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脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法 中野信子

『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』中野信子|まじめな人ほどカモにされる理由

健康・メンタル 中野信子
約7分で読めます

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この本の全体像
『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』の図解

本の結論

本書の核心は、お人好しという立場から降りることです。

明日やること

次の待ち合わせ場所を、駅前ではなく自分が早く行きたくなる書店など好きな場所に指定してみる

効く悩み

  • SNSで誰かが叩かれるのを見て、言っていることは正論なのに空気が怖いと感じたことがある
  • 職場で感じのいい人を続けているのに、なぜか面倒な仕事だけが自分に集まってくる
  • ダイエットや勉強が三日坊主で終わり、そのたびに自分の根性のなさを疑ってきた

読むべき人

  • まじめにルールを守って正直に振る舞っているのに、なぜか損をしている実感がある人
  • 努力を続けられないのは意志の弱さのせいだと、自分を責め続けている人

読まなくていい人

  • きれいごとで終わらない処世術に抵抗があり、損得勘定や外面と内面を使い分ける話に居心地の悪さを感じたくない人
  • 対談形式ゆえの脱線や具体例の多さより、体系立った理論として整理された一冊を読みたい人
目次

動画で読む要約

「ルールの抜け穴を使うのも戦略のうち」——そう考える人は日本人のわずか3パーセントだといいます。アメリカで同じ質問をすると答えは様変わりし、抜け穴を戦略として肯定する人が3割を超えてきます。この落差が10倍以上あります。

動画で見る

脳科学者の中野信子さんと実業家のひろゆきさんが語り合う本書は、この息苦しさの原因を根性論や国民性から切り離すところに立ちます。弱いのは意志ではなく、背景にあるのは遺伝子と進化の履歴だという読み方です。

読み進めるほど、正論を言っているのに空気に負ける自分や、律儀にルールを守って損をしてきた記憶が、いちいち名指しされているように感じてきます。

図解

「お人好しから降りる」——本書の核心

本書の核心は、お人好しという立場から降りることです。本書がやろうとしているのは、要するにお人好しという立場から抜け出すための実用書です。まじめに正直にルールを守る姿勢を、日本社会は美徳として扱いますが、二人はこれを搾取される側が背負わされる型だと見なします。

対談という体裁がこの本の強みになっています。中野さんが脳科学や歴史の裏付けを持ち出し、その内容をひろゆきさんが日常のちょっとした工夫にまで翻訳し直します。

抽象的な理屈のままでは終わらず、明日から真似できる行動として着地します。取り繕った優しさは書かれておらず、読み進めて落ち着かなくなる箇所も少なくありませんが、その不快感自体が本の主張を裏づけています。

構成はおおむね四段になっています。

外見にまつわるハックは特定の章に留まらず、全体を横断して顔を出します。

不安の遺伝子と、目立たない立ち回り方

先頭に立って旗を振る1番手よりも、3番手や4番手あたりに収まっているほうが、狙われにくく安全だと本書は説きます。議論の土台になっているのが、脳内でセロトニンを回収して使い回すタンパク質、セロトニントランスポーターの話です。この密度が低いタイプは日本人のおよそ97パーセントを占め、密度が低い人ほど不安を感じやすい傾向があります。

「密度が低いと、自分が不当に扱われたと感じたときに、自分の利益がゼロになったとしても、相手を攻撃する」

スパイト行動:得をしている相手を、自分が損をしてでも引きずり下ろそうとする心理。

台風や地震が頻発する島国では、警戒を怠る楽観的な個体から先に淘汰されてきたのだろう、と二人は推測します。

冒頭で触れた3パーセントという数字も、この根深い警戒心の表れだと読めます。ルールを裏から読む技術も詭弁をかわす術も、日本の学校では教わりません。だからこそ、有利なルールを外から持ち込む相手にとって格好の標的になりやすいです。

こうした構造の中で、どう身を処せばいいのか。導かれる答えは案外消極的です。先頭に立つ1番手よりも3番手や4番手が安全だという古い知恵です。目立つ者が生け贄に選ばれるという古い慣習を、いまのネット炎上と同じ構図として読み替えています。

キャラクターの作り方も防御の手段になります。折り目正しさを前面に出していた人物ほど、失態が出た瞬間に受けるダメージは大きいです。最初から几帳面さを期待されていない立ち位置なら、同じ失敗をしても大目に見てもらえます。

手にした成果や私生活の充実を大っぴらに語らず、すりガラス越しにぼかしておく姿勢が、長く安全でいるための流儀だといいます。

外面はギバー、内面は合理主義——一貫性という罠

外面はギバー、内面は合理主義という二重構造が、身を守るもっとも強力な手立てになります。本書の中でもとりわけ賛否を呼びそうなのが、この処世術です。周囲から与えられる側のテイカーと、与える側のギバーを比べると、平均年収はテイカーの方が高いという調査結果が引かれます。

企業のトップに立つ人物のうち、共感や罪悪感の乏しいサイコパス的な傾向を示す割合は、一般の平均よりはるかに高く跳ね上がるという研究も紹介されます。

とはいえ、あからさまに人を利用する者も、隠さないサイコパスも、集団からは早々に弾き出されてしまいます。そこで二人が提示するのが、外側と内側を切り分けるという発想です。

表向きは誰からも好かれる与え手を演じて信頼を積み、内側では感情に流されず損得で判断します。もっとも、演技でしかない共感には半年から数年という期限があり、そこを過ぎれば必ずほころびが出ます。

だから一つの共同体に長居せず、人の入れ替わりが激しい場所を渡り歩くところまでがセットになっています。

日本で高く評価される「ブレない」という姿勢を、本書は思考の柔軟さを奪う落とし穴として描き直します。心の中では間違いに気づいていても、以前に口にした手前引っ込みがつかなくなります。

変化の速い時代には、この頑固さがそのまま命取りになりかねません。引き合いに出されるのが、朝鮮語と日本語を使い分け、朝鮮王朝と江戸幕府のそれぞれに都合のいいように書簡の中身まで書き換えていた、対馬の大名の外交術です。

二枚舌と呼ばれかねないやり方でありながら、小さな領地と一族を戦国の世から江戸期まで存続させています。理想を語って滅びるより、前言をひるがえしてでも生き延びる柔軟さこそが知性だという結論に落ちます。

努力は環境で作るもの——知性・共感・外見も設計できる

努力は意志力で続けるものではなく、環境で作るものです。知性も共感も外見も設計できると本書は考えます。実生活でいちばん使い出のある部分がここです。継続して努力できるかどうかは意志力の問題ではなく、脳内の物質が働く速さといった生まれつきの要因でおおむね決まると二人は言い切ります。

「脳に努力を努力と思わせたら負けなんです。」

だから意志の力をあてにせず、放っておいても行動してしまう仕掛けを先回りして用意します。具体例は3つ挙がります。

いずれも意志力ではなく仕掛けで行動を動かしています。努力そのものを崇めてしまう人は、都合よく利用したい側にとって理想的な標的になります。うまくいっている人が実際には地道な行動量で結果を出しているのに、それを隠して「強く願ったから叶った」と語りがちな引き寄せの法則についても、後から来る競争相手を出し抜くための情報操作ではないかと二人は疑いの目を向けます。

知性についての定義も塗り替えられます。試験の得点より、相手の心の動きを読み取る力のほうが、本当の意味での頭の良さだといいます。豊臣秀吉が主君の織田信長の前でわざと間の抜けた振る舞いをして警戒心を解いた逸話や、番組の空気を瞬時に読んでちょうどいい反応を返すタレントたちの技術が、その具体例として語られます。

共感力についての見立ても意外です。カウンセラーに向いているのは親身になりすぎる人ではなく、仕事として距離を保てる人だといいます。相手に深く感情移入するのではなく、相手の立場を頭で理解する技術のほうが、長期的には成果を支えます。外見に関しても、出所前に美容整形を受けた元受刑者は再犯率が下がったという実験が挙げられ、見た目の印象そのものが本人の振る舞いを左右してしまう様子が描かれます。

脳の働きを底上げする方法についても言及があり、脳トレアプリより楽器の演奏のほうが、複数の作業を同時にこなす力を支える神経回路に実際の変化をもたらすといいます。

鍵盤を指で押す動きには、リズムという逃げ場のない時間的な制約が伴います。この強制力が、自分のペースで進められる作業とは違う負荷を脳にかけるのだと本書は説明しています。

美醜の基準そのものも時代とともに動く、という話も面白いです。数十年という短いスパンで好まれる体つきが入れ替わってきた例が挙げられ、基準が固定されると人はそれを逆手に取ってハックし始めるからではないか、と二人は仮説を立てます。

明日からできること

「毎日続ける」と意志の力に頼るのをやめ、続けざるを得ない状況を先に一つ仕込みましょう。好きな書店を待ち合わせ場所に指定する、通勤の経路上にジムを配置する、といった具合です。

何を頼まれても快く引き受ける完璧な人物を演じるのをやめ、隙やだらしなさを少しだけ覗かせておきます。過剰な期待という重荷が軽くなり、標的として狙われる確率も下がります。

1日5分、実際の楽器を使わずに鍵盤と指の動きを頭の中でなぞる「エアピアノ」を試します。脳トレアプリに費やしていた時間を、そのまま置き換えればいいです。イメージするだけでも、実際に弾いた場合に近い脳の活性が確認されているといいます。

合わせて読みたい

似た問いを別角度から扱う3冊を挙げておきます。

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘玲(記事はこちら) 頑張れば報われるという掛け声が、時に人を縛る鎖になります。その構造を暴いた一冊で、努力を特別視しない姿勢が本書と響き合いながら、どこで勝負するかという場所選びの話にまで踏み込んでいきます。

『僕が若い人たちに伝えたい 2035年最強の働き方』ひろゆき(記事はこちら) 対談のもう一人の語り手が、一人で書き下ろした働き方論。律儀に働くほど損を背負い込む仕組みという切り口は、この本が描く日本社会のバグと足元でつながっています。

『行動科学が教える 目標達成のルール』オウェイン・サービス、ロリー・ギャラガー(記事はこちら) 気合いに頼らず目標を達成する方法を、実験の裏付けとともに組み立て直した一冊。この本が語る「努力しなくて済む仕組みづくり」を、より細かい手順として知りたいときに開きたいです。ポテトチップスや空港ラウンジの話が面白かった人には、特に相性がいいはずです。

明日の1アクション

次の待ち合わせ場所を、駅前ではなく自分が早く行きたくなる書店など好きな場所に指定してみる


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