天気予報を見て「降雨確率50%です」と報告する。それは分析屋の仕事です。
真の参謀は、こう言える人だと本書は定義します。「社長、傘を持っていってください!」
本書は、大前研一さんの名著『企業参謀』を、若手ビジネスパーソン向けに図解・超訳した入門書です。編んだのはプレジデント書籍編集部。本来は課長クラスで触れる「大前理論」を、頭の柔らかいうちに掴めるよう、ハードルを下げてくれています。
こんな人におすすめ
- データ分析の結果は報告できるのに、「で、どうすればいいの?」と聞かれると言葉に詰まる人
- 完璧な準備が整うまで決断を先延ばしにして、気づけばタイミングを逃している人
- 「うちの会社では無理」「予算がない」と、制約を理由に諦める癖がついている人
- 大前研一さんの戦略理論を、いきなり原典ではなく図解からざっくり掴みたい人
特に1人目に届く本です。本書が突くのは、分析と評論で満足してしまう日本のビジネスパーソンの弱点。そこから抜け出す道具が、ぎっしり詰まっています。
この本の核心――分析屋で終わるか、結論を言えるか
本書の主役は「参謀力」です。参謀とは、単なる分析家でも評論家でもありません。
「社長、傘を持っていってください!」と言える人なのだ。
分析結果を、具体的な行動のロードマップまで描いて伝える。結論を断言できる。それができなければ、参謀を名乗る資格はない、と本書は言い切ります。
土台にあるのは「正解は自分の頭で導き出すもの」という姿勢です。大前さんはMIT留学中、教授の問いに「図書館で調べてきます」と答え、チョークを投げつけられたといいます。図書館に答えがある問題に取り組む場所じゃない、と。
ネットや本に答えを探しに行かない。世の中に転がる「常識」というパッケージを鵜呑みにせず、自分の手でほどいて中身を見抜く。これが参謀の出発点です。
完璧を待つほど、決断は遅れていく
日本人が決断を先延ばしにする理由を、本書は2つ挙げます。責任への恐怖と、無邪気なまでの完全主義です。
「どのくらい完全主義を捨てられるか」が勝負を分けるカギとなるのだ。
完璧な解答を求めるあまり、決断のタイミングを逸する。問題を放置して、事態を悪化させる。ビジネスは刻々と変わる市場での戦いです。100点を待つより、現状の最善策を素早く決めて動くほうがいい。
そして、現状の延長線上に解がないなら、リセットする勇気も要ります。ダメだと思ったらやり直す。これまで積み上げたもの(サンクコスト)に縛られない覚悟が、戦略家には必要だ、というわけです。
日本人に欠けているのは「もし〜だったら?」
戦略的思考の第一歩を、本書は意外なほどシンプルに言います。
まず、「What if 〜?」(もし〜だったら、どうするの?)を考えることが、戦略的思考力を磨く第一歩なのだ。
最悪の事態をあらかじめ想定し、代案を用意しておく。日本人はこれが苦手だと本書は指摘します。
なぜ苦手か。理由が独特です。ひとつは言霊信仰。悪いことを口にすると現実になるという恐れから、「もしも」を考えるのを避けてしまう。もうひとつは偏差値教育。国家が決めた価値観の枠に押し込められ、自由に夢を描く「人生の戦略家」の芽が摘まれてきた、と。
だから本書は、制約を外して考えよと促します。
「何ができないか」を考える前に、「何ができるか?」を考えるのが、参謀の頭の使い方なのである。
できない理由を並べる前に、制約がゼロだったら何ができるかを構想する。視点を変えるだけで、解ける問題に化けることがあります。
問題は「パッケージ」で届く。中身を開けろ
第2章のテーマは、問題の捉え方です。ビジネスの問題は、複合的な「パッケージ」として目の前に現れます。それをそのまま受け取ってはいけない。
たとえば「売り上げが伸びない」。ここで短絡的に「営業マンを増やそう」とやると、人件費が増えて自分の首を絞めるだけです。
まずパッケージを開けて、中身を分解する。「売り上げ=マーケットサイズ×シェア」と置けば、どの要素が原因かが見えてきます。市場が縮んでいるのか、シェアを奪われているのか。原因が違えば、打ち手もまるで違う。
設問の仕方を少し変えるだけで、問題解決への道筋が明確になってくる。
表面の現象に対処する「アリバイ仕事」をやめ、本質的な問いを立て直す。それだけで、解決の道筋が変わります。
イッシュー・ツリーで、悩みを「打つ手」まで分解する
問題を論理的に分解する道具が、イッシュー・ツリーです。大きな問題点を、重複のないサブイシューへと条件分岐で割っていく。最終的に、人の手が下せる具体的な「打つ手」になるまで掘り下げます。
面白いのは、これを「朝活ができない理由」のような日常の悩みにも使えることです。高度な戦略ツールを、身近な習慣で鍛えられる。本書のうまさが、ここに出ています。
そして、より大きな単位で使うのが中期計画の8ステップです。実現可能な目標値を置き、何もしない場合の「基本ケース」を確立し、原価低減と市場改善のケースを算定する。その限界値と目標値の差が「戦略的ギャップ」です。
このギャップを、新規参入や業務提携といった「戦略的代替案」で埋めていく。代替案に定量評価を与えて選び、詳細な実行計画に落とす。前後1〜2年の中期戦略こそ、参謀が最も力を発揮できる領域だと本書は言います。
どの事業に賭け、どこから退くか――PPMの使い方
第4章は、事業の濃淡をつける話です。道具はPPM(製品系列ポートフォリオ管理)。
初期のPPMは「市場成長率」と「自社のシェア」で4象限に分け、製品を「スター座」「現金牛座」「負け犬座」「大食らい座」に振り分けます。これを進化させたのが、「業種の魅力度(外的要因)」と「自社の強さ(内的要因)」を軸にした9象限マトリックスです。
理屈より、対照的な2社の運命が雄弁です。
富士フイルムは、アナログ写真産業が壊滅し始めた時点で、保有していた2兆円のキャッシュを動かしました。5000人規模のリストラ、医療や化粧品への多角化。突然死を予測して、生き延びた。
一方コダックは、2006年にデジカメで世界3位のシェアを誇りながら、その優位を守りきれず、経営破綻への道をたどりました。事業のライフサイクルとKFSの変化に、どう手を打つか。それが命運を分けたわけです。
勝敗を分ける急所、KFSを見抜く
最後のテーマが、本書の幹であるKFS(Key Factor for Success)です。
勝負に勝つために、「ココはハズしてはならない」というキーポイントがある。それがKFSだ。
あらゆる事業に、勝敗を分ける急所がある。原料確保から設計、販売、サービスまで、企業活動のステップを垂直に分解し、どこがKFSかを見極める。そして、そこに資源を集中させます。
象徴が、宮本武蔵の一乗寺の決闘です。敵は100人。圧倒的に不利な状況で、武蔵は1対1の勝負しかできない狭い道に相手を誘い込みました。「1対1なら絶対に勝つ」という自分のKFSを活かせる土俵を、自ら作ったわけです。
注意すべきは、KFSが固定ではないことです。携帯電話業界のKFSは、通信エリアの広さから、デザイン、そしてスマートフォンというサービスへと移り変わってきました。刻々と変わるKFSを、ライバルより早く見抜く。その眼力が、勝負を決めます。
ちなみに本書は「社会に出たら、カンニングは正義」とも言います。ゼロから全部考えるのではなく、他者の知見やデータを集めて本当の答えにたどり着く。そのためのカンニングは大いにやれ、と。潔いほど実践的です。
明日から何を変えるか
- 「しょうがない」と諦めていることを、毎週1つ代案に変える。 満員電車をただ我慢せず、「会社の近くに住む」「時間をずらす」と代案を出す。これがブレークスルー力のトレーニングになります。
- 曖昧な悩みを、イッシュー・ツリーで分解する。 「売上が上がらない」とモヤモヤ悩むのをやめ、要因をツリーに割って、自分の手が出せる具体的なアクションが見つかるまで掘り下げる。
- 報告は「分析+行動提言」を必ずセットにする。 「雨が降りそうです」で止めず、「だから傘を持っていきましょう」まで言う。結論のない報告を、自分に許さないことです。
「意識する」では変わりません。次の報告で、データの後に必ず「私の提案は〇〇です」と一文添える。今日からできます。
おわりに
コダックや富士フイルム、ガラケー時代の事例は、たしかに少し古い。それでも「KFSの移り変わりを見抜く」という本質は、まったく色褪せていません。
大前さんは最後にこう励まします。
考えることを楽しみなさい!そうすれば、日本人に欠けているブレークスルーする力が必ず手に入る!
明日の会議で、誰かの分析を聞いたら、心の中で一度問うてみてください。「で、傘は持っていくの?」と。そこから、参謀の思考が始まります。
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