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『たった1分で相手をやる気にさせる話術ペップトーク』浦上大輔|「頑張れ」が相手を追い詰めていた

コミュニケーション・文章術 ✍ 浦上大輔
約7分で読めます

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『たった1分で相手をやる気にさせる話術ペップトーク』
目次

部下の大事なプレゼンの前。子どもの試合の朝。落ち込んだ同僚に声をかけたいとき。「頑張って」「大丈夫」と励ましたはずが、相手の顔がかえって曇る——。そんな空振りに覚えのある人は多いはずだ。

考えてみれば、私たちは人の励まし方を学校でも職場でも教わっていない。多くは自分がされてきた励ましを何となく真似ているだけで、だから良かれと思った一言が、そのまま相手のプレッシャーに化けてしまう。

浦上大輔は、アメリカのスポーツ界で試合前に交わされる短い激励「ペップトーク」を、日本のビジネスや家庭に応用できる形へ体系化した人物だ。ペップ(Pep)とは「元気・活気」の意味で、もとは試合前のロッカールームで監督が選手にかける短いスピーチを指した。

映画にも1000本以上そのシーンが登場するという。本書の手柄は、この感覚的な励ましを、誰でも再現できる論理的な型に落とし込んだところにある。

そして本書の主張は、シンプルでいて挑発的でもある。不安を抱えた相手にいきなり明るい言葉を投げると、心のドアはむしろ固く閉じる

まず相手のネガティブな感情に寄り添い、そこから順序を踏んで気持ちを引き上げる。この道筋こそが、たった1分で相手の実力を100%引き出す鍵になる、というわけだ。

図解

実力を左右するのは能力ではなく「心の状態」

まず本書が置く前提が面白い。本番で力が出ない原因を、著者は能力不足ではなく「心の状態」に見る。

その人が本来持つ実力——知識、経験、技術、人脈——を、著者は「リソース」と呼ぶ。同じリソースでも、前向きで実力を出しきれる状態が「リソースフル」、緊張や不安でそれを出せない状態が「アンリソースフル」だ。

リソースを100とすれば、リソースフルなら100近い力が出て、アンリソースフルなら0近くまで落ちる。持っているものは同じでも、心のスイッチ一つで結果はまるで変わってしまう。

わかりやすい例が、お笑い芸人・出川哲朗の海外ロケだという。英語の知識というリソースはほとんどないのに、身振り手振りで全力で伝えようとしてミッションを次々こなす。リソースが乏しくてもリソースフルなら成果は出る、という生きた見本である。

だとすれば、ペップトークの役割は一つに絞られる。相手をアンリソースフルからリソースフルへ切り替えること。励ましを「気合の注入」ではなく「状態の切り替え」と捉え直した点に、本書の見通しの良さがある。

声のかけ方が下手なのではなく、そもそも狙いがずれていた——そう気づかされる読者は多いだろう。

心に火をつける「4つのステップ」

ここが本書の中心だ。ペップトークは気分任せの精神論ではなく、受容→承認→行動→激励という4段の手順で組み立てられる。

ステップ1は受容。相手の不安を否定せず「緊張しているね、わかるよ」とそのまま受け止める。ここで「大丈夫」と無理に引き上げると、相手は「わかってもらえない」と感じて心を閉ざす。

著者は、感情という液体をくみ取ってはじめて心の器に余白ができ、そこにこちらの言葉が入る、とたとえている。ステップ2は承認、受け止めた感情をポジティブに捉え直す段だ。

ステップ3は行動、してほしいことを肯定形で「その思いをそのまま伝えておいで」と渡す。ステップ4は激励、「あなたなら大丈夫、いってらっしゃい」と背中を押す。

震えるプレゼン前の部下ならこうなる。「緊張しているね、私も社長の前ではいつもそうだ(受容)。でもそれは本気で準備してきた証拠だ(承認)。その思いを社長に伝えておいで(行動)。

終わったら祝杯だ、行ってこい(激励)」。所要わずか1分。立命館大パンサーズの古橋監督が、絶対不利と言われたライスボウルでたった45秒の言葉で選手を奮い立たせた話や、ソチ五輪で16位と出遅れた浅田真央に佐藤信夫コーチが「何かあれば先生がリンクに入って助けに行く」と安心感を渡した話など、事例も豊富で、理論が絵空事に終わらない。

承認の「だからこそ」、行動の「あるもの」

4つのステップのうち、承認と行動には具体的な変換技術がある。編集部が最も持ち帰る価値があると感じたのは、この技術の部分だ。

承認の技術は「逆転の発想」。コインの裏表のように、ネガティブな事実をポジティブな意味へ裏返す。合言葉は「だからこそ」だ。「緊張しているのは、だからこそ本気の証拠だ」。

トラブルが起きたなら「だからこそ、やり方を見直すチャンスだ」。本番前はリラックスすべきという通念に反して、著者は適度な緊張こそ本気の表れだと言い切る。

ここは、緊張を敵視して空回りしがちな人ほど効く発想の転換だろう。

もう一つは「あるもの承認」。不安なとき人は「練習不足」という欠けたピースばかり見てしまうが、これまでの経験や仲間という、すでに手にしたピースへ目を向け直させる。

ないものを数えるのをやめ、あるものからベストを尽くさせる——この構えには、コーチングやマネジメントにも通じる普遍性がある。

「ミスするな」ほどミスを呼ぶ、脳の落とし穴

行動のステップには、本書で最も実用的な二つの変換が控えている。

一つは「ネガポジ変換」。人間の脳は、イメージの世界で肯定形と否定形を区別できない——「ミスするな」と言われると、脳は「ミス」というキーワードで画像を検索し、失敗する自分を思い描いてしまう。

だから否定形を肯定形へ変える。「焦るな」は「深呼吸して落ち着こう」、「遅刻するな」は「5分前に集合しよう」。脳が成功を描ける言葉を選ぶわけだ。

もう一つは「アクション変換」。「絶対に勝ってこい」は結果の指示であり、勝敗は相手や天候などコントロール外の要素に左右されるからプレッシャーになる。

そこで、本人が制御できる行動を指す。「ベストを尽くそう」「お客様の話を丁寧に聴こう」と。0勝21敗3分け、21連敗中で臨んだ2011年女子ワールドカップ決勝、PK戦の直前に佐々木則夫監督がかけた言葉は「思いっきり楽しんでこい」だった。

結果ではなく行動を解き放ったあの一言が、歴史を変えた。ペップトークの源流とされる1980年レークプラシッド五輪も同じ構造で、無敵のソ連に挑む学生選抜へ、ハーブ・ブルックスHCはホッケーのために生まれてきたのだと語りかけ、チームは「氷上の奇跡」と呼ばれる逆転を収めた。

やる気の土台は「存在承認」、そして「誰が言うか」

技術の話の下には、もっと深い土台がある。人のやる気の根には二つの欲求がある——認められたい「承認欲求」と、人の役に立ちたい「貢献欲求」。この二つが満たされ、「自分には価値がある」と感じたとき、人は動きはじめる。

承認にはピラミッド状の三段がある。頂点が成果を認める「結果」、中段がプロセスを認める「行動」、そして最も広い土台が、存在そのものを認める「存在」だ。

直感に反するが、著者は、結果が出たときに褒めるより、結果が伴わなくても存在を認めるほうが自己肯定感を育て、困難に立ち向かう力になると説く。理学療法士時代、背骨に菌が入り5か月寝たきりで生きる希望を失っていた患者に、著者は特別な技術ではなく毎日ただ体をさすり続けた。

やがて彼女は「もう一度メロンをつくりたい」と夢を取り戻し、自力で歩いて退院したという。テクニックの手前にある「本気の関わり」そのものが、存在承認だったわけだ。

いじめに苦しむ娘へ母が毎日「いてくれてありがとう」と伝え続けた結果、娘が自信を取り戻し相手に「やめて」と言えるようになった話も、存在への言葉が行動を変えることを示している。

だからこそ本書は釘を刺す。効くのは「何を言うか」より「誰が言うか」であり、信頼のない人の言葉はどれだけ上手でも上滑りする

ペップトークは即効の魔法ではない。関係が壊れた相手には届かず、まずは受容を通じて時間をかけて関係を結び直すしかない——この限界を著者自身が正直に認めている点は、むしろ本書の誠実さだと感じた。

それでも言葉の力は本物で、著者がALSと診断され死をも考えた友人へ4ステップに沿った励ましのメールを送ると、彼女は「もう一度生きてみよう」と決意したという。

相手を見極め、自分を励ます——今日からの実践

ここまでが技術だが、本書はもう一段の注意も添える。ペップトークをつくる5つのルール——ポジティブに、短く、わかりやすく、本気で関わる——の中でも著者が最重要に置くのが、「自分が言いたいことではなく、相手が一番言ってほしいことを言う」という一点だ。

ここを外すと励ましは押し付け、すなわち「ムリポジ(無理やりポジティブ)」に転落する。

だから相手の状態でスイッチを選び分ける。プレッシャーに潰れそうな相手には「君ならできる」と力を認める「できる感」。義務感で疲れた相手には「思いきり楽しんでこい」と枠を外す「ワクワク感」。

不安で沈む相手には、まず「大丈夫、みんながついている」と受け止める「安心感」。同じ言葉でも、場面が違えば響き方は正反対になる。自分の成功パターンを押しつけないことだ。

そのうえで、明日から試せる小さな一歩を三つ。一つ、「すみません」を「ありがとう」に。反射的な謝罪を感謝へ変えるだけで、相手の貢献欲求が満たされ、やる気に火がつく。

二つ、指示から否定形を消す。「〜するな」を点検し、してほしい行動を肯定形へ言い換える。三つ、自分を励ます。他人を励ますには、まず自分がリソースフルであること。

著者は三・三・七拍子のセルフペップトークを勧め、中学受験を控えた娘に「わかる、わかる、マユならわかる」とささやき続けたという。声に出さず、心で唱えるだけでいい。

「言葉は行動を変え、行動は習慣を変え、習慣は人生を変える」。本書終盤のこの一文に、すべては尽きている。派手な才能はいらない。今日の「すみません」を一つ、「ありがとう」に替えるところから、始めればいい。


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