本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』ヴィム・ホフ|意志では動かせないはずの免疫が、動いた

健康・メンタル ✍ ヴィム・ホフ
約7分で読めます

※ 本記事はアフィリエイトリンク(Amazonアソシエイト)を含みます。

『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』
目次

医学の教科書は長らく、心拍や血圧、体温、免疫を司る自律神経系を「意志では動かせない自動システム」として扱ってきた。2014年、その前提をひっくり返す実験結果が発表される。

健康な若い男性24人の腕に大腸菌の毒素を注射し、うち12人には事前にたった1週間だけある訓練を積ませ、残り12人には何もさせない。結果、訓練を受けなかった12人は発熱と頭痛、震えに見舞われたのに対し、訓練を受けた12人は全員が無症状のまま毒素を処理しきった。

訓練の中身は、呼吸法と冷たい水にさらされること。その2つだけで、免疫の出方が入れ替わった。

指導したのは、氷点下のアイスランドの湖を泳ぎ切り、雪の積もる山を上半身裸でフルマラソン完走し、氷詰めの状態で1時間以上座り続けてきた男、ヴィム・ホフ氏だ。

極寒への耐性に関する世界記録を20件保持する。『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』は、その荒行を科学の言葉へ翻訳し直した一冊である。

図解

こんな人に効く本

朝からずっと体が重く、原因のわからないだるさを抱えている人に、まず向いている。本書は「睡眠が足りない」という説明を採らない。休んでいる間に体がどの燃料を使っているか、その選び方のほうを問題にする。

整体やマッサージに通っても、首と肩のこりが数日で戻ってくる人にも刺さる内容だ。凝りの原因を筋肉ではなく呼吸の癖に求める章があり、揉んでも治らない理由に説明がつく。

健康法を試すたびに器具やサプリを買い足してきた人には、逆の提案になる。本書が求めるのは、蛇口をひねる向きを変えることと、日に数分の呼吸だけだ。

免疫は、実験室で書き換えられた

冒頭の実験には前段がある。2011年、オランダのラドバウド大学医療センターで、免疫学者ピエール・カペルと集中治療医ペーター・ピッカーズの研究チームが、ホフ氏本人にエンドトキシン(大腸菌由来の毒素)を投与した。

通常であれば高熱と頭痛と震えが出るところを、ホフ氏は呼吸法でアドレナリンを急激に高め、無症状のまま乗り切ってみせる。

ただし、これだけでは「特異体質の人が一人いた」という報告で終わってしまう。だから研究チームは2013年から2014年にかけて追試を組んだ。それが冒頭の24人の試験であり、無作為に選んだ被験者を訓練群と対照群に分けたことで、個人の資質ではなく方法そのものの効果を示す形になった。

体の中で起きていたことも、追って解明されている。制御されたストレスでアドレナリンが急上昇すると、CREBというタンパク質が活性化し、慢性炎症の司令塔とされる転写因子NF-kBの働きを抑える。

炎症を呼ぶIL-6やTNF-αの分泌が落ち、逆に炎症を抑えるIL-10が増える。この一連の流れで、体内の炎症反応がおよそ半分にまで下がったと本書は記す。

「高いアドレナリン生成によって能力の向上という果実を引き出しているのに、トラブルを呼ぶNF-kBの活動の増大をともなわずに済む」

薬で2割抑えられれば大きな成果とされる領域で、5割という数字が出た。だからといって、本書が示したのは炎症マーカーの変化と欠勤日数の減少までであり、特定の病気が治ると証明されたわけではない。この一線は、あとの章でもう一度立ち返る。

呼吸を止めるほど、体は目覚める

呼吸エクササイズの手順は4段階でまとまる。鼻から深く吸って完全には吐き切らない呼吸を心地よい速さで30回続け、30回目のあとは息を吐き切ってから思い切り深く吸い、そのまま静かに吐いて限界まで止め、吸いたくなったら深く吸って15秒ほど止めてから戻す。

これを、体が温まったりわずかにクラクラしたりするまで数回繰り返す。

この呼吸法には安全上の注意がある。水の中、シャワー中、立った姿勢、車の運転中には絶対に行わない。 座るか横になれる場所で、初めて試すときは誰かにそばにいてもらう。一時的なめまいや意識が遠のく感覚が起きうるためだ。心臓や血管の持病がある人、てんかんの既往がある人、妊娠中の人は、始める前に医師に相談したほうがいい。

直感には反するが、息を止めることでエネルギーは増える。深い呼吸を繰り返すと体内の二酸化炭素が抜けて血中濃度が下がり、そこで息を止めると酸素が消費され二酸化炭素が溜まってバランスが崩れる。

体はこれを戻そうとして、細胞内のミトコンドリアへ酸素をより効率よく送り込む。ミトコンドリアは酸素を使って糖や脂肪を燃やし、生体の主燃料ATPを作る工場だ。

体重70キロの人は1日に約65キロ分のATPを消費するのに、貯蔵できるのはわずか50グラムほどしかない。工場を止められない以上、酸素の受け渡し効率が上がることは、そのままエネルギーの増加につながる。

副次的な効果もある。この呼吸で血中のpHが7.4から7.7ほどまで上がり、痛みや恐怖を伝える酸感受性タンパク質(ASIC)の働きが抑えられる。冷たさは感じても、激痛やパニックには発展しにくくなる。呼吸法が、この後の低温訓練への準備運動になっている。

肩や首のこわばりは、呼吸が呼び込んでいる

安静時に必要な呼吸回数は1分間に6〜10回とされるが、現代人の多くは13〜20回、なかには22回を超える人もいるという。本書は1分間11回を境界線に置く。座っているだけでこれを超えているなら、体は戦闘状態に入っている、と。

速すぎる呼吸を続けると、本来は緊急時にしか使わない首の補助呼吸筋が酷使される。長距離走のあとの脚と同じ、いわば筋肉痛がそこで起きている。肺機能の研究者スタンス・ヴァン=デア=ポルが慢性疲労や燃え尽き症候群の患者を計測したところ、必要以上に速く深い呼吸を、肩の筋肉を使って行っていたという。

マッサージを受けても数日で凝りが戻るのは、筋肉ではなく、それを働かせ続けている呼吸のパターンのほうに原因があるからだ、と本書は説明する。

慢性疲労の正体についても、本書は独自の見立てを示す。健康な体は安静時、蓄えの多い脂肪を主燃料に使う。ところが慢性疲労を抱える人は、安静時でも蓄えの少ないブドウ糖を焼き続けている場合があるという。

呼吸が速すぎて二酸化炭素が不足すると血流が乱れ、体は脂肪ではなく糖に頼るようになる。休んでいるのに疲れが取れない感覚や、日中に甘い物が欲しくなる感覚は、この燃料選びのズレとして説明がつく。

あくまで本書が挙げる仮説であり、疲労の原因は一つに限らない点は付け加えておきたい。

冷水は、血管にかける負荷トレーニング

人間の血管をつなぎ合わせると、地球を3周できる長さになるという。低温にさらされると体は手足への血流を絞り、心臓や肝臓のある体幹の温度を守ろうとする。この収縮とその後の拡張を繰り返すことが血管壁を鍛え、弾力を保つ働きにつながる、というのが本書の説明だ。

冷水にはもう一つ、脂肪そのものの働きを変える面もある。体脂肪にはエネルギーを蓄える白色脂肪と、脂肪酸やブドウ糖を燃やして熱を作る褐色脂肪がある。

褐色脂肪は成人の体に40〜50グラムほどしか残っていないが、低温にさらすことで活動量を増やせるという。氷詰めの状態にあるホフ氏の代謝率は通常の3倍に達し、震えを伴わずに熱を生み出しているそうだ。

数字として最も実用的なのは、オランダの研究チームが2015年に実施した「クールチャレンジ」だろう。3,000人超のボランティアに、いつもの温水シャワーの最後に冷水シャワーを30秒だけ浴びることを30日間続けてもらったところ、体調不良で寝込んだ日数が対照群より29%少なくなったという。

冷水刺激が白血球の生成を後押しし、快適すぎる暮らしの中で見過ごされがちな軽度の炎症をリセットしている、というのが本書の解釈だ。ここでも、風邪をひきにくくなるという話と、特定の疾患が治るという話は、別物として区別しておきたい。

始め方は段階を踏む。体の深部温度が35度を下回れば低体温症で、組織の損傷につながる。いきなり氷水に入るのではなく、まず温水シャワーの中で3〜5秒吸って3〜5秒吐く呼吸を1分間行い、そこから温度を少しずつ下げる。

1週目は数十秒、2週目は2分、3週目は3分と延ばし、4週目をめどに温水を使わず冷水だけで5分過ごせる状態を目指す。週に一度、氷水に手足を2分浸けるだけの訓練も効果があるとされる。

覚悟という、3本目の柱

呼吸と冷水はどちらも技術として練習できる。3本目の柱である「コミットメント」は態度の問題であり、だからこそ後回しにされやすい、と本書は釘を刺す。

裏づけとして語られるのが、2014年1月にホフ氏が率いた遠征だ。多発性硬化症やリウマチ、クローン病などを抱える登山未経験者26人を、上半身裸のいでたちで48時間以内にキリマンジャロの頂上(標高5,895メートル)へ導き、24人が登頂を果たしたという。

準備は呼吸法と低温訓練だけだったと本書は記す。

ここは読み方に注意がいる。ホフ氏自身は極寒耐性の世界記録を20件持つ、訓練を積んだ実践者だ。同行者にも入念な医療サポートと段階的な準備期間があったはずで、本を読んだその日に真似られる話ではない。

本書が伝えたいのは登山の再現性ではなく、体は準備次第で見立て以上に応えるという、覚悟の効能のほうだと読んでおきたい。

おわりに

本書を締めくくる一文が、いちばん印象に残った。

「慢性的なストレスは健康に害を成すが、制御された強烈なストレスは人間の身体がつくり出す薬のひとつなのである」

だらだら続くストレスは体を消耗させる一方で、自分で始めて自分で終えられるストレスは、体を鍛える負荷になりうる。同じ「ストレス」という言葉でくくられてきた2つが、性質の違うものだったという整理は、腑に落ちるものがあった。

ただし本書の実験データが証明しているのは、炎症反応の抑制や欠勤日数の減少、免疫の活性化までだ。個々の病気が治ると読み替えるのは早計だし、持病があって薬を服用している人が自己判断で治療をやめるのは避けたほうがいい。

この本の価値は、薬の代わりを約束することではなく、体に備わった調整力を自分で起動できると示した点にある。そう捉えたうえで、今夜の温水シャワーの最後だけ、蛇口を冷たい側へ回してみてはどうだろうか。


この記事をシェア:

次に読む一冊

同じテーマを、もう一段深く考えるための一冊です。

健康・メンタル『トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法』パトリック・マキューン|深呼吸するほど、酸素は届かない『トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法』(パトリック・マキューン)の要約。疲れたら深呼吸。私はずっとそう信じていました。