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『僕たちは、地味な起業で食っていく。』田中祐一さん|強みもアイデアもない人ほど稼げる理由

戦略・経営・事業 ✍ 田中祐一さん
約10分で読めます

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『僕たちは、地味な起業で食っていく。』
目次

「やりたいことが見つからない」「これといった強みもない」。そんな自分を、会社の外に放り出されたら通用しないのではないか。多くの人が抱えるこの漠然とした不安に、本書は正面から向き合います。

世間では「好きなことで生きていく」という威勢のいいメッセージが飛び交っています。ところが著者の田中祐一さんは、それをきっぱりと否定するところから話を始めます。

好きなことで食べていける人は100人に1人、悪くすれば1000人に1人。ならば残りの大多数は、いったいどう身を立てればいいのか。

その答えが「地味な起業」です。自分が主役になるのをあきらめ、誰かの裏方に徹する。たったそれだけで、会社に依存せずに一生食いっぱぐれない働き方が手に入るという、いささか拍子抜けするほど現実的な提案です。

著者は元NTTデータのシステムエンジニア。独立直後はまったく稼げなかった時期を経て、いまでは累計179名の受講生とともに30億円超の売上アップを生み出してきました。

机上の理想論ではなく、どん底からの実体験に裏打ちされた戦略だという点が、本書の説得力の源になっています。

図解

「派手な起業」と「地味な起業」は別の競技だ

まず言葉の定義を押さえておきましょう。本書がいう「地味な起業」とは、会社員が日々こなしている資料づくり、スケジュール管理、打ち合わせ、データ入力といった「地味なスキル」を武器に、他人のビジネスを裏方として支え、報酬を得る働き方を指します。

これと対をなすのが「派手な起業」です。独自のビジョンや画期的なアイデア、そしてカリスマ性で世の中を巻き込み、自分が主役として舞台の中央に立つ。多くの人が「起業」と聞いて思い浮かべるのは、たいていこちらでしょう。

編集部として面白いと思うのは、この二つが同じ「起業」という言葉でくくられているにもかかわらず、要求されるものがまったく別物だという指摘です。

派手な起業に必要なのは、500万円規模の資金、練り上げたビジネスモデル、人脈、突出したスキル、資格、設備投資。そして失敗すれば、多額の負債とキャリアの喪失というツケが回ってきます。

一方の地味な起業に要るのは、スマホとPC、それにちょっとした「素直さ」くらいのもの。開業資金は0円で、会社に勤めたまま始められるのでリスクは限りなく小さい。

個人事業主の開業届なら費用0円で出せるという具体性まで著者は示します。株式会社の設立に定款認証や登録免許税で約20万円かかるのと比べれば、参入障壁の低さは一目瞭然です。

派手な起業が「自分が主役、あふれる自信、無限の可能性」を前提とするのに対し、地味な起業は「脇役でいい、人を支えるのが好き、コツコツ作業が苦にならない」という気質の人にこそ向いている。

ここが出発点です。

「市場価値」を、指名される力として捉え直す

本書のキーワードのひとつが「市場価値」ですが、著者はこの言葉を独特の意味で使います。ふつう市場価値といえば、希少なスキルや難関資格、華々しい実績を連想するでしょう。ところが本書の定義はもっと素朴で、他者から「手伝ってください」と言われる力、ただそれだけです。

この定義の背後には、会社員の置かれた厳しい現実があります。著者は新卒の頃、先に起業した先輩からこんな言葉をかけられたといいます。

どんなに優秀な学生でも、会社で5年も働けば、ただの人になってしまうよ

会社の中で磨かれるのは、社内調整や社内政治といった、その組織の外では通用しないスキルに偏りがちです。しかも終身雇用という前提はすでに崩れています。経団連の中西宏明会長は終身雇用を「制度疲労を起こしている」と語り、みずほ銀行は若手にも副業・兼業を認める制度を導入しました。

データも著者の主張を後押しします。社会人の52.5%が転職経験者で、社会人3〜7年の間に約7割が転職するか転職を検討する。それでいて書籍『雇用の常識』のデータによれば、一度も転職しなかった人が最も年収が高く、転職を重ねるほど平均年収は下がる傾向がある、というのです。

「条件のいい会社に移ればキャリアアップ」という定説が、必ずしも当てはまらない。だからこそ、社内でも社外でも周囲から「指名される力」を持つことこそが、本当の意味での安定なのだ、と著者は説きます。

この視点の置き換えは、転職を安易な解決策と考えてきた人ほど、静かに刺さるはずです。

強みを探すのをやめ、相手の「できない」を探す

本書で最も痛快な発想の転換が、ここにあります。世の起業本の大半は「まず自分の強みを見つけよう」と口をそろえます。ところが著者は真逆を行く。自分の強みを掘り起こすのではなく、相手が「○○できない」ことを見つけろ、と言うのです。

この着想は、著者自身の失敗から生まれました。スマホ向けホームページのコンサルで独立したものの、鳴かず飛ばず。そんなある日、セミナーで知り合った店舗経営者のために、店舗営業の参考資料を要約したレポートを無料で手渡しました。

すると返ってきたのは「月3万円でうちの会社を手伝ってくれない?」という一言。派手なスキルではなく、ごく地味なサポートこそがお金に変わると気づいた瞬間でした。

なぜこれが成り立つのか。仕組みはこうです。カリスマ性のある起業家ほど、集客やビジョンを描くのは得意でも、Excelで名簿を組む、動画を編集するといった細かな実務が苦手だったりする。

あなたが息をするようにこなせる作業が、別のコミュニティでは「神ワザ」として重宝される。この需要と供給のズレが、そのまま仕事になるわけです。

だから著者はこう言い切ります。

何の取り柄もないことこそが、実は最強の取り柄なのです。

変なプライドやこだわりがない分、相手の要望に柔軟かつ素早く応えられる。「自分の強みを売り込む」より「あなたの困りごとなら何でもやります」と差し出すほうが、はるかに仕事につながる。

アイデア探しに費やす時間はむしろ無駄で、目の前で困っている人を助ければいい、というシンプルな結論に落ち着きます。自己分析の沼にはまって動けずにいる人にとって、これほど身軽になれる考え方もないでしょう。

「好きなこと」ではなく「好きな人」を応援する

もうひとつの核心が、このマインドセットです。「好きなことをビジネスにする」のではなく「好きな人のビジネスを応援する」と考える。自分の才能を探し当てて自分をブランド化するのではなく、「この人を応援したい」と心から思える起業家を見つけ、その裏方に徹する。

裏方は縁の下の力持ちですから、そもそも自分が主役である必要がない。カリスマ性も情熱も、なくて構わないのです。

ここで多くの人が引っかかるのが「集客」でしょう。発信力も影響力もない自分に、そもそも仕事なんて舞い込むのか、と。著者の答えは明快です。地味な起業に、不特定多数へのバズるような発信力は要らない。

大切なのは、応援したいたった1人に向けて、ラブレターのように丁寧なメッセージを届けること。ソーシャルメディアで本当に重要なのは、発信することではなく「応援したい人とつながること」だと言います。

この働き方には、続けやすさという見過ごせない利点もあります。アフィリエイトや投資のように一人で完結する副業は、強い意志の力を要し、たいてい途中で挫折する。

ところが誰かのためにチームで働けば、相手の存在がブレーキにもアクセルにもなって、結果的にサボれず、大きく育つ。「1人でやると早く行ける、みんなでやると遠くへ行ける」というコンサルタント遠藤晃氏の言葉を、著者は座右の銘にしています。

孤独な副業に何度も挫折した人ほど、この「他者を巻き込むから続く」という設計思想は腑に落ちるはずです。

普段の仕事が、そのまま値札のついた商品になる

では具体的に、何を仕事にすればいいのか。著者は地味な起業の仕事を3つの系統に分類します。まず自分がどこに当てはまるかを見極めるのが、最初の一歩です。

マネジメント系は、数字管理やコツコツ作業が得意な人向け。Excelでの数値管理(参加者名簿や受付表の作成)は時給1000円程度から、無料ホームページの設置代行は1件1万円程度からが相場です。

クリエイティブ系は、モノづくりが好きな人向け。バナー作成1枚1000円、チラシ1枚3000円、プレゼン資料1件1万円、セミナースライド1件3万円、YouTube動画の編集1本2000円といった具合。

著者は1分間の動画の情報量がウェブサイト3600ページ分に相当すると指摘し、動画スキルの価値の高さを強調します。コミュニケーション系は、人と話すのが得意な人向け。

電話対応、セミナー運営サポート、秘書業務(メール対応、会場予約、経費精算、スケジュール登録など)が、いずれも時給1000円程度から始められます。

正直に言えば、報酬は最初から大きくありません。けれども、これはあくまでスタート地点です。実際にスピリチュアルカウンセラーのExcel名簿管理や動画撮影を手伝った著者は、金額以上の感謝と報酬を得たと振り返ります。

未経験のタスクを頼まれても、しり込みして断る必要はない、と著者は言います。必要な知識のほとんどはネット検索で手に入る時代だからです。知識を抱えていること自体の価値が下がったいま、調べながら最後までやり遂げる「検索能力」こそが仕事になる。

この指摘は、資格取得に励んできた人ほど耳が痛いかもしれませんが、裏を返せば、いま持っているもので十分に始められるという励ましでもあります。

出会いを、継続的な仕事に変える技術

応援したい相手は、どうやって見つけるのか。本書は複数のルートを挙げます。王道は、応援したい起業家のメルマガやSNSをフォローし、発信内容を実際に試した結果を返信すること。

ここに著者ならではの「穴場」があります。ただ「面白かったです」と感想を送るのではなく、「教えを実践したら、こう変わりました」と長文で報告する。

これだけで相手の記憶に強く残るのです。SNSでも同じ発想で、「いいね」の多い人気投稿にぶら下がるのではなく、あえて反応の少ない地味な投稿に真剣な実践報告を寄せる。

そのほうが相手をホッとさせ、印象に残るといいます。ほかにクラウドワークスのようなクラウドソーシング、都合に合わせて働ける在宅業務仲介サービス、セミナーやオンラインサロンへの参加など、入口はいくつもあります。

出会えたとして、それを継続的な仕事へと育てるには何が要るか。著者はこう公式化します。

地味な起業の仕事 = 出会いの人数 × 信頼関係の深さ × 提案数

仕事が取れないとき、この式に照らせば、3つのどこが欠けているかを冷静に切り分けられる。出会いが足りないのか、関係が浅いのか、それとも単に提案していないだけなのか。

精神論に逃げず、原因を分解して見るための道具です。そして最優先すべきは、なんといっても「信頼残高」だと著者は言います。

地味な起業では長い目で見て「信頼残高」を増やしていくことが最優先です。「信頼」が貯まれば、お金は必ずあとからついてきます

目先の時給に執着せず、相手の課題を過剰なほど解決する。すると後から大きな報酬になって返ってくる。信頼構築のシンプルな式は「接触頻度 × 情報共有」で、会う回数を増やし、こまめに実践報告をする。

心理学でいうザイオンス効果、つまり何度もやりとりするほど相手が安心感を抱きやすくなる現象が、ここで効いてきます。提案の糸口を探るヒアリングにも型があり、「現在→過去→未来」の順で質問すると、相手の現状と理想のギャップ、すなわち課題が浮かび上がる。

そこを「それ、私にお手伝いさせていただけませんか?」と、さわやかにずうずうしく提案する。著者はこれを「さわズー」と名づけています。加えて「具体化」「数値化」「ベスト(一番困っていること)」「ストーリー」「理由」という5つの切り口で問いを重ねる「深掘り質問」も紹介されます。

そして最後に効いてくるのが、会社員が当たり前にやっている「報・連・相」。確実な報告・連絡・相談を欠かさないだけで、相手の期待を超える安心感を届けられる。

地味ですが、これこそ信頼残高に付く利息なのです。

サポーターから、プロデューサーへ

地味な起業は、小さな下請け作業で終わるものではありません。著者は3つのステップを描きます。作業を担当する「サポーター」は月5万〜20万円レベル。

チームをまとめ作業を管理する「ディレクター」は月10万〜50万円レベル。そして仕事そのものを創り出す「プロデューサー」は事業全体を企画・統括し、月100万、200万、年商数億円クラスも視野に入ります。

このステップアップを、本書は豊富な実例で裏づけます。時給1000円の在宅アシスタントとして著者のもとで働き始めた野川友美さんは、ウェブページ作成や広告の研修を任されるうちにマーケティングを習得し、独立1年目で年商3000万円の広告代理店を起こしました。

人材派遣会社の事務職だった大脇茂佐さんは、70代の女性起業家の動画編集やメルマガ設定を副業で始め、やがてベストセラー作家のプロデュースを手がけ、独立に至ります。

第2子の産休中に学んだ石原愛子さんは、他の起業家のセールスや資料作成を請け負うスタイルへ移り、会社を辞めるリスクを負わずに本業と両立しながら月10万〜20万円を得るようになりました。

ここで本書の誠実さが光ります。著者は都合のいい話ばかりを並べません。プロデューサーとして月100万円以上を稼ぐには、結局のところマーケティングやコピーライティングといった「売れる力」が要る、と正直に認めるのです。

「一生何も学ばなくていい」わけではない。著者自身、ある起業家の事務方をすべて引き受け、年商300万円をわずか1カ月で4000万円に引き上げた経験がありますが、その裏には磨き込んだ売れる力がありました。

入口は限りなく低いが、上に登るには相応の学びが要る。この線引きを隠さないところに、本書への信頼が置けます。

おわりに

本書を貫くのは「すべてはテスト」という一語です。完璧な事業計画も、数百万円の元手も要らない。まず小さく始めて、走りながら直していけばいい。そして著者がもうひとつ大切にしているのが、自分の不器用さの自覚です。

自分は他人よりも不器用である。だから、何かを体得しようと思ったら人より早くチャレンジして長く続ける必要がある。

才能あふれる誰かと比べて落ち込む必要はありません。早く始めて、長く続ける。時間を味方につければ、凡人でも十分に勝てる。今日できることは、たぶんこれです。

あなたが応援したいと思える人を1人見つけ、その発信を実際に試し、結果を返信してみる。あなたの仕事は、その一通のメッセージから始まります。


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