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ブクドリ | BOOK DRIP

努力の量は、なぜ評価に比例しないのか

キャリア・働き方
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目次

週80時間働くのが当たり前とされるコンサルティング会社で、こっそり労働時間を減らしていた人たちがいました。その人たちの人事評価は、本当に長時間働いていた人たちとほとんど変わりませんでした。

当時ボストン大学にいたエリン・リード氏が、2015年に Organization Science 誌で報告した調査です。

一見すると「手を抜いても評価は落ちない」という話です。ただ裏返せば、長時間働いた側の努力も、それだけでは評価に上乗せされていなかったことになります。

努力が報われないと感じるとき、努力の量と評価のあいだで何が起きているのか。研究と本を手がかりに、3つの構造を見ていきます。

評価する人は、努力そのものを見ていない

リード氏が調べたのは、アメリカに拠点を置く戦略コンサルティング会社です。インタビュー115件と、社内の人事評価データを分析しました。

この会社の評価は4段階で、人事部の文書は自ら「きわめて主観的なプロセス」と書いていました。人事担当者が重視していたのは、いつでも対応できることと、仕事への献身です。

会社の期待どおり仕事中心の働き方をしていた35人の評価は、平均3.0(2009年)と3.14(2010年)でした。地元の顧客を中心に担当するなどして出張や労働時間を減らし、それを上層部に見せなかった22人は、3.08と3.13です。差はほとんどありません。

一方、時短勤務や休暇を正式に願い出て、働き方を変えたことを明かした25人は、2.45と2.85でした。ほかの人たちより有意に低い評価です。

会社が評価していたのは、実際の労働時間より、献身しているように見えるかどうかだったわけです。

見える材料が判断を決めることは、別の研究でも確かめられています。カリフォルニア大学デービス校のキンバリー・エルスバック氏らは2010年、職場でただ姿を見られている時間が、周りの印象をどう変えるかを調べました。

勤務時間中に姿を見られている人は「頼りになる」、時間外に見られている人は「献身的だ」と推測されていました。実験では、見る側がこの推測を意図せず、自覚もないまま行っていることも示されています。

ダニエル・カーネマン氏は『ファスト&スロー』で、人の直感は手元にある情報だけでつじつまの合う物語を作り、足りない情報があることに気づかないと書いています。「見たものがすべて」という性質です。

評価する人にとって、あなたの努力は見えた分しか存在しません。努力の量は、見える形に変わった分だけが評価に届きます。

結果に混ざった運は、努力の差として読まれる

評価する人に見える材料は、もう一つあります。結果です。

ところが、結果には運が混ざります。

カーネマン氏は同じ本で、「成功=才能+運」「大成功=少しだけ多くの才能+たくさんの運」という式を示しています。

同じ章に、イスラエル空軍の飛行教官とのやりとりが出てきます。ベテランの教官は「うまく飛べた訓練生を褒めると次は下手になり、失敗を叱ると次はうまくなる」と言いました。

観察そのものは正しかった。問題は解釈です。褒められるのはたまたま出来が良かった回の後で、叱られるのはたまたま悪かった回の後です。次の回が平均に近づくのは、褒めても叱っても同じです。教官は、平均への回帰を指導の効果と取り違えていました。

結果から判断の良し悪しを逆算する傾向は、実験でも確かめられています。ペンシルベニア大学のジョナサン・バロン氏とジョン・ハーシー氏は1988年、医療の判断を評価してもらう実験を行いました。

たとえば、心臓病の55歳の男性がバイパス手術を受けるかどうかを決める場面です。手術そのもので亡くなる確率は8%と示されています。判断の材料はまったく同じでも、手術が成功したと知らされた人は、失敗したと知らされた人より、その判断を高く評価しました。

「結果で判断を評価すべきではない」と考えている人にも、この傾向は出ていました。2023年には692人を対象にした追試が行われ、元の研究より大きな効果が確認されています。

職場に置き換えると、同じ準備で臨んだ商談が、先方の予算凍結で流れることがあります。評価面談で問われるのは結果で、準備の質は結果の陰に隠れます。

厄介なのは、本人も同じ読み方をすることです。運で外れた回を「努力が足りなかった」と解釈すると、次にやることは努力の上乗せになります。

「もっと頑張る」は、見えない努力から先に削る

努力を上乗せすると何が起きるのか。MITのネルソン・レペニング氏とジョン・スターマン氏が2001年に発表した論文が、その仕組みを描いています。

成果が足りないとき、打てる手は2つあります。働く量を増やすか、仕事のやり方を改善するかです。論文は前者を「もっと働く」、後者を「賢く働く」と呼びました。

もっと働くと、成果はすぐに上がります。ただ、改善や訓練、設備の保守に回していた時間が削られ、やがて能力が落ちて、成果は元より下がります。論文はこれを「良くなってから悪くなる」と表現しました。改善は逆です。最初に成果が落ち、あとで上回ります。

論文には、こんな例が出てきます。1人あたり週6時間分の成果が足りないとします。管理職が圧力をかけると、社員は休憩や無駄話を減らしますが、そこで捻出できるのは2時間だけです。

残りの4時間は、改善や訓練や試行の時間を削って埋めます。管理職の目には、6時間分の成果が上がったことしか映りません。

圧力が効いたように見えるので、管理職は「やはり頑張りが足りなかった」と確信を深めます。削られた4時間の代償は、能力の低下として遅れて表れます。論文はこの循環を、自分の思い込みを自分で裏づけてしまう帰属の誤りと呼んでいます。

組織の文化もこれを後押しします。火消しに頼る組織ほど、土壇場で危機を救った人を称え、昇進させるようになります。論文の取材に応じた自動車会社のエンジニアは、こう言いました。「起きなかった問題を解決しても、誰の手柄にもならない」。

個人の努力でも同じことが起きます。梅原大吾さんは『勝ち続ける意志力』で、「効率のいい勝ち方は、たかが知れている」と書いています。すぐ勝てる手を重ねるほど、長く強くなるための試行は後回しになります。

ドリー・クラーク氏は『ロングゲーム』で、新しい取り組みの成果が目に見えない時期を「欺きの段階」と呼びました。レペニング氏らの図式に重ねると、改善に回した努力は、はじめのうち成果を下げることさえあります。

ここからは私の解釈です。努力を見える処理量に向けると、評価は得やすいかわりに能力が削れていきます。見えない改善に向けると、能力は育つのに、評価の材料がしばらく手に入りません。努力が報われないという感覚の多くは、この向け先のずれから生まれていると考えます。

努力を、評価に届く形に変える

よくある誤解:頑張っていれば、いつか誰かが見てくれる → 評価する人は、見えたものだけで判断します。リード氏の調査では、評価は実際の労働時間と連動していませんでした。

よくある誤解:結果が悪かったのは、努力が足りなかったから → 結果には運が混ざります。努力を上乗せする前に、判断や準備の質と、運を切り分けて見る必要があります。

アプローチ:見えない努力を、結果の手前の記録に変えて共有する

リード氏の調査を「献身を演じればいい」と読むのは筋が違います。目指すのは、実際にした努力を、評価する人に見える形へ変えることです。次の3つから始められます。

1. 今週防いだ問題を1行書く 5分でできます。たとえば「発注前に仕様の食い違いに気づき、手戻りを防いだ」。起きなかった問題は、書かなければ誰の記憶にも残りません。月に一度、上司との面談でこのメモを見せます。

2. 大事な判断の前に、根拠と見込みを3行残す たとえば「A社には価格より導入支援で提案する。根拠は前回の失注理由。受注の見込みは3割」。結果が出たあとに読み返せば、判断が悪かったのか、運が悪かったのかを分けて振り返れます。結果を知ってからでは、判断の質を公平に見るのが難しくなるからです。

3. 改善に時間を割くときは、下がる期間を先に伝える たとえば手作業の集計を自動化するのに2週間かかるなら、「この2週間は処理件数が1割ほど落ちますが、翌月から毎週3時間浮きます」と上司に伝えておきます。悪くなってから良くなることを先に共有しておけば、落ちた数字が努力不足と読まれにくくなります。

おわりに

努力は、そのままの形では評価する人の目に入りません。見える形に変わった分と、運の混ざった結果を通して、間接的に届きます。

報われないと感じたら、努力の量を増やす前に、その努力がどこに向かい、誰にどう見えているかを確かめてみてください。今週防いだ問題を1行書くところからで十分です。


この記事で参考にした本

『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン → 手元の情報だけで判断する「見たものがすべて」の性質と、飛行教官の逸話に見る平均への回帰の取り違え

『勝ち続ける意志力』梅原大吾 → すぐ勝てる効率のいい手ほど、長く強くなるための試行を遠ざけるという、勝負の現場からの指摘

『ロングゲーム』ドリー・クラーク → 新しい取り組みの成果が目に見えない時期を「欺きの段階」と名づけた見方


合わせて読みたい

『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン氏|あなたの直感は、思ったより当てにならない 本記事で使った「見たものがすべて」と平均への回帰の出どころです。評価する側の直感がどこで外れるのかを、ほかのバイアスとあわせて確かめられます。

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