「新しいアイデアを思いつかないと、ビジネスでは成功できない」。そう信じて、最初の一歩で固まってしまう人は多いはずです。
著者の竹之内教博さんは、まったく逆の立場をとります。オリジナルを狙うのは宝くじを当てるようなもので、むしろ失敗の確率を上げてしまう。成功への最短ルートは、すでに売れているものを徹底的に真似ることだ、と。
竹之内さんは天才発明家でも資産家の息子でもありません。元美容師です。その普通の男が、リラクゼーション店「りらくる」をたった7年で直営600店舗以上に広げ、イギリスの大手ファンドへ約270億円で売却しました。
この本のすごみは、巨額の成功を「運がよかった」で片づけないところにあります。何を選び、いくらに削り、どう回収したか。再現性のある手順として、出し惜しみなく開示されているのです。

こんな人におすすめ
何かを始めたいのに「自分には武器になるアイデアがない」と感じて足が止まっている人に、まず読んでほしい一冊です。
- これから起業したいが、「何を売ればいいか」が決まらず動けない人
- 1店舗や1事業はうまくいったのに、「自分が抜けると回らない」と感じている経営者
- 会社で出世したいが、評価されるのを待つばかりで手応えがない会社員
この3つに少しでも心当たりがあるなら、本書の打ち手はそのまま明日の行動に変わります。逆に、職人技やブランドそのものを売る商売を志す人には、後述するとおり処方箋が合わない場面もあります。
この本の核心と強み
本書を一言でいうと、「凡人が大金を手にするための、再現可能な手順書」です。
主張はシンプルです。成功事例を徹底的に真似て、お金をかけず小さく始め、属人性を排した仕組みで一気に広げる。机上の理論ではなく、7年で600店舗という実績がそのまま証拠になっています。
強みは、精神論で終わらないことです。「やる気を出せ」ではなく、原価をいくら削るか、その経費はどう回収するか、という数字の話で語られます。だから読んだその場で、手元の仕事に移せます。
ただし著者自身が限界も認めています。効率とスピードと利益を極限まで追うモデルなので、ミシュランの星を狙うような職人技や、ブランド価値そのものを売る商売には向きません。
万能の法則ではなく、参入障壁の低いビジネスで圧倒的に勝つための法則です。ここを取り違えると痛い目に遭います。本記事では、起業の意思決定の順番——何を始めるか、どう広げるか、どう利益を残すか——に沿って、この三段で本書の背骨を押さえていきます。
オリジナルはいらない。「真似」が答え合わせになる
本書のすべての出発点が、「真似は学びの第一歩」という考え方です。
竹之内さんは、誰もやっていない斬新なビジネスで勝負することを「ギャンブル」と呼びます。世の中に存在しないビジネスの多くは、誰かがやって淘汰された結果かもしれない。
それなら、いま実力で売れている店を見つけ、その成功要因を丸ごと真似るほうが、はるかに失敗が少ない。この「存在しない=市場が否定した可能性がある」という見方は、独創への憧れを冷静に削いでくれます。
面白いのは、「差別化」すらも真似しろと言い切るところです。独自の差別化をひねり出すのではなく、他店が差別化で売上を伸ばした手法をリサーチして真似る。オリジナルを絞り出す苦しみから、起業家を解放してくれる視点です。
この姿勢は子どもの頃からのものでした。中学生のとき、学年トップの加藤くん(仮名)に勉強法を聞き、毎日5時間勉強する、英語の教科書を丸暗記する、といったやり方を徹底的に真似た。
結果、自分もトップになり、卒業までその座を譲らなかったといいます。ビジネス以前から、真似は彼にとって勝つための作法だったわけです。
「成功しているものを必死で真似していると、その成功の理由に気づくことができるのです。」
ここが肝心です。真似は単なるコピーではありません。手本の上をなぞるうちに、自分では気づけなかった成功の理由が手で分かってくる。だから自己流で悩むより速い。
「一番になる方法は、一番の人が知っている」という言葉が、この章を貫いています。注意したいのは、多くの人は真似ているつもりで自己流のアレンジを足してしまうこと。
まずは完コピしてから、理由が腑に落ちてはじめて変えていい、という順番です。
「何を売りたいか」ではなく「何が売れているか」
真似と並ぶもう一つの入口が、スモールスタートです。
竹之内さんは、借金をして大きく始めることに反対します。新しい事業を始めるなら、お金をかけず、実験として小さく試す。身近なコミュニティで、実際にお客様がお金を払いリピートしてくれるかを確かめてから、徐々に広げる。
ここで彼が突きつけるのが、起業家が陥りやすい間違いです。
「自分で事業を始めようとする人がまず考えなくてはいけないのは、『何を売りたいか』ではなく、『何が売れているか』なんです。」
自分の好みを優先すると、市場のニーズとズレて失敗する。だから「人が集まってからビジネスを始めるべき」だと言います。りらくる以前のサプリメントショップも、原材料を自らパッキングし、3坪の極小店舗から始めています。
りらくる1号店も、目立たないビルの2階、開業資金は募集費込みで100万円以内でした。需要を確かめるまでは、固定費という名のリスクをできる限り背負わない。
これが彼の流儀です。
逆に、この原則を破ったときに何が起きるか。コッペパン専門店「こぺてりあ」では、成功への自信から一気に6店舗を出してしまった。物珍しさのブームが去ると売上が落ち、立地の良い1店舗を残してすべて撤退することになりました。
成功者でも、小さく検証する手順を飛ばすと足をすくわれる。失敗例まで載せているところに、この本の誠実さがあります。
100点の1店舗より、80点の10店舗
ここからが本書最大の差別化点、多店舗展開の肝です。
竹之内さんは、各店舗に店長を置きません。直営600店舗すべてに、です。優秀な人材に頼る経営は、その人の確保と育成に時間とお金がかかり、出店スピードの足かせになる。だから、誰がやっても回る仕組みのほうを選びます。
具体的には、各店舗にWEBカメラを設置し、本部のパソコンから予約状況や売上をリアルタイムで把握する。売上金の回収のような作業も、店長という役職ではなく、出勤しているセラピストに手当を払って頼む。
プロなら習得に2ヶ月かかる施術を、極限まで削ぎ落として、未経験者でも2週間で現場に出られるマニュアルと器具を開発しました。役職で人を縛るのではなく、仕事を小さく分けて誰にでも渡せる形にする。
これが属人性の排除の正体です。
そして仕組み化を支える割り切りが、これです。
「重要なのは『8割でいいと割り切る』ということです。」
経営者がつきっきりで1店舗の売上を100点まで上げても、その店からは離れられません。それより、誰でも80点を出せる仕組みを作るほうがいい。100点の1店舗より、80点の10店舗。
多店舗展開の判断基準は「オーナーが現場を抜けても黒字になるか」の一点に尽きます。完璧主義こそが拡大を止める、というパラドックスです。
この発想は、人の使い方にもつながります。社員アンケートでは「出世したい」が3割、「マイペースで昇進したい」が7割でした。だから竹之内さんは、全員を育てようとはしません。
向上心の高い2割にマニュアル作りや幹部の仕事を任せ、残りの人には働きやすいルールを用意する。「その人ができないのは、うまく仕組み化できていない自分が悪い」と考えるようになった、という一言が、このパートの本質です。
人を責める前に、仕組みを疑う。マネジメントの矢印を自分に向け直すこの視点は、店舗経営に限らず効きます。
その経費は、どう回収できるのか
最後は、利益を残すための思考法です。
竹之内さんは、すべての経費に対して「この投資はどう売上に繋がり、回収できるのか」を問います。そして「思い込みを捨て、実験で判断する」。ここで効くのが、彼の事業改革の具体例です。
参画した「ファンタジーキッズリゾート」では、月3万円でレンタルしていた水槽の集客効果をアンケートで検証しました。すると、水槽の存在を知っていた人は20人に1人。
なくなったら利用頻度が変わると答えた人はゼロ。撤去で年間720万円の経費が浮きました。「なんとなく良さそう」を、数字が一刀両断したわけです。
価格の実験はもっと意外です。レギュラーコーヒーを320円、220円、120円で売ってみたら、一番高い320円が一番売れた。「安いほうが売れる」は思い込みでした。
新アトラクション導入時には入場料を1200円から1500円へ25%上げても、客数は減らなかった。値付けは勘ではなく事実で確かめる。だからこそ、こういう勇気のある打ち手が出てきます。
「減らした支出は丸々儲けになると思え」
売上を増やすのと同じくらい、無駄な経費を削るのが利益に直結する。そして大事なのは、この判断基準を経営者だけが持つのではなく、全社員と共有することです。
竹之内さんはこれを「マインドの仕組み化」と呼びます。全員が同じ基準で意思決定できれば、いちいち上の判断を仰がなくて済み、組織のスピードは一気に上がります。
このスピードへの執着は、出店の現場にも貫かれています。彼はオープン日を絶対に動かしません。一日遅れれば、その一日に得られたはずの売上は二度と戻らない——失った時間は、見えないけれど確実な損失だという発想です。
ついでに切り捨てられるのが、報告だけの会議。進捗の報告はメールやチャットで足りる。集まる時間は、売上を上げる方法と経費を下げる方法を出し合い、その場で決める場に使うべきだ、と言い切ります。
今日からできること
本書の打ち手のうち、すぐ動かせるものを3つに絞ります。
1. 実力で売れている手本を1つ選び、観察に行く 参入したい分野で、ブランドではなく実力で繁盛している店や人を1つ決める。現地に足を運び、客数、客層、価格帯、スタッフの動き、混む時間帯をメモして、利益をざっと試算してみましょう。
2. 価格やサービスを、思い込みを捨てて複数パターン試す 「安いほうが売れる」のような前提を一度外す。コーヒーの実験のように、価格や見せ方を2〜3パターン用意して、実際の数字で反応を確かめてから決めます。
3. 自分の仕事を分解して、誰でもできるルールにする 「自分にしかできない」と思っている作業を書き出して工程に分ける。それを誰でも実行できる手順に落とし、実行されたかが一目で分かる形(完了の印を残すなど)にしておきます。
「意識する」で終わらせず、まず手本を1つ決めて観察に行く。そこからしか始まりません。
おわりに
この本を読み終えて残るのは、肩の力が抜ける感覚です。
天才のひらめきも、誰も思いつかない発明も要らない。実力で売れている手本を真似て、小さく試して、誰でも回せる仕組みにして、8割で割り切って広げる。竹之内さんが270億円を手にした道のりは、驚くほど地味な手順の積み重ねでした。
だからこそ、再現できる。明日、あなたが参入したい分野で一番うまくいっている誰かを、まず1人見つけるところから始めてみてください。
合わせて読みたい
『無印良品は、仕組みが9割』松井忠三 りらくるの「店長を置かない仕組み化」をさらに体系的に学べる一冊です。赤字38億円からのV字回復を支えたマニュアル運用は、属人性を排して8割を量産する本書の発想と重なります。
『とにかく仕組み化』安藤広大 「人を責めるな、仕組みを責めよう」という思想は、「できないのは仕組み化できていない自分が悪い」という竹之内さんの一言と同じ地点に立っています。組織を仕組みで動かす考え方を深めたい人に。
『億を稼ぐ積み上げ力』マナブ 才能ゼロの凡人が再現可能な習慣で大きく稼ぐという点で、本書と問題意識が共通します。ひらめきではなく手順で成功を作る、という読後感を補強してくれます。
