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【C・オットー・シャーマー】『U理論』──出現する未来から学ぶ3つの扉

リーダーシップ・組織 ✍ C・オットー・シャーマー
約6分で読めます

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『U理論』
目次

今朝の一滴は、C・オットー・シャーマーさんから。

『U理論[第二版] 過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』が示すのは、意識の最も深い層に降りていくことで変革を起こす、という一見すると遠回りに見えるプロセスです。

「優れた戦略なのに、なぜ変革は失敗するのか」。

組織で働く人なら、この違和感を一度は抱いたことがあるはずです。緻密な計画を立て、プロセスを描き直し、新しいシステムを導入する。それでも数年経つと、組織はじわじわと元の姿へ引き戻されていきます。

本書が突きつけるのは、変革の成否は「何を、どうするか」ではなく、それを実行する人々の「内面の状況」に依存しているという、私たちが普段見ようとしない真実です。

図解

変革の「盲点」は、いつも内側にある

ハノーヴァー保険の元CEO、ビル・オブライエンは、長年の変革実践からこう言い切りました。「介入が成功するかどうかは、介入者の『内面の状況』によって決まる」。

短い言葉ですが、ここに組織変革の最大の盲点が凝縮されています。

私たちは戦略、計画、プロセスといった「目に見える」ものには熱心に目を向けます。一方で、それを動かす人の意識、意図、関係性の質といった「目に見えない」次元は、ほとんど分析の対象にされません。

シャーマーが提唱するU理論は、まさにこの盲点に光を当てる試みです。個人と組織が本来持っている「最高の未来の可能性」につながり、そこを起点にして現在を創り直していく。

過去の延長で未来を描くのではなく、出現しようとしている未来から逆算する。発想の向きそのものを反転させるところに、この理論の核心があります。

その旅はアルファベットの「U」の字をなぞるように進みます。左側を深く下り、谷底で転換し、右側を昇る。下りていくには、変革を妨げる三つの内なる声を越えなければなりません。

評価・判断の声、皮肉・諦めの声、変化への恐れの声。これらに打ち勝ち、開かれた思考・開かれた心・開かれた意志という三つの扉を開くことが、変革への通路になります。

Uの左側を下る──観て、感じ取り、手放す

左側の最初の段階は「観る(Seeing)」です。

私たちの多くは、過去のパターンや思い込みを無意識に再生し続ける「ダウンローディング」という状態に陥っています。会議では礼儀正しく言葉を交わしながら、結局は既知の結論をなぞるだけ。本音は語られないままです。

ここを抜けるには、過去の前提を脇に置く「開かれた思考」が要ります。評価・判断の声をいったん保留し、フィルター越しではない「ありのままの現実」を観る力を鍛える。会議室の議論から抜け出し、システムの周縁部──顧客、現場、声を持たない人々──のもとへ自分の足で赴くことが求められます。

次の段階が「感じ取る(Sensing)」です。ここで開くのは「開かれた心」。観察を超えて、システム全体を自分の五感で体感する局面です。

ある医療システム変革の現場では、患者と医師が互いの経験を分かち合う場が設けられました。患者は自らの苦しみを語り、医師は治療の限界を正直に打ち明けた。

その瞬間に互いの現実が「感じ取られ」、システム転換の機運が立ち上がったといいます。自分と対象を隔てる境界が溶け、システムが「内側から自分自身を見る」ような状態へ近づいていく段階です。

そして谷底の「プレゼンシング(Presencing)」へ。これは「存在(Presence)」と「感知(Sensing)」を掛け合わせた造語で、古い自我を手放す「開かれた意志」が鍵を握ります。

過去データの分析から離れ、チームが自らの最高の可能性とつながる「場」へ移行する転換点。この静寂と内省を通じて、誰も予期しなかった共通のビジョンと意図が出現するのです。

ここが本書の最も読み解きにくく、同時に最も核心的な部分でしょう。「何もしないで深く静かにとどまる」ことが、実は最も生産的な行為になりうる──効率と即断を尊ぶ私たちの常識を、静かに揺さぶってきます。

Uの右側を昇る──結晶化し、試し、根づかせる

谷底で得たものを現実世界に立ち上げていくのが、Uの右側です。

最初は「結晶化(Crystallizing)」。プレゼンシングで掴んだ未来の感覚から、明確なビジョンと意図を形にします。霧の向こうから進むべき道の輪郭が浮かび上がってくる感覚です。

続く「プロトタイピング(Prototyping)」では、「実践による探求」を通じて未来の縮図を具体化します。完璧な計画を立ててから動くのではなく、まず素早く動き、現実からのフィードバックで学習サイクルを回す。

ここで効いてくるのが「早く失敗し、素早く学ぶ」という原則です。

アイリーン・フィッシャー社の例は示唆的です。創業者がブータンへの没入体験で国民総幸福(GNH)の実践に触れ、ビジネスの目的を「利益創出」から「世界をより良くする媒体」へと組み替えました。

同社は「Bコーポレーション」認証を取得し、従業員の幸福、サプライチェーンの公正な賃金、環境に配慮した原材料、全体的な利益/収益性という四つのKPIを掲げます。

小さな体験から得た学びを、より大きな実践へと統合した好例です。

最後は「具現化(Enacting)」。うまくいったプロトタイプの学びを、より大きなプロセスや組織インフラへ織り込み、新しいやり方を「当たり前」にしていきます。実験を日常へ着地させる段階です。

不在化のサイクル──組織を内側から蝕むもの

U理論には、プレゼンシングの対極として、組織を内側から腐らせる「不在化(アブセンシング)」のサイクルがあります。

現実を「観ない(否定)」、他者の感情を「感じない(皮肉)」、変化を「行動しない(恐れ)」。この三つが噛み合うと、組織は加速度的に衰えていきます。

エンロンの崩壊やDEC(デジタル・イクイップメント・コーポレーション)の衰退は、その典型でした。エンロンでは経営陣が現実を否定して粉飾を重ね、社内には皮肉と諦めが蔓延し、誰も真実を語らなくなった。変化への恐れから誰も動かず、結末は破綻でした。

組織の会話の質は、四つの領域で測れます。①ダウンローディング(礼儀正しく過去をなぞる=現状維持)、②討議(意見がぶつかる=勝ち負け)、③対話(深く耳を傾ける=新しい視点)、④プレゼンシング(未来から言葉が生まれる=共創造)。

U理論の実践とは、会話をレベル1・2からレベル3・4へ引き上げること。それはすなわち組織の「OS」そのものを、破壊的なものから創造的なものへ書き換える営みなのです。

今日から動かせる三つのアクション

本書の射程は壮大ですが、入口は驚くほど小さく取れます。

第一に、「ダウンローディング」を止めて「観る力」を育てること。毎晩4分、その日の自分の言動を「第三者の視点」で、判断を加えずに振り返る。会議室にこもらず、現場や末端の顧客のもとへ赴き、声の小さい人々の視点を意図的に拾う。新しい視点は、たいてい既存システムの周縁から生まれます。

第二に、「ケース・クリニック」で共鳴と鏡映を実践すること。事例提供者が課題を語ったら、すぐ解決策を返さない。コーチは数分の静寂を置き、心に浮かんだイメージや感情をミラーリングして返す。

「あなたの話から〇〇というイメージが浮かんだ」と。表面的な問題解決ではなく、課題の源泉に触れるための手法です。

第三に、「0.8バージョン」でプロトタイピングを始めること。完璧を待たず、未完成のまま利害関係者に見せ、フィードバックで磨く。未来は完璧な計画からではなく、実践による探求から立ち上がります。

読み終えて残るのは、「変革を妨げているのは戦略ではなく、私たち自身の内面ではないか」という問いです。明日からは、結論を急ぐ前に、まず静かに現実を観ることから始めてみてください。

本日のドリップを、どうぞゆっくりとお楽しみください。

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📚 関連書籍

1. ピーター・センゲ『学習する組織』 U理論の土台となったシステム思考とダブルループ学習を提唱した古典です。

2. フレデリック・ラルー『ティール組織』 組織の進化段階を色で分類し、自主経営、全体性、進化する目的を実現する組織モデルを提示しています。

3. ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』 変革を妨げる「免疫マップ」を特定し、内面の前提を変容させる手法を解説しています。

4. デイビッド・ボーム『ダイアローグ』 真の対話を通じて集合的知性を引き出す方法を、哲学的・実践的に探求した名著です。


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