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『ノイズに振り回されない情報活用力』鈴木進介さん|情報は集めるほど、答えから遠ざかる

学習・インプット ✍ 鈴木進介さん
約8分で読めます

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『ノイズに振り回されない情報活用力』
目次

「とりあえず検索しておこう」。この口癖を、これまで何回つぶやいたか覚えていません。

調べて、ブックマークして、いつか使うかもとフォルダに放り込む。なのに、いざ何かを決めようとすると頭の中はぐちゃぐちゃで、結局決められない。そんな経験に心当たりがあるなら、この本はかなり痛いところを突いてきます。

鈴木進介さんの『ノイズに振り回されない情報活用力』を読んで、決められない理由がはっきりしました。情報を集めれば集めるほど、私たちは答えから遠ざかっている。本書が突きつけるのは、その一見シンプルな逆説です。

成果を出す人の頭はシンプルで、抱え込んだ情報の8割は捨てている。価値があるのは、残った2割だけ。本書は、この2割を見極めるための「引き算」の技術を、インプットから伝え方まで一気通貫でまとめた一冊です。情報を「もっと集めなきゃ」と焦っている人ほど、読後に肩の力が抜けると思います。

図解

こんな人に効く本

どんな本にも当てはまる「情報に悩む人」ではなく、もっと具体的に、こういう場面に心当たりがある人に効きます。

3つとも、原因は「集める力」の不足ではありません。むしろ逆で、「捨てる力」が足りていない。集めるのは誰でもできる時代になったぶん、捨てられる人が希少になった、ということでもあります。本書はそこを正面から扱います。

情報は「足す」のではなく「削る」

まず核心から書きます。著者の主張は「より少ない情報にこそ価値がある」という一点に尽きます。

私たちはつい、情報量が多いほど良い判断ができると思い込んでいます。でも著者は、玉石混交の情報をそのまま抱え込むと、肝心の本質が埋もれて見えなくなると言う。ここで使われる比喩が見事でした。

彫刻家ミケランジェロは、ダビデ像をつくるとき粘土を足したのではなく、大理石の不要な部分を削り取った。

(鈴木進介『ノイズに振り回されない情報活用力』より、趣旨を要約)

本質は「足す」ではなく「削る」ことで現れる。この引き算の発想が、本書を貫く背骨です。情報を貯め込むことで安心していた自分には、なかなかこたえる指摘でした。ストックが増えるほど「ちゃんとやっている感」は出るのに、決断はむしろ重くなっていく――この矛盾を、本書はミケランジェロの一場面で一発で腑に落とさせてきます。

そして著者は、情報の扱いを3つのステップに分けます。インプット(Input)、整理(Seiri)、アウトプット(Output)。頭文字をとって「ISO」と呼びます。

各ステップにフィルターを置き、段階的にノイズを削り落としていく。これが本書全体の地図です。以下、その3ステップと、それを下支えする環境づくりを順に見ていきます。

「とりあえず検索」が、なぜ時間を奪うのか

本書がまず解剖するのは、ノイズの正体です。ノイズとは「余分で価値がない情報」のこと。目的や仮説から外れた情報や、感情的に装飾された大げさな表現を指します。

厄介なのは、私たちが無意識にノイズを増やしている点です。「とりあえず検索」「いつか使うかも」で集めた情報は、結局ほとんど使われない。それどころか、後から見返す手間を生む「負債」になる。保存した瞬間は安心するのに、その安心がじわじわ自分の時間を食っていくわけです。

ここで著者が持ち出すのが「80対20の法則(パレートの法則)」です。成果の8割は、2割の重要な情報から生まれる。だから残りの8割は思い切って捨てる。情報にもこのスタンスを当てはめよう、という提案です。

捨てるのは怖い。せっかく見つけたのに、と思う。でも、抱え込んだまま埋もれさせるほうが、よほど成果を遠ざける。この章は、その当たり前のようで実践しづらい事実を、丁寧に納得させてくれます。

私はここで、ブックマークフォルダの大半が「いつか」のまま死蔵されている現実を直視させられました。

インプット――集める前に「出口」を決める

ここからISOの実践です。最初はインプット、情報を集める段階。

私の頭を一番ひっくり返したのが「出入口の法則」でした。アウトプット(出口)の目的や形式を先に決めてから、それに合う情報だけをインプット(入口)する、という原則です。

普通は逆ですよね。集めてから「さて何に使おう」と考える。でもそれだと、何でもかんでも拾ってしまい、ノイズだらけになる。先に出口を決めておけば、必要な情報の輪郭がはっきりして、検索の海で迷子になりません。

だから本書は、検索窓に向かう前に2つを書き出すよう勧めます。ひとつは「ゴール」。何のために、何をどれくらい得たいのかを、最初に言葉にしておく。

もうひとつは「仮説」。「どんな状況が想定されるか」という筋道を先に立てておく。仮説があると、検索結果を取捨選択する基準が手元にできます。仮説なしで検索すると画面に出てきた情報に振り回されるが、仮説があれば検索は「答え合わせ」に変わる。

同じ検索でも、頭の使い方がまるで違うという指摘には素直にうなりました。

ノイズを物理的に弾く工夫も具体的です。検索時にマイナス記号で不要なキーワードを除外する「not検索」。情報を見つけても即ブックマークせず、一度読み込んで仮説に沿った最小限だけを残す作法。

さらにユニークなのが、収集を始める前に空のフォルダを15個ほど先につくっておく、という手法です。関心テーマの「箱」を先に用意しておくと、情報が来たときに迷わず仕分けでき、行き場のないストックが減る。

情報整理ではなく「情報が来る前の準備」に主眼を置いている点が、いかにも引き算的だと感じました。

行き詰まったときの「リフレーム」も紹介されています。問いの視点を変える技術です。タバコのポイ捨てを減らしたいとき「どうすれば捨てさせないか」ではなく「どうすれば吸い殻を灰皿に入れたくなるか」と問い直し、投票型の灰皿で成功した事例が出てきます。

問いを変えれば、集めるべき情報も変わる。入口の設計しだいで、その先のすべてが変わるという好例です。

整理――一晩寝かせて、3つに絞る

次は整理。集めた情報の質を見極める段階です。

著者がまず言うのは「1日以上寝かせる」こと。情報を手にした直後は興奮していて、冷静に質を判断できない。最低1日置いて「発酵」させてから見極めると、本当に使える情報が選べる。SNSで見た熱い意見を翌日読み返すと熱が冷めている、あの感覚を意図的に使うわけです。

視点を切り替える道具も用意されています。「鳥の目・虫の目・魚の目」です。鳥の目は高所からのマクロな全体像、虫の目は地面に近いミクロな細部、魚の目は過去から未来へ流れるトレンドや時間軸。

同じ情報でも、3つの目で見ると違う側面が浮かぶ。視座を意図的に切り替えることで、自分の思い込みに気づけます。机上の情報を補う「三現主義」――現場・現物・現実を自分の目で確かめる姿勢も挙げられ、画面の中だけで判断しないよう釘を刺します。

そして整理で決定的に重要なのが、情報の「事実」と「意見」を切り分けること。両者が混ざったまま受け取ると、誰かの意見を事実だと思い込んでしまう。

切り分けたうえで「だから何?(解釈)」「次はどうする?(新しい仮説)」を導き、情報を自分の次の一手につなげる。最終的に、使える情報は「3つ」に絞る。

あれもこれもではなく、3つ。この潔さが、後のアウトプットを驚くほど軽くします。

アウトプット――伝えたいことは「1つ」に絞る

ISOの最後はアウトプット。整理した情報を、相手に伝える段階です。

ここでも引き算が効きます。伝える内容は「型」を使って構造化する。本書が挙げるのは、結論→理由→事例→結論の順で話す「PREP法」と、要点→詳細→要点の順でコンパクトに伝える「SDS法」の2つ。

型に当てはめると、余計な前置きや言い訳が入る余地がなくなる。著者はこれを「強制的にノイズを排除する」効果と呼びます。型は窮屈に見えて、実はノイズを締め出す枠なのだ、という捉え方が新鮮でした。

そのうえで、最も伝えたい「1つの中心軸」を決める。3つに絞ったポイントの中で、さらに本当に届けたい1つを真ん中に据える。あれもこれも伝えようとすると、結局何も残らないからです。

表現の細部にも目が向き、「〜ないわけではない」のような二重否定は相手の頭を一瞬止めるので避ける、詰め込みすぎず「余白」を残してインパクトを上げる、比喩で相手の頭に映像を浮かばせる、といった助言が並びます。

どれも「足す」より「削る・整える」方向で一貫しているのが気持ちいい。

環境づくり――「量」と「新しさ」の誘惑を断つ

ISOの3ステップを根底で支えるのが、環境とマインドの話です。私たちは「情報は多いほど良い」「新しいほど良い」という誘惑に常にさらされています。

著者はここに釘を刺します。量と新しさを追い続けるとノイズに飲まれる。むしろ時代が変わっても価値が落ちない「普遍的な情報」を大切にしよう、と。

具体策も実用的です。ポモドーロ法で情報に触れる時間に制限を設ける。スマホやPCから意識的に離れる「情報断食」を、週に半日でもスケジュール帳に予定として入れてしまう。

毎日10分デジタル機器を切り、ノートに手書きで頭の中を吐き出す「じぶん会議」。さらに月に1回「情報の廃棄日」を設けてストックを見直し、使えない情報を捨てる。

意志に頼らず仕組みで断つ、という発想が一貫しています。意志でやめようとすると必ず負けるから、最初から枠で押さえてしまえ、というわけです。

強みと限界――この本が向く場面、向かない場面

最後に、本書の射程を正直に書いておきます。著者自身が前提を限定しているからです。

強みは、抽象的な情報術を日常のエピソードと比喩で説明している点。休日の外食先の検索、物件探しでの気づき、ダビデ像。だから直感的に頭に入ります。

一方で限界もあります。本書のメソッドは「すでに存在する情報から、有益な部分を抽出・整理する」ことに特化している。まったくのゼロから新しいアイデアを発散・拡散させるアプローチへの言及は限定的です。

アイデア出しの本ではなく、あくまで「すでにある情報をいかにシンプルに使うか」の本だと割り切ったほうがいい。

また本書は2022年の出版で、コロナ禍のフェイクニュースや情報の錯綜を背景にしている。だから確証バイアスを警戒し、情報の「信ぴょう性」を疑う視点が強い。この防衛の構えは、生成AIで情報がさらに増えた今のほうが、むしろ刺さるかもしれません。

おわりに

読み終えて、自分の中で変わったことが1つあります。情報を「どれだけ集めたか」で安心するのを、やめようと思いました。

これからは「何を捨てたか」で自分を測ってみる。フォルダがパンパンに膨らんでいるのは、有能の証ではなく、決められていない証拠かもしれない。ダビデ像は、大理石を削ったから現れました。あなたの答えも、たぶん同じ場所にある。集めるのをやめて、削り始めたとき、初めて見えてくるはずです。


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『調べる技術 書く技術』佐藤優さん 情報を「捨てて整理する」本書に対し、こちらは「集めて知性に変える」技術。インプットとアウトプットの両輪をそろえたい人におすすめ。


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