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ブクドリ | BOOK DRIP

「正しい答え」を出しても、問いが間違っていたら意味がない

約5分で読めます 思考法・問題解決
目次

「売上が伸びない。どうすればいいか」。

この問いを立てた瞬間、多くの企業は詰んでいます。 なぜかというと、「売上が伸びない」には無数の原因がありえるのに、それを一括りにした時点で、解決策が的外れになる確率が跳ね上がるからです。

ところが、ほとんどの組織はこの「問い」の精度にほとんど注意を払いません。 答えを出すことには全力を注ぐのに、「そもそもこの問いで合っているのか」を検証する時間は、ほぼゼロ。

ここに、戦略が機能しない構造的な理由があります。

「問いが間違っている」ことに、なぜ気づけないのか

問題設定の誤りは、発見されにくい厄介な性質を持っています。

理由はシンプルです。問いが設定された瞬間、組織はその問いに「答えること」にエネルギーを注ぎ始めます。会議が開かれ、データが集められ、施策が検討される。みんな忙しく動いている。だから「そもそも問いが違うのでは」という疑念が入り込む余地がない。

大前研一さんは『企業参謀』の中で、社内の提案箱がほとんど機能しない理由をこう指摘しています。「設問そのものが解決策指向的でないから」。つまり、問いが曖昧だから、出てくる答えも曖昧になる。

たとえば「当社の売り上げが伸びないのは、シェアが伸びていないからなのか?」という問いなら、YESかNOかで答えざるを得ません。分析が必要になる。でも「売上を伸ばすには?」という問いだと、何でも答えになってしまう。「営業を強化しましょう」「広告を増やしましょう」──正しいかもしれないし、的外れかもしれない。検証のしようがありません。

問いの精度が低いと、答えの精度も上がらない。ここが核心です。

ミッドウェーの教訓──「二つの目的」が破滅を招いた

問いが曖昧だとどうなるか。歴史は、その最悪のケースを示しています。

1942年のミッドウェー海戦。日本海軍の作戦目的は「ミッドウェー島の攻略」と「敵艦隊の撃滅」の二つでした。

『失敗の本質』(戸部良一さんら)の分析によれば、この「二重の目的」が致命的だったとされています。攻撃隊を島に向けるべきか、敵空母に向けるべきか。南雲司令長官は判断を迫られましたが、そもそも作戦目的が二つある時点で、現場は「どちらを優先すべきか」を判断できません。

結果、攻撃隊の武装を島攻撃用から艦船攻撃用に切り替えている最中に米軍の急降下爆撃を受け、空母4隻を失いました。

これは単なる戦術の失敗ではありません。「何のためにこの作戦を行うのか」という問いが曖昧だったことが、現場の判断を不可能にした構造的な失敗です。

実は、現代のビジネスでもまったく同じことが起きています。「今期の重点施策」として5つも6つもテーマが並んでいる会社は珍しくありません。しかし5つの重点施策は、重点施策ではない。全部が重要なら、何も重要ではないのと同じです。

「取り組むべき課題」を見抜く技術

では、正しい問いはどうやって立てるのか。

リチャード・ルメルト氏は『戦略の要諦』の中で、「ASC(Addressable Strategic Challenge)」という概念を提唱しています。日本語にすると「取り組み可能な戦略的課題」。

ポイントは二つあります。

一つ目は「重要性」。その課題が本当に業績や競争力に直結しているか。 二つ目は「取り組み可能性」。現実的に、今の自社のリソースと能力で対処できるか。

多くの企業が犯す間違いは、「重要だけど取り組めない課題」に時間を費やすことです。たとえば「市場が縮小している」は重要な課題ですが、一企業の努力で市場そのものは変えられません。一方、「既存顧客の解約率が15%ある」は、重要かつ取り組み可能な課題です。

ルメルト氏はIntelのケーススタディで、同社が直面した複数の課題を「重要性」と「取り組み可能性」の二軸でプロットする分析を行っています。ムーアの法則の終焉、AMDの台頭、製造の遅れ、モバイル市場の失敗。これらすべてに同時に対応することは不可能です。だからこそ、「どの課題に集中するか」を選ぶこと自体が、戦略の本質になる。

正直に言うと、私もこの概念を知るまで「課題はすべて解決すべきもの」と思い込んでいました。でも違う。取り組む課題を選ぶこと、つまり「捨てること」が戦略なんです。

問いを分解する──プロフィット・ツリーの発想

もう一つ、問いの精度を上げる具体的な方法があります。

大前研一さんが『企業参謀』で紹介している「プロフィット・ツリー」は、利益という漠然とした目標を構成要素に分解するツールです。

利益 =(価格 - コスト)x 販売量。

この式を出発点に、「価格は上げられるか?」「コストのどこが膨らんでいるか?」「販売量が伸びないのは市場の問題か、シェアの問題か?」と枝分かれさせていく。

重要なのは、分解した時点で「問い」が具体的になることです。

「利益を増やしたい」は問いとして曖昧すぎる。でも「製品Aの販売量が前年比で10%落ちているのは、市場縮小によるものか、競合へのシェア流出か」なら、データで検証できます。答えが出せる。

大前さんはこう言っています。「YESかNOかで答えざるを得ない問いを立てよ」。これ、シンプルですが、実践している企業は驚くほど少ない。

たとえば、ある製造業の会議で「品質を改善するにはどうすればいいか」という議題が出たとします。これだと全員がバラバラの方向に意見を言います。でも「不良率が最も高い工程はどこか? その工程の不良原因の上位3つは何か?」と問いを変えるだけで、議論の焦点が絞られ、具体的なアクションに直結します。

明日から変えられること

誤解:「良い解決策を出すこと」が最も重要 実は、解決策の質は問いの質に依存しています。まず問いを検証してください。「この問いに答えが出たとして、本当に問題は解決するか?」と自問する。答えがNOなら、問い自体を変えるべきです。

誤解:「重要な課題はすべて取り組むべき」 すべてに対応しようとすると、どれも中途半端になります。課題を「重要性」と「取り組み可能性」の二軸で整理し、右上(重要かつ取り組める)に位置するものだけに集中する。残りは「今は取り組まない」と明示的に決める。

誤解:「問題を大きく捉えたほうが本質に迫れる」 逆です。問題は分解するほど扱いやすくなる。「売上が伸びない」を「どの製品の、どの地域の、どの顧客層で伸びていないか」まで分解する。そうすることで、初めて具体的な手が打てるようになります。

おわりに

戦略がうまくいかない原因は、たいてい「答え」にはありません。 「問い」にあります。

正しく問えば、答えは自然と見えてくる。問い方が間違っていれば、どれだけ優秀な人を集めても、どれだけデータを積み上げても、的外れな結論にたどり着くだけです。

あなたの組織が今、取り組んでいる「問い」は、本当に正しい問いですか。


この記事で参考にした本

『企業参謀』大前研一 → 問いの立て方とプロフィット・ツリーによる問題分解の技術。「YESかNOで答えざるを得ない問いを立てよ」という原則は、40年以上経った今でも色褪せない。

『失敗の本質』戸部良一ほか → 日本軍の組織的失敗を、目的の不明確さ・戦略の曖昧さという視点で分析した名著。ミッドウェーの「二重目的」の教訓は、現代の企業戦略にそのまま当てはまる。

『戦略の要諦』リチャード・P・ルメルト → 「取り組み可能な戦略的課題(ASC)」の概念を提唱。課題を選ぶこと自体が戦略であるという洞察は、すべてに手を出しがちな組織への処方箋になる。


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