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『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』越川慎司|できるリーダーは、歩くのが遅い

リーダーシップ・組織 ✍ 越川慎司
約7分で読めます

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『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』
目次

職場のフロアを、わざとゆっくり歩く管理職がいる。サボっているように見えますか。

実はそれ、AIが1万8000人の行動を解析して見つけた「常に最高評価を取り続けるリーダー」の特徴です。

越川慎司さんの『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』は、成果を出し続けるリーダーの正体を、感想ではなくデータで暴いた一冊です。そこから浮かび上がった姿は、私たちが「できる上司」と聞いて思い浮かべる像と、ことごとく逆でした。

引っ張る人ではなく、隙を作る人。教える人ではなく、待つ人。本稿では、その逆説を数字ごと出し惜しみせずに紹介します。

図解

なぜ「AI分析」の結論は信じる価値があるのか

リーダーシップ本は世にあふれています。ただ、その多くは成功した一人の経験談か、検証しようのない精神論でした。記憶は美化されるし、語る本人にも見えていない要因がある。だから「この人だからできた」で終わってしまう。

本書が一線を画すのは、根拠が個人の記憶ではない点です。著者が率いるクロスリバーは、クライアント企業25社・1万8000人を調べ、トップ5%リーダー1841名と一般的な管理職1715名を比較しました。

集めたのはオンライン会議の録画、チャット、メール、人事評価。行動履歴は27社で計1400時間以上、会議録画の解析は8000時間を超えます。

これをAIでテキストマイニングし、発言を8種類の感情に分類し、機械学習で「一般の管理職との差分」だけを抽出する。つまり並ぶ習慣は誰かの主観ではなく、データが浮かび上がらせた事実です。

だから数字が異様に細かい。逆に言えば、ここで挙がる行動はあなたの上司にも部下にも当てはまる確率が高い。再現性こそ本書最大の武器だと、私は読みました。

できる人ほど、ゆっくり歩く

最初の発見からして常識を裏切ります。トップ5%リーダーの59%は、歩くのが遅い。ゆっくり歩く一般管理職は38%でした。

せっかちで早歩き、ではないのです。彼らはあえて時間と気持ちの「余白」(本書の言葉ではバッファー)を作っている。会議中に時間を確認する回数は一般の2.8倍、意図的に余裕を作っていると答えた人が58%。

なぜ余白がいるのか。メンバーが「今ちょっといいですか」と声をかけられる「隙」を残すためです。本書はこれを「暇なふり」と呼びます。

実際、5%リーダーの31%はカレンダーを15分刻みに設定し、一般の2.8倍の「すき間時間」を作っていました。考えてみれば当たり前で、常にバタバタしている上司に相談を持ちかける部下はいません。余裕の演出が、情報とアイデアの入り口になる。

ここに本書の人間観がにじみます。トップ5%リーダーはストイックにならない。頑張る姿を見せると部下が萎縮するからです。会議を60分から45分に縮めるのも、気づきや雑談を拾う余白を死守するため。

私たちは「忙しそう=仕事をしている」と思い込みがちですが、その忙しさが相談の芽を摘んでいるかもしれない、という指摘は耳が痛い。

話が短い人ほど、伝わっている

トップ5%リーダーの58%は、話が短い。丁寧に長く説明したほうが正確に伝わる、という思い込みもここで崩れます。

彼らが重視するのは「話すこと」ではなく「伝わること」。コミュニケーションの主役は話し手ではなく聞き手だ、という発想です。自分の頭の中のイメージを、相手の脳内に正確に再現できて初めて、人は動く。

象徴的な事例があります。ある精密機器メーカーの経理リーダーが、経費精算システムの変更依頼文を「相手のメリット → 具体的なアクション → 行動障壁を下げる工夫」の順に書き直した。

たったそれだけで、指示に従う人が21%から78%へ跳ね上がりました。言葉を増やしたのではなく、順番を整えただけ。指示代名詞(あれ・これ・それ)を避けるルールを徹底したチームでは、伝えた情報の記憶率が2倍以上になったという結果もあります。

1on1も同じで、トップ5%リーダーは平均67%の時間をメンバーに話させます。一般管理職は逆に自分が7割話す。「聞き上手」という曖昧な美徳が、ここでは話す比率という測れる差として表れているのが面白いところです。

やる気を、あてにしない

個人的に一番効いたのがここです。トップ5%リーダーは、そもそも部下の「やる気」をあてにしていません。

やる気がないとプロセスが成立しない計画は、リスクが大きすぎて組み込めない。(越川慎司『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』)

モチベーションは天気のように移ろう。それを前提に組まれた計画は、最初から壊れやすい。だから彼らは「やる気がなくても回る仕組み」を作ります。

作業を45分刻みにして疲弊を防ぎ、進捗20%の早い段階でチェックポイントを置いて認識のズレを直す。気合ではなく、設計でタスクを前に進める。

「気持ちが大事」と信じてきた人ほど、この割り切りには反発を覚えるかもしれません。私もそうでした。ただ、やる気頼みのマネジメントは、うまくいかなかったとき「本人の意欲が足りない」で片づけてしまう危うさがある。仕組みで回す思想は、その責任転嫁を断つ点でむしろ誠実だと思い直しました。

意思決定の質も独特です。彼らは「成功確率を上げる」より「失敗確率を下げる」ことを重視する。「失敗確率を下げる」と発言した5%リーダーは291名、一般管理職はわずか4名。

逆に「成功例を真似する」に注力する一般管理職は891名で、5%リーダーは3名だけ。流行りの成功事例に飛びつくのではなく、過去の失敗原因を集めて同じ轍を避ける。

それでいて決定数は一般より約25%多く、スピードも約1.3倍速い。慎重なのに速い、という両立がこの本の核心の一つです。

強みより「弱み」を見て、感情をそろえる

トップ5%リーダーの48%は、自分がメンバー全員の能力を上回る必要はないと考えています。自らの業務遂行能力を高めることすら、あえて諦めている人もいる。

代わりに見るのが「弱み」です。メンバーの弱みにフォーカスすると答えた5%リーダーは77%。一般管理職の71%は能力(強み)を重視していました。

ただし弱みを矯正させるのではありません。優秀な人の弱みを別のメンバーの強みで補い、異質な能力を掛け合わせて「1×1を3にも5にもする」。一人では解けない課題を、組み合わせで解く発想です。

ほめ方にも工夫があり、本人に直接ではなく「〇〇さんがあなたに感謝していたよ」と第三者経由で伝える「間接承認」を使う。喜びとリーダーへの信頼が同時に増えるからだといいます。

そして関わりの土台にあるのが「感情」です。情報より感情の共有を重視するトップ5%リーダーは67%で、これは一般管理職の実に21倍。経営陣の78%も「理論より感情で物事を決めることが多い」と答えています。

同情ではなく共感する。上から哀れむのではなく、横に並んで相手の関心に関心を寄せる。この距離感が、何を言っても責められない空気、すなわち心理的安全性をつくる。

それが自走するチームの第一歩だと本書は説きます。

逆に、95%の管理職がやりがちな失敗も具体的です。良かれと思って答えを先回りして教えると、部下は考えるのをやめ、失敗を上司のせいにする「指示待ち」になる。

週報や過度な見える化の資料も、部下が上司を忖度して書く時間に消えていく。だからティーチング(教える)よりコーチング(問いで気づきを引き出す)を選び、問題が起きても「なぜ失敗したんだ」と責めず「その問題はなぜ起きたと思いますか」とWHYを一緒に掘る。

意識が変わるのを、待たない

ではどうやって人やチームを変えるのか。本書の答えは拍子抜けするほどシンプルです。意識が変わるのを待っていたら5年も10年もかかる。だから先に行動を変え、結果的に意識を変える。

カギは「意外とよかった」という小さな成功体験です。1on1で相手のテンションが上がった瞬間に、ハードルの極端に低い行動実験を提案する。「来月1回だけ早起きしてみれば」くらいで十分。

やってみて手応えがあれば、人は自分から続けます。大々的な研修より、1日5分から始めるほうが心理的抵抗が低いという、ごく当たり前の人間心理を突いた設計です。

具体策にも数字の裏づけがあります。会議の冒頭2分を雑談にあてたチームは、発言者数が1.9倍に増え、時間内に会議が終わる確率が45%高まりました。

毎週金曜に15分だけ「やめるべき無駄はなかったか」を振り返る内省を続けたクライアントは、残業を前年同期比18%削減。深く(平均12cm)ゆっくり(1.1秒)うなずく3つのルールを導入した組織では、62%でメンバーの働きがいが平均6ポイント向上しています。

逆にビデオをオンにさせたいときは、命令ではなくリーダーから自己開示する——返報性が働き、ビデオオン率が68%まで上がったといいます。

成功したときの扱いも独特です。失敗のときだけでなく、うまくいったときにも「なぜ成功したのか」とWHYを掘る。プロジェクト成功後に内省するトップ5%リーダーは41%、一般管理職はわずか3%。

再現性は、勝因を言語化できて初めて生まれる。偶然の成功を実力と勘違いしない、この冷静さもまた「失敗確率を下げる」思想の延長線上にあります。

おわりに——明日の会議の冒頭2分から

読み終えて、リーダーの仕事のイメージが静かにひっくり返りました。歩くのが遅く、話が短く、やる気をあてにせず、答えを教えず、感情をそろえて、小さな実験で人を動かす。どれも派手さはなく、むしろ「気合ゼロ」です。

本書の最も鋭い一行は、行動を起点にする思想を一言で言い切ったここでした。意識が変わるのを待っていたら、5年も10年もかかる。

だったら、明日の会議の冒頭2分を雑談にあてる。カレンダーを15分刻みにして、金曜の15分を振り返りにあてる。それくらいの軽さこそが、たぶんちょうどいい。データが裏づけてくれる安心感も込みで、今日から試せる一冊です。


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『こうして社員は、やる気を失っていく』松岡保昌 本書は「やる気をあてにしない」と言いますが、こちらは「やる気を下げない」ことの大切さを説きます。仕組みで動かす前に、何が部下のやる気を削っているかを知りたい人に。

『最高のコーチは、教えない。』吉井理人 答えを教えず自走させる、というトップ5%リーダーの姿勢を、元プロ野球のコーチがさらに深く掘り下げます。「考えさせる」関わり方を具体的に知りたい人向けです。

『チームが機能するとはどういうことか』エイミー・C・エドモンドソン 本書の土台にある「心理的安全性」の生みの親による一冊。冒頭2分の雑談がなぜ効くのか、その理論的な背景まで理解できます。


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