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『トロント最高の医師が教える 世界最強のファスティング』ジェイソン・ファン氏|痩せないのはカロリーではなく「ホルモン」のせいだった

健康・メンタル ✍ ジェイソン・ファン氏
約7分で読めます

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『トロント最高の医師が教える 世界最強のファスティング』
目次

「食べる量を減らして、運動を増やす」。

ダイエットの王道とされてきたこの方法で、一時は体重が落ちても、結局リバウンドした。そんな経験はありませんか。私もそうでした。意志が弱いせいだと、ずっと自分を責めていました。

本書は、その前提そのものを引っくり返します。肥満の原因はカロリーの摂りすぎではなく、インスリンというホルモンの過剰分泌にある。だから解決策は「食べない時間を作る」ファスティング(断食)だ、と。

著者は腎臓専門医のジェイソン・ファン氏、臨床研究者のメーガン・ラモス氏、そして自身が136キロから大幅な減量に成功した起業家のイヴ・メイヤー氏。医学・臨床・当事者という3つの視点が交差する構成になっています。

図解

この本が壊す3つの常識

本書はまず、私たちが「物理法則」のように信じてきた前提を、片っ端から疑ってかかります。狙い撃ちにされるのは3つの常識です。

ひとつ目は「摂取カロリーより消費カロリーが多ければ痩せる」という等式。著者はこれを「完璧に破綻している」と言い切ります。ふたつ目は「ファスティングをすると基礎代謝が落ちる」という不安。

これは逆で、むしろ代謝は上がると主張します。みっつ目は「運動すれば痩せる」という神話。健康には不可欠だが、肥満のコントロールという一点に限ればほとんど役に立たない、という立場です。

ここを読んでいて、私はずっとモヤモヤしていたことに名前がついた感覚がありました。なぜあんなに走ったのに体重が動かなかったのか。なぜ食事量を減らした分、かえって体がだるく省エネになっていったのか。

著者の答えは一貫しています。体重を握っているのはカロリーの足し算ではなく、ホルモンなのだ、と。

なぜカロリー制限は99%失敗するのか

衝撃的な数字があります。著者によれば、カロリー制限法が成功する確率はおよそ1%。最終手段とされる減量手術ですら、10年後に体重が戻ってしまう失敗率が35%にのぼると紹介されています。

理由はシンプルです。摂取カロリーを減らすと、体は生存のために省エネモードに入る。基礎代謝そのものを落として、消費カロリーを減らしてしまう。基礎代謝は条件しだいで50%も上下するとされ、体は驚くほど柔軟に「節約」してきます。

がんばって食べる量を減らしているのに、体のほうがそれ以上に消費を絞る。だから痩せないし、少し気を緩めた瞬間にリバウンドする。意志の弱さではなく、体の防衛反応がそうさせている。ここを理解するだけで、肩の荷が少し下りる感覚がありました。

真犯人は「インスリン」というホルモン

では何が体重を決めているのか。著者の答えがインスリンです。

インスリンは、食事(特に炭水化物)を摂ったときに膵臓から分泌され、血中の糖を細胞に送り込むと同時に、余ったエネルギーを体脂肪としてためこむよう指令を出すホルモンです。つまり「ためこめ」のスイッチ。

著者はエネルギーの貯蔵を、冷蔵庫と地下の冷凍庫にたとえます。肝臓にためるグリコーゲンは出し入れの簡単な「冷蔵庫」。一方、体脂肪は容量無限だが取り出しにくい「地下室の冷凍庫」。問題は、1日に何度も食べているとインスリン値が高いままになることです。

常に食べていると冷蔵庫ばかり使い、冷凍庫の脂肪を燃やす出番が一度も来ない。だから太る。糖を細胞が受けつけなくなる「インスリン抵抗性」が進めば、2型糖尿病にもつながります。逆に言えば、解決策は食べない時間を作ってインスリン値を下げること。それがファスティングの核心です。

ファスティングは「飢餓」ではなく代謝を「上げる」

ここが一番の逆転ポイントです。カロリー制限は代謝を下げる。けれどファスティングは下げない。むしろ上げる。

仕組みはこうです。食べないとインスリン値が下がり、入れ替わりにノルアドレナリン、成長ホルモン、コルチゾールといった「拮抗ホルモン」が増える。

これらが体脂肪を燃料として取り出し、体を活動的にします。連続4日間のファスティングで基礎代謝はおよそ10%増え、成長ホルモンの分泌は2日間で5倍になるという研究が紹介されています。

だから集中力も落ちません。むしろ冴える。著者は進化の話を持ち出します。狩猟採集の時代、空腹は「獲物を探さなければ」というサインでした。食料が乏しいときこそ感覚が鋭くなるよう、人間の体はできている。

ファスティング中に頭がすっきりするのは、その名残というわけです。24時間断食するたびに、水分を除いて体脂肪が約230グラム減るという数字も挙げられています。

食事は楽しいものでなくてはならない。罪悪感を抱かずに食べることを楽しめるようになれば、ファスティングもうまくできるようになる

この一文に、本書の思想が凝縮されています。断食というと禁欲や苦行のイメージがありますが、著者の語り口はその逆なのです。

空腹は「いじめっ子」であり「波」である

ファスティング最大の壁は空腹です。でも著者は、その正体を暴いて恐怖を解きほぐします。

空腹を生むのはグレリンというホルモン。面白いのは、これが胃の中身とは関係なく分泌されることです。「お昼の12時だから」「映画館に来たから」という時間や環境の刺激で出てくる。

著者はこれをパブロフの犬と同じ条件反射だと説明します。空腹は本当のエネルギー不足ではなく、ただの「学習された習慣」だ、と。

しかも空腹は波のようにやってきて、放っておけば引いていく。耐えがたい空腹も2時間ほどで消える。だから著者は空腹を「いじめっ子」にたとえます。

怖がって食べてしまうと何度でも来るが、やり過ごせばだんだん来なくなる。続けるうちにグレリンの分泌そのものが減っていくからです。朝食を抜くのが第一歩に向くのも、これで説明がつきます。

グレリンは1日のうち朝が最も低い。だから朝は、いちばん空腹を感じにくい時間帯なんです。

階段を上るように進める実践ステップ

理論を信じても、いきなり丸一日断食は無理です。本書の実践パートは、筋トレのように少しずつ負荷を上げる設計になっています。

第一段は「間食をやめる」。1日3食だけにして、食事の間は一切カロリーを摂らない。飲み物は水、炭酸水、ブラックコーヒー、無糖のお茶に限ります。

次に、生活に合わせて1食抜き、1日2食へ。睡眠時間と合わせれば無理なく16時間の「食べない時間」ができ、16時間連続で脂肪が燃えはじめるのが目安です。

慣れたら週に1〜3回、24〜36時間のファスティングに挑戦する。

このとき大事なのが「何を食べないか」と同じくらい「何を食べるか」です。ファスティング明けに精製された炭水化物やジャンクフードを詰め込めば、せっかく下げたインスリンがまた跳ね上がる。

アボカド、オリーブオイル、肉や魚といった良質な脂質とタンパク質が中心。私自身、最初の一段——間食をやめて口寂しいときは無糖の飲み物に切り替える——を試しただけで、午後の眠気が軽くなる手応えがありました。

意志ではなく「環境」で勝つ

本書がただのダイエット本と違うのは、心理と環境にここまで踏み込む点です。

著者は「食べ物を見たり匂いをかいだりすると我慢できなくなるのは、意志の弱さではなく人間の自然な反応だ」と認めます。だから戦うのではなく、環境を変える。家じゅうのジャンクフードを24時間以内に処分し、買い物は空腹時を避け、料理番組やSNSの食べ物の写真を見ない。

行動経済学の話も引かれます。臓器提供の同意率は、デフォルト設定の違いだけで、ある国は約4%、別の国は89%にもなった。人は環境のデフォルトに大きく左右される。だから健康的な選択を「初期設定」にしてしまえばいい、というわけです。

もう一つの知恵が、悪い習慣は「きっぱりやめる」より「別の報酬に置き換える」ほうがうまくいく、という点。ストレスで食べていた人なら、食べる代わりに散歩や入浴を報酬にする。

本書には、嫌なことがあるとケーキで自分を慰めていた会社役員が、ステーキやゴルフという別の報酬を見つけて立て直す物語も出てきます。

あなたのせいじゃない、というメッセージ

本書の通奏低音は、罪悪感からの解放です。肥満は意志が弱いからではなく、間違った情報を与えられた結果である。

アメリカ人の食事回数は、1980年代以前の1日3回から、2004年には約6回へ倍増しました。「こまめに食べたほうが代謝が上がる」という、実は逆効果のアドバイスが広まった結果です。常に食べ物が手に入る「過食の社会」が、私たちを太らせている。

巻末には当事者の物語がいくつも並びます。多嚢胞性卵巣症候群で不妊と肥満に悩んだ女性が45キロ以上減量して子を授かった話、薬の効かなかった2型糖尿病の人が週2〜3回の長時間ファスティングで血糖値を正常値近くに戻した話。

理屈に体温を与えるこれらの物語が、本書を単なる健康本以上のものにしています。

明日の朝、いつもの朝食に手を伸ばす前に、一度だけ「これは本当に空腹か、ただの習慣か」と問うてみてほしい。その小さな問いから、本書の効果は立ち上がってきます。


合わせて読みたい

『トロント最高の医師が教える 世界最新の太らないカラダ』ジェイソン・ファン 本書のなかでイヴ・メイヤー氏がファスティングに出会うきっかけになった、ファン氏の前著です。「なぜカロリー制限は嘘なのか」「なぜインスリンが太る原因なのか」という医学的・歴史的な根拠を、本書より深く掘り下げたい人に向いています。

『カロリーを減らしても、痩せない。』 本書の出発点である「カロリー制限が99%失敗する理由」を、より身近な視点でまとめた一本です。まずはこの本の核心だけ短く確かめたい人の入口になります。

『「ファスティング」が、体と脳を変える科学』 ファスティングが代謝だけでなく脳と集中力にどう働くかを扱った記事です。本書の「空腹で頭がすっきりする」という主張を、別角度から補強したい人におすすめします。


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