ブランドとは、ロゴでもイメージでもない
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「ロゴを新しくすれば、ブランドは強くなる」。この思い込みは、たぶん間違っています。
ブランディングと聞くと、多くの人がおしゃれなロゴや、洗練された世界観づくりを思い浮かべます。
でも、飾りを整えても、なぜか売上は動かない。
そんな経験、ありませんか。
私も長いあいだ、ブランドを「雰囲気」の問題だと思っていました。今日は、その誤解を一緒にほどいていきます。
ロゴを変えても、売上が動かないのはなぜか
わかりやすい失敗があります。
2020年、ローソンがプライベートブランドのパッケージを刷新しました。雑貨のようなおしゃれなデザインです。
ところが顧客から「何の商品かわからない」という声が相次ぎました。結局、商品写真の入ったわかりやすいデザインへ戻すことになります。
デザインは良かった。でも売れなかった。
西口一希さんの『ブランディングの誤解』は、この手の失敗を鋭く指摘します。顧客が商品を買うのは、かっこいいイメージのためではありません。その商品がもたらす「便益」と「独自性」に価値を感じるからです。
便益は「買う理由」。独自性は「他を買わない理由」。
ここが抜けたまま見た目だけ整えても、投資はほぼ無駄になります。
西口さんは、あるヘアケア商品の例も挙げています。エンタメとして楽しい、かっこいい広告を打った。好感度は上がった。でも「その商品が自分の髪に何をしてくれるのか」が伝わらず、買う理由にならなかった。
広告が面白いことと、売れることは別の話です。
Appleの広告を思い出してください。「Think different.」は伝説として語られます。でも、あの広告がブランドを強くしたわけではありません。
順番が逆です。革新的な製品が連続してヒットした。その結果として、ブランドの価値が高まった。
強くなった「結果」を、強くする「原因」と履き違える。これがブランディング最大の落とし穴です。
ブランドとは「意味を持った識別記号」
では、ブランドとは何なのか。
語源をたどると見えてきます。ブランドの語源は、牛に押した「焼き印」です。自分の牛を、他人の牛と見分けるための印。
つまり出発点は「識別」。他と区別できることです。
ただ、見分けられるだけでは足りません。その記号に「意味」がひもづいて、はじめてブランドになります。
マーケターの音部大輔さんは、ブランドを「意味」、ブランディングを「その意味を管理し、育てていく活動」だと整理しています。
記号と意味。この二つがくっついた状態が、ブランドの正体です。
知見。 ブランドは飾りではなく、意味を運ぶ記号です。「〇〇といえばこれ」という連想が、顧客の頭の中にできている状態を指します。
具体例。 たとえば、あなたが喉の渇きを覚えたとき、真っ先に浮かぶ飲み物があるとします。そのロゴを見た瞬間、「冷たくてスッキリする」という意味が立ち上がる。記号と意味がセットになっている。これがブランドの働きです。
実務示唆。 だからブランディングは、目的ではなく手段です。「誰に」「何を」想起してほしいのか。それを決めて、記号に意味を積んでいく作業。ロゴの美しさは、その次の話です。
もうひとつ、見落としがちな点があります。パッケージの色や形は、顧客が店頭で商品を探すための「目印」でもあります。
たとえば、いつもの棚で、いつもの色を探す。あの安心感も立派なブランド体験です。
企業の都合で「古いから」と刷新すると、顧客はその目印を見失う。売上が激減した例は、いくつもあります。
そして意味は、一度の広告では宿りません。
セス・ゴーディンさんの『THIS IS MARKETING』は、こう言っています。人が本当に買っているのは製品ではない。製品が運んでくる「感情」や「つながり」や「ステータス」だ、と。
だからマーケティングは、誰かの変化を助ける行為です。売り込みではありません。信用は、偽りのないストーリーと共感から生まれます。
たとえば同じ「安さ」を売るのでも、その意味は届け方でまるで変わります。ある百貨店のトップは、バーゲン好きの顧客を切り捨て、自分の世界観を押しつけたのです。
結果、売上は急落しました。
顧客が持っている意味と、企業が届けたい意味。この二つがずれると、記号は空回りします。
意味を積むのに近道はありません。同じ約束を、あらゆる接点で、繰り返し守る。その一貫性だけが、信頼という残高を増やしていきます。
その意味を支持する人が、売上を支える
ここで、もう一冊。
佐藤尚之さんの『ファンベース』は、意味を「支持してくれる人」に光を当てます。
佐藤さんの言うファンとは、熱狂的な人のことではありません。その企業やブランドが大切にしている価値を、支持している人。共感し、愛着を持ち、信頼している人です。
言い換えると、ファンとは「意味に共鳴した人」です。ここまで話してきた「記号にひもづく意味」を、いちばん強く受け取ってくれている層。
なぜ彼らが大事なのか。数字が語っています。
たとえばカゴメのトマトジュースでは、上位2.5%のコアファンが、全売上の30〜40%を支えています。少数のファンが、売上の土台になっている。
バズは、ここを解決しません。ある担当者は話題の動画を大ヒットさせました。でも売上はさして動かず、動画は一瞬で忘れ去られた。
一方で、地道な関係は強い。スノーピークの社長は、年間4000〜5000人のユーザーと自らキャンプをします。ファンを身内として扱い、共に体験する。
でんかのヤマグチは、顧客を3万人から1万人に絞りました。電化製品と関係のない雑用まで引き受けた。価格が量販店の2倍以上でも、ファンが買い続け、20年連続で黒字です。
イメージ操作ではありません。体験の一貫性が、信頼を積み上げていく。
しかも、支持する人は勝手には増えません。彼らが動くのは、価値観の近い友人にそっと勧めるときです。この推奨は、どんな広告よりも信じられます。
意味を受け取った人が、次の人へ手渡す。その連鎖が、長く続く売上をつくります。
ブランドの意味は、それを支持する人との関係の中で、はじめて売上に変わります。
明日から変えられること
具体的に、何を変えればいいか。
誤解: ブランディングとは、おしゃれなロゴや世界観をつくること。 → 正しいアプローチ: ブランディングとは、「誰に何を想起してほしいか」を決め、その意味を記号に積んでいく設計。
まず、これを一枚の紙に書き出してみてください。
そのうえで、行動は三つ。
ひとつ。自社の「便益」と「独自性」を、顧客の言葉で書く。企業が売りたい点ではなく、顧客が買う理由から始めます。
ふたつ。よく買ってくれる人に、直接聞く。「なぜ選んでくれるのですか」。そこに、あなたのブランドの意味が眠っています。
みっつ。決めた意味を、あらゆる接点で守り続ける。ロゴを変える前に、約束を変えていないかを確かめます。
派手な刷新より、地味な一貫性。効くのは、いつも後者です。
おわりに
ブランドとは、ロゴでもイメージでもありません。狙った意味を一貫して積み上げ、それを支持する人との関係に変えていく設計そのものです。
参考にした本
- 西口一希『ブランディングの誤解 P&Gでの失敗でたどり着いた本質』(日経BP) — ブランドは識別記号であり、ブランディングは便益と独自性を想起させる手段だと説く。
- 佐藤尚之『ファンベース ──支持され、愛され、長く売れ続けるために』(ちくま新書) — 価値を支持するファンとの関係が、長期の売上を支えることをデータで示す。
- セス・ゴーディン『THIS IS MARKETING』 — 売るのは製品ではなく、意味と物語。誰のための変化かを問い直す一冊。
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