本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則・完全版』マーク・フォースター|新しい仕事は「明日やる」が正解

生産性・時間術・習慣 ✍ マーク・フォースター
約8分で読めます

※ 本記事はアフィリエイトリンク(Amazonアソシエイト)を含みます。

『仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則・完全版』
目次

「時間が足りない」と嘆くのは、魚が「水が足りない」と言うようなもの。

本書を開いてまず立ち止まるのが、この一文です。私たちは時間という水のなかを泳いでいる。にもかかわらず足りない気がするのは、時間そのものではなく、仕事を回す「仕組み」が欠けているからだ。著者のマーク・フォースターはそう断じます。

タイムマネジメントの常識といえば、TO DOリストを作り、優先順位をつけ、来た仕事はすぐやる、の3点セットでした。本書はこの3つを、ひとつ残らず引っくり返します。

代わりに据えるのが「マニャーナの法則」、すなわち新しく来た仕事は今日ではなく明日やるという一見のんびりした原則です。

なまけ者の言い訳に聞こえるかもしれませんが、読み進めると、これがかなり緻密に設計された防御システムだとわかってきます。

図解

足りないのは時間ではなく「仕組み」

なぜ私たちは忙しいのか。著者の答えは明快です。仕事が多いからでも、能力が低いからでもない。来た順・気分・声の大きさで仕事を処理しているから、いつまでも自分の主導権が握れないのだ、と。

ここで著者が持ち出すのが、人間の脳を二つに分けるモデルです。計画を立て、人生を設計する「理性の脳」。本能と反射をつかさどり、目の前の刺激に飛びつく「衝動の脳」。

著者はこれを政府とトカゲにたとえます。やっかいなのは、たいてい衝動の脳のほうが腕力が強いこと。新しい仕事や難しい課題を「脅威」と感じた瞬間、衝動の脳が抵抗感を生み、私たちは反射的に先送りします。

だから、意志の力で勝とうとしても勝てません。著者の立場ははっきりしています。失敗したのは意思が弱いからではなく、やり方の仕組みが悪いから。本書は冒頭でこう宣言します。

現実の成功の鍵は、実際の行動を支えるシステムがあるかないかにかかっている。

自分を責める前に仕組みを疑え、という出発点は、精神論で疲れ切った人ほど救われるはずです。ちなみに著者は効率を「創造力のレベル×整理のレベル」と定義します。整理が苦手なのは性格ではなく、仕事の組み立て方の問題だ、という割り切りも気持ちがいい。

機能するシステムが満たす7つの条件

では、どんな仕組みなら回るのか。著者は機能するシステムの条件を7つ挙げます。ありたい姿が明確な「明確なビジョン」、複数を同時にやらない「一事に集中」、一気にではなく続ける「少しずつ頻繁に」、範囲や時間に枠を設ける「リミットを設ける」、新規追加を許さない「クローズ・リストを使う」、外部刺激に反射しない「突発の仕事を減らす」、面白そうと責任を持つことを分ける「コミットメントと興味を区別」。

なかでも私が膝を打ったのが「リミットを設ける」です。制限は創造力を奪うと思われがちですが、著者は逆だと言う。シェイクスピアも松尾芭蕉も、詩や俳句という「言葉を縛る型」のなかで傑作を生みました。

何でもありの白紙の前で、人はかえって動けない。制約こそが力を一点に集めるという指摘は、本書全体を貫く美学でもあります。

マニャーナの法則自体、「今日は今日と決めたものしかやらない」という制約装置なのです。

「すぐやる人」ほど大事な仕事が終わらない

本書が痛快なのは、世間で美徳とされる「すぐやる」に真っ向から噛みつく点です。著者はこれを「忙しいだけの仕事に飛びつく元凶」と一刀両断します。

ここで効くのが、仕事を2種類に分ける視点です。「本当の仕事」とは、計画を前進させる根幹で、綿密な計画と思考を要し、あなたのスキルをフルに使う仕事。対して「忙しいだけの仕事」は、高度な思考が要らない作業的な処理のこと。問題は、後者がしばしば前者から逃げる隠れ蓑になることです。

忙しいだけの仕事は、本当の仕事をしない口実に過ぎません。

重い企画書を放置して、メール返信やデスクの片づけに精を出す。あちこち動き回って慌ただしくしていると、仕事をした気分になれる。でもそれは、本当の仕事を巧妙に忘れているだけかもしれない。

耳が痛い人は多いでしょう。私自身、メールの即レスを「仕事ができる証拠」と思い込んでいた節があり、本書にやんわり急所を突かれました。

だから著者は、新しい頼まれごとには「まずノーと言ってしまう」ことを勧めます。際限なく引き受けるのをやめ、何をやるか以上に「何をしないか」を先に決める。引き算が先、というのが本書の流儀です。

あえて緊急度の低い仕事から手をつける

優先順位の常識も覆されます。普通は重要度と緊急度のかけ算で順位を決めますが、著者は「緊急度の低いプロジェクトから取り組め」と言います。

理屈はこうです。緊急度で順位を決めると、重要だが急ぎでない仕事は永遠に後回しになり、締め切り間際に必ず慌てる。しかも著者によれば、世にある「緊急な仕事」の多くは、適切な時期に着手しなかったせいで緊急化した「ニセの緊急事態」にすぎません。

早めに少しずつ進めておけば、そもそも炎上しない。逆説のようでいて、火種のうちに消すという当たり前の話でもあります。

マニャーナの法則とWILL DOリスト

いよいよ本書の核心です。「マニャーナ」はスペイン語で「明日」。1日に発生した仕事はその日に手をつけず集めておき、翌日にまとめて類別して処理する。これがマニャーナの法則の骨格です。

この一手間で、仕事と自分のあいだに「バッファー・ゾーン」、つまり心理的なクッションが生まれます。突発的な依頼に脊髄反射せず、一晩おいて落ち着いて判断できる。

著者の見立てでは、明日まで待てないほど本当に緊急な仕事は、火災避難や消防士の出動くらいしかない。たいていの「今すぐ」は、相手の都合か自分の焦りが作り出した幻なのです。

その器になるのが「タスク・ダイアリー」、1日1ページのノートです。新しく届いた仕事は今日ではなく明日のページに書く。ノートそのものが時間的な堤防として働く仕掛けで、デジタルツールでも同じ運用ができます。

そしてリストの思想が根本から変わります。仕事の最中にもいくらでも追加できるのが従来の「オープン・リスト」。これでは消すより足すほうが速く、永遠に終わりません。

代わりに使うのが「クローズ・リスト」。ここまでと制限ラインを引き、一度閉じたら追加しない。著者の決め台詞が刺さります。あなたに必要なのは「するつもり」のTO DOリストではなく、「すると決めた」WILL DOリストだ、と。

前日の終わりに明日「必ず完了させる」仕事だけを書き、一番下に線を引く。線から下は追加禁止。これがWILL DOリストです。

本書には腕のいい整備士ジョーと、腕は普通だが整理上手なミックの対比が出てきます。ジョーは頼まれるたび「いつでも持ってきて」と無計画に引き受け、工場は常に車であふれ、クレームが絶えない。

ミックは修理能力と予約を把握し、車ごとにチェックリストを作って淡々と進めた。結果、ミックのほうが早く仕上げ、評価も収入も上回った。リストを閉じることの威力を、これほど直感的に示す例はありません。

著者はやる気の正体にも触れていて、人が最もやる気を出すのは熱意を感じる時ではなく「仕事が予定どおり進んでいると実感する時」だと言います。閉じたリストを一つずつ潰す感覚が、そのまま燃料になるわけです。

毎朝の「ファースト・タスク」とダッシュ法

仕組みを日々回すエンジンが「ファースト・タスク」です。毎朝メールを開く前に、いちばん進めたい重要な仕事へ最初に手をつける。向いているのは、やり残しの片づけ、仕事のシステム改善、プロジェクトの前進の3つ。

肝心なのは量ではありません。たとえ5分でも、一番初めに着手して成果を積む。それだけで本当の仕事が毎日ほんの少しずつ前へ進みます。

最後の壁は先送りそのもの。ここに著者は「ダッシュ法」を用意します。5分から最長40分、休まず一点に集中する短距離走です。タイマーをセットし、その間は一つの課題から手を離さない。

コツは最初を5分という拍子抜けする短さから始めること。嫌な仕事ほど、入口を低くすれば抵抗感を越えやすい。締め切り直前に集中力が跳ね上がる「期限の効果」を、人工的に作り出す発想です。

ここにも逆転があります。普通はキリのいいところで休みますが、著者はあえて仕事の途中で中断しろと言う。人間は完成を求めるので、中途半端で止めると脳が「早く戻りたい」と疼く。

だから再開のハードルが下がる。インターバルは長くても2〜3分まで。手の止まらない大仕事には「二等分法」を使います。仕事を半分に、その半分をさらに半分にと、抵抗感が消えるまで割り続ける。

すると最後尾に「今すぐできる第1段階」が必ず現れる。著者いわく、より細かいタスクに分解できるなら、それはもうタスクではなくプロジェクトだ。手がつかない仕事は、たいてい行動可能な単位まで割れていないだけなのです。

そして達人の境地が、抵抗感の捉え直しです。逃げれば逃げるほど抵抗感は膨らむ。ならば抵抗感を、避けるべき警報ではなく「行動をうながすサイン」として読み替える。

気が重いということは、それがあなたにとって本当に重要な仕事だという証拠かもしれない。視点を一つ反転させるだけで、先送りの悪循環から抜け出す糸口が見えてきます。

この本の限界も正直に書いておく

万能ではありません。著者自身が認めるとおり、消防士や窓口業務のように常時「今すぐ」を求められる職種では、マニャーナの法則をそのまま使えない。著者はこれを組織やシステムの問題だと整理しますが、現場の個人の裁量だけで突破するには限界がある領域です。

もっとも著者の指摘には鋭さがあります。「今すぐ」が頻発するなら、それは個人の能力不足ではなく、人員不足やマニュアルの不備といった組織側の欠陥だ、と。

上司が思いつきで突発の仕事を振る行為は、部下の計画を破壊するに等しいとも言い切ります。本書は個人の時間術として読めますが、マネジメントの責任論として読むと、また別の射程を持って迫ってきます。

今日からできる3つ

著者は、半日試せば効果が出始め、24時間で仕事の整理が整うと言います。最初に動かすべきはこの3つです。

  1. 日中に来た仕事は明日のリストへ回す。即対応せず、明日のページかトレイに放り込み、本当に「今すぐ」のものだけ今日やる。通知はオフに。
  2. 退社前に明日のWILL DOリストを作り、最後に線を引く。線から下は足さない。閉じることに意味があります。
  3. 気が重い仕事に、タイマー5分でダッシュする。朝いちばんのファースト・タスクとして手をつけ、5分で一度止める。続けたくなったら軌道に乗った合図です。

最後にもう一度、あの一文へ戻ります。足りないのは時間ではなく仕組みだ、と本書は言い続けます。明日まで待てないほど緊急な仕事は、思っているほど多くない。

明日届くメールのうち、まずは一通でいい。反射的に返さず、明日のリストへ静かに回してみる。その小さな余白こそが、本当の仕事のための時間になります。


合わせて読みたい

『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』中島聡さん 締切前の徹夜をゼロにする「ロケットスタート時間術」。マニャーナの法則が説く「早めに少しずつ着手する」発想と地続きで、本当の仕事を前倒しする実装方法として読めます。

『一点集中術』デボラ・ザックさん 1日中働いたのに何も終わっていない理由を解く一冊。本書の「一事に集中」「忙しいだけの仕事」と響き合い、集中を奪う割り込みへの対処を補ってくれます。

効率化するほど忙しくなる逆説。 「すぐやる」「効率化」が裏目に出る構造を扱ったコラム。本書の「すぐやるは忙しいだけの仕事の元凶」という主張と同じ穴を別角度から照らします。


この記事をシェア:

次に読む一冊

同じテーマを、もう一段深く考えるための一冊です。

生産性・時間術・習慣『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』F太・小鳥遊|要領の悪さは性格じゃなく「手順書がない」だけ『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』(F太・小鳥遊)の要約。同じ仕事を毎日しているのに、「次は何をするんだっけ」と手が止まる。提出物に誤字が残る。気が重くて、簡単なメールを夕方まで放置してしまう。