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『言いたいことは小5レベルの言葉でまとめる。』手代木聡さん|伝わる言葉に、難しい語彙はいらない

コミュニケーション・文章術
約7分で読めます

一生懸命に説明しているのに、相手にうまく伝わらない。

そんなとき、多くの人は「自分は語彙力がないからだ」と考えます。もっと言葉を覚えよう、難しい表現を身につけようとする。

でも、この本はその努力にきっぱり「ノー」を突きつけます。著者の手代木聡さんは電通西日本のコピーライターで、25年以上この仕事をしてきた人です。その手代木さんが言い切るのは、伝わる言葉に難しい語彙は一切いらない、ということ。小学5年生でも知っている言葉の組み合わせだけで、相手の心は動くというのです。

なぜそう言えるのか。私たちが「伝わらない」と悩む本当の原因はどこにあるのか。本書の全体像を追っていきます。

こんな人におすすめ

この本の核心――「伝える」と「伝わる」は別物

本書を貫く一番のメッセージは、「伝える」と「伝わる」はまったく違う、という一点です。

「伝える」は、こちらから一方的に情報を出している状態。矢印が一方通行です。一方の「伝わる」は、相手がその言葉を受け取って納得し、実際に行動を変えた状態を指します。

本書ではこれを「行動変容」と呼びます。商品を買う、すぐに動く。相手の行動が変わって、はじめて「伝わった」ことになる。

では、なぜ伝わらないのか。手代木さんはこう指摘します。

頭の中にある「言葉の棚」を整理してから、相手に伝えよう。

「言葉の棚」とは、頭の中にある情報の保管場所のことです。コンビニの棚が商品を種類ごとに並べているように、言葉も整理されているべきなのに、多くの人はバラバラのまま渡してしまう。化粧品の棚にピザまんがむき出しで置いてあるような状態です。

しかも整理の基準は「自分が言いたいこと」ではありません。「相手が求めているもの」を基準に棚を並べ直す。これが本書の土台になる考え方です。

そしてその棚に並べる言葉は、難しいものである必要がない。平均的な10歳の子どもが知っている言葉は約1.2万語といわれます。大人はすでに、伝わる言葉をつくるのに十分な語彙を持っている。

小5レベルの言葉には、3つの利点があります。早く伝わる。間違いなく伝わる。誰でも使える。複雑な言葉は、現代では一瞬でスルーされてしまうからです。

古代ギリシャの哲学者ピタゴラスも、こう説いていました。「多くの言葉で少しを語るのではなく、少しの言葉で多くを語りなさい」。情報があふれてタイパが重視される今、短く本質を突く言葉の価値はますます高まっています。

手代木さんはこれを「コトバ・イズ・マネー」と表現します。わかりやすく伝えられることは、お金と同じくらい貴重な価値を持つ、という意味です。

モヤモヤを言葉にする技術――セルフなぜ?と再定義

「言いたいことはあるのに、言葉が出てこない」。そんなときの手法も具体的です。

ひとつは「画像3枚法」。たとえば「かわいい」のような漠然としたイメージを言語化したいとき、関連する画像を3枚選び、その共通項(色、構図、文字の大きさなど)を言葉にしていく。視覚から言葉へ変換する方法です。

もうひとつが「セルフなぜ?」。自分に「どうしてそう思う?」と問いかけ続ける自己問答です。「仕事でミスが多い」→「なぜ?」→「丁寧さを欠いている」→「なぜ?」→「忙しくて抱えすぎている」。

こうして掘り下げると、本当の課題(芯)が見えてくる。最後に「つまり一言で言うと」とまとめれば、言いたいことが結論になります。

そして本書が「言語化の魔法」と呼ぶのが「再定義」です。

言葉を再定義すると、視点が変わり、明るいメッセージが生まれる。

「Aは、実はBなんじゃないか」と捉え直すこと。歌手の矢沢永吉さんは、約30億円の借金を背負ったとき、「これは映画だと思えばいい」と再定義し、6年で返済しました。

「年賀状=義務」を「年賀状=贈り物」と捉え直すように、視点を変えるだけで前向きなメッセージが生まれます。

行き詰まったときには「憑依(なりきり)法」も使えます。尊敬する上司やスティーブ・ジョブズ、アニメのキャラクターになりきって喋らせてみる。自分の思考の枠が外れ、力強い言葉が出てきます。

伝え方の3つの極意――相手ファースト・シンプル&具体的・流れと組立

本書の中心になるのが、コピーライターの技術を日常に応用する「伝わる3つの極意」です。順に見ていきます。

極意1 相手ファースト

何かを提案するとき、私たちはつい「自分が言いたいこと」を並べます。でもそれは「伝えている」だけ。大事なのは「相手にとってどう良いことなのか」を第一に考えることです。

たとえば洋服をもう1着買ってほしいとき。「2着目も買ってください」はお店の都合です。「友達とのペアコーデも楽しめます。2着目50%OFF」と相手のメリットを示せば、相手の行動が変わる。

相手によって特別感を出す「えこひいき(限定)」も有効です。「あなただけに」「期間限定」と対象を絞ると、受け手の当事者意識が高まります。

極意2 シンプル&具体的

ここで手代木さんが封印を命じるのが「やばい」「すごい」です。

今日から「すごい」「やばい」は禁止!抽象より具体で言葉の解像度を上げる。

これらは便利ですが、解釈を相手に丸投げしてしまう「解像度の低い」言葉です。ケーキを食べて「やばい!」では、どこが魅力なのか伝わらない。そこを飲み込んで「とろけるように柔らかくて、また食べたくなる」と言えば、相手の頭に映像が浮かびます。数字を使うのも効果的で、「エコです」より「電気代を年間1万円節約できます」のほうが間違いなく伝わる。

さらに言葉を強くするのが、音の工夫です。濁音(「だ!」)、オノマトペ(フワフワ、バクバク)、五感を刺激するシズル言葉(とろけるような)。小学館の『日本語オノマトペ辞典』には4500語ものオノマトペが収録されています。これらを加えると臨場感と説得力が増します。

そして情報は1つに絞る。本書が繰り返すのは「他に代えられない芯を見抜く」ことです。保湿ティッシュ「モイスチャーティシュ」は売れずに苦戦していましたが、「鼻セレブ」に改名しデザインを変えただけで売り上げが10倍に伸びました。パナソニックの高級トースターも、「何でもできるオーブン」では不調でしたが、「冷凍パンも厚切りパンもおいしく焼ける」と強みに絞って売り上げが2倍になった。あれもこれも詰め込むと、結局何も伝わりません。文章も「非常に」「とても」といったノイズを削り、体言止めを使って「一口サイズ」に短くする。

極意3 流れと組立

伝え方の順番にも技術があります。代表が「サビ頭」。楽曲がサビから始まるように、一番伝えたい結論から話すことです。「結論から言います」と前置きし、そのあとに「なぜなら」と理由を続ける。

そして言葉に魅力を足す「スパイスワード」。「あえて」は熟考した感を、「やっぱり」は王道感を、「実は」は秘密を共有する感じを生みます。重要な発言の直前に置くだけで、言葉がVIP待遇になり説得力が増す。意外性を突く「真逆のギャップ」も強力で、万引き防止ポスターの「求ム!一撃必殺」のように、予定調和を崩すと強い印象が残ります。

なお本書は、商品の「名前」を決める「ネーミング」と、その魅力を具体的に伝える「キャッチコピー」を役割の違うものとして整理します。ネーミングは第一印象を決める旗印、キャッチコピーは購買意欲を刺激して心を摑む役割です。

明日から何を変えるか

本書の技術は、どれも今日から試せます。3つに絞って紹介します。

1. 「やばい」「すごい」を一度飲み込む

言いそうになったら止めて、「何がどう良いのか」を数字や比喩で言い換える。「年間1万円節約できる」「雲の上で眠るような」。これだけで言葉の解像度が上がります。

2. 伝える前に「相手にどう嬉しいか」を1行書く

提案や依頼の前に、「自分が言いたいこと」ではなく「相手にとってどんなメリットがあるか」をノートに1行だけ書き出す。自分の言いたいことを並べてしまう失敗を防げます。

3. 「結論から言います」と前置きして話す

報告や相談はサビ頭で。最も重要なことを先に伝え、「なぜなら」と続ける。ここで前置きが長くなると逆効果なので、いきなり結論を出すのがコツです。

おわりに

本書は、言語化猫の「メイメイ」とアパレル社員「チエ」の対話形式で進みます。難しいビジネス書が苦手な人でもカジュアルに読める一冊です。

その読みやすさの反面、長文の企画書やビジネスメールを構築する具体的なフォーマットを求める人には、やや概念的に感じられるかもしれません。けれど本書の価値は、プロのコピーライターが無意識にやっている脳内プロセスを、誰にでもできる形に落とし込んだところにあります。

伝わる言葉は短く、相手の頭に映像が浮かぶもの。難しい語彙はいりません。私たちはもう、十分な言葉を持っている。あとは並べ方を変えるだけです。


合わせて読みたい

『すごい言語化』木暮太一さん 「語彙力がないことが伝わらない原因ではない」という出発点が本書と完全に重なります。小5レベルの言葉で十分という主張を、別の角度から裏づけてくれる一冊です。

『超・箇条書き』杉野幹人さん 本書が説く「一口サイズに短く」「ノイズを削る」を、箇条書きという具体的な技法で徹底的に深掘りした本。短く伝える力をさらに磨きたい人におすすめです。

『伝える力』池上彰さん 「わかっているつもりがいちばん伝わらない」というテーマが、本書の「相手ファースト」と響き合います。難しいことを誰にでもわかる言葉にする達人の技を学べます。


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