言葉のセンスより、9割は調べる時間だった
目次
コピーライティングは、言葉のセンスの仕事だと思っていました。
クリエイティブディレクターの小霜和也さんは『ここらで広告コピーの本当の話をします。』で、その前提をあっさり崩します。コピーを実際に書く作業は、全工程の1割にすぎない。残りの9割は、競合との違いとターゲットの本音を見極める時間だ、と。
センスの話ではなく、調査の話でした。
これは広告の世界だけの話ではありません。企画書のタイトル、社内提案の一行目、採用ページの文章。刺さらないとき、多くの人は表現を直します。直す場所が違うのかもしれません。
「カテゴリーの言葉」では、誰も動かない
小霜さんが挙げる失敗例が、わかりやすいです。
ワークショップで「水」のコピーを書かせると、多くの人が「水とは何か」を書き始める。命の源だ、地球からの贈り物だ、というような言葉です。
しかし、これは成立しません。カテゴリー全体を語る言葉は、その商品を選ぶ理由にならないからです。
必要なのは、商品の具体的な情報と、競合との違いです。小霜さんはこれをUSPと呼びます。そして、その違いを誰が喜ぶのかというターゲットの特定。
たとえば、社内で新しい業務ツールを提案するとき。「業務効率化を実現します」と書いてしまうのは、水のコピーと同じです。効率化はカテゴリーの言葉で、そのツールを選ぶ理由にはなりません。
「今の承認フローは平均3日かかっていますが、これが半日になります」なら、具体的です。何と比べて、誰にとって良いのかが入っている。
小霜さんが重視するのは、キャッチフレーズよりもタグラインのほうです。キャッチフレーズは消費されますが、タグラインは商品の価値そのものを定義します。だから先に決めるのはタグラインで、キャッチフレーズは後から考える。
順番が逆になると、飾りだけが先にできあがります。
インサイトは、想像するものではなく見つけるもの
もうひとつ、私が刺さったのがここです。
ターゲットの隠れた本音、いわゆるインサイト。これを小霜さんは「想像する」のではなく「見つける」と書いています。
言葉の違いは小さく見えますが、作業がまるで変わります。
想像するなら、机の前で完結します。見つけるなら、外に出る必要があります。実際の顧客に会う、レビューを読む、営業の同行をする。
たとえば、健康食品の広告で「健康でいたい」という本音を想定したとします。これは想像です。誰にでも当てはまるので、何も絞り込めていません。
実際に話を聞くと、別の言葉が出てくることがあります。「孫の結婚式まで元気でいたい」「病気になったら子どもに迷惑をかける」。ここまで具体的だと、書く言葉が決まってきます。
小霜さんが、コピーライターに最も必要なのは「書く能力」ではなく「聴く能力」だと言っているのも、同じ理由です。
ただ、聴けば必ず出てくるわけではありません。人は自分の本音を言葉にできないことが多い。だから、言ったことをそのまま使うのではなく、言い方や言い淀みから拾う作業になります。ここが手間のかかるところです。
書くより「書かない」ほうが、人は動く
書く段階に入ってからも、直感と逆のことが起きます。
メンタリストDaiGoさんは『人を操る禁断の文章術』で、こう言い切っています。文章は読まれるために書くものではなく、行動させるために書くものだ、と。
そのうえで挙げるのが「書かない原則」です。
全部説明すると、読み手の想像が働きません。余白があるほうが、読み手は自分の状況を当てはめて考えます。
たとえば、社内メールで協力を頼むとき。背景も経緯も網羅的に書いた長文より、「この件で15分だけ相談させてください。3日ほど詰まっています」のほうが返事が早い、という経験はないでしょうか。
小西利行さんも『伝わっているか?』で、「伝える」と「伝わる」は別物だと整理しています。送り手が言い切ったかどうかではなく、受け手の中で像が結ばれたかどうかが基準です。
書き手にとって、書かないのは怖い作業です。伝え漏れが不安になる。ただ、情報を足すほど、読み手の側の作業量は増えます。
明日からできること
誤解:刺さらないのは、言い回しが平凡だから → 表現を直しても、中身が「カテゴリーの言葉」のままなら結果は変わりません。直す場所は、たいてい表現ではなく前提のほうです。
正しいアプローチ:書く前に「誰と、何と比べて」を1行で埋める → 「◯◯な人が、△△の代わりに使うと、□□が変わる」。この3か所が埋まらないうちは、まだ書く段階ではありません。
もうひとつ、5分でできることがあります。
いま書こうとしている文章の中で、カテゴリー全体に当てはまる言葉に線を引く。効率化、品質向上、安心、豊かさ。線が多いほど、その文章は誰のものでもありません。
線を引いた言葉を1つ、具体的な数字か場面に置き換える。それだけで、読み手の反応は変わります。
おわりに
いい言葉が出てこないとき、私たちは語彙を疑います。
でも小霜さんの配分に従えば、詰まっている場所は9割の側にあります。誰に向けて、何と比べて、何が違うのか。
言葉は、調べ終わったあとに出てきます。
この記事で参考にした本
『ここらで広告コピーの本当の話をします。』小霜和也 → 書く作業は1割、9割はUSPとインサイトの見極め。タグラインとキャッチフレーズの違いを教えてくれた一冊。
『人を操る禁断の文章術』メンタリストDaiGo → 文章は読まれるためでなく行動させるために書く。あえて書かないことで想像を働かせる原則。
『伝わっているか?』小西利行 → 「伝える」と「伝わる」の違い。受け手の中で像が結ばれることを基準にする視点。
合わせて読みたい
『ここらで広告コピーの本当の話をします。』小霜和也さん|コピーを書くのは前日でいい このコラムの土台にした本の紹介記事です。USPとインサイトの見つけ方をもっと詳しく知りたい人へ。
「伝える」から「伝わる」へ。小西利行『伝わっているか?』で学ぶ、相手の心を動かす20のメソッド 受け手の側から言葉を設計する方法を扱った記事。社内文書にもそのまま使えます。
顧客は商品を買っていない。『進歩』を買っている。 顧客が本当に何を求めているかを捉えるジョブ理論の話。インサイトを探す前に読むと効きます。