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『データ・ドリブン・マーケティング』マーク・ジェフリー|「感覚で予算を決める会議」を終わらせる15の指標

マーケティング・営業 ✍ マーク・ジェフリー
約7分で読めます

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目次

「そのマーケティング費用、いくら回収できるのか」。予算会議でこう問われて、数字で即答できる担当者は多くない。著者マーク・ジェフリー氏が252社を調べたところ、経営陣の69%は予算を勘や直感で決めていた。分析ツールが行き渡った時代に、意思決定の中身は驚くほどアナログなままだ。

『データ・ドリブン・マーケティング』は、その会議の景色を変えるために書かれた。著者はノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の教授で、年間予算総額530億ドルにのぼる企業群を調査し、「データを使いこなせる企業」と「そうでない企業」の分かれ目を探った。

面白いのは、その差が高価なツールの有無ではなかったことだ。

「測れるものはコントロールできる」——マーケティング格差の正体

本書を貫くのは、著者が繰り返し引くこの一文だ。「測定することができるものは、コントロールすることも可能である」。裏を返せば、測っていないものは制御できていない。それがマーケティングの現状だと著者は突きつける。

調査結果は手厳しい。全企業の8割がデータ志向のマーケティングを実践できておらず、役員の55%が「部下は重要な指標を理解していない」と答え、スタッフの47%はROIやNPVといった財務指標の実務知識を持っていなかった。

この「できる2割」と「できない8割」の溝を、著者はマーケティング格差と呼ぶ。

格差の分かれ目は、高価なシステムを持っているかではなく、手元のデータを意思決定に変換する型を持っているかにあった。だから本書は抽象論に逃げない。CLTVもNPVも、そのまま使えるエクセルの数式とセットで説明され、ベストバイやシアーズといった実企業の失敗と改革が理屈に体温を与えている。編集部から見れば、この「読んで終わり」にさせない実装密度こそ本書の最大の強みだ。

15の指標を「3つの箱」に束ねる

本書の背骨は15の指標だが、3つに束ねると一気に見通せる。購入の手前を測る非財務系(ブランド認知率、お試し、解約率、顧客満足度、オファー応諾率)。

お金で語る財務系(利益、NPV、IRR、投資回収期間、CLTV)。デジタルを追う新世代系(クリック単価、コンバージョン率、ROAS、直帰率、口コミ増幅係数)。

まだ売上になっていない兆しから、経営陣を説得する財務言語、検索やソーシャルの効果まで、購買サイクルの各段階を一枚のスコアカードで俯瞰する設計だ。

ここで著者は挑発的な選択をしている。15の中に「売上高」を入れていないのだ。売上高だけを見るのはバックミラーだけで運転するようなもの——過去しか映さない指標より、認知から比較検討、トライアル、ロイヤルティへと至る各段階を映す先行指標を組み合わせよ、という主張である。

ただし編集部としては留保もつけたい。15すべてを自社で追うのは現実的ではないし、本書の狙いも網羅ではなく、自社の購買サイクルに効く数個を選ぶ「目利き」を身につけることにある。

「従来型ROI」を捨て、NPVで語る

では、その指標をどう財務と接続するか。著者はまず釘を刺す。ブランド認知の向上はすぐには売上に結びつかず、フィリップスの電気シェーバー広告も短期の売上こそ動かさなかったが、ブランドイメージを大きく改善し、次のキャンペーン効率を2割以上高めた。

こうした活動に財務ROIを求めるのは原理的に無理があり、非財務の先行指標で評価するしかない。CFOが不可能を要求してくるなら、突っぱねる論理を持てというわけだ。

一方、過半の施策には財務評価が効く。ただし捨てるべきは、定義が曖昧な「従来型ROI」だと著者は言う。ROIの計算にはお金の時間価値と実施期間が抜けており、期間の違うキャンペーンを正しく比べられないからだ。

代わりに使うのがNPV、IRR、投資回収期間の3点セットである。あるB2B卸売業者はネット販売チャネルの立ち上げをNPV12万9300ドル、IRR27%、回収2.2年と見積もって投資を正当化し、さらに前提を振ってNPVの動きを見る感度分析まで用意した。

会議の後方から「本当にその施策が効いたのか」と刺される前に、数字で守りを固めておくという発想だ。

予算配分とCLTVが暴く「顧客は平等ではない」

格差は、まず予算の使い道に現れる。業績下位の企業は値引きなど短期の需要喚起に予算の58%を注ぐが、上位企業はそこを48%に抑え、ブランディングと顧客資産(CRM)、データ基盤づくりに配分を回していた。

短期の刈り取りに偏るほど、粗利を削る値引き合戦に沈んでいく。上位企業は「今すぐの売上」より「後から効く投資」に張っているわけだ。

象徴的なのがシアーズだ。顧客を25セグメントに分けてダイレクトメールを作り分け、従来は機械的に切り捨てていた下位40%にも見込みがあれば送った。

結果、DMの年間売上は9億ドルから11億ドルへ伸び、値引きに頼らなかったため粗利率も改善した。同じデータを持っていても、使えるかどうかで結果は割れる。

本書はさらに踏み込み、多くの人がうすうす感じて口に出せないことをデータで言い切る。顧客は平等ではなく、ある携帯電話会社では18%の顧客が全顧客価値の55%を生む一方、5.2%は会社に損失を出す「赤字顧客」だった。ここで登場するのが顧客生涯価値(CLTV)だ。

獲得費用をマイナスの出発点に置き、各期の粗利から対応コストを引き、維持率と割引率で現在価値に引き直す。関係性の良し悪しという曖昧な話ではなく、一人ひとりの財務的な将来価値として厳密に定義される。

面白いのはベストバイの対応だ。セールで買い、全額返金保証で返品し、後日「開封済み20%引き」で同じ商品を買い直す——会社から見れば赤字のループを回す顧客がいた。

普通なら出入り禁止にしそうだが、著者は「悪いのは顧客ではなくプロセスだ」と見る。ベストバイは開封済み返品に手数料を課し、返品在庫の再販ルートを変え、赤字を生む仕組みそのものを消した。

顧客を切るのではなく、損失を生む構造を直す。この発想の転換が本章の肝である。

デジタルとスピードで成果を跳ねさせる

デジタル広告では、購入直前の指名キーワードのクリックが売上の全功績をさらいがちだ。だが顧客は決めるまでに数週間かけ、ブランド名を含まない一般ワードで比較検索を繰り返している。

そこで効くのがアトリビューション分析、つまり最後以外のクリックの貢献も測る手法だ。ある大手旅行会社では売上貢献の50%が最終クリックより手前の「アシストクリック」で、初期の一般ワードに予算を回したらROASが24%上がった。

最後だけを見ていたら、購入の入口だった広告を無駄と誤解して切っていたところだ。エールフランスは入札とキーワードの最適化で、クリック単価を19%下げながらクリック率を112%上げている。

数字を握れば、コストと成果は同時に良くできるのだ。

時間軸の話も鋭い。従来はキャンペーン終了後に調査結果を待ったが、それでは失敗が分かる頃には手遅れだ。著者が勧めるのは、実施期間より短いニアタイム・データを日次・週次で追い、まずければ資金を使い切る前に止めるやり方である。

マイクロソフトの1700万ドル規模のキャンペーンは、週次で追うと登録者が伸びず、原因はスペック比較ばかりのランディングページにあった。「使ったときの体験」を訴える形に作り替えると登録者は急伸し、最終的に目標の5倍を超えた。

逆に途中でデータを取らなかったある企業は、3500万ドルを軌道修正の材料ゼロのまま使い切っている。早く小さく失敗し、素早く直す——この一点が成果を分ける。

タイミングを狙う技術も紹介される。アースリンクは決定木分析で「ブロードバンドは使えるか」と問い合わせた顧客の解約率が通常より246%高い(乗り換えのサイン)と突き止め、その層に絞ったリテンションで解約を30%減らした。

ナショナルオーストラリア銀行は270万口座を毎日スキャンして「突然の16万ドル入金」などを検知し、24時間以内に電話を入れる。応諾率は40%を超え、反応率は瞬時に30倍へ跳ね上がった。

適切な人に適切な瞬間に届けるだけで、反応は桁で変わるのだ。

テクノロジーではなく「プロセス」が業績を動かす

本書で最も刺さるのが終盤だ。大規模調査を統計解析した結果、テクノロジー投資と企業業績の間には有意な関係がなかった。高価なデータウェアハウスを入れても、それ自体は業績を動かさない。

では何が動かすのか。著者はMCM(マーケティング・キャンペーン・マネジメント)という4つの組織能力——選択、ポートフォリオ最適化、モニタリング、適応学習——を挙げる。

この4つが定着して初めてテクノロジーが成果につながる。ツールは主役ではなく、プロセスを支える脇役だという冷徹な結論である。

そこにデータのターゲティングと優れたクリエイティブが融合すると、成果は桁で跳ねる。日産の欧州向けSUV「キャシュカイ」は退屈なテレビ広告を捨て、動画やイベントやPRを統合し、設計製造費のわずか1%の予算で通常の100倍の成果を出した。

データとクリエイティブは対立ではなく掛け算だ、という主張である。

では明日から何をするか。本書の答えは拍子抜けするほど地道だ。完璧なデータベースを待たず、売上の8割を生む2割の顧客をエクセルで特定して小さく実験する。

効果を疑われないよう、あえて何もしないコントロール群を置いて対照実験で証明する。そして選定から軌道修正、事後学習までを共通スコアカードとして書き残し、週次でレビューする。

ロイヤル・バンク・オブ・カナダは10万ドルの小さな実験で成果を作り、それを根拠に400万ドルの本予算を勝ち取った。この最初の小さな成功=クイック・ウィンで経営陣の信頼を勝ち取り、信頼が次の予算を呼ぶ。

本書が描く格差の正体は、突き詰めればこの信頼の循環に入れるかどうかなのだと編集部は読んだ。


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