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『リーダー1年目のマネジメント大全』木部智之|めざすゴールは「暇なリーダー」

リーダーシップ・組織 ✍ 木部智之
約7分で読めます

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『リーダー1年目のマネジメント大全』
目次

昇進の辞令を受け取った日、何から手をつければいいかを教えてくれる人はほとんどいません。前任者から引き継ぐのは、せいぜい進行中の案件リストくらいです。

『リーダー1年目のマネジメント大全』は、その「何から」に徹底的に付き合う本です。著者の木部智之さんは、デロイト トーマツ コンサルティングのディレクター。

日本IBMやパナソニックで、5人から600人規模までのチームを率い、炎上したプロジェクトのリカバリー責任者を何度も引き受けてきた人です。

世の中のマネジメント書には、優れたプレイヤーが管理職になったときの視点転換を、たった一つの定義や公式に集約しようとするタイプが多くあります。

壮大な理論は、腹に落ちれば強い。でも新任リーダーがいま知りたいのは、たいてい理論ではなく「この場面でどう動くか」という手前の一手です。本書はそこに徹していて、8章104項目のほぼすべてが、次の会議や次の1on1でそのまま使える行動に落ちています。

理論の美しさではなく、行動の数で勝負している本です。

図解

こんな人におすすめ

昇進したばかりで、何を優先すべきか分からないまま日々の火消しに追われている人に、まず薦めたい本です。

「1年目」から逆算して組み立てられた本

本書の設計は独特です。リーダーの仕事を、メンバー・マネジメント、チーム・マネジメント、ビジネス・マネジメント、サイクル・マネジメント、メンタル・マネジメント、セルフ・マネジメント、モデルケースという7つの領域に分けたうえで、それぞれに「いつ、どの周期でやるか」という時間軸を掛け合わせます。

何をやるかだけでは、後手に回ります。年、半期、月、週のどのタイミングで手を打つかまで決めて、初めて運営が回り出すという発想です。

序章の主張もはっきりしています。リーダーは偉い人ではなく、チームとして成果を出すための一つの役割にすぎない、と。野球でピッチャーと4番打者が目立つだけで、他のポジションと上下関係があるわけではないのと同じだ、という喩えが引かれます。

だから本書は、部下から「今いいですか」と気軽に声をかけられる状態をつくることを勧めます。偉そうな態度に得はなく、損しかない、と言い切る潔さがあります。

ただし本書は、フラットさと馴れ合いを同じものとして扱いません。好かれたい気持ちが強すぎるマネジャーは、波長の合うメンバーとだけ親密になりがちです。

それは評価やアサインの公平性を静かに壊し、チームに甘えを生みます。近すぎず、遠すぎず。摩擦を避けずに正しいことを貫く姿勢のほうが、長い目で見れば深い信頼につながるという指摘は、フラットな関係づくりを「仲良くなること」と混同しがちな新任リーダーに効くはずです。

「Why」から伝えると、頼んだ以上の仕事が返ってくる

任せ方についても、本書は精神論に逃げません。使うのはサイモン・シネックのゴールデン・サークル理論で、Why(なぜやるのか)、How(どうやるのか)、What(何をやるのか)の順に伝えると、相手の自発性を引き出せるという考え方です。

「来週までに市場調査をまとめておいて」と依頼だけを渡せば、メンバーは言われた作業をこなすだけで終わります。同じ依頼でも、それが大型契約につながる重要なプレゼンの準備であり、相手にどんな印象を残したいかまで背景を添えて渡せば、メンバーはどんな切り口が響くかを自分で考え始める、というのが本書の主張です。

指示に含める情報量を増やすだけで、成果物の質と本人の意欲は同時に変わる。次の依頼から、そのまま試せる話です。

育成の方法も、教える(ティーチング)と引き出す(コーチング)を場面で使い分けます。経験の浅いメンバーにはやり方そのものを教え、慣れてきたメンバーには本人に考えさせる。

同じ相手でも、任せる仕事の難易度をあえて少し引き上げる「ストレッチ・アサイン」で、成長の負荷を意図的にかける場面もつくります。

評価の視点にも踏み込みます。結果だけでなく、そこに至る工夫や粘りを見て評価する。楽をして成果を出したメンバーについては、仕組み化や無駄削減を突き詰めた結果だと解釈し、その裏側を評価する。

逆に、見た目のアピールばかりで中身が伴わないメンバーを高く評価すれば、リーダー自身が「人を見る目がない」と判定される、という手厳しい一文も添えられています。

「順調です」を鵜呑みにせず、締め切りは延ばさない

本書のなかで、最も実務的だと感じたのが報告と締め切りの扱いです。

著者は、上がってくる報告を額面どおりには受け取りません。順調だという言葉の裏に、まだ言語化されていない懸念が眠っていることを前提に置き、進捗確認の最後に必ず一つ質問を挟みます。

ここで大事なのは、疑いを相手への不信としてではなく、言いにくいことを話すための隙間として使っている点です。

「報告に対してクサビを打つことを、私は『健全に疑う』と呼び、信条としています。」

そしてもう一つ、著者が徹底しているのが、悪い報告への反応です。トラブルの一報を受けたとき、怒らず、問い詰めず、まず礼を言う。理由は単純で、一度でも感情的に反応すれば、次からその手の報告は隠れるようになるからです。

悪い知らせを歓迎する態度そのものが、傷口が小さいうちに手を打てるチームをつくる。役職者会議でトラブルを報告した著者に、上位者が「聞いてない」と声を荒げて周囲を凍りつかせたという反面教師のエピソードも、この原則の裏返しとして機能しています。

締め切りの設計にも、同じ厳しさが向けられます。メンバーを焦らせたくない一心で期限を長めに取る配慮は、優しさというより副作用のほうが大きいというのが本書の立場です。

人は余裕があるほど着手を先延ばしにし(学生症候群)、早く終わる仕事でも与えられた時間をすべて使い切る(パーキンソンの法則)。実質3日で片づく作業に1か月の期限を渡せば、着手は月末近くまでずれ込み、本来なら並行でこなせたはずの仕事の枠を、たった一つのタスクが埋め尽くしてしまいます。

だから期限は、実作業に必要な時間から逆算した、余白の薄いところに置く。会議の締めくくりについても同様で、「誰が」「いつまでに」「何を」まで名指しして決めない限り、それは決定ではなく単なる感想の共有で終わる、と手厳しく線を引いています。

時間の配分は、上位2割ではなく中間6割へ

本書はチームの成果配分にも数字を持ち込みます。組織は優秀な上位2割、平均的な中間6割、成果が伸びない下位2割に分かれるという、いわゆる2-6-2の見立てです。

リーダーが時間を割くべきは、放っておいても伸びる上位2割ではなく、チーム全体の成果を左右する中間6割だ、というのが本書の結論です。下位2割については、切り捨てを勧めるとまで言い切ります。

ここは賛否が分かれるところで、下位2割を機械的に見限る運用は、育成の余地を早々に閉じるリスクと表裏一体です。本書自身、排除しても新たな下位2割が生まれると認めており、割り切りが万能薬でないことは織り込み済みで読む必要があります。

年間の運営サイクルも、本書らしい地味さで扱われます。予算策定や目標設定、評価といった年間イベントを手帳やカレンダーに書き込み、週に一度、まだ来ていない予定を眺めるだけ。

派手さのない習慣ですが、月次の1on1と半期評価を同じサイクルに組み込んでおくことで、評価のたびに認識のズレが露呈するという事態を防げる、という理屈には説得力があります。

めざすゴールは「暇なリーダー」

本書の結論は、意表を突く一言に集約されます。

「あなたがめざすべき究極の姿は『暇であること』です。」

優秀なプレイヤーだった人ほど、「自分でやったほうが早い」という誘惑に負けます。その結果、メンバーの成長機会が消え、リーダー自身がチーム全体の詰まりどころになる。

本書が勧めるのは、ゴールだけを渡してやり方は任せ、転びそうな場面でもあえて転ばせ、相談されても答えを渡さずに「自分ならどう進めるか」と問い返す我慢です。

任せて手を離した分だけ、リーダーの時間は中長期の戦略や自分自身のキャリアに回せるようになります。

もっとも、本書はこの方法論に絶対の自信を持っているわけではありません。相手が生身の人間である以上、104項目をすべて身につけても、最後は個々のリーダーの観察力に頼らざるを得ないと、著者自身が認めています。

その感度を鍛える訓練として本書が挙げるのが、メンバーの服装の変化を毎日ひとつ見つける習慣です。地味ですが、見えやすい変化への注意が、いずれ表情や声のトーンといった見えにくいサインへの気づきにつながる、という理屈は理にかなっています。

「暇であること」という言葉だけを切り取ると、誤解を招くかもしれません。実際に指しているのは、メンバーが自分で決められる範囲が広がり、リーダーへの判断の持ち込みが減っていく状態です。

ただしこれは、委譲できる仕事とメンバーの人数に一定の厚みがあって初めて成立する話でもあります。プレイングマネージャーを兼ねざるを得ない小さなチームのリーダーにとっては、ゴールとして掲げるにはまだ遠い場合もあるはずです。

巻末のモデルケース集も、具体的な人物像で締めくくられます。若手時代に「それは本当にお客様のためになるのか」と問い続けたリーダーの下で働いたメンバーは、自分たちの仕事に誇りを持てたと振り返ります。

対照的に、気の合うメンバーだけを引き上げた仲良し人事は、昇進させた本人の失速という形でしっぺ返しを受けています。理論より先に日々の振る舞いが信頼を作るという姿勢は、104項目という行動の数で押し切る本書全体の構えと重なります。

昇進した日に必要なのは、壮大な哲学よりも、次の1on1で何を聞くかという具体的な一手です。本書はその一手を104個、惜しみなく並べています。


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