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『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』東大ケーススタディ研究会|数字を当てにいく人ほど解けない

思考法・問題解決 ✍ 東大ケーススタディ研究会
約8分で読めます

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『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』
目次

「日本に電柱は何本あると思う?」

2008年、就職活動を終えたばかりの友人にそう聞かれたら、たいていの人はたじろぐはずです。友人は動じませんでした。仮説を置き、対象をモレなくダブりなく切り分け、その場で数字を組み立ててみせた。

ところが、それを聞いていた本書の著者の一人は納得しませんでした。出てきた数字の精度が甘い、と厳しく指摘したそうです。

数年後、その人自身がフェルミ推定の解法書を書く側に立ちます。批判する側から解く側へ。何が変わったのか。数字そのものより、そこにたどり着くまでの筋道の方に価値がある。そう腹落ちしたのがきっかけでした。

本書『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』を書いたのは、東京大学の学生団体「東大ケーススタディ研究会」です。集めた1000問近くのフェルミ推定問題を6つの型と5つの手順に整理し直した一冊で、2009年に東洋経済新報社から刊行されました。

図解

こんな人におすすめ

フェルミ推定の合格ラインは「数字」ではなく「ロジック」

本書の立場は、驚くほどはっきりしています。導き出す数字が現実とどれだけ近いかは、実はそこまで問われない。問われているのは、その数字にたどり着くまでの論理が一本通っているかどうかです。

数字が現実に近いかどうかより、そこに至る筋道が破綻していないかどうかが、フェルミ推定の合否を決める。

もう一つ著者らが繰り返すのが、この訓練を面接突破のテクニックに矮小化しない、という姿勢です。仮説を立てる力、モレなくダブりなく分ける力、数式に落とす力、その数式に数字を代入する力。

フェルミ推定は、これらをまとめて動員する総合種目であり、著者らはこれを「地頭力」の素振りと呼びます。

体系の再現性が本書の売りです。難問であっても、それがどの型に属するかさえ見極められれば、解き方は機械的に決まる。ひらめきに頼る場面は最小化されます。

背景にあるエピソードも興味深いところです。研究会の始まりは、戦略コンサルを志す東大生がスターバックスに集まり、世界のゴキブリの総数やトイレットペーパーの市場規模を、何時間もかけて議論する日々だったといいます。

それが数カ月続くうちに、これは面接対策の域を超えた頭のトレーニングだと気づき、蓄積した約1000問を型に整理し直した。それが本書の骨格です。

私が面白いと思ったのは、本書の後半に収録されている面接の再現シーンです。学生がボルビックの年間消費量を、個人が持ち歩く分と世帯が常備する分に分けて緻密に計算し切ったあと、面接官から「買う主体は個人と世帯だけか」と一言返される。

法人や官公庁という視点が抜けていたと気づく、そのわずかな詰めの甘さを突かれるやり取りに、独学では届きにくい水準がにじんでいました。

存在するモノは「ためた水」と「流れる水」の2種類しかない

本書が最初に立てる軸が、ストックとフローです。

ストックは、ある瞬間で時間を止めて数えられる量。容器にたまった水にたとえられます。自動車の保有台数や電柱の本数がこれにあたります。

フローは、一定の期間で生まれる量。蛇口から流れ出る水にあたり、「年間」「1日あたり」という時間の単位が必ずついて回ります。新車の年間販売台数や、店舗の1日の売上がここに入ります。

この2分類を最初に置くだけで、自分がいま何を数えようとしているのかを見失いにくくなります。逆にここを曖昧にしたまま計算を始めると、途中で対象を見失いがちです。

ストックはさらに、誰が持っているかを起点にする所有アプローチと、どこにあるかを起点にする存在アプローチに枝分かれします。ここで本書が突きつけるのが、電柱の逆説です。

電柱は電力会社やNTTの持ち物なのだから、所有者を軸に積み上げるのが素直に思えます。しかし各社の保有数を正確に足し合わせるのは実務上ほぼ不可能で、日本の面積を地形や人口密度で区切り、単位面積あたりの本数から逆算したほうがはるかに解きやすい。

本書が挙げる公的統計を見ると、電力各社とNTT東西を合わせた本数はざっと3000万本を超える規模になるそうですが、この総量を面接の場で一社ずつ積み上げて出そうとする人はまずいません。

モノに近い切り口が、必ずしも解きやすい切り口とは限らない。手持ちの実感が届く切り口を選べるかどうかが、この技術の本体だ。本書はこの選択眼を「フック」と呼んでいます。

応用として本書が触れているのが、所有者からも空間からも攻めにくい対象への対処です。中華料理店の軒数や美容師の人数のように、直接数えにくいものは、社会全体が求める需要量を、1軒あるいは1人が担える供給能力で割って求める。

また、世界遺産の登録件数のように一時点の数を数えにくい対象は、制度開始からの年数に年間の平均増加件数を掛けて、ストックをフローの積み重ねとして捉え直す。

空間で足し合わせる代わりに時間軸に置き換える、という発想の転換です。

売上の推定は、買う側と売る側のどちらから攻めるかで変わる

フロー、つまり売上や消費量の推定は、規模によって攻め方を変えるのが本書のもう一つの型です。

自動車の年間販売台数のような大きな市場を見るときは、需要側、つまり買う人の動きから攻めます。全メーカーの生産能力を正確に把握するほうが、よほど無理があるからです。

逆に、一つの店舗の売上のような小さな単位を見るときは、供給側、つまり店の側の変数から攻めます。来店客を一人ずつ把握するのは不可能でも、席数や営業時間、回転率、客単価であれば、利用者としての実感から具体的に想像できる。

本書はこの供給側の推定を、カフェの売上を題材に数式へ落とし込みます。店内で過ごす客と持ち帰る客を分けて数式に立てているところに、店を利用したことのある人間の肌感覚が反映されていて、単なる公式の暗記では出てこない発想でした。

例外として、店舗の中身を一切見ない解き方も紹介されています。業界全体の市場規模に、その店のシェアを掛けて店舗数で割る方法です。ただしこれは平均値を出す解き方であり、立地の特殊な店舗には向かない、と本書はくぎを刺しています。

一つの対象に、複数の攻め筋を持っておく姿勢が徹底されています。

才能ではなく手順。5つのステップが解き方を型に変える

分類ができたら、あとは共通の手順に乗せるだけ、というのが本書の実践編です。前提確認で言葉の定義と数える範囲を絞り、横の展開で大枠の式を組み立て、縦の分解でその式の変数を実感の持てる単位まで割り、計算実行で概数の丸めを使って手早く数字を出し、最後の現実性検証で常識や統計と大きくズレていないかを確かめる。

この五段階です。

本書はこの流れを「日本にある鞄の総数」で実演します。まず、ポーチは含めるのか、店の在庫は数えるのかを前提確認で線引きする。次に横の展開で「人口×1人あたりの平均所有数」という骨組みを作る。

そのうえで縦の分解に入り、人口をひとかたまりのまま扱わず、性別や年代というくさびを打ち込んで、たとえば「働く女性はファッションとして複数持つ」「幼児は所有数が少ない」といった実感を代入できる形まで割っていく。

横で広げてから縦で割る、この順番を逆にしないことが、迷子にならないコツだと本書は強調します。

面白いのは4段階目の計算のコツです。半端な数字が出てきたとき、片方を丸めてもう片方をその分だけ逆に動かす。たとえば「750万×47」のような掛け算が出てきたら、47を50に切り上げ、代わりに750万を半分の375万にして「375万×100」に読み替える。

この一手だけで暗算のミスがかなり減る、と本書は言います。地味ですが、実際に手を動かす人にしか響かない工夫です。

最後の現実性検証がなぜ機能するかというと、本書に載るほぼすべての問題に、対応する公的統計や業界データが添えられているからです。郵便ポストの本数、コンビニの店舗数、スキー場の数、割り箸の年間消費量。

自分が組み立てた式の答えを、そのまま実在の数字にぶつけられる作りになっています。読みっぱなしにならない、答え合わせ込みの設計です。

そして本書は、自分の限界も隠しません。最終的な絶対数は、どこかで個人の実感値に頼らざるを得ない。論理の組み立てがどれだけ美しくても、最初に置いた実感が偏っていれば、数字は大きくブレます。

ある問題では、推定値が実際の3分の1にとどまる例も紹介されています。当たったかどうかより、そのズレを基本式の立て方の問題(横のズレ)と、変数に入れた実感値の問題(縦のズレ)のどちらに帰属させるかを見極める作業のほうに、伸びしろがある。そう考えると、外れることさえ次の一手を鍛える材料に変わります。

もう一つ留保すべきは時代です。本書が前提に置く人口比や世帯構成の数字は、刊行時点、つまり2009年前後のものです。少子高齢化やモノを所有しない生活様式の広がりを踏まえると、当てはめる実感値は読者の側で更新し続ける必要があります。

型は古びていませんが、代入する数字は古びていく。この距離感を持って読むのが健全だと思います。

今日からできる3つの素振り

本書が勧める訓練に、特別な道具はいりません。

歩いているとき、電車に乗っているとき、目についたお題を1日にいくつかメモに書き溜める。解かなくてかまいません。まずはお題のストックを作る段階です。

平日は5分、休日は30分と時間を区切って実際に解く。5分は全体の構造を大掴みする瞬発力の訓練、30分は年代別の構成比まで詰める持久力の訓練で、この二つは鍛える筋肉が違う、と本書は説明します。

そしてできれば、一緒に解いて互いの仮説を批判し合える相手を見つける。「その前提は本当に妥当か」と突っ込み合うことで、独りで考えているときには出てこない視点が入ってきます。

読むだけの本ではありません。冒頭の著者が変わったのも、実際に自分の手で解く側に回ったからでした。今日の帰り道、目に入った一つの店を選び、5つの手順を実際になぞってみる。それがもう、最初の1回になります。


合わせて読みたい

『「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術』高松智史さん 本書が面接で通用する「解き方の型」の完成度を追求しているのに対し、こちらは出した数字を新規事業や市場分析の意思決定にどうつなげるかまで踏み込みます。型を覚えた後の使い道を知りたくなったら、次に読む一冊です。

『仕事に生かす地頭力』細谷功 本書の著者たちが「この本がなければ今の自分たちはなかった」と謝辞で名前を挙げている一冊です。フェルミ推定の土台にある仮説思考やフレームワーク思考を、概念のレベルからさらに掘り下げられます。

『筋の良い仮説を生む 問題解決の「地図」と「武器」』高松康平さん 本書は最初に置く実感値の精度に、最終的な数字の質が左右されてしまう面があります。仮説そのものの筋の良し悪しを扱うこの一冊が、その弱点を補ってくれます。


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