核心を一言で言えば、コンサルタントの仕事の本質は「触媒」であり、一流になる条件は頭の知性×心の知性×プロの覚悟の掛け算だ、という一冊です。
正しい答えを出すだけでは、人も組織も動きません。本書はそこから始まります。
著者の遠藤功さんは、戦略コンサルタントとして30年、100社200プロジェクトに携わってきた方です。かつて先輩から「コンサルなんて虚業だ、実業に戻れ」と言われ、その言葉と闘いながら走り続けた人でもあります。だからこの本には、机上論ではない手触りがあります。
こんな人におすすめ
- コンサルタントを目指している、あるいは今その仕事をしている人
- ロジックは正しいのに、なぜか人が動いてくれないと悩んでいる人
- 変革やプロジェクトを前に進める立場にある人
- 会社の看板を外しても通用する力を身につけたい人
この本の核心――コンサルタントは「触媒」である
遠藤さんは、仕事の本質をこう言い切ります。
戦略コンサルタントという仕事の本質をひと言で表現すれば、それは『触媒』(catalyser)である。
触媒は、化学反応を加速させますが、自分自身は変化しません。コンサルタントもそれと同じだと言います。クライアント組織に深く入り込み、企業変革という化学反応を加速させる。けれど自分が主役になるわけではない。地味で黒子の仕事です。それでも決定的な役割を果たします。
そしてもう一つの鍵が「アウトサイダー」であること。社内の力学や過去の常識に染まっていない部外者だからこそ、客観的な直言ができます。身内では言えない一言を、外の人間だから言える。ここに価値があります。
一流の触媒になる方程式――IQ×EQ×マインド
本書の背骨はこの掛け算です。
頭の知性(IQ)×心の知性(EQ)×プロフェッショナル・マインド=一流の触媒。
掛け算なので、どれか一つでもゼロなら、答えはゼロになります。賢いだけでもダメ、優しいだけでもダメ、覚悟だけでもダメ。三つが揃って初めて人と組織が動きます。順番に見ていきます。
頭の知性(IQ)――本質を見抜く骨太のロジック
頭の知性とは、物事の本質を見抜き、ファクトに基づいて骨太のロジックを組み立てる力です。枝葉末節を捨て、世の中を相関関係と因果関係で見る。
大事なのは、静的に分析して終わりにしないこと。未来は一つに決まりません。だから複数の筋書きを描く「シナリオプランニング」で、動的に考えます。
遠藤さんがBCG時代に外資系メーカーの日本参入プロジェクトに関わったとき、外国人マネージャーから何度も「Prove it!(証明しろ)」と突き返されたそうです。思い込みは通じない。ファクトを一つずつ積み重ねるしかない。この原体験が、骨太のロジックの土台になっています。
クリエイティブ・シンキング――6つの発想法
ところが、ロジックには落とし穴があります。理詰めで考えるほど、誰が考えても同じ答えにたどり着いてしまう。つまり差別化できないのです。
遠藤さんはBCG時代、パートナーの井上猛さんにプレゼンをこう評されたことがあります。「言っていることは間違ってないけど、面白くないんだよね」。正しいだけでは足りない。その痛みからクリエイティブ・シンキングの必要性を痛感したと言います。
ロジックを超える発想を生むための6つの発想法がこちらです。
- 常識を否定する
- 立ち位置を変える
- 価値を組み合わせ複合化する
- 逆張りする
- 思い切って尖らせる
- 未成熟なものに賭ける
「立ち位置を変える」の例として、中堅消費財メーカーH社の話が出てきます。商品開発担当者が長期出張で現地消費者の生活に密着し、「生活者」の目線でニーズを探った。すると開発した商品が驚きの売上を記録しました。机の前では見えないものが、立ち位置を変えると見えてきます。
3つのコアスキル――概念化・構造化・言語化
戦略コンサルタントが例外なく反復トレーニングしているスキルが3つあります。概念化・構造化・言語化です。
経験や思考を抽象的な概念にまとめ、その関係を整理し、誰にでも分かる言葉で表現する。この三段階を回し続けることで、思考は鋭くなっていきます。
心の知性(EQ)――相手の心を開かせ、響かせる
ここからが本書の真骨頂です。どんなに正しい戦略も、相手の心が閉じていれば一歩も進みません。心の知性とは、相手の心を「開かせ(受容)」「響かせる(触発)」力です。
心がひらくための3つのポイントが示されています。
- 傾聴する――耳で聞くのではなく、心で聴く
- 巻き込む――結論を渡すのではなく、プロセスを共有する
- 熱意を示す――言葉でなく、行動で示す
『耳で聞く』のではなく『心で聴く』
そして人を動かす順番について、遠藤さんは「心─頭─心のサンドイッチ」という表現を使います。いきなり正論をぶつけても弾かれる。まず心で受け止め、頭で納得させ、最後にまた心で背中を押す。ロジックは心で挟んで初めて届きます。
大手電機メーカーM社の例が印象的です。ある専務が長年赤字の新規事業に固執していました。遠藤さんは一対一の対話を重ね、「あと2年」という期限と事業性評価の仕組みに合意します。
そして2年後、専務自身が撤退を決断しました。正論で論破したのではなく、膝詰めの対話で本人に決めさせた。これがEQの仕事です。
デリバリー――明晰な思考は簡潔な表現になる
どんなに良い中身も、伝え方で台無しになります。遠藤さんはスライド表現で「クリスタライズ」を重視します。本質を簡潔な言葉に結晶化することです。
明晰な思考は簡潔な表現となる
スライドの余白は、自信のあらわれでもある。
ごちゃごちゃ詰め込んだスライドは、自信のなさの裏返しだと言います。本当に分かっている人ほど、短く言える。耳が痛い指摘です。
プロフェッショナル・マインド――覚悟と8つの心構え
掛け算の3つ目、マインドです。基本はたった2つ。「For the client(クライアントのために本気で対峙する)」と「結果にこだわる」。
そのうえで、具体的な8つの心構えが挙げられています。
- 偉そうにしない
- 生意気であれ
- 逃げない
- ごまかさない
- 知らないことは「知らない」と言う
- 時間価値を常に意識する
- 研鑽を怠らない
- 頭も使うが気も使う
偉そうにして、得することなど何ひとつない。
「偉そうにしない」と「生意気であれ」が並んでいるのが面白いところです。腰は低く、でも言うべきことは怯まず言う。プロの矜持がにじみます。
熱量――コモディティ化時代の最大の武器
知識も情報も、いまや誰でも手に入ります。だからこそ、差をつけるのは「熱量」だと遠藤さんは言います。クライアントに「よし、やってみよう!」と決断させる、圧倒的なエネルギー。理屈ではなく、人の熱が人を動かします。
堀紘一さんのこんな逸話も出てきます。BCG時代、米食品メーカーA社のCEOに対し、新商品のパッケージを手に取りながら厳しく提言したそうです。
「日本市場を理解せず、昔の商品にしがみついて売れないと言っている。撤退したほうがいい」。A社はこの直言を受け入れ、決断しました。アウトサイダーの熱のこもった一言が、組織を動かした例です。
鳥の眼と虫の眼――大局観と現場の往復
非凡な戦略は、二つの眼の往復から生まれます。「鳥の眼」は全体を見渡す大局観(グランド・ストラテジー)、「虫の眼」は現場の微細な気づき(マイクロ・ストラテジー)です。
データは過去の記録にすぎません。未来の予兆はデータには表れず、現場のファクトの中に潜んでいます。だから一流は、机と現場を行き来します。そして究極のコンサルティングを、遠藤さんは「主観と主観のぶつかり合い」と表現します。膝詰めで、本気の壁打ち相手になる仕事です。
適社性――他社の成功は、あなたの会社の正解ではない
本書が繰り返し強調するのが「適社性」です。他社の成功例やベストプラクティス(一般解)をそのまま持ち込んでも、うまくいきません。その企業の歴史・文化・強み弱みに完全適合した「個別解」にこだわる。
準大手機械メーカーE社の失敗例が出てきます。同業最大手と同じ戦略を実行しようとしたものの、体力も能力も足りず、現場は混乱し、計画は頓挫して痛手を負いました。
誤った合理性に執着することほど不合理なことはない。
正しそうに見える合理性ほど危ない。そんな戒めが込められています。
遠藤流7つの習慣
一流の触媒であり続けるために、遠藤さんが続けてきた習慣が7つあります。
- 日経新聞を隅々まで読む
- ビジネス書を乱読する(月15冊ほど)
- 必ずメモをとる(思考の見える化。30年でコクヨCampusノートを100冊以上)
- 毎年最低1冊は本を出版する(概念化・構造化・言語化の究極トレーニング。1冊300時間)
- 毎年1ヶ所は未訪問の国や地域を訪ねる(現場を見る三現主義)
- 早寝早起き
- 感謝を忘れない
世の中では『選ばれない』ことが普通であり、『選ばれる』ことは奇跡である。
7つ目の「感謝」にこの言葉が重なります。選ばれることは当たり前ではない。だから奇跡に感謝する。淡々とした習慣の裏に、謙虚さが流れています。
プロ化する社会――市場価値で勝負する
終盤、遠藤さんは働き方の地殻変動を語ります。これからの人材は4つに分かれると言います。経営リーダー、高度専門職、ナレッジワーカー、マニュアルワーカー。このうち代替性の高いマニュアルワーカーは、AIに淘汰されていく。
生き残る鍵は2つ。「社内価値」ではなく「市場価値」で勝負すること。そして「相対」ではなく「絶対」で勝負すること。会社の名札を外しても通用するか、自分にしかできない何かがあるか。問われるのはそこです。
『強固な思い』は『軟弱な戦略』に勝る
戦略の巧拙より、やり抜く思いの強さが上回る。本書を貫く一本の信念です。
明日から何を変えるか
- 会議で結論を急がず、相手の話を最後まで「心で聴く」。EQは特別な才能ではなく、聴き方の習慣から始まります。
- 学びを必ずメモに残し、月に一度は短い文章にまとめる。概念化・構造化・言語化のトレーニングは、誰でも今日から始められます。
- 環境や他人のせいにする思考を、1日1回手放す。アンコントローラブルを捨て、自分が変えられることに集中する。「上司は自分自身」だと考えてみる。
おわりに
この本の魅力は、コンサルタント論でありながら、人を動かして変革を起こしたいすべての人に効くところです。正しさだけでは人は動かない。頭で考え、心で寄り添い、熱を込め、覚悟を持つ。当たり前のようで、全部やり切れている人はほとんどいません。
「触媒」という静かな言葉に、これだけの哲学が込められている。読み終えると、自分の仕事の見え方が少し変わっているはずです。
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『論点思考 内田和成の思考』内田和成さん 本書が「本当に大事なことを見極める本質思考」を重視するのに対し、その前段にある「正しい問い(論点)の設定」を深掘りできます。遠藤さんが必読書に挙げている本でもあります。
『企業参謀』大前研一さん 本書がIQ(頭の知性)の土台と位置づける戦略的思考の古典です。遠藤さんが必読書に挙げる一冊で、骨太のロジックの源流を学べます。
『ロジカルシンキング』照屋華子・岡田恵子さん 本書があえて省いた「論理を構築し相手に伝える」具体技術を補完できます。遠藤さんが基礎スキルとして推薦している一冊です。



