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『ヨイショする営業マンは全員アホ』宋世羅|媚びるほど、信頼は逃げていく

マーケティング・営業 ✍ 宋世羅
約8分で読めます

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『ヨイショする営業マンは全員アホ』
目次

営業の世界には、研修やノウハウ本で繰り返し語られる「型」があります。雑談で場を温め、相手の言葉をオウム返しし、小さな同意を積み重ねて契約へ導く。

多くの営業パーソンが一度は教わり、なぞってきたであろうこの定番を、『ヨイショする営業マンは全員アホ』の著者・宋世羅さんは、ほとんど丸ごと「アホ」の一言で片づけてしまいます。

宋さんは、野村證券と、固定給なしで契約だけが報酬になるフルコミッションの保険営業という、二つの修羅場をくぐってきた人物です。きれいな理論ではなく、断られ続ける現場で実際に生き残った手触りだけを書き残した——本書はそういう一冊です。

だからこそ主張は過激で、耳に痛い。けれど、教科書通りにやってもなぜか契約に至らない、という違和感を抱えている人には、刺さり方がまるで違うはずです。

以下では、本書のキモである「なぜ媚びると信頼が逃げるのか」という逆説を軸に、著者の営業論を編集部なりに読み解いていきます。

営業テクニックの9割は「茶番」——なぜ著者はそこまで言い切れるのか

本書はまず、読者が信じているであろう営業ノウハウを片っ端から壊すところから始まります。

槍玉に挙がるのは、相手の言葉を繰り返す「オウム返し」、動作を真似て親近感を演出する「ミラーリング」。宋さんは、これらで結果を出している一流の営業マンを一人も見たことがないと言い切ります。

むしろ「さっき俺が言ったことやん」と見透かされ、頭の悪い人だと思われるリスクのほうが大きい、と。

雑談も同じ扱いです。取ってつけたアイスブレイクは相手に伝わってしまう。特に経営者を前にすれば「早く要件を言え」と思われるだけで、それなら本題から切り込んでキレを見せたほうがいい。

「小さなイエスを積み重ねて大きなイエスを引き出す」手法にいたっては、お金を払うかどうかのシビアな場面で、相手が子供のゲームのようにイエスを言い続けるわけがない、とオカルト扱いされます。

「営業は断られてからが勝負」という格言すら、一度ノーを出した相手がイエスに変わることはめったにない、深追いより次に切り替えるほうが現実的だ、と退けられます。

ここで編集部として一つ留保を置いておきます。ミラーリングも雑談も、心理学的な効果そのものが完全に否定されたわけではありません。宋さんの主張の芯は「テクニックを目的化した瞬間に、それは相手に見抜かれて逆効果になる」という点にあります。

手段が透けて見えた時点で、どんな小手先も媚びに変わり、信頼を削る側に回ってしまう。この一点を極端な言葉で突きつけているのだと読むと、過激さの奥にある筋が見えてきます。

媚びるほど信頼は逃げる——「ポジションを取る」勇気が信用の源

では、テクニックを剥ぎ取った後に何が残るのか。著者が挙げる信頼の源は、意外なほど地味です。

一つ目は「ポジションを取る」こと、つまり言い切ることです。「どっちもどっちですね」という無難な返答は、丁寧に見えて実は自己防衛にすぎない。プロとしてどう考えるかを明示しない態度を、お客様、とくに経営者は無責任と受け取ります。

関連して宋さんは、自分の専門分野で安易に「分かりません」と口にするなと釘を刺します。それは謙虚さではなく、ただの勉強不足の露呈だから。本当に細かすぎて即答できないときは「持ち帰って調べます」と次につなぐのが正解だ、と。

二つ目はレスポンスの速さです。返信の速さがそのまま安心感になり、信頼になり、能力の評価につながる。特別な技術より、この当たり前の積み重ねが効くという指摘です。

三つ目は結論から話すこと。「総論→結論→理由」の順で、まず何の話かを大まかに示し、次にイエスかノーを言い、最後に理由を添える。背景から長々と語り出す人は、相手が本当に求めている答えを外している、というわけです。

派手なテクニックを全否定した著者が最後に推すのが、言い切る勇気・速い返信・結論ファーストという、拍子抜けするほど基本的な三つだった。この落差こそ本書の肝だと編集部は受け取りました。

媚びとは要するに判断の先送りであり、判断を引き受ける人間だけが信頼されるという、シンプルで骨太な原則がここにあります。

トップセールスは例外なく「押しの営業」だった

本書の背骨は、この章にあります。

近年は「引きの営業」が正義とされ、「お客様に9割話させるのが理想」とも言われます。宋さんはこれを大ウソだと断じ、トップセールスは例外なく「押しの営業」だと結論づけます。

ただし、ここでの押しは強引な押し売りとは違う。徹底的に勉強して考え抜き、腹落ちした自信と責任から生まれる、圧倒的な説得力と勢いのことを指します。

世間で引きが推奨されるのは、押し切るポテンシャルがない人が「私は強引にはいかない」とブランディングしているにすぎない、と手厳しい。

裏づけになるのが決断力の話です。自分から迷わず決められる「沈黙クロージング」が効くお客様は全体の1割ほど。残り9割は決断力が高くないため、何度も背中を押す「連打クロージング」のほうが機能する。

だからこそ営業マンが強気に押す価値がある、という理屈です。宋さんはクロージングをプロポーズに例えます。「絶対に幸せにするから結婚してくれ」と同じで、決断を相手任せにせず、営業マン自身が覚悟と責任を示して言い切る。

その覚悟が契約の決め手になる、と。

この主張は強力ですが、諸刃でもあります。押しの前提はあくまで「腹落ちした自信」であって、勉強と検討を欠いたまま勢いだけで押せば、それはただの押し売りに転落する。

宋さん自身がそこを何度も強調しているのは、押しと押し売りの境界が紙一重だと分かっているからでしょう。読者としては「押せ」というメッセージだけを抜き出さず、その手前にある膨大な準備量とセットで受け取る必要があります

200件に1人の現実と、クレーム客を「ファン」に変える5工程

押しの営業を支えるのは、綺麗事では済まない現場の場数です。

飛び込み営業の数字は容赦がありません。著者は年間2万件、新人時代は1日150件をこなした。ノウハウ本には「100件飛び込めば2〜3件は顧客になる」とあるが、それはウソで、実際は200件のインターホンを押して1人つかまえられるかどうか、確率にして0.5%以下だと言います。

だからまず「ドアを開けさせる」ことに全神経を注ぐ。宋さんが編み出したのは、インターホン越しに「エリア担当になったのでご挨拶に来ました」とだけ繰り返し、あえて会話を成立させず、相手に面倒くさくなって出てきてもらう方法でした。

第一印象は対面してから挽回できる、という割り切りです。

商品の伝え方にもクセがあります。基本は「メリットを強調し、デメリットを緩和する」。ここで肝心なのは、デメリットを無理にメリットへ言い換えないこと。

すべてが良いことずくめに見えると、お客様は逆に粗探しを始めるからです。事前に比較対象を出しておき、デメリットを「思ったよりマシだな」と感じさせる程度にとどめる。

契約後にも仕事は続きます。契約書を書いた直後にこそ雑談を入れ、「その決断をしたあなたは優秀だ」と褒めちぎることで、後からのクーリングオフを防ぐ。

その根底には、お金を払うのはお客様である以上、営業マンと客は対等ではなく、仲良くなっても友達にはなるな、という冷徹な割り切りがあります。

そのシビアさが最も際立つのがクレーム対応です。著者はこれを5工程で「ファン化」します。まず、どれだけ理不尽でも100%受け止め、「すべて私の責任です」と受け入れる。

言い訳や一部否認は火に油だからです。次が独特で、「私は人間のクズです」「会社を辞めます」と過剰に自分を責め、相手を怯ませて隙を作る。怒っていた側が逆にこちらを心配し始める瞬間が生まれる。

そこで初めて主導権を握り、「お客様のためを思ってのことでした」と抽象的に弁明し、最後に「ここで離れると互いにマイナスです、一緒にプラスへ向かいましょう」と力強く締める。

対立関係を、肩を組む関係へ転換させるわけです。理不尽に舐められた場面で使う「即折り、即肩組み」——真顔で「何かあったんですか」と相手の勢いを一度折り、光速で味方に回る型も、同じ発想の応用です。

この自虐で相手を怯ませる手法には危うさもあります。使い方を誤れば、相手を操作しているだけになりかねない。ただ、根っこにあるのは「対立したまま離れるのが双方にとって最悪だ」という現実的な計算であり、そこだけは一貫して筋が通っています。

自信は都合よく自作する——「調子乗り力」と20分立ち直り法

ここから本書は、テクニックを超えた人間力の話へ移ります。

その入口が「調子乗り力」、別名「即席自信製造機」です。宋さんによれば、自信は成功体験や実績から手に入れるものではなく、自分に都合よく基準をねじ曲げて自分でつくり出すもの。

「ヤギが自分に寄ってきたから自分はすごい」くらいの些細な出来事すら、自信に変換していいと言います。他人の評価や実績と切り離して「なんか、行けるかも」という感覚を持つ。

この一見バカバカしい構えが、断られ続ける現場でメンタルを保つ支えになる。裏を返せば、自分で考えることをやめて用意された正解やマニュアルだけを求める人を、宋さんは「クワガタ人間」と呼んで戒めます。

自信とセットで語られるのが、失敗との付き合い方です。宋さんは「見方を変えれば、失敗なんてものは存在しない」と言います。失敗するたびに、ミスや変化や恐怖に対する自分のキャパシティ、つまり器が広がるからです。

とはいえ、へこまない人間はいません。そこで使うのが「20分立ち直り法」。ミスをしたら時計を見て、10分は徹底的に落ち込み、次の5分だけ反省と分析をし、最後の5分で気持ちを切り替えて、切り替えられた自分を褒める。

反省しすぎると心が壊れるから、物理的な時間で区切る、という道具です。

この技術の重みは、著者自身の失敗が教えてくれます。野村證券2年目、大口の資産家に5回連続で損をさせて取引停止を宣告され、「最後に一勝負」と頭を下げて「ローム」の株に5000万円超を一点張りしてもらったところ、買って30分後に株価が急落。

全額売却を告げられ、大事な顧客を失いました。これほどの失敗を抱えて現場に立ち続けるには、引きずらない技術が精神論ではなく生存の道具になる。20分ルーティンの説得力は、この実体験に支えられています。

会社の看板を外しても選ばれる「個人の名前」で生きる

本書が最後に行き着くのは、働き方そのものの再定義です。

宋さんの持論は明快で、安定とは肩書きや所属会社ではなく「個人に紐づいたお客様の数」だと言います。「◯◯株式会社の宋」ではなく「保険の宋」として覚えてもらえれば、会社の看板を外しても仕事が続く。

それが終身雇用崩壊時代の本当の安定だ、と。だから選ばれる理由も商品ではなく人になる。経営者の9割はスペックではなく「誰から買うか」で決める、というのが著者の見立てです。

働き方の方向としても、一つの専門に固執するスペシャリストより、99.9%の人はゼネラリストを目指すべきだと説く。検索すれば正解が出る時代には、知識単体の価値は下がり、複数の選択肢の利害を把握して総合判断できる力にこそ値段がつくからです。

著者自身、YouTube『宋世羅の羅針盤ちゃんねる』を半年ほどで登録者11万人まで伸ばし、個人の名前で価値を出す生き方を体現しています。

読み終えて残るのは、営業テクニックの一覧ではありません。媚びずに言い切る勇気、失敗しても20分で立ち直る力、そして会社の看板を外しても選ばれる自分をつくる覚悟です。

宋さんの言葉は過激で、そのまま真似れば角が立つ場面もあるでしょう。それでも、判断を先送りする「ヨイショ」が信頼を逃がし、責任を引き受ける姿勢だけが信用を積み上げるという核心は、営業職に限らず、あらゆる仕事に効く原則だと編集部は受け取りました。

今の自分の仕事は、会社の名前で回っているのか、それとも自分の名前で回っているのか。看板を一度外して眺めてみると、明日から磨くべきものが見えてくるはずです。


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