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『ここらで広告コピーの本当の話をします。』小霜和也|コピーを書くのは前日でいい、9割は考える時間だ

マーケティング・営業 ✍ 小霜和也
約8分で読めます

※ 本記事はアフィリエイトリンク(Amazonアソシエイト)を含みます。

『ここらで広告コピーの本当の話をします。』
目次

「水とは、生命の源である。」

もし広告コピーの講座でこんなお題が出たら、あなたはどんな名文をひねり出すでしょうか。気の利いた比喩、リズムのいい言い回し、ちょっと哲学っぽい締め。

だが小霜和也さんは、その努力ごと一刀両断します。「水とは」を語るコピーは、どれだけ言葉をこねても一円も売り上げを生まない、と。問いそのものが間違っている、というわけです。

著者はPlayStationやサントリーをはじめ、数々のキャンペーンを手がけてきたクリエイティブディレクター。その人が、コピーとは言葉遊びでも美文づくりでもない、まったく別の仕事なのだと言い切ります。

この記事では本書の骨格を編集部なりに整理し直しながら、「キャッチフレーズ」を見る目が変わるところまで案内します。広告の専門書に見えて、中身は「言葉で人を動かす」ための思考法。

提案や発信をする人なら、職種を問わず効くはずです。

図解

コピーライターは「商品をいじらずに価値を上げる人」

本書の出発点になる定義はシンプルです。

「商品をいじらずに、言葉を使って商品の価値を上げる人」

ポイントは「いじらずに」です。製品開発でも値下げでもなく、中身は一切変えないまま、言葉だけで価値を引き上げる。情報を正確に「伝える」のが仕事ではなく、価値が「上がるように伝える」のが仕事だ、と区別しているところに注目したい。

では、価値はどうやって上がるのか。鍵になるのが「価値は絶対的なものではなく、モノとヒトの関係性で決まる」という見方です。

砂漠で遭難した人にとって、一杯の水道水は1万円以上の価値を持つ。物体としての水は同じでも、誰がどんな状況で求めるかで価値は跳ね上がる。だとすれば、その関係性を言葉でデザインできれば、価値は意図的に動かせることになります。

本書はこれを「定義付け」と呼びます。ただの水道水を「子どもの熱中症対策の常備水」と定義し直せば、母親にとっては子どもの命を守る商品に生まれ変わる。

中身は変わっていないのに、ヒトとの関係が変わることで価値が立ち上がる。広告の本質は新しい表現をひねり出すことではなく、商品に新しい役割を与えることなのだ、という宣言です。

これは商品が溢れて差がつきにくい今ほど効く考え方だと感じます。

なぜ「水とは」のコピーは成立しないのか

冒頭の問いに戻りましょう。「水とは」が成立しないのは、他との違いがないからです。水、牛丼、タブレット――こうしたカテゴリーそのものを語る言葉は、結局どの商品にも当てはまり、誰の心にも引っかからない。

本書はこれを「大喜利コピー」と呼んで突き放します。表現の面白さだけで作られた、中身のない言葉という意味です。SNSでバズる名コピーごっこに通じる耳の痛い指摘です。

利益に貢献するのは、「サントリー天然水」「吉野家の牛丼」「iPad」といった特定の商品の、具体的な情報と違いに根ざしたコピーだけ。ここで著者が示すのが、コピーの「九九」とも言える2つの基本です。

1つ目はUSP(Unique Selling Proposition=競合優位性)。単なる特徴ではありません。競合と比べて勝っていて、しかもターゲットに大きな価値をもたらす部分を指します。競合ありきの概念なので、自社を磨く前にまず「仮想敵」を定め、その強さを知るところから始めるのが順序です。自社目線で長所を並べるのとは発想が逆だ、というのが肝になります。

2つ目はターゲット。誰が買ってくれそうか、です。面白いのは、USPが変わればターゲットも自動的に変わるという連動。たとえば電動アシスト自転車のUSPを「他よりパワフルなアシスト力」と定めると、ターゲットは「子どもや重い買い物袋を乗せて坂道を走る母親」に絞られ、「お子様乗せても坂道ラクチン!」が初めて広告として機能する。USPとターゲットは常にセットで動きます。

機能差が消える「コモディティ化」の時代でもUSPは見つかる、というのも心強い。日本はハイコンテクスト社会なので、微細なこだわりが差異になる。

ターゲットの本音から探す(Amazonの「送料無料」)、見落とされた本質を際立たせる(マルちゃん正麺の「麺へのこだわり」)、仮想敵を別ジャンルにずらす。

手はいくらでもある、というわけです。

広告の華はキャッチフレーズ、戦略の要はタグライン

本書でいちばん意外なのがここです。普通、広告で最重要の言葉はキャッチフレーズだと思われている。だが著者は、地味な「タグライン」のほうがはるかに重い、と言い切ります。

キャッチフレーズは、ターゲットの関心を一瞬でつかむ言葉。「自分に関係ある話かも」と思わせ、ポスターやCMの目立つ場所に置かれる広告の華です。ただし鮮度が命で、キャンペーンごとに消費されていく。

タグラインは、商品の価値が最大化されるよう「定義付け」に特化した言葉。商品ロゴの近くなど地味な場所に置かれますが、ここに戦略のすべてが詰まっている。商品がある限り使い続ける、不変の言葉です。

象徴的なのがエジソンの蓄音機。当初は「遺言の録音・再生」として売られていたのを、誰かが「音楽の録音・再生」と書き換えた。機械は同じ、言葉が変わっただけで「音楽レコード」という巨大市場が生まれた。

言葉の置き換え一つが、新しい産業を立ち上げるという鮮烈な例です。だからコピーは、面白いキャッチを思いつく前に、まずタグラインから着手する。

著者がタグライン1本に100万円を請求することがざらにあるのは、そこにプロの知見と戦略が問われるからだ、という説明には説得力があります。

コピーを書くのは前日でいい、9割は考える時間

本書のいちばん有名なメッセージがこれです。コピーを書く作業は全体のわずか1割。残りの9割は、競合を調べ、USPを見極め、ターゲットのインサイトを探る「マーケティング的思考」に充てるべきだ、と。

だから机に向かって言葉を形にするのは締切前日でいい。それまではひたすら考える時間に使う。

なぜそこまで「書かない」のか。著者の言葉が鋭い。最初にカタチにしてしまうと「できた」と錯覚してしまう、というのです。早く書いて満足する罠を突いた指摘で、これは企画書でもメールでも身に覚えがある人が多いはず。

手を動かす快感が、考える苦痛から逃げる口実になっている。リサーチと構想を先に置き、書くのを最後に回す。この順序の逆転こそが、効くコピーの条件だと本書は説きます。

その「考える9割」の核になるのがターゲットインサイト――ターゲットが意識下に秘めた本音、欲求、不安です。ここで多くの人がやる失敗を、本書は名指しします。

インサイトは頭の中で「作る(決めつける)」ものではなく、「見つける(拾ってくる)」ものだ、と。机上で都合のいいペルソナを描かず、グループインタビューで生の声を聴き、SNSや掲示板の会話を観察し、売り場に足を運ぶ。

著者自身の例が効いています。サントリー天然水サーバーを「生活環境を作るもの」と捉え直し、「わが家は、南アルプスです。」というコピーを作った。

これが子を持つ親のインサイトに刺さり、注文の電話が殺到した。親が水に何を求めているかを「見つけた」からこそ生まれた言葉です。そしてインサイトを捉えたら、キャッチフレーズには公式がある。

その商品がある「喜びMAX」を描くか、ない「悲しみMAX」を描くか。どちらかで共感を生み、「自分ごと」にさせるのです。

ブランドは「気持ちいい記憶」、CMは「疑似体験」をさせる仕事

後半、視点はブランド論へ広がります。難解になりがちなこのテーマを、著者は「ブランドとは気持ちいい記憶である」と一言で再定義します。「美味しい」「便利」「新しい自分になれた」という体験の記憶が蓄積し、ロゴを見るだけでその記憶が蘇る。

ロゴは記憶を呼び起こす「トリガー」というわけです。

裏付けがペプシの実験。1975年の「ペプシ・チャレンジ」では、目隠しで飲めば味はペプシが勝つのに、ラベルを見せるとコカ・コーラが勝った。後年fMRIで脳を調べると、ラベルを見た瞬間に過去の「気持ちいい記憶」が蘇り、嗜好を左右していた。

人は味そのものより記憶で「美味い」と感じている。だから記憶の蓄積がブランドの強さになる。一方で食肉不正問題でマクドナルドの国内売上が2割落ちたように、記憶は一瞬で壊れる。

築くのは遅く、毀損は速いという非対称も本書は釘を刺します。

ではその記憶はどう作るのか。著者はテレビCMの役割を「商品の疑似体験をさせること」だと言います。映像やシズルカット(美味しそうに飲食する場面)を見ると、脳はあたかも自分が体験したかのように錯覚する。

実在しないポップコーンのCMを学生に見せたら、一週間後に多くが「食べたことがある」「美味しかった」と答えた実験が紹介されます。CMが偽の記憶を脳に刻んだ証拠です。

そして人が払う本当の理由は機能ではない。1925年の通信音楽講座が「私がピアノの前に座ると、みんな笑った。でも、弾きはじめるとみんな黙った。」

というコピーで殺到したのは、「新しい自分になれる」という自己実現の物語を買ったから。人は商品にくっついた物語を買っている。ただし最後に売れるかを決めるのは店頭であり、POPやチラシから逆算した設計がなければTVCMの疑似体験も売上に届かない、という現実的な留保も忘れていません。

最も必要なのは「書く力」ではなく「聴く力」

締めくくりは、プロとしての姿勢です。著者は、コピーライターに最も必要なのは書く力ではなく「聴く力」だと断言します。打ち合わせで表面の言葉をメモするのではなく、クライアントやチームが抱える課題、悩み、本当のゴールを聴き取る。真意が掴めなければ、機能する言葉は生まれない。

具体的な型も2つ示されます。ひとつは「2案発想」。要望通りに応える案(信じる)と、自分ならではの視点の案(疑う)を同時に出す。要望通りだけでは二流、要望以上のもう一つの正解まで出して一流だ、という考え方です。

もうひとつは「担当商品のファンになること」。愛情なしに書かれた言葉は嘘っぽくなり、人を動かせない。良さを徹底的に探し、自らファンになる苦悩なしに本物の言葉は生まれない、と。

本書は2014年刊でアプローチはマス広告中心、デジタル特有の高速PDCAへの言及は薄い。それでも「言葉でモノとヒトの関係を創る」という本質は、媒体が変わっても古びません。

明日からできることは3つ。提案前にターゲットとUSPを紙に書き出す。相手の本音を会議室ではなく現場で拾う。「事実の報告」を「価値の定義」に変える。

書き始める前に「これは誰の、どんな悩みを解決する言葉か」を一度だけ自問する――それが、考える9割の第一歩です。著者がコピーを「人助け業」と呼び、報酬は喜ばせた人の総量に比例すると言うのも、この姿勢の延長にあります。


合わせて読みたい

『解決は1行。』細田高広さん コピーは飾りではなく課題を切り裂く道具だと説く一冊。本書が「タグラインで価値を定義する」と言うのと同じく、言葉を戦略の道具として扱う視点が地続きで読めます。

『言語化力』三浦崇宏さん 「言葉にできない」を武器に変える技術。本書の「聴く力」「インサイトを見つける」という思考を、企画や発信の言語化にどう活かすかまで広げてくれます。

『THIS IS MARKETING』セス・ゴーディンさん 「成長しそうな最小の市場」を見つける原則を説く本。本書のUSPとターゲットを絞り込む発想と響き合い、誰に届けるかから逆算する思考が深まります。


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