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ブクドリ | BOOK DRIP

怒りは、抑えても吐き出しても消えない

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約6分で読めます 生産性・時間術・習慣
目次

サンドバッグを思いきり叩いた人たちは、何もせずに2分座っていた人たちより、怒りが強く残っていました。

アメリカで2002年に発表された心理学実験の結果です。

腹が立ったとき、私たちが取る手はだいたい2つです。ぐっとこらえて顔に出さないか、どこかで吐き出してすっきりするか。

研究を並べると、どちらも怒りを減らす方法としては分が悪いことが見えてきます。では何が効くのか。


「こらえる」と「吐き出す」は、同じ前提に立っている

たとえば、会議で自分の案を頭ごなしに否定されたとします。

その場では黙って笑顔を保ち、帰り道に同僚へ愚痴をぶちまける。多くの人が、こらえる手と吐き出す手をこうして使い分けています。

ドラッカー・スクールでセルフマネジメントを教えるジェレミー・ハンター氏は、『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室』で、この2つをひとまとめにしています。多くの人は感情を「抑圧する」か「噴出させる」かのどちらかで扱うが、どちらも感情そのものには向き合っていない、という見方です。

2つの手は正反対に見えます。

ただ、どちらも「怒りはたまった圧力のようなもので、出すか閉じ込めるかしかない」という前提に立っています。この前提が実験でどう扱われてきたかを、順に見ていきます。


サンドバッグを叩いた人ほど、怒りが残った

吐き出す手を支えてきたのは、感情は外に出せば消えるという「カタルシス」の考え方です。

心理学者のブラッド・ブッシュマン氏(当時アイオワ州立大学)は、これを直接確かめました(学術誌 Personality and Social Psychology Bulletin、2002年)。

参加者は大学生600人です。まず、自分が書いた小論文に「これまで読んだ中で最悪の小論文の一つだ」という酷評をもらいます。評価したのは別の参加者ということになっていますが、実際には実験者が用意したものでした。

そのうえで、3つのグループに分けます。

  • 評価した相手の写真を見せられ、相手のことを考えながらサンドバッグを叩くグループ
  • 運動する人の写真を見せられ、体を鍛えることを考えながら叩くグループ
  • サンドバッグを叩かず、2分間ただ座っているグループ

いちばん怒りが強かったのは、相手を思い浮かべて叩いたグループでした。その後、相手に大きな騒音を浴びせられる課題でも、このグループがもっとも攻撃的でした。

何もしなかったグループは、発散したグループより怒りも攻撃性も低かったのです。

ブッシュマン氏の解釈はこうです。相手を思い浮かべて叩くことは、怒りを外に出す行為というより、怒りの場面を頭の中で繰り返す行為になっている。

ただし、グループ間の差は統計的には小さめです。アメリカの大学生が実験室で見せた反応なので、そのまま日常の口論に当てはめるのは言い過ぎになります。

脳科学者のジル・ボルト・テイラー氏も『WHOLE BRAIN』で、近い見方を示しています。怒りを引き起こす化学物質は90秒足らずで体から流れ去るので、それ以上続く怒りは、自分で出来事を思い出して引き金を引き直しているからだ、という説明です。

「90秒」は、テイラー氏が神経解剖学者としての知識から示した目安です。この秒数を測定して確かめた研究は、私が探した範囲では見つかりませんでした。数字は目安にとどめ、「思い出すたびに怒りが再燃する」という部分だけを受け取るのが安全です。


顔に出さなくても、怒りは中で続いている

では、こらえる手はどうか。

スタンフォード大学のジェームズ・グロス氏とカリフォルニア大学バークレー校のオリバー・ジョン氏は、感情の扱い方の癖を2つに分けて調べました(Journal of Personality and Social Psychology、2003年)。

1つは表情や態度に出さないようにする「抑制」。もう1つは、状況の意味をとらえ直す「再評価」です。

抑制を習慣にしている人は、ポジティブな感情を表にも出さず、感じることも少ない一方で、ネガティブな感情はむしろ多く感じていました。人間関係や心の健康の指標も、再評価を使う人のほうが良好でした。

顔からは消えても、中の感情は減っていないことになります。ただしこれは質問紙による相関の研究で、抑制が原因だとまでは言い切れません。

怒りに絞った実験もあります。ルーマニアのバベシュ・ボーヤイ大学などの研究チームは、怒りを感じている大学生73人に、いら立つ課題に取り組んでもらいました(Behaviour Research and Therapy、2011年)。

その際、怒りを「再評価する」「抑え込む」「受け入れる」のいずれかを指示しました。怒りをもっとも下げたのは再評価のグループで、課題を投げ出さずに粘った時間も長くなりました。

ここで一つ、本の主張と食い違う点があります。

ハンター氏は、抑圧でも噴出でもない第3の道として、感情に抵抗せずにじっくり感じることを勧めています。ところがこの実験では、「受け入れる」グループも、再評価のグループほどは怒りが下がりませんでした。

1グループ24〜25人の小さな実験なので、これだけで受け入れる姿勢を否定はできません。少なくとも、いら立ちの最中に短時間で怒りを下げたい場面では、受け入れるだけでは足りない可能性があります。


効いたのは、体の「熱」を下げることだった

2024年、オハイオ州立大学に移ったブッシュマン氏と Sophie Kjærvik 氏は、怒りへの対処法を検証した研究をまとめたメタ分析を発表しました(Clinical Psychology Review)。対象は154の研究、参加者は計1万189人です。

2人は対処法を2種類に分けました。

  • 覚醒を下げる活動: 深呼吸、マインドフルネス、瞑想など
  • 覚醒を上げる活動: サンドバッグを叩く、ジョギング、サイクリングなど

覚醒を下げる活動は、怒りと攻撃性をはっきり減らしていました(効果量 g=-0.63)。性別、年齢、文化の違いを問わず、実験室でも現場でも効果が見られています。

覚醒を上げる活動は、全体として効果がありませんでした(g=-0.02)。

論文は、怒りを吐き出すことも、走りに行くことも、効果的な対処法としては支持されないと結論づけています。私が確認できたのは抄録までで、個々の活動ごとの詳しい結果は追えていません。

ハンター氏の本も、体の状態から入ります。怒りやイライラに行動が支配されている状態を、交感神経が過剰になった「過覚醒ゾーン」と呼び、そこから戻る手段として呼吸法を紹介しています。

本で勧めているのは、鼻から5秒吸って、口から10秒かけて吐く呼吸を数分続けるやり方です。この秒数自体をメタ分析が検証したわけではありませんが、方向はメタ分析の結論と一致しています。


「冷ます」が先、「とらえ直す」は後

ここまでの研究を、腹が立った場面での順番に直すとこうなります。

誤解: 怒りは外に出せばすっきりする → 叩く、愚痴を重ねるといった発散は、怒りの場面を頭の中で再生することになりやすい。まず体の覚醒を下げます。

誤解: 顔に出さなければ、怒りは処理できている → 抑えても中の怒りは減りません。落ち着いてから、状況の意味をとらえ直します。

順番には理由があります。覚醒が高いままでは、とらえ直す余裕がないからです。

たとえば、取引先から失礼なメールが届いたとします。その場で返信を書き始める前に席を立ち、息を長く吐く呼吸を数分続ける。これが一段目です。

二段目で、相手の事情について別の説明を一つだけ書き出します。「締め切りに追われて雑になったのかもしれない」。正しいかどうかは問いません。2011年の実験で「再評価」と呼んでいたのは、こうして状況の見方を変える操作でした。

今日から試すなら、一つで十分です。

腹が立ったら、返信と発言をする前に数分座り、吐く息を長くする。愚痴を言いたくなったら、それが怒りの場面をもう一度再生する行為かどうかを確かめます。


おわりに

怒りを吐き出しても、閉じ込めても、怒りの量はあまり変わりません。

効くのは体を冷ますことと、冷めてから見方を変えることです。怒りは圧力として扱うより、熱として扱ったほうが下がりやすいのです。


この記事で参考にした本

『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室』ジェレミー・ハンター氏 → 感情を「抑圧か噴出か」で扱う癖と、過覚醒の状態から呼吸で戻るという考え方

『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン)』ジル・ボルト・テイラー氏 → 長引く怒りは、出来事を思い出して引き金を引き直すことで続いているという見方


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すぐに言い返した。論理的に、正しく。──なのに、「あの人は頭が悪い」と評価された。 反論が即座に出てしまう場面を扱ったコラムです。熱が上がったまま口を開くと何が起きるかを、評価の側から確かめられます。