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ブクドリ | BOOK DRIP

言葉のセンスより、9割は調べる時間だった

約4分で読めます マーケティング・営業
目次

コピーライティングは、言葉のセンスの仕事だと思っていました。

クリエイティブディレクターの小霜和也さんは『ここらで広告コピーの本当の話をします。』で、その前提をあっさり崩します。コピーを実際に書く作業は、全工程の1割にすぎない。残りの9割は、競合との違いとターゲットの本音を見極める時間だ、と。

センスの話ではなく、調査の話でした。

これは広告の世界だけの話ではありません。企画書のタイトル、社内提案の一行目、採用ページの文章。刺さらないとき、多くの人は表現を直します。直す場所が違うのかもしれません。

「カテゴリーの言葉」では、誰も動かない

小霜さんが挙げる失敗例が、わかりやすいです。

ワークショップで「水」のコピーを書かせると、多くの人が「水とは何か」を書き始める。命の源だ、地球からの贈り物だ、というような言葉です。

しかし、これは成立しません。カテゴリー全体を語る言葉は、その商品を選ぶ理由にならないからです。

必要なのは、商品の具体的な情報と、競合との違いです。小霜さんはこれをUSPと呼びます。そして、その違いを誰が喜ぶのかというターゲットの特定。

たとえば、社内で新しい業務ツールを提案するとき。「業務効率化を実現します」と書いてしまうのは、水のコピーと同じです。効率化はカテゴリーの言葉で、そのツールを選ぶ理由にはなりません。

「今の承認フローは平均3日かかっていますが、これが半日になります」なら、具体的です。何と比べて、誰にとって良いのかが入っている。

小霜さんが重視するのは、キャッチフレーズよりもタグラインのほうです。キャッチフレーズは消費されますが、タグラインは商品の価値そのものを定義します。だから先に決めるのはタグラインで、キャッチフレーズは後から考える。

順番が逆になると、飾りだけが先にできあがります。

インサイトは、想像するものではなく見つけるもの

もうひとつ、私が刺さったのがここです。

ターゲットの隠れた本音、いわゆるインサイト。これを小霜さんは「想像する」のではなく「見つける」と書いています。

言葉の違いは小さく見えますが、作業がまるで変わります。

想像するなら、机の前で完結します。見つけるなら、外に出る必要があります。実際の顧客に会う、レビューを読む、営業の同行をする。

たとえば、健康食品の広告で「健康でいたい」という本音を想定したとします。これは想像です。誰にでも当てはまるので、何も絞り込めていません。

実際に話を聞くと、別の言葉が出てくることがあります。「孫の結婚式まで元気でいたい」「病気になったら子どもに迷惑をかける」。ここまで具体的だと、書く言葉が決まってきます。

小霜さんが、コピーライターに最も必要なのは「書く能力」ではなく「聴く能力」だと言っているのも、同じ理由です。

ただ、聴けば必ず出てくるわけではありません。人は自分の本音を言葉にできないことが多い。だから、言ったことをそのまま使うのではなく、言い方や言い淀みから拾う作業になります。ここが手間のかかるところです。

書くより「書かない」ほうが、人は動く

書く段階に入ってからも、直感と逆のことが起きます。

メンタリストDaiGoさんは『人を操る禁断の文章術』で、こう言い切っています。文章は読まれるために書くものではなく、行動させるために書くものだ、と。

そのうえで挙げるのが「書かない原則」です。

全部説明すると、読み手の想像が働きません。余白があるほうが、読み手は自分の状況を当てはめて考えます。

たとえば、社内メールで協力を頼むとき。背景も経緯も網羅的に書いた長文より、「この件で15分だけ相談させてください。3日ほど詰まっています」のほうが返事が早い、という経験はないでしょうか。

小西利行さんも『伝わっているか?』で、「伝える」と「伝わる」は別物だと整理しています。送り手が言い切ったかどうかではなく、受け手の中で像が結ばれたかどうかが基準です。

書き手にとって、書かないのは怖い作業です。伝え漏れが不安になる。ただ、情報を足すほど、読み手の側の作業量は増えます。

明日からできること

誤解:刺さらないのは、言い回しが平凡だから → 表現を直しても、中身が「カテゴリーの言葉」のままなら結果は変わりません。直す場所は、たいてい表現ではなく前提のほうです。

正しいアプローチ:書く前に「誰と、何と比べて」を1行で埋める → 「◯◯な人が、△△の代わりに使うと、□□が変わる」。この3か所が埋まらないうちは、まだ書く段階ではありません。

もうひとつ、5分でできることがあります。

いま書こうとしている文章の中で、カテゴリー全体に当てはまる言葉に線を引く。効率化、品質向上、安心、豊かさ。線が多いほど、その文章は誰のものでもありません。

線を引いた言葉を1つ、具体的な数字か場面に置き換える。それだけで、読み手の反応は変わります。

おわりに

いい言葉が出てこないとき、私たちは語彙を疑います。

でも小霜さんの配分に従えば、詰まっている場所は9割の側にあります。誰に向けて、何と比べて、何が違うのか。

言葉は、調べ終わったあとに出てきます。


この記事で参考にした本

『ここらで広告コピーの本当の話をします。』小霜和也 → 書く作業は1割、9割はUSPとインサイトの見極め。タグラインとキャッチフレーズの違いを教えてくれた一冊。

『人を操る禁断の文章術』メンタリストDaiGo → 文章は読まれるためでなく行動させるために書く。あえて書かないことで想像を働かせる原則。

『伝わっているか?』小西利行 → 「伝える」と「伝わる」の違い。受け手の中で像が結ばれることを基準にする視点。


合わせて読みたい

『ここらで広告コピーの本当の話をします。』小霜和也さん|コピーを書くのは前日でいい このコラムの土台にした本の紹介記事です。USPとインサイトの見つけ方をもっと詳しく知りたい人へ。

「伝える」から「伝わる」へ。小西利行『伝わっているか?』で学ぶ、相手の心を動かす20のメソッド 受け手の側から言葉を設計する方法を扱った記事。社内文書にもそのまま使えます。

顧客は商品を買っていない。『進歩』を買っている。 顧客が本当に何を求めているかを捉えるジョブ理論の話。インサイトを探す前に読むと効きます。