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『Who You Are』ベン・ホロウィッツ氏|文化は壁の理念ではなく、誰も見ていないときの行動で決まる

リーダーシップ・組織 ✍ ベン・ホロウィッツ氏
約8分で読めます

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『Who You Are』
目次

金曜の夕方、上司が帰ったあと。チームの誰かが、面倒な確認を一つ飛ばして帰ろうとする。

止めるか、見て見ぬふりをするか。その小さな判断こそが、あなたの会社の文化です。

そう言い切るのが、シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタリスト、ベン・ホロウィッツ氏の『Who You Are』です。原題は「What You Do Is Who You Are」。君の行いが君そのものだ、という意味です。

文化とは壁に掲げた理念でも、犬を連れてこられるオフィスでもない。著者の定義はこうです。誰も見ていないときに、社員がどう判断し、どう振る舞うか。それが企業文化のすべてだ、と。

読み始めて10ページで、自分の会社で語っていた「文化」という言葉が急に空々しく聞こえてくる。そういう本です。

図解

こんな人におすすめ

特に刺さるのは、こんな場面に心当たりがある人です。

理念をきれいに言語化したい人より、それを行動として組織に刷り込む泥臭い手順がほしい人に効きます。逆に注意してほしいのは、本書の事例の多くが戦争・革命・刑務所といった生死を賭けた歴史から引かれている点です。

穏やかで体系立った組織論を期待すると、面食らうかもしれません。著者は最初から、困難を生き抜くチームの話だけをしています。教科書的な整理を求める人には向きませんが、明日から自分の組織で試せる手触りのある原則がほしい人には、これ以上ない一冊です。

文化とは「徳」であって「価値観」ではない

本書がもっとも強く否定するのは、「企業文化=福利厚生・理念」という思い込みです。犬を連れてこられる、ヨガができる、立派なミッションが壁に貼ってある。著者はこれらを文化ではないと切り捨てます。

文化とは、社員が日々の問題を解決するときに使う前提であり、トップがいないところでどう判断するかのことだ、と。「この電話は今日折り返すべきか」「格安ホテルに泊まるべきか」。そうした無数の小さな判断の背後にある共通意識こそが、文化の正体だというわけです。

ここで効いてくるのが、価値観(バリュー)と徳(バーチュー)の区別です。著者は武士道を引きながら、価値観は心に思っているだけの信条にすぎず、徳は具体的な「行い」を指す、と言い切ります。

「正直であろう」と願うことと「正直に振る舞う」ことはまったく別だ、という指摘は、評価制度や行動指針を作ったことのある人ほど胸に刺さるはずです。私たちはつい、信条をきれいに掲げれば人は動くと思い込みますが、現実に組織を動かすのは掲げた言葉ではなく、毎日繰り返される具体的な行いの方です。

そしてもう一つ、ぞっとする原則があります。

基準以下の行いを放置しておくと、それが新しい基準になる。

リーダーが小さな妥協を一度見逃すと、その低い水準が組織の新しい当たり前になってしまう。文化は理念で守られているのではなく、リーダーが小さな妥協を見逃さないことで、かろうじて維持されている。ここまで聞くと、文化づくりが「掲げる」仕事ではなく「日々点検する」仕事だと分かってきます。

私が唸ったのは、著者がここで一度ブレーキを踏むところです。文化が優れていれば会社は成功する、というのもまた思い込みだと言うのです。

戦略と一致しない文化は、ただの足かせになる

ドラッカーの「文化は戦略を朝飯に食う」という有名な格言を、著者は正面から否定します。

文化と戦略は競い合うものではない。一方が他方をたいらげることもない。2つが共存していなければ、どちらもうまくいかない。

大事なのは、自社の戦略に合った文化を選ぶことです。アマゾンのように「圧倒的に安く」を長期戦略にする会社には、極端な倹約文化が要る。けれど世界一美しいデザインを目指すアップルにとっては、倹約文化はむしろ毒になる。

実際スティーブ・ジョブズ氏は、倒産寸前のアップルに戻った際、OSのライセンス供与を止め、大半の製品を生産中止にし、少数のプロダクトと体験に絞りました。

マーケットシェアが13%から3.3%まで落ちた会社を、世界一の時価総額へ復活させた。倹約ではなく、集中と美意識という文化が戦略と噛み合っていたからです。

戦略に合わない文化は、ただの足かせなのです。この冷静さがあるから、本書の文化論は宗教にならずに済んでいます。部門ごとのサブカルチャーも無理に統一しない方がいい、と著者は言います。没頭できる環境で動くエンジニアと、競争と成果報酬で動く営業では、モチベーションの源泉がまるで違うからです。核となる共通文化は持ちつつ、部門の個性は活かす。一枚岩を装うより、よほど現実的な処方だと思います。

なぜ歴史上の「異色のリーダー」から学ぶのか

普通のビジネス書はGoogleやAppleの成功事例を後付けで分析しますが、著者はこれを「生存バイアス」だと退けます。成功した会社だけを見ても、運がよかっただけかもしれない。そこで選ばれたのが、生きるか死ぬかの極限を生き抜いた4人でした。

ハイチ革命のトゥーサン・ルーベルチュールは、人類史でただ一度成功した奴隷革命の指導者です。彼は復讐に燃える兵に「農園主への復讐を禁じる」と命じ、敵だった白人将校すら登用して戦術を学ばせた。怒りではなく許しと計算された戦略で勝ったのです。

日本の侍は、信条ではなく徳の体系として武士道を700年磨きました。「武士道と云ふは死ぬことと見付けたり」。最悪の結果をいつも意識することで、日々の振る舞いを研ぎ澄ませた、と著者は読みます。

チンギス・ハンは出自を問わない実力主義と多様性の受容で、わずか10万の兵からアフリカ大陸に匹敵する広大な帝国を築いた。征服した部族から優秀な人材を取り込み、自分たちより何倍も大きな軍を打ち負かしました。

そして元囚人でギャングのボスだったシャカ・サンゴールは、組織を変えるにはまず自分が変わるしかないと気づき、命の危険がある刑務所で読書と食事と運動を仲間と共にして、最も結束の固いチームをつくりました。

4人に共通するのは、文化を「言葉」ではなく「行動のデザイン」として扱った点です。著者はここから、現代の企業にも使える原則を抽出していきます。

「ショッキングなルール」という発明

では、行動をどう組織に刷り込むのか。本書独自の答えが「ショッキングなルール」です。当たり前のルールは誰の記憶にも残らない。だから著者は、社員が「なぜ?」と聞き返したくなる、奇妙で記憶に残るルールを作れと言います。

条件は三つ。記憶に残ること、理由を問いたくなること、ほぼ毎日使うこと。新人が理由を尋ねるたびに、文化の核が語られ刷り込まれていくからです。一問一答が繰り返されるうちに、抽象的な戦略が体に染み込んでいく。

具体例が痛快です。アマゾンは創業期、ホームセンターで買ったドア板に脚を釘付けにした安机を使わせました。新人が「どうしてこんな机を?」と聞くと「節約できるものはすべて節約し、ユーザーに最安値で最高のものを届けるためだ」と返る。

この一問一答だけで「質素倹約」という戦略が体に刻まれます。

NYジャイアンツの名将トム・コフリンは「時間通りは遅刻」とし、全ミーティングを定刻の5分前に始めてスーパーボウルを2度制した。VMware共同創業者ダイアン・グリーンは提携交渉で自社の取り分をあえて49%にする「49対51」を掲げ、相手の警戒を解いてインテルやIBMと組み、企業価値を600億ドルまで高めました。

奇妙であるほど人は意味を問い、文化が血肉になる。就業規則を増やすほど現場が白ける現実を見てきた人なら、直感的にうなずけるはずです。ルールの数ではなく、ルールが語る物語の強さが文化を作るのです。

綺麗事では済まない、境界事例の直視

本書が並のリーダーシップ論と一線を画すのは、扱いにくい現実から目を逸らさないところです。たとえば「優秀だが士気を下げる社員」をどう扱うか。会社のためでなく自分の理論を証明するために周囲のエネルギーを奪う人物を、著者は文化の破壊者と呼び、解雇もやむなしとします。

一方で、批判は下手でも不屈の闘志を持つ「怒りの代弁者」型は、コーチングして活かす価値があると区別する。優秀さを一括りにせず、その人の行動が組織に何をもたらしているかで判断する。この線引きの細かさが信用できます。

悪い知らせの扱い方も鋭い。「解決策のない問題を持ち寄るな」という格言を、著者は危険だと言います。下手をすると「そもそも問題を持ち寄るな」と聞こえ、現場が悪い知らせを隠すようになるからです。

彼がCEO時代にやったのは、経営会議の「入場料」として各部門に炎上中の問題を告白させ、報告者を責めず「手遅れになる前にわかってよかった」と喜んでみせること。

これで社員は心を開き、隠れていた問題が早く表に出るようになりました。文化が壊れる兆候も具体的で、辞められては困る優秀な社員が辞める、最重要課題が一向に進まない、といった事象が出たら、リーダーの行動か報われる行動の設計が間違っている危険信号だ、と言います。

意思決定では、決まるまで徹底的に反対し、決まったら全員が全力で従う「反対してコミットする」を採る。多様性についても、特定の属性の構成比を上げる採用目標を「間違い」とし、一人ひとりをありのままの個人として見ることこそ本物の多様性だと説きます。

そして最後に、すべての土台になるのがリーダーの言行一致です。「時間厳守は敬意だ」と語るCEOが遅刻すれば、社員は「遅刻していい」という本当のルールを学ぶ。

著者自身も、自社の「パートナーは元経営者のみ」というルールに縛られ、優秀な若手を昇進させられずにいた失敗を正直に告白します。ルールは文化を守るためにあるのに、いつの間にか文化を壊すことがある。

文化を作りたいなら、まず自分の今日の行動を見ろ。あなたがいないところで周りがあなたをどう話しているか、その答えがすでにあなたの文化です。理念を作り直す前に、明日の金曜の夕方、自分がどう振る舞うかを先に決めてみてほしい。

完璧にする必要はありません。著者いわく、大切なのは昨日より良くすることだけなのですから。


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