。この一言で、本書はぐっと身近になります。

図解

「書く」は、いきなりキーボードに向かう作業ではない

本書がまず壊してくれるのは、「書く=思いついた言葉をそのまま打つ作業」という思い込みです。

著者は、文章を完成させるまでを複数のプロセスに分けます。企画を立て、情報を集め、整理し、書き、そして練り直す。私がハッとしたのは、いざ机に向かう「執筆」が、その工程のたった一つでしかないという指摘でした。書く前の準備と、書いた後の磨き上げ。文章の質の大半は、実はこのキーボードを叩いていない時間に決まっている、というわけです。

このプロセス全体の地図は本書の設計図そのものなので、ここでは深追いしません。何段階で、それぞれに何時間かけるべきか——気になる人は本書で確かめてほしいところです。

「内容が9割」という、文章術らしからぬ配分

本書で一番意外だったのが、良い文章の点数配分です。

文章術の本なのに、著者は「どう書くか」より「何を書くか」が圧倒的に重要だと言い切ります。表現の技術、つまり言い回しやレイアウトの巧みさは、100点満点のうちごく一部にすぎない。残りの大部分は「中身」が占める——具体的な内訳の数字は本書を開いたときの小さな衝撃として取っておきますが、文章術の本がここまで言うのか、と背筋が伸びました。

著者はこんなふうにたとえます。

ドラマ、映画、演劇では、「一に脚本、二に役者、三に演出」が定説だといわれているそうです。文章も同じで、「一に内容」です。

どんなに美しい言い回しでも、中身が薄ければ読者の心は動かない。この前提に立つと、「うまく書けない」の悩みの半分は「書くこと(中身)がない」という別の問題だったと気づかされます。語彙やテクニックを磨く前に、まず何を差し出すか。この順番の入れ替えだけで、書く前の心構えが変わる人は多いはずです。

AI時代に効く一手だけ、紹介する

中身を厚くする情報の集め方として、本書は「自分が体験・取材して得た情報」の価値を高く置きます。ネットでまとめた情報は、誰が書いても似たものにしかならないからです。

なるほどと思わせるのが、ネット情報への警戒の具体例。「人はすぐ忘れる」根拠として有名なエビングハウスの忘却曲線が、実は世間で言われている意味とは違うものを示している——本書はこうした「みんなが信じている誤読」を引き合いに、出回っている情報を鵜呑みにする危うさを突きます。検索すれば何でも出てくる時代だからこそ、自分の足で得た情報が武器になる、という指摘は刺さりました。

著者自身の駆けだし時代の失敗談も生々しく、準備不足が相手に一瞬で見抜かれる瞬間が描かれます。その「5分後に起きたこと」は、ぜひ本書で味わってほしい。情報の確認手順や、集めた情報をどこまで絞るのかといった実践ルールも具体的に並びますが、ここで列挙してしまうと本書を読む楽しみが減るので、預けておきます。

型と短文——テクニックは「補助輪」だと割り切れる

実際に書く段になると、本書は迷わないための「型」を渡してくれます。なかでも有名なのがPREP法。結論から入り、理由と具体例をはさみ、もう一度結論で締める。この往復の構造に流し込むだけで、論理が勝手に通っていく感覚があります。型は窮屈なルールではなく、論理破綻を防ぐ補助輪なのだ、という捉え方が腑に落ちました。

文章を短くする技術も実用的です。一文を長くしすぎないこと、なくても通じる接続詞は思いきって削ること。「迷ったら削る」というシンプルな指針は、今日のメールからすぐ使えます。具体的な文字数の目安や、漢字とひらがなの黄金比まで数字で示されているので、感覚ではなく基準で直せるのがありがたい。基準そのものは本書で確かめてください。

ほかにも、レイアウトや余白といった「見せ方」、書いたあとの推敲のコツ、上達のための練習法まで、本書は準備から仕上げまでを丸ごとカバーします。全部を紹介すると目次の引き写しになってしまうので、ここでは「準備と推敲にこそ価値がある」という背骨だけ持ち帰ってもらえれば十分です。

どんな人に効くか

この本が刺さるのは、書く力が足りないというより「書く手順を知らない」だけの人です。メールや企画書を前に何度も読み返してしまう人、「で、結局何が言いたいの?」と返された経験がある人。準備して、絞って、型に乗せて、短く書き、寝かせて見直す——その一連の流れを一度通すだけで、文章は別物になります。

一方、すでに1次情報重視や短文化を体に染み込ませている人には、確認作業に近いかもしれません。型より独創的な表現を追いたい人にも、本書の整然としたルールはやや窮屈に映るでしょう。

それでも私が本書を勧めたいのは、技術論の先で「言葉は人を傷つけもし、励ましもする」という姿勢に着地するからです。禅の「愛語」を引きながら、文章は書き手の人間性を映すと説く終盤は、ノウハウ本の枠を静かに越えていきます。

「センスがない」と諦める前に、まず手順を知る。その小さな一歩が、「伝えた」を「伝わった」に変えていきます。


合わせて読みたい

『新しい文章力の教室』唐木元 本書と同じく「文章はセンスではなく技術」という立場の一冊。「書けない」を「書ける」に変える具体的な手順が、本書の5プロセスとそのまま響き合います。

『すごい言語化』木暮太一 「語彙力がない」が伝わらない原因ではない、と説く本。本書の「内容70点」という主張と地続きで、何を言うかを磨きたい人に。

『読みたいことを、書けばいい。』田中泰延 読者目線で書くと人が集まる、という視点が本書の「読者のメリットを優先する」考え方と重なります。書く動機を整えたい人におすすめです。


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