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『40歳でGAFAの部長に転職した僕が20代で学んだ思考法』寺澤伸洋|「考える」とは要素分解だった

思考法・問題解決 ✍ 寺澤伸洋
約7分で読めます

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目次

「もっと自分の頭で考えて仕事してほしい」。上司にそう言われて、次に何をどう動かせばいいのか固まってしまう。多くの人が一度は通る場面だろう。厄介なのは、学校でも会社でも「考える」という動詞の中身を、具体的な手順として教わる機会がほとんどないことだ。

著者の寺澤伸洋も、20代で経営企画室へ配属された当時は同じ壁にぶつかっていた。そこから40歳でGAFA1社の部長へ転職するまでの土台になったのが、当時の上司「Nさん」に叩き込まれた思考の作法である。

本書はNさんと著者、同僚アキの会話形式で進み、読者はホワイトボードの前で指導を受けるように読み進められる。

「考える」とは、頭の中で要素分解することだった

Nさんが冒頭で突きつけるのは、多くの人が「思いつく」ことを「考える」と取り違えている、という指摘だ。Nさんの定義はシンプルで、考えるとは高い視点から全体を俯瞰し、漏れなく細かい項目へ分けていく「要素分解」の作業を指す。思いつきのまま並べると、抜け漏れが一気に増える。

象徴的なのが「美味しいカレーの作り方」の例だ。多くの人はジャガイモや肉を切って煮る、という材料と調理法にすぐ飛びつく。だが要素分解はその手前から始まる。

誰が食べるのか、何人分の鍋と皿がいるのか、どんな場所でどう出すのか。全体像を先に敷いてから中身へ降りていく。ここは料理に限った話ではなく、企画でも資料でも同じ構造だと読み替えると一気に効いてくる。

議論がかみ合わない原因も、たいていは話の「粒度」がずれていることにある。遠足の準備を話しているのに、いきなりおやつの値段という細部へ飛ぶ人がいる。

まず枠組みを示してレイヤーをそろえ、それから中身に入る。この順番を守るだけで、会話は前へ進む。当たり前に見えて、実務で徹底できている人は驚くほど少ない。

強調しておきたいのは、この「考える=要素分解」という一点が、本書のすべての土台になっているということだ。以降に登場するコツや作法は、突き詰めればこの一つの動詞をどう実行するかの各論にすぎない。

逆に言えば、ここが腹落ちしないまま個々の小技だけを真似ても、思考はさして深まらない。読む順番としては、まずこの定義を自分の仕事に一度あてはめてみるのがいい。

精度を上げる「3つの目線」と「4つのフレーム」

要素分解の質を高めるために、Nさんは3つの目線を行き来しろと説く。情報を集める範囲を担当外や他業界まで広げる「視野」、見る高さを変えて若手でも社長ならどう判断するかを想定する「視座」、売り手と買い手・導入側と運用側のように多面的に眺める「視点」。

この3つは、いわば分解の解像度を決めるレンズだと捉えるとわかりやすい。

さらに分解の最中には、4つの思考フレームを何度も往復させる。類似性をたよりに抽象度を上げ、別分野の成功例を持ち込む水平思考。MECEと5W1Hで深く掘る垂直思考。

役職を変えて考え直す高さの操作。過去のルーツや未来の変化を読む時系列。肝は、この4つを一度で終わらせず、行き来を繰り返すほど思考が深まるという点にある。

ここは本書の骨格だが、正直に言えば個々のフレーム自体に目新しさはない。MECEもロジカルシンキングの定番だ。それでも本書が効くのは、これらを「最先端のIT企業で学んだ特別なスキル」ではなく、日系メーカーの普通の経営企画室でホワイトボード越しに教わった基本として語る点にある。

だからこそ読者は「自分にもできそうだ」という手触りを持ち帰れる。

悩むのをやめて考える。完璧さよりスピードを取る

Nさんは「悩む」と「考える」も厳しく分ける。悩むとは、まだ起きてもいない事態を悲観して嘆くこと。「会議で反論されたらどうしよう」と心配する時間は、仕事を1ミリも前へ進めない。

対して考えるとは、前進のための具体的な準備をすること。だから不安を覚えたら、その心配ごとをそのまま要素分解する。どこを突かれそうか、どんな反論が来るか、それぞれの答えを先に用意しておく。

エネルギーの向き先を、嘆きから準備へ切り替えるわけだ。

もう一つの核心が、完成度よりスピードを取れという教えである。100%を目指して一人で抱え込み、締め切り間際に出す。これを本書は最悪の型と呼ぶ。

むしろ50%の叩き台で一度見せ、方向性を確かめる。50%を90%へ上げるのは速いが、そこから98%へ詰めるには膨大な時間がかかり、最後の仕上げは依頼主に委ねたほうが早いことすらある。

仕事とは火のついた爆弾のようなもので、受け取ったら自分の分をさっと片づけ、次の人へ回す。抱え込むほど爆発が近づく、というNさんの比喩は乱暴だが忘れにくい。

ただし補助線を一本引いておきたい。「50%で見せる」は、黙って未完成品を投げることではない。「方向性を確認したいので叩き台段階ですが」と目的を宣言してこそ、手抜きではなく段取りとして受け取られる。この一言の有無で、まったく同じ行動の意味が正反対になる。

ワードで人を動かし、会議は決めるためだけに使う

本書ならではの視点が、ビジネスツールを視座の高さで並べ替える発想だ。エクセルはグラフや表を作る最も低い部分作業、パワポは要点をかいつまむ道具、そしてワードこそ人を動かすストーリーを論理の文章として組み上げる最強の道具、とNさんは位置づける。

エクセルが得意で頼られるほどシート作りばかり請け負い、作業者の視座から抜け出せなくなる。若いうちにストーリーを描いて人を動かす側へ回れ、という助言は示唆に富む。

これはツールの優劣を競う話ではなく、自分がいまどの高さの仕事をしているのかを問うている、と読むべきだろう。

そのストーリーは、いきなりPCで作らないのがコツだ。「思考の広さは描くキャンバスの広さに比例する」からこそ、まずはA3の白紙に鉛筆で手書きする。消して描き直せる自由が、思考の枠を広げてくれる。

会議についてのNさんの立場も明快だ。会議とは何かを決める場であって、進捗確認のために人を拘束する場ではない。共有はメールやチャットで済ませ、会議は意思決定だけに絞る。

決めるには、決定権者と、判断に必要な情報を持つ実務者を事前にそろえておく。開始時にはホワイトボードの左上へ「今日の目的」を大きく書き、脱線したらそこを指して戻す。

議事録は長さではなく、決定事項と宿題を「誰が・何を・いつまでに」と個人名まで落とせているかで評価する。どれも派手さはないが、明日の会議からそのまま真似できる粒度に落ちている。

Nさんの徹底ぶりを示す逸話がある。ある会議で数字が足りず、翌週の宿題にしかけたとき、Nさんは別の会議に出ていた担当者へ強引に電話をかけ、10分だけ呼び出してその場で即決した。

1週間のロスをまるごと消すためだ。ここまでやるかと引く人もいるだろうが、時間をどこに割くかへの執念は一貫している。日々のメールも軽い。本文は3行以内、1メール1トピックに絞り、送信者ごとに受信メールの色が変わるよう設定して、開く前に優先度を見分けている。

思考法だけでなく、その思考に使う時間の設計まで含めて語られているのが本書の律儀なところだ。

「△」を認める。人は苦しんだ後の答えで伸びる

後半は人材育成へ移り、ここにNさんの温かさが最もよく出る。部下を作業ロボットにしないため、答えをすぐには渡さない。魚を釣ってやるのではなく、釣り方を教える。

質問には「あなたならどう進める?」と問い返し、本人が限界まで絞り出した後でアドバイスする。苦しんだ後に聞く答えほど吸収がいい、という読みだ。

一方で、仕事を頼むときは最初の1時間を背景と全体像の共有に使う。全体感のない人から期待通りのアウトプットは出てこないからで、「気づき」を求めるのも前提の共有があって初めて成立する高度な教育だと釘を刺す。

最も刺さるのは評価の話だ。人を「できた・できない」の0か100かで見ると、部下は疲弊し、信頼も壊れていく。だから80%届いている「発展途上の△」を意識して認め、言葉にして褒める。怒って人ができるようになるはずがない、というのがNさんの前提にある。

ここは一見すると精神論だが、実は要素分解の裏返しだと思う。100点との差分をどの要素が埋めきれていないかで捉えれば、△は責める対象ではなく、次に伸ばす具体的な余地へと変わる。

聞き手の理解を早めるための「ボックス思考」も紹介される。話を「横に並べる」「中に入れる」「線でつなぐ」の3通りで整理し、相手の脳に情報を入れる箱を先に用意してから中身を注ぐ、という発想だ。

新しいプロジェクトを立ち上げるときは、目的・目標・範囲・体制・スケジュールの5つを最初に決める。とりわけ「範囲」で、することとしないことの境界を先に引いておくと、途中の迷走を防げる。

人の配置にも釘を刺す。既存業務の改善と、まだない仕組みを作る中期の課題では必要な資質が根本から違うため、いまの仕事ができるという理由だけで中期プロジェクトのリーダーに据えてはいけない。

前例を知りすぎると、かえって想像力が縛られるからだ。

伝え方も一貫している。伝わらないのは受け手ではなく話し手の責任であり、相手の関心に寄せて比喩を選ぶのが伝える側の仕事だ。旅行好きには旅行で、料理好きには料理でたとえる。

報告でも、結論だけを投げる「ピンポイント病」を避け、全体の流れを簡潔に示してから承認を求める。記憶に頼らず、要素を論理で紐づけて構造からたどる。

細部は違っても、これらすべてが「要素分解」という一本の背骨から派生していることに気づくと、本書は急に見通しがよくなる。会話形式ゆえの読みやすさの裏で、扱う範囲はかなり広い。

一度で吸収しきるより、仕事で詰まるたびに開き直す実務書として付き合うのがちょうどいい。


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