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ブクドリ | BOOK DRIP

今期の利益は、今の経営の結果ではない

約4分で読めます リーダーシップ・組織
目次

過去最高益を記録した会社が、3年後に経営危機に陥る。

逆に、赤字続きだった企業が、数年後に急成長を遂げる。

こういったことが、実際の経営の世界ではよく起きます。「業績が良かったから優れた経営だった」とは、必ずしも言えない。

これは直感に反しますが、戦略論の世界ではすでに整理された話です。

「現在の利益は、過去の投資や行動がもたらした収穫であって、それは時に何世代も前だったかもしれない。今日の利益は、現在のマネジメントや社員のハードワークの結果だとは言い切れない」──経営戦略の世界的権威であるリチャード・ルメルト氏の言葉です。

現在の数字と現在の努力は、直結していない。この事実が、経営の意思決定に重大な影響を持ちます。

今の利益は「過去の意思決定の遺産」である

たとえば、大手製薬会社が今年100億円の利益を出したとします。その利益の多くは、10年以上前に承認を取得した主力薬の収益です。現在の経営チームは、その薬の開発に携わっていないかもしれません。

逆に、現在の経営チームが慎重に進めているパイプライン(開発中の新薬)が将来の収益を生むかどうかは、10年後にならないとわかりません。

ルメルト氏はこう続けます。「短期的な業績を重視しすぎ、長期的な戦略をおろそかにしてしまう傾向にある」企業が多いと。

なぜこうなるのか。四半期ごとに業績を開示する仕組みが、経営者に「今期の数字を守れ」という圧力をかけ続けるからです。

「短期最適」の経営が未来を食いつぶす構造

ルメルト氏が詳細に分析したボーイングの事例は、この問題の極端な例です。

かつてのボーイングは、飛行機の安全性にエンジニアが最高の誇りを持つ会社でした。ところが1990年代後半以降、コスト削減と株主還元を重視する経営方針に転換し、エンジニアリングへの投資が削られ始めます。

短期的には財務指標が改善しました。コストが下がり、利益率が上がったように見えた。

しかし、その「改善」は実は未来の設備投資や人材育成を削って生み出したものでした。2010年代に入ると、品質管理の問題が表面化し、737 MAXの機体不具合による墜落事故と運航停止という深刻な事態を招きます。

「好調な財務指標」と「組織の実力の劣化」は、同時に進行できます。問題が表面化するのは、いつも利益が出なくなった後です。

インテルでも同様のことが起きました。パソコン用プロセッサで圧倒的なシェアを持っていたインテルは、モバイル向けの低消費電力チップ市場への参入を「既存事業の利益率を下げる」として意図的に遅らせました。短期利益の最適化が、スマートフォン革命への対応を致命的に遅らせた一因となりました。

「今期の数字」が示さないもの

日本のある中堅メーカーの事例を考えてみましょう。

工場設備の老朽化が進んでいる。しかし今期の数字は悪くない。設備投資を先送りすれば、今期の利益はさらに良くなる。

この判断を3年続けたとします。3年間、「良い経営」として評価されます。

4年目、設備の故障による生産停止、品質トラブル、顧客離れが始まります。「急に業績が悪化した」と言われますが、悪化は3年前から始まっていたのです。

ルメルト氏が言う「現在の利益は過去の収穫」の逆説:「現在の利益は未来の損失の種でもある」場合があります。

財務指標は「遅行指標」──すでに起きたことを反映するものです。問題が数字に現れたとき、現場ではその数倍の出来事がすでに起きています。

「未来への投資」と「現在の業績」を両立させる考え方

では、どう考えればいいのか。

よくある誤解:「今期の数字が良ければ、経営は正しい」 → 今期の数字は過去の判断の収穫。今の判断が実を結ぶのは、数年後です。

有効な視点:「今期の判断は、3年後にどう現れるか」 → 設備投資、採用、技術開発、顧客関係への投資。これらは今期の利益を圧迫しながら、未来の利益の「種」になります。

ジム・コリンズ氏の研究が示す「偉大な企業」の特徴の一つに、「好調なときこそ次の危機への備えをやめない」があります。これを「建設的パラノイア」と呼んでいます。

売上が最高のとき、利益率が過去最高のとき、そのときに「3年後、5年後の競争に勝てる投資をしているか?」と問い続ける組織は、最終的に永続します。

実務的に言えば、次の2つを区別する習慣が重要です。

今期の業績に貢献する「収穫する決断」(コスト削減、価格引き上げ、投資の先送り)と、今期の業績を圧迫するが未来に実る「種まきの決断」(人材投資、技術開発、設備更新、顧客基盤の深耕)です。

優れた経営者は「今期の種まきの量」を常に確認します。今期の業績だけを追う経営者は、種まきを止めて収穫だけを続けます。やがて畑は枯れます。

今期の決算が良い会社が、5年後に良い会社とは限りません。

今期の決算を犠牲にしてでも投資している会社が、5年後に良い会社である可能性が高い。

「今の数字」は、今の意思決定ではなく、過去の意思決定を映し出しています。そして「今の意思決定」は、5年後の数字として現れる。

この時差を意識するだけで、経営の見方がまるで変わります。


この記事で参考にした本

『戦略の要諦』リチャード・P・ルメルト氏 → 現在の財務成果と過去の意思決定の関係、短期財務指標への過度な依存が戦略を歪める構造を詳述。ボーイング、インテルなどの豊富な事例が特に参考になった。

『ビジョナリー・カンパニーZERO』ジム・コリンズ氏 → 「建設的パラノイア」の概念。成功しているときこそ将来への備えをやめない企業が永続するという研究成果。


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