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「合理的な判断」ばかりする会社が、なぜか勝てない理由

約6分で読めます 戦略・経営・事業
目次

戦略会議で、ある提案が出た。

「コストが高い。リスクもある。業界の常識に反している」

そう判断されて、その提案は却下される。代わりに採用されたのは、競合の成功事例を参考にした「合理的な施策」。データに基づき、ベンチマークを取り、ROIを計算した上での判断です。

でも、考えてみてください。 もし競合も同じデータを見て、同じベンチマークを参考にしていたら。 「合理的な判断」をすればするほど、競合と同じ方向に進んでしまう。

これ、実はかなり多くの企業で起きている現象です。

「合理的」が同質化を生む構造

なぜこんなことが起きるのか。

理由はシンプルです。合理的な判断の材料──データ、フレームワーク、ベストプラクティス──は、業界の中で共有されているから。

楠木建さんは『ストーリーとしての競争戦略』の中で、こう指摘しています。「ベストプラクティスに学べ!」という思考様式には、そもそも「違い」をつくるはずの戦略を阻害し、同質的な競争へと企業をドライブしていく面がある、と。

たとえば、コスト削減。業界トップ企業が外注比率を上げてコストを下げたとします。すると、競合も同じことをやる。全員が同じ方向に動けば、差はつきません。やがて価格競争に陥り、利益は削られていく。

「正しいこと」をやっているのに、儲からない。この矛盾の正体は、「合理的な判断は模倣されやすい」という構造にあります。

「一見して非合理」が最強の武器になる

ここが核心です。

楠木さんは、持続的な競争優位の源泉を「クリティカル・コア」──別名「キラーパス」と呼んでいます。その最大の特徴は、一見して非合理に見えること。

業界の賢い人が聞けば「何てバカなことを」と思う。だからこそ、誰も真似しない。模倣を阻む壁が、コストや技術ではなく、「そんなことをやる理由がわからない」という認知的な障壁になる。

具体的に見てみましょう。

スターバックスの直営方式。 カフェチェーンは通常、フランチャイズで拡大します。初期投資を抑え、地域に根ざしたオーナーの力を借りて出店スピードを上げる。合理的です。ところがスターバックスは全店舗を直営にこだわった。コストはかかる。拡大スピードは遅くなる。一見、非合理です。

ただ、この判断があるからこそ、スターバックスは「第三の場所」というコンセプトを全店舗で一貫して体現できた。店舗の雰囲気、スタッフの教育、メニューの統一性。フランチャイズでは維持しきれない品質を、直営だからこそ守れた。結果として、顧客がコーヒー1杯に支払ってもいいと思う金額(WTP)を押し上げ、高い利益率を実現しています。

ガリバーの「買取専門」戦略。 中古車ビジネスは「安く買って高く売る」が基本。小売で利益を出すのが常識です。ところがガリバーは、買い取った車を自社で小売せず、オークションに流す。小売をしないということは、粗利の高い部分を捨てていることになる。業界の人間からすれば、信じられない判断です。

でも、この「非合理」がストーリーの中で強烈に機能した。在庫を持たないからリスクが低い。店舗に展示車両がいらないからコストが下がる。在庫回転率は高い。しかもフランチャイズオーナーが「自分で売りたい」という欲求を持たないよう、業界未経験者をあえて選んでいる。全体として見ると、恐ろしく合理的な仕組みです。

「全員が避ける場所」に利益が眠っている

リチャード・ルメルト氏は『戦略の要諦』の中で、戦略の本質を「困難な課題に対する具体的な解決策」と定義しています。

ここで重要なのは、「困難な課題」とは、多くの企業が避けている課題だということ。全員が取り組みたがる課題は、競争が激しくなるだけ。逆に、全員が「無理だろう」「非合理だろう」と判断して避けている場所にこそ、手つかずの利益が眠っています。

ルメルト氏はこれを「ASC(Addressable Strategic Challenge)」と呼んでいます。多くの企業は「自社にとって最も重要で、かつ取り組み可能な課題」を見極めることなく、業績目標の達成に終始してしまう。

SpaceXが典型的な例です。ロケットの打ち上げコストを劇的に下げるという課題に、既存の宇宙産業のプレイヤーは取り組まなかった。コスト構造を根本から変えるには、設計思想そのものを覆す必要があったからです。SpaceXは汎用のイーサネット規格を内部通信に使い、工場のコスト仕様を大幅に簡素化した。業界の常識からすれば「非合理」。でも結果として、ファルコン9のペイロード1ポンドあたりのコストはスペースシャトルの23分の1にまで下がりました。

「合理的な失敗」の歴史が教えること

逆の視点から見ると、「合理的に見える判断」の連続が、組織を崩壊させた歴史もあります。

『失敗の本質』が分析した旧日本軍の組織特性は、まさにこのパターンです。個々の判断は、その時点では「合理的」に見えていた。夜襲による奇襲攻撃は、過去の日露戦争で成功した実績があった。ただ、環境が変わっていた。火力が桁違いに上がった米軍に対して、過去の成功パターンをそのまま適用した結果、ガダルカナルでは壊滅的な損害を受けています。

ここで起きていたのは、「過去に合理的だったこと」が「現在も合理的だ」と信じ込む認知の罠。合理性の根拠が「データ」ではなく「前例」になっていた。

同じことは、ビジネスでも頻繁に起きます。iPhoneが登場したとき、Microsoftのスティーブ・バルマーは「あんな高い電話は売れない」と断言した。PC業界の成功体験から導いた、合理的な推論でした。でも、スマートフォン市場の構造はPC市場とは根本的に違っていた。

明日から変えられること

では、どうすればいいのか。

誤解:戦略は「正しい施策」を積み上げれば完成する 実際は違います。施策同士がストーリーとして繋がっていなければ、正しい施策の寄せ集めは「合理的な凡作」にしかなりません。「この施策をやると、次にこうなって、だから利益が出る」──その因果の連鎖を、一つの物語として語れるかどうか。これが戦略の質を決めます。

誤解:業界の常識に反する判断は「リスクが高い」 常識に反しているからリスクが高いのではなく、常識に反している理由を論理的に説明できないからリスクが高いだけです。スターバックスの直営方式も、ガリバーの買取専門も、個別に見れば非合理でも、ストーリー全体の中では極めて合理的。「なぜそれをやるのか」を論理で説明できるなら、それは非合理ではなく「賢者の盲点を突く一手」です。

やってみてほしいこと:

自社の戦略を「なぜ競合はこれを真似しないのか」という視点で点検してみてください。もし答えが「真似しようと思えばすぐできる」なら、それは戦略ではなくオペレーションの改善です。逆に、「真似しても意味がない」「真似すると自社の強みが崩れる」と競合に思わせる要素があるなら、それが競争優位の核になっている。

もう一つ。自社の会議で「それは非合理だ」と却下された提案を、もう一度引っ張り出してみてください。その「非合理」が、ストーリー全体の中で合理的に機能する可能性はないか。部分的な非合理が全体の合理性を生む──この逆転の発想が、模倣されない強さをつくります。

おわりに

合理的な判断そのものが悪いわけではありません。ただ、「全員にとって合理的な判断」は、差別化にならない。

本当に強い戦略には、必ずどこかに「え、それやるの?」という要素がある。その「え?」こそが、競合の模倣を阻む最強の障壁です。


この記事で参考にした本

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建 → 「キラーパス」=一見非合理な要素が模倣困難な競争優位を生む、という本書の核心的洞察

『戦略の要諦』リチャード・P・ルメルト → 戦略は困難な課題への解決策であり、全員が避ける場所にこそ利益がある、という視点

『失敗の本質』戸部良一ほか → 「過去に合理的だったこと」への固執が組織を崩壊させるメカニズムの分析


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正しい施策を積んでも、会社が勝てない理由 「正しい施策」の寄せ集めがなぜ機能しないのかを、因果一貫性の視点から掘り下げています。今回の記事とセットで読むと、戦略の「ストーリー」の重要性がより立体的に理解できます。

☕#113 ストーリーとしての競争戦略 楠木建さんの原著の要約記事です。「キラーパス」や「賢者の盲点」の概念をさらに深く知りたい方に。

☕#35 良い戦略、悪い戦略 ルメルトの前著の要約です。「戦略と目標は違う」という根本的な問いを、具体的な事例とともに解説しています。