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『凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク』佐藤昌弘|お客が欲しいというものを、売ってはいけない

マーケティング・営業 ✍ 佐藤昌弘
約9分で読めます

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『凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク』
目次

電動ドリルを買いに来たお客さんに、ドリルを売ってはいけない。

そう言われたら、たいていの営業職は首をかしげるはずだ。本人が「これが欲しい」とはっきり口にしているのに、それを売らないとはどういうことなのか。けれど佐藤昌弘さんの『凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク』は、まさにこの一文から議論を始める。

お客さんが本当に求めているのはドリルそのものではなく、「壁に穴を開けたい」という結果のほうだ。ドリルは手段にすぎない。穴を開けたいのか、棚を取り付けたいのか、配線を通したいのか。

目的が分かれば、もっと小さい工具でも、あるいは業者に頼むという別の解でも満たせるかもしれない。手段と結果を取り違えたまま売っても、本当の満足にはたどり着かない。

これは営業の話であると同時に、相手の欲求をどう読むかという普遍的な話でもある。

2003年に出た本だが、いま読んでも古びていない。むしろコンサルティング営業やカスタマーサクセスという言葉が当たり前になったいまだからこそ、その先駆けとして読む価値がある。手法を競合に教えてしまっていいのかと著者が悩んだほどの「型」が、惜しげもなく明かされている一冊だ。

図解

「自分には合わない」と挫折した人のための本

トップ営業マンの本を何冊も読んだのに、自分でやるとまるで成果が出なかった。そんな経験がある人にこそ、この本は刺さる。達人たちが語るマメな訪問や感動的な演出は、読んでいるぶんには熱いが、自分のキャラクターには合わないと感じたことはないだろうか。

お客さんにペコペコしたり、無理に愛想笑いを浮かべるのが苦痛な人にも向いている。本書が一貫して提示するのは「自分を偽らずに売る」方法だからだ。性格を作り替える必要はない。むしろ素のままの自分で、淡々と機能する型がある、というのが本書の立場である。

そして商談が毎回値引き競争に流れてしまう人。それはおそらく、相手の本音を引き出せていないことが原因だ。値段でしか比べられないのは、価格以外の判断材料を相手に渡せていないからである。

一方で、すでにヒアリングで本音を引き出して成約できている人や、心理を使った会話の設計そのものに抵抗がある人には、そこまで響かないかもしれない。

核心は「お客は自分が欲しいものを知らない」

本書の主張は一行で要約できる。お客さんは自分が本当に欲しいものを知らない、だから言葉どおりに売ってはいけない、というものだ。

売り手は商品のプロだが、買い手は素人である。だからお客さんが口にする「欲しいもの」は、たいてい単なる手段にとどまる。本当に得たいのはその先にある結果、つまり便益のほうだ。ここを取り違えると、相手の言葉に忠実であろうとするほど、満足から遠ざかるという皮肉が起きる。

「お客が欲しいというものを、売ってはいけない」

著者は松下幸之助さんの言葉も引いている。商売とは、お客さんの「困ったこと」を解消してお金をいただくものだ、と。困りごとの解消という結果こそが、お客さんの本当に求めているものだという見方である。

だとすれば、営業の本質は説得ではなく、相手の本音を引き出すことになる。そして本書の白眉は、その「本音を引き出す」という名人芸に見える行為を、誰でも再現できる手順に落とし込んでいる点にある。才能や愛嬌に頼らず、型として回せる。ここが多くの営業本との決定的な違いだ。

99%が落ちる「アリ地獄」

なぜ営業本を何冊読んでも成果が出ないのか。著者はその構造を「アリ地獄」と呼ぶ。

書店には営業の本が100冊、大きな店なら200冊以上並ぶ。戦後に積み上がった膨大なノウハウの山だ。だがその大半は、達人セールスマンの成功体験で書かれている。達人の手法は、たとえるなら時速320キロでレーシングカーを走らせるようなもの。凡人がハンドルを握れば、まず制御できない。

自分に合わないノウハウを追いかけ、挫折し、また別の本を買う。この悪循環に、著者いわく100人中99人がはまっている。学べば学ぶほど成果から遠ざかる、出口のない砂の斜面というわけだ。

著者自身、住宅リフォーム会社を創業した当初は訪問営業で誰にも話を聞いてもらえず、神社で日が暮れるまで悩んだという。年間500枚のハガキを書くと決めた「マメマメ系」も、1週間と続かなかった。

だからこの本は、成功者が上から語る武勇伝ではなく、つまずいた当事者が「凡人でも回る型」を探し当てた記録として読める。

面白いのは、その型が「コロンブスの卵」だという点だ。聞けば当たり前に思えるほどシンプルなのに、実際にやっている人はほとんどいない。特別な才能を要求せず、明日から誰でも始められる。このシンプルさこそが最大の武器だと著者は言う。

カメレオンをやめ、「アダルト」で接する

お客さんのタイプに合わせて自分の性格を演じ分ける。営業の定番テクニックだが、本書はこれをはっきり否定する。

ここで持ち出されるのが心理学の「交流分析」だ。人の心は、批判的な親心、養育的な親心、無邪気な子供心、従順な子供心、そして理性的な大人の心という五つの面でできているとする理論である。

相手の感情に巻き込まれ、こちらも感情で返してしまうことを、著者は心理の「じゃんけん」と表現する。相手に合わせて自分を変えるのは、まさにこのじゃんけんに参加すること。

再現性がなく、ただ疲弊する。

そこで提案されるのが、常に五つ目の「アダルト」、つまり理性的で合理的な大人の心で接し続けることだ。すると不思議なことに、相手も少しずつアダルトで返してくるようになる。

理不尽なクレームをぶつけてくるお客さんにも、機嫌を取らず、高圧的にもならず、冷静に「何かお困りでもおありなのですか」と問う。それだけで相手は落ち着きを取り戻していく。

自分を偽らず、対等な対話の土俵を保つための、極めて実践的な構えである。カメレオンになるのではなく、いつも同じ自分でいる。

これが心理的な消耗を防ぐ。

5分で関係を築く「6〜9歳の話」

本音を語ってもらうには、その前に最低限の人間関係が要る。著者はそれを「人柄かける接触頻度」という掛け算で表す。何度も会えば関係は深まるが、初対面では接触頻度を稼げない。ならば、短時間で人柄のほうを濃く伝えるしかない。

その具体策が、自分の6〜9歳ごろの、両親との印象深い出来事と、そのときの感情を語ることだ。楽しかった思い出でも、辛かった経験でも構わない。肝心なのは、その原体験がいまの自分の仕事への姿勢や使命感にどうつながっているかまで添えること。

エピソードを感情と意味ごと差し出すと、相手は警戒を解き、本音を話しやすくなる。

著者自身、不動産業の社長だった父と、玄関先で衣料品を売っていた母のもとで、6歳の頃から無意識に商売の英才教育を受けていたと振り返る。自分の弱さや原点を先に開示することが、相手の自己開示を引き出す。返報性の心理を、技巧ではなく自分の物語で動かす発想だと言える。

心臓部、魔法のセールストーク4ステップ

本書の核は、この4ステップにある。機械的でシンプルだからこそ、凡人でも再現できる。

ステップ1は「ファースト・マジック・クエスチョン」。お客さんの行動の裏にある悩みを引き出す穴埋め式のフレーズだ。「今回〇〇なわけですが、いまの××に何かお悩み(ご不満)でもおありなのですか」。

こう問われると、人は自分の行動につじつまを合わせようとする「一貫性の法則」が働き、自然と本音を語り始める。

ステップ2は「マインド・キー・クエスチョン」。あいまいな言葉を具体に変える工程だ。「もっと使いやすいものがいい」と言われたら、「使いやすいというのは、たとえばどういうことですか」と返す。

「たとえば」「もう少し具体的に言うと」を繰り返すうち、お客さん自身も整理できていなかった要望が言語化されていく。

ステップ3は「要望の確認プロセス」。聞き出した要望をすべて読み上げ、一緒に確認する。そして最後に「本当にこれで確かですね」と念を押す。これが「疑惑の導入」だ。

この一言で相手の頭に「言い残したことはないか」という自問が生まれ、隠れた要望や懸念が出尽くす。後々の言った言わないも防げる。

ステップ4は「提案と最強のクロージング」。要望を満たす提案をしたら、「いかがされますか」と尋ね、あとは相手が口を開くまで徹底して黙る。

世界最強のクロージングトークとは、無言である

無言になられると、お客さんは頭の中で自己内対話を始める。自分で考え、自分で決断する。あるいは妥協案を出してくる。説得して落とすのではなく、相手自身に決めてもらう。

これがもっとも強いクロージングだという主張だ。沈黙に耐えられず先に喋ってしまう営業が多いからこそ、ここはとりわけ効く。

予算を読む「1.3と1.7の法則」

提案の前に、もう一つ押さえておきたい技術がある。予算の読み方だ。

お客さんは足元を見られないよう、予算を低めに申告しがちである。そこで「これ以上かかったら検討の対象外だ、と思ってしまう価格はいくらですか」と、あえて絶対に無理な上限額を聞き出す。

その金額を1.3で割ると実際の限界予算が見え、1.7で割ると割安感のある即決ラインが見えてくる。たとえば上限が300万円なら、約230万円がアッパーリミット、約176万円なら即決の可能性が高い、という具合だ。

数字は目安にすぎないが、相手の口から出た上限を起点に逆算するという発想が要点である。あてずっぽうの値付けから抜け出せる。

キーマンの確認にも一工夫ある。「キーマンは誰ですか」と直接聞くと相手の自尊心を傷つけかねない。そこで「あなたが重要視したほうがいいと思われる方は、ほかにいらっしゃいませんか」と尋ねる。お金を出す人が必ずしも決定権者とは限らないからだ。

部下を育てる「10点満点コーチング」

本書はセールスにとどまらず、マネジメントにも踏み込む。なかでも独創的なのが「10点満点コーチング」だ。

部下が失敗したら、まず自己評価させる。「今回は3点です」と返ってきたら、こう問う。「では、その3点を3.1点にするために、次に一つだけアイデアを挙げるとしたら?」。

ポイントは0.1点という極端な小ささだ。人は大きな変化を恐れるが、これほど小さければ抵抗なく踏み出せる。著者はこれを「マイクロビヘイビア」、ミクロの自己成長と呼ぶ。

週に一度やれば、月に平均4回の新しい試みが生まれる計算になる。

本書は「褒める」ことにも釘を刺す。褒めるのは上から下への評価になりがちで、部下の自律性を育てない。褒めるのではなく、相手の心を汲む。「ここまで読むということは、向上心をとても大切にしているのですね」と、行動の背景にある心を認めるほうがいい、という指摘だ。

これはそのまま顧客対応にも通じる姿勢で、本書の一貫した「相手を操作せず、内発的な動機を引き出す」という思想がここにも流れている。

マーケティングとセールスを切り分ける

最後に、ビジネス全体を見渡す視点が示される。マーケティングとセールスを混同するな、という話だ。

見込み客を見つけるまでがマーケティング、見込み客を成約まで運ぶのがセールス。この二つを分けないと、売上不振の原因が集客にあるのか商談にあるのかが分からなくなる。

1億円のテレビCMを打って売れなかったとき、CMが悪かったのか営業が下手だったのか、切り分けられなければ次の打ち手も決められない。

この視点があると、「今すぐ買わないお客さん」への対応も変わる。深追いして時間を浪費せず、いったん手放してニュースレターなどでフォローする。それはセールスではなくマーケティング側の仕事だ、と整理できる。一人の営業の頭の中で両者を分けておくだけで、無駄な粘りや消耗が減る。

おわりに

読み終えて残るのは、テクニックそのものよりも、その奥にある姿勢だ。

セールスとは相手を操作することではなく、相手の本当の望みを一緒に見つけ出す対話なのだ、と。だからこそ、お客さんは説得されたくない、自分で納得して買いたい、という一文が胸に残る。型はあくまで、その納得にたどり着くための足場にすぎない。

まずは明日、誰かが曖昧なことを口にしたら、売り込むのをやめて「たとえば、どんなこと?」とだけ返してみる。その一言の先に何が見えてくるか。この本の核心は、案外そこから体感できるはずだ。


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