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『仕事は輝く』犬飼ターボ|つまらない仕事を変えるのは、転職ではなく「考え方」

キャリア・働き方 ✍ 犬飼ターボ
約10分で読めます

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『仕事は輝く』
目次

旅人が3人の石切り職人に「何をしているのか」と尋ねる、有名な寓話があります。

1人目は「生活のためだから仕方ない」と不機嫌に答え、2人目は「教会を造るために」と元気に答えました。3人目は「みんなが心安らかでいられるように教会の石を切り出している」と、顔を輝かせて答えたといいます。

同じ石を切る作業をしているのに、3人の表情はまるで違う。この古典的なエピソードを一本の成長物語に仕立て直したのが、犬飼ターボさんの『仕事は輝く』です。

主人公は、体が小さく、ミスが多く、いつも自分を責めてばかりいる若い石切り職人アルダ。ある日、異国の商人から「秘法」が書かれた巻物を買い、その教えに沿って働き方を一つずつ変えていきます。

物語が繰り返し説くのは、シンプルでいて強烈な一文です。本当に富を生むのは、頭の中にある考え方そのものだ、と。

著者の犬飼ターボさんは、ベストセラー『星の商人』の作者でもあります。本書はその過去を舞台にした同じ世界観の物語で、成功と幸せを両立させる「ハピサク」という哲学が下敷きになっています。

お金や地位だけでなく、やりがいや心の平穏も同時に手に入れる。その思想が、不器用な石切り職人の物語に静かに溶け込んでいます。

図解

「いまの仕事のまま」変わるという宣言

この本がほかの仕事論と一線を画すのは、転職や転職活動を一切すすめない点です。

職場も職種も変えずに、意識と物事の捉え方を変えるだけで、目の前の作業は輝き始める。アルダは最後まで石切りの仕事を辞めません。同じ石切り場で、同じ石を切りながら、見える景色だけを変えていきます。これは、現代の「合わない会社からは逃げよう」という空気とは正反対の主張です。

両者は矛盾するようで、実は補い合っていると私は考えます。環境を変える前に、まず自分の認知を変えてみる。それでも回らないなら環境を変える。本書は前者の徹底版であり、転職という大きなコストを払う前に試せる「最初の一手」を丁寧に言語化してくれます。

形式も読み手にやさしい。理論の羅列ではなく、自信がなくミスばかりの主人公に感情移入しながら読み進める寓話なので、心理的な抵抗なく「仕事の真理」が入ってきます。誰もが抱える劣等感に寄り添う語り口なので、説教されている感覚がまったくありません。

ただし、物語ゆえの限界も正直に書いておきます。本書では「期待を聞き出せば上司は理解してくれる」とスムーズに話が進みますが、現実にはこの方法だけでは通じない相手もいます。

そういう場合は物理的に距離を置く判断も必要です。万能薬としてではなく、まず試す一手として読むのが健全だと思います。

ここからは、物語の背骨である「5つの秘法」を順に追っていきます。要点は出し惜しみせず紹介しますが、それぞれにアルダの体験が肉付けされているのが本書の味なので、ぜひ物語そのものも味わってほしいと思います。

第1の秘法|「決めた瞬間」に専門家になる

最初の教えは、意識の持ち方ひとつで仕事は変わる、という一点に尽きます。

アルダの味方であり、役場で書記官を務めるハサンおじさんが、こう語ります。

専門家というのはその道を進むと決めたときになるものさ

技術を習得し終えてから専門家になるのではなく、その道を進むと決めた瞬間から専門家になれる。この順序の逆転が、本書の出発点です。

ここで鍵になるのが、セルフイメージ、つまり自分が自分をどう思っているかという自己認識です。未熟でも、雑用ばかりでも、「私は石切りの専門家です」と自認していい。専門家だと決めてしまえば、次にやるべきことは一つに絞られます。専門家として提供する価値を、どう高めるか。これだけです。

アルダは毎日、仕事の前に「私は石切りの専門家です」と意識するようにしました。すると上手な先輩を自然に観察するようになり、わからないことを素直に質問するようになります。

結果、ミスが激減し、金槌が軽く感じられ、石運びでよろけることもなくなりました。意識が変わると、身体の使い方まで変わったのです。

この描写は誇張に見えて、案外あなどれません。「自分は素人だ」と思っていると、人は質問をためらい、観察をサボり、ミスを「どうせ自分だから」と流してしまう。

逆に「専門家だ」と引き受けた瞬間、責任の引き受け方が変わり、行動が変わる。肩書きや経験年数ではなく、本人の宣言が起点になる――この発想は、未経験から新しい職に挑む人ほど効くはずです。

ちなみにアルダの母親も、得意料理のトリモッソに工夫を重ね続ける「料理の専門家」として描かれます。専門家意識は、職業や立場を選ばない。それが第1の秘法のメッセージです。

第2の秘法|反省はいらない、改善だけでいい

私が本書でもっとも独自だと感じたのが、この第2の秘法です。

一般に、反省は美徳とされます。しかし組頭のテベスは、アルダにこう気づかせます。自分を責めて反省することは、ひたすら謝り続ける時間と同じで、必要がない。悪かったなら、改善だけすればいい、と。

学ぼうとすればするほど、自分の未熟さが見えてきて苦しくなる。これは成長の途中で誰もがぶつかる壁です。本書はこの壁を、反省と改善を切り分けることで越えさせます。

ミスをしたら「なぜ自分はこうもダメなんだ」ではなく、「どうしたらできるんだろう?」とだけ考える。問いの向きを過去から未来へ切り替えるわけです。

とはいえ、人は無意識に自分を責めてしまうもの。そのための具体策が「今のなし」です。自分を責める考えが浮かんだ瞬間、顔の前で手をパタパタと振りながら「今のなし」とつぶやく。心に積もりかけた重さを、物理的なしぐさで取り消してしまうテクニックです。

子どもじみて見えるかもしれませんが、これは認知のクセに身体動作で割り込む、れっきとした行動的アプローチだと思います。アルダはこれを繰り返すうちに心が軽くなり、落ち込まずにすぐ改善へ向かえるようになりました。学ぶ意欲が下がらないので、数か月で一人前と見なされるまでになります。

ここで断ち切られているのは、「自分を責める→心が重くなる→学ぶのが億劫になる→改善が止まる→またミスする→さらに自分を責める」という悪循環です。反省は過去に向かって謝る行為、改善は未来に向かって直す行為。本書はこの2つを明確に分け、未来の側にだけエネルギーを注げと言い切ります。

第3の秘法|「作業」ではなく「意味」を運んでいる

3つ目は、仕事には意味がある、という教えです。冒頭の石切り職人の寓話が、ここで物語に回収されます。

アルダは一時期、別の組頭ガスウの冷笑的な言葉に染まってしまいます。「石を運んでいるだけだ」「どうせ得をするのは親方だけだ」。こうした見方に流されると、同じ石切りでも、あの寓話の1人目の職人のように「ただの労働」になり、仕事はたちまち色を失います。

転機は、自分の切り出した石を追いかけたことでした。アルダは自分が切った石にこっそり★印をつけ、それが町を守る城壁の一部になっているのを現場で確認します。重い石を運ぶだけの単純作業だと思っていたものが、その瞬間「町の人たちを守る城壁を造っている」という意味に変わったのです。

仕事の意味とは、目の前の作業そのものではなく、その先にある目的のこと。誰の、どんな役に立っているのかを知ると、作業はミッションに変わる。ハサンおじさんの言葉が、これを端的に表しています。

文字を書くのは単調でつまらない作業に思える。けれど、この国を運営するために記録を残しているのだと思えば、大事なことをやっていると感じられる――と。

この秘法が優れているのは、評価されにくい仕事にこそ光を当てる点です。本書は、子どもを立派な大人に育てることは、立派な国を造っているのと同じだと述べます。

家事や育児のように、外からは数値で評価されにくい役割にも、確かな意味がある。意味は仕事の種類で決まるのではなく、その仕事が誰に届くかで決まるからです。

現代の言葉に置き換えれば、これは「ジョブ・クラフティング」に近い発想です。仕事の内容そのものは変えられなくても、その仕事を自分の中でどう意味づけるかは変えられる。意味づけの主導権は、いつでも働く本人の手にある。本書はそれを物語で体感させてくれます。

第4の秘法|期待を「超える」と、信頼と権限が手に入る

4つ目は、期待を超えることで信頼が生まれる、という教えです。ここで本書は、やや挑発的な問いを投げます。会社員にとっての本当の顧客は、誰か。

本書の答えは明快です。会社や上司こそが直接の顧客だ、と言い切ります。給料を払う代わりに、労働という価値を期待しているのは上司だから。多くの人が「会社のお客さん」を自分の顧客だと勘違いしている、という指摘は鋭いと感じました。

日々の評価も裁量も、まずこの直接の顧客との関係から生まれるからです。

では、どうするか。まず相手が何を期待しているのかを、質問で聞き出す。そのうえで、期待をそのまま満たすのではなく、上回る。期待どおりにやれば当たり前の評価で終わりますが、それを超えたとき初めて「こいつはやるな」と思われます。

アルダはここで一度、派手に失敗します。組頭に昇進した彼は、3つ切り出す時間で4つ切れる効率的な方法を思いつき、親方に無断で実行して殴られてしまうのです。自信を失いかけたとき、彼はようやく親方の真の期待を聞き出します。それは効率ではなく「安全」でした。

そこでアルダは、安全を担保したうえで効率も良い方法を、今度は了承を得てから提案します。すると親方は「これからは事後報告でいい」と告げました。

期待を超えたことで、信頼と、自由に動ける権限の両方を手に入れたわけです。信頼を得ると裁量が広がり、裁量が広がるとやりがいが増える。この連鎖こそ、本書の核心の一つだと思います。

聞き出すコツも具体的です。上司の期待がうまく言葉にならないときは、「絶対に外してはいけない条件はありますか?」と最低ラインのほうから尋ねる。すると、親方にとっての「安全」のように、相手が本当に重視している一点が浮かび上がってきます。

なお、アルダが昇進していく石切りの組織は、頂点に親方がいて、その下に4人の団長、さらに20人の組頭がいて、各組頭が4〜5人の職人を束ねる構造です。

この縦の階層を上がる原動力が、期待を超えて信頼を積み続けることでした。終盤、巻物にはこんな一節も現れます。小物は手に入れた成功にしがみつき、学びを自分だけのものとして隠す。

本物は、得た学びを惜しみなく周りに分け与える、と。信頼を広げる人ほど、知識を独り占めしないのです。

第5の秘法|行き詰まったら、最初の一歩に戻る

最後の秘法は、拍子抜けするほどシンプルです。すべてが無意味だったと感じるほど落ち込んだとき、どうするか。答えは、原点に帰ること。熱心に学び始めたころの目的や初心を思い出し、もう一度第1の秘法から始める。それだけです。

アルダはこの秘法を、物語でもっとも過酷な場面で使います。海賊の襲撃による大火災で、母や恩人のハサンを失い、絶望の底に沈むのです。逃げ出しそうになった彼を、ライバルのザキが叱咤します。

お前はとろい不器用な奴だが、誰よりも努力してきたはずだ。こんなときこそ、ふんばる必要があるんじゃないのか、と。

アルダは原点に立ち戻り、「町を守る城壁を考える」という新しい目的を見いだします。やがて国の代表として他国の城壁を視察し、敵を防ぐだけでなく商業も発展させる城壁を造る、という大きな使命に燃えていきます。

ここで構造に注目してほしい。第5の秘法は第1の秘法へ戻るので、5つの秘法は一本道ではなく円環になっています。どこでつまずいても、また最初の「専門家だと決める」に立ち返ればいい。この円環構造が、本書を読後に妙な安心感の残る、やさしい一冊にしています。

明日からできる4つの行動

本書は各秘法の終わりに、読者が自分の仕事に置き換えるレッスンを用意しています。今日から試せる形に整理して並べます。

1つめ。自分は何の専門家かを決めて、口に出す。未熟でもかまいません。仕事の前に「私は〇〇の専門家です」と声に出し、その専門家として価値を高めるために今日できることを1つだけ決めます。上手な人のやり方を観察する、でも十分です。

2つめ。自分を責めかけたら「今のなし」で取り消す。ミスをして落ち込みそうになったら、顔の前で手を振って「今のなし」とつぶやく。そして反省はスキップし、「では、どうしたらできるだろう?」と次の一手だけを考えます。

3つめ。自分の「作業」と「意味」を分けて書き出す。毎日している作業(何をしているか)と、その先の意味(結果として誰にどんな価値を届けているか)を紙に書き分け、目につく場所に貼ります。アルダの石が城壁になったように、自分の作業の行き先を可視化するのです。

4つめ。上司に「外してはいけない条件」を聞く。次の面談で「私が今の業務で、絶対に外してはいけない条件は何ですか?」と質問します。その条件(納期、正確性、安全性など)を死守したうえで、より良い方法を、了承を得てから試します。

おわりに

巻物の値段は、最初3ゴールドと言われ、アルダが1ゴールドまで値切って手に入れたものでした。彼にとっての1か月分の給料です。けれど彼が本当に手に入れたのは、巻物に書かれた文字ではなく、考え方そのものでした。

安かったのか高かったのか――読み終えるころには、その問いの立て方自体が変わっているはずです。

転職して環境を変えなくても、意識の向け方ひとつで、いまの仕事は輝き始める。本書はそう言い切ります。寓話だからと侮ると、案外、自分の月曜の朝が静かに変わっていることに気づくかもしれません。

明日の朝、仕事を始める前に、一度だけ声に出してみてください。「私は〇〇の専門家です」。その一言から、たぶん何かが少しだけ動き出します。


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