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Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦 西川徹

『Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦』西川徹|通帳残高600円から、トヨタの115億円まで

戦略・経営・事業 西川徹
約7分で読めます

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この本の全体像
『Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦』の図解

本の結論

事業会社から直接出資を仰ぐことで、PFNは9割の失敗を許容できる余力を手に入れました。

明日やること

会議で知らない言葉が出たら、その場で『それ何ですか』と口に出して聞く

効く悩み

  • 会議で『それ、成功する確証あるの?』と聞かれ、答えに詰まって無難な仕事ばかり選んでしまう
  • 数年前に覚えたやり方でなんとか仕事が回っており、学び直す必要性を実感できずにいる
  • 部署の壁があり、現場の泥臭い課題が自分のところに届くころには実態と違う話に変わっている

読むべき人

  • 確実な成功より難しい挑戦を選べる組織を、精神論ではなく制度としてつくりたい人
  • 技術者として学び続ける仕組みを、評価制度や資金調達の設計から知りたい人

読まなくていい人

  • 個人の学習法や時間術のような、すぐ使えるノウハウ集を求めている人
  • スタートアップの資金調達を、上場までの速さで評価する視点を求めている人
目次

創業間もない会社の通帳残高が600円まで落ち込み、経営陣が私財を持ち寄って急場をしのぎました。そんな逸話から始まる本があると聞くと、よくある苦労話の一つに思えるかもしれません。だがこの会社は、その9年後にトヨタ自動車から100億円を超える出資を引き出すことになります。

この会社の歩みをまとめたのが、共同創業者・西川徹さんによる『Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦』です。舞台となるのは、深層学習の分野で世界的な存在感を放つ企業へと成長したPreferred Networks、通称PFNです。

派手な成功譚を期待して開くと、当てが外れます。中身のほとんどは、あらかじめ失敗を織り込んで組織をどう設計するかという、地味で手間のかかる準備の記録だからです。

創業からわずか数年の頼りない会社が、なぜ世界的な自動車メーカーから巨額の資金を任されるまでになったのでしょうか。答えは技術力の高さだけでは説明がつかない、と本書を読み進めるほどに感じます。

PFNが掲げるミッションは一貫して変わっていません。

「コンピュータの力で実世界の課題を解決する」

ただし現実の課題というのは、片がつくまでに何年もかかるものばかりです。深層学習にせよロボットにせよ半導体にせよ、数年できれいな答えが出る領域はほとんどありません。

それにもかかわらず、たいていの資本や組織のものさしは数年単位で成果を測ろうとします。この時間感覚のずれをどう埋めるかが、本書全体を貫く問いになっています。

タイトルに掲げられたこの言葉を、西川さんは自身がもっとも大事にしている行動規範だと語っています。エンジニアの姿を、泳ぎ続けなければ呼吸できなくなる回遊魚になぞらえ、立ち止まった瞬間に技術者としての命脈が尽きると言い切る比喩です。

興味深いのは、ここで求められる学びが一つの専門を深く掘ることだけを指していない点です。ソフトウェア担当者がハードウェアの基礎を学び、医療分野の専門家が深層学習を学ぶというように、複数の領域をまたいで越境することが強く推奨されています。

深さより越境を優先するこの順位づけは、専門性を積み上げることが評価されがちな一般的な職場の常識とは、逆を向いています。

図解

挑戦の前に「失敗する権利」を買う

事業会社から直接出資を仰ぐことで、PFNは9割の失敗を許容できる余力を手に入れました。PFNが選んだ答えは、順序を逆転させることでした。挑戦を始める前に、あらかじめ失敗する余地を確保しておきます。

その手段の一つが、資金をどこから引っ張ってくるかという選択です。よくあるベンチャーキャピタル経由の調達を避け、腰を据えて付き合える事業会社から直接出資を仰ぐ道を、PFNはあえて選んでいます。

背景には西川さんが学生の頃に味わった苦い出来事があるそうです。関わっていたベンチャーが経営難に陥った際、出資元の一存でチームごと解雇された経験です。

外部の資本に主導権を握られることへの強い警戒心が、ここで形づくられたと本書は綴っています。

もう一つの理由は時間の制約です。ベンチャーキャピタルが待ってくれるのはせいぜい数年で、上場や売却という出口を前提に精緻な事業計画を求められます。

半導体開発のような息の長い領域では、この時間軸がそもそも合いません。だからPFNは、事業会社からリスクマネーを引き出す道を選びました。トヨタ自動車をはじめとする複数の企業から、合計で百億円を超える資金を段階的に調達しています。

この資金が可能にしたのは、9割の失敗を許容できる余力そのものです。失敗を推奨する社風は、勇気や気合いの問題として語られがちですが、本書が示すのは資本構成という設計の問題だという視点です。

数字で評価すると、挑戦から先に切り捨てられる

評価を数値化すると、社員はその数字だけを改善しにいくようになり、失敗のリスクが高くて重要な挑戦から真っ先に切り捨てられてしまいます。外から入る資金の性質を変えても、社内の評価が旧来のままなら意味がありません。PFNはここでも常識と逆の選択をしています。

「失敗で評価を下げることは絶対にない。むしろ失敗する覚悟を持って事に臨まないのは嫌だ」

最初から成功が見えている無難な仕事は、他社でもできます。あえて成功率の低い課題に挑むことにこそ価値がある、というのが西川さんの立場です。だから評価の物差しは成果の数字ではなく、学び続ける姿勢を崩さなかったか、難しい課題に謙虚さと大胆さの両方で向き合えたか、周囲の成長を後押しできたかという、プロセスの質そのものに向けられています。

本書で特に意外だったのが、評価指標をあえて数値化しないという判断です。普通、人事評価は数値化するほうが公平だと考えられています。KPIで測れば透明性が担保できるという理屈です。

だがPFNはその逆を行きます。

代わりに経営陣が行っているのが、社員一人ひとりが書いた記述式のレポートを直接読み込む作業だといいます。組織が大きくなっても経営陣が手分けして読み切れる分量に、あらかじめ設計されています。失敗を許す文化の正体は、結局のところ大量に読むという地道な手間でした。

分業をやめ、自社の代表作すら手放す

PFNは分業をやめ、高い技術を持つエンジニア自身を現場へ送り込んでいます。PFNのもう一つの特徴が、職種の壁をつくらないという方針です。研究者もソフトウェアエンジニアもハードウェア設計者も、明確な分業体制を敷きません。

分業したほうが目先の作業スピードは上がります。それでもPFNがこの選択を取らないのは、情報が劣化するからです。現場の生々しい困りごとは、間に人を挟むたびに少しずつ輪郭がぼやけていきます。

だから高い技術を持つエンジニア自身が、工場の生産ラインや医療の現場に直接足を踏み入れます。そうして初めて、当の現場の人間さえ言語化できていなかった突破口が浮かび上がってくるのだそうです。

この徹底ぶりは、自社の看板技術を手放す判断にも表れています。前身であるPreferred Infrastructure時代に生まれた分散学習フレームワークは、大きな注目を集めた成功事例でした。

それでも「これからは深層学習に賭けるべきだ」という決断のもと、既存事業を続けたいメンバーとは袂を分かち、深層学習に専念する会社として現在のPFNが設立されました。

さらに、自社開発した深層学習フレームワークについても、世界中の開発者が集まる競合のエコシステムへ全面移行するという判断を下しています。目的は特定のソフトウェアを持ち続けることではなく、技術を社会に実装することだという割り切りが、その根底にあります。

自分たちの代表作であっても、目的に沿わなくなれば手放します。これも組織としての「Learn or Die」の実践だと言えます。

こうした姿勢は、社員一人ひとりに求められる働き方にも及びます。仕事の難易度には、簡単すぎて退屈な領域、難しすぎて歯が立たない領域、そしてその中間の領域があります。

ラーニングゾーン:中間にある、少し背伸びすれば届く領域。

PFNは社員を意識的にそのゾーンへ置き続けようとします。

大きすぎる課題は分解してから任せることで、飽きさせず、かといって潰さない難易度管理を上司の役割として明示している組織は、そう多くはないでしょう。

なお本書は、こうした組織づくりの延長線上で開発したスーパーコンピュータや独自半導体、パーソナルロボットの技術的な挑戦にも紙幅を割いています。安価な部品でも精密なセンサーと深層学習を組み合わせれば、高価な工作精度に頼らずロボットの動作を成立させられるという発想は、ハードウェアの制約をソフトウェアで迂回するPFNらしい逆転の発想として印象に残ります。

明日からできること

次に新しい仕事を引き受けるときは、報酬の多寡より先に「これを終えたとき自分の手元に何が残るか」を一行だけ紙に書いてみましょう。お金は技術を積み上げるための手段であって目的ではない、という西川さんの判断軸を、個人のスケールに縮めて試す方法です。

本書から実際に持ち帰れる行動を3つに絞ります。残る2つは次のとおりです。

今抱えている仕事を「退屈」「少し背伸び」「歯が立たない」の3つの箱に仕分けてみます。背伸びの箱に入ったものを、今日のToDoの先頭に据えます。歯が立たない箱に入った課題は投げ出さず、背伸びで扱えるサイズまで割り砕きます。

打ち合わせで聞き慣れない言葉が飛び出したら、知ったかぶりをせずその場で意味を尋ねてみます。専門の外側では誰もが初心者に戻るのであり、相手の立場を見て質問を控えるようになった時点で、この構えは機能しなくなります。

読み終えて手元に残るのは、成功物語の華やかさではなく、失敗を許すためにどれだけ地ならしをしてきたかという記録の重さです。資金の出し手を選び直す、評価から数字を外して大量の文章を読む手間に置き換える、部署の垣根を外して技術者を現場へ送り出します。

どの一手も地味で骨が折れますが、その骨折りを先に済ませた組織だけが、成功率の低い課題を選び続けられます。

合わせて読みたい

『WHO YOU ARE』ベン・ホロウィッツ 行動規範をボトムアップの話し合いで練り上げたPFNのやり方が印象に残ったなら、組織の色は掲げたスローガンではなく日々の振る舞いの積み重ねで決まるという、こちらの主張と重ねて読めます。

『愚直に、考え抜く。』岡田光信 決着まで長い年月を要する難題に挑んだ、別の起業家による記録。短期の成果を求められない事業領域で、資金と覚悟をどう支え続けるかという論点がPFNの資本政策と響き合います。

『Hit Refresh』サティア・ナデラ 積み上げてきた実績への固執を捨て、変化そのものを選び続ける姿勢を巨大企業の規模で貫いた記録。自社の看板技術を手放したPFNの決断が、より大きなスケールの実例として重なって見えてきます。

明日の1アクション

会議で知らない言葉が出たら、その場で『それ何ですか』と口に出して聞く


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