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ブクドリ | BOOK DRIP

ChatGPTで英語が上達しないのは、「選ぶ」を任せているから

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たとえば半年のあいだ、英語のメールをすべてChatGPTに書いてもらっていたとします。日本語で要点を打ち込み、出てきた英文を確認して送る。文面は明らかに良くなり、取引先からの返信も丁寧になりました。

ところがChatGPTを閉じて一文書こうとすると、半年前と同じところで手が止まる。

使い方が下手だったのでしょうか。研究を並べてみると、もう少し具体的な答えが見えてきます。AIに渡していたのは英文を作る作業だけではありませんでした。英語が頭に残るための工程も、一緒に渡していたのです。

英文は良くなった。頭に残ったものは増えなかった

北京大学などの研究チーム(ファン氏ら)が2025年に発表した実験があります。

参加したのは、英語を第二言語とする大学生117人です。英語の資料を読んで「2035年の教育」をテーマにエッセイを書き、そのあと1時間かけて推敲しました。推敲のときの支援は、ランダムに4通りに分けられています。GPT-4版のChatGPT、人間の専門家とのチャット、自己点検用のチェックリストツール、そして支援なしです。

推敲前のエッセイの点数に、4群で差はありませんでした。推敲による点数の伸びは、ChatGPTの群がほかの3群より統計的にはっきり大きかった。

一方、読んだ資料の内容をどれだけ理解したかを測る知識テストでは、4群に差がありませんでした。別の分野に応用できるかを見るテストでも同じです。

行動の記録にも違いが出ました。ChatGPTの群は、書き直してはChatGPTに聞き、また書き直すという往復が中心で、資料を読み返すことが少なかった。著者らはこれを「メタ認知の怠惰」と呼び、AIが学習者の依存を促しうると指摘しています。

限界もはっきりしています。この知識テストが測ったのは英語力ではなく、読んだ内容の理解です。1回の実験室での研究でもあります。だから「ChatGPTを使うと英語力が落ちる」とまでは言えません。

この実験から言えるのは、成果物の出来と本人に残るものが別々に動くことです。英文メールの質が上がっても、それは自分の英語が伸びた証拠になりません。

英語は「読んだ」ときより「作った」ときに残る

では、何が頭に残るのか。記憶研究には、1978年にスラメッカ氏とグラフ氏が報告した「生成効果」という現象があります。

実験の形式はこうです。一方の群は「rapid(速い)- fast」のような単語の組を読むだけ。もう一方の群は「同義語」というルールと「rapid」、それに頭文字の「f」だけを渡され、答えの単語を自分で出します。後で記憶を確かめると、自分で出した群のほうがよく覚えていました。

この効果は一度きりの発見ではありません。2007年にバーチ氏らが86の研究、445の効果量をまとめたメタ分析では、生成効果の平均的な大きさは0.40でした。標準偏差の半分弱の差で、読むより作るほうが記憶に残るわけです。

テストまでの間隔が1日を超える研究では、効果量は0.64と大きめでした。論文も、間隔が長いほど効果が大きくなる傾向として報告しています。

ChatGPTの訳文を読むのは、この実験でいう「読む群」の側です。自分で英文をひねり出すのが「作る群」。1文ずつ訳してもらうたびに、毎回「読む群」に座っていることになります。

ここで見落としたくないのは、作る群も完全な白紙から答えを出していたわけではない点です。ルールと頭文字というヒントはありました。ヒントがあっても、最後の一語を自分で出せば効果は生まれます。これが後の実践につながります。

単語が身につくかは、「この語で合っているか」の判断で決まる

語彙の習得に絞ると、もう一段具体的なことが分かっています。

2001年、ハルスタイン氏とラウファー氏は、2つの国の英語学習者を対象に、知らない単語10語がどれだけ残るかを3種類の課題で比べました。注釈付きの英文を読む課題、読んだあとに空欄を埋める課題、その語を使って作文する課題です。

結果は、作文がいちばん残り、空欄補充が次、読むだけが最も残りませんでした。ただし課題にかかる時間も違っていたので、この実験だけでは時間の差と切り分けられません。

2人はこの差を、課題が求める3つの要素で説明しました。その語を知る「必要」があるか。辞書などで意味や、言いたいことを表す英語を「探す」か。その語が文脈に合うかを「判断する」か。自分で文を作るときは、判断の負荷がいちばん強くなります。

面白いのは、その後の検証です。2021年に筑波大学の柳沢明文さんとウェッブ氏が42の研究(学習者4,628人)をまとめたメタ分析では、学習にいちばん効いていたのは「判断」で、次が「必要」でした。「探す」は学習に寄与していなかったのです。

ここからは私の解釈です。英単語の意味を調べる手間そのものは、思ったほど上達に効いていない。だとすれば、AIを辞書代わりに使うこと自体の損は小さいはずです。

損が大きいのは、「この場面でこの語で合っているか」という判断まで渡してしまうことです。日本語を丸ごと英訳してもらうと、メールを送る必要はあっても、判断の工程はゼロになります。

なお、このメタ分析で3つの要素が説明できたのは、効果のばらつきのうち直後のテストで15.0%、時間をおいたテストで5.1%でした。語彙の定着を決める要因の一部にすぎないことは、割り引いて読む必要があります。

仕事の英語と、練習の英語を分ける

ここまでの話は、ChatGPTを使うなという結論にはなりません。

立教大学教授で翻訳通訳学が専門の山田優さんは、『ChatGPT英語学習術』で、AIを翻訳機として消費する使い方から抜け出すよう勧めています。答えを出させるだけでなく、分析させ、評価させ、練習問題を作らせる。たとえば「頻出コロケーションに焦点を当てた空欄補充問題を作って」と頼む、という具合です。

コーチングの分野でも似た考え方があります。渡邊佑さんは『対話するたび成長する AIセルフ・コーチング』で、AIの価値は正解を教えてもらうことより、問いを投げてもらって一緒に考えることにある、と書いています。

研究と合わせると、変えるべきところは3つに絞れます。

誤解:AIが書いた英文を読んでいれば、そのうち身につく → 今日送るメールは、AIに任せてかまいません。それは仕事で、練習ではないからです。そのかわり、1日1文だけ「練習枠」を決めます。その1文だけは、AIを開く前に自分で英語にします。

誤解:翻訳は「いちばん良い訳」を1つもらえばいい → 訳を頼むときは「候補を3つ、ニュアンスの違いと一緒に出して」と付け加えます。どれを使うかは自分で決め、選んだ理由を一言返して「この理解で合っていますか」と聞く。判断の工程が、こちらに戻ってきます。

誤解:添削された文を読み直せば復習になる → 直された語を空欄にした問題をAIに作ってもらい、翌日に解きます。空欄に入る語を自分で出すので、生成効果の条件に近づきます。1日おくのは、間隔が長いほど効果が大きい傾向があったからです。

おわりに

ChatGPTは英文を作るのが上手です。上手だからこそ、作る工程と選ぶ工程が、こちらの手元から静かに消えていきます。

次に訳を頼むとき、「候補を3つ」と一言付け加えてみてください。どれを選ぶか迷う数秒が、英語が頭に残る時間です。


この記事で参考にした本

『ChatGPT英語学習術』山田優さん → AIに答えを出させるだけでなく、分析、評価、練習問題づくりに使う。空欄補充問題を作らせる頼み方の出どころ

『対話するたび成長する AIセルフ・コーチング』渡邊佑さん → AIの価値は正解を教わることより、問いを投げてもらって一緒に考えることにある


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