8時間寝ても、なぜか疲れがとれない。そんな経験はありませんか。
その答えは「睡眠時間」ではなく「最初の90分」にあります。眠り始めの最も深い眠りさえ深ければ、たとえ全体が短くても睡眠の質は最大化される。
本書『スタンフォード式 最高の睡眠』は、世界一の睡眠研究所と呼ばれるスタンフォード大学で、長年研究を続けてきた西野精治さんによる一冊です。
睡眠を「単なる休息」ではなく、日中のパフォーマンスを最大化する武器に変える。そういう本です。
こんな人におすすめ
毎晩しっかり寝ているはずなのに、午前中から頭がぼんやりする。そんな違和感を抱えている人に、まず読んでほしい本です。
- 忙しくて、これ以上睡眠時間を増やすのが現実的に難しい人
- 週末の寝だめで、平日の睡眠不足を取り返せると思っている人
- 寝つきが悪く、ベッドに入ってから何十分も眠れないと感じている人
- 午後になると毎日のように強い眠気に襲われる人
この本の核心――「睡眠負債」という静かな借金
本書がまず警告するのは「睡眠負債」です。単なる寝不足ではなく、気づかないうちに借金のように積み上がっていく睡眠の不足です。
「いってみれば、気づかないうちにたまる眠りの借金、それが睡眠負債なのだ。」
怖いのは、自覚がないまま脳と体を蝕む点です。睡眠負債は数秒間の無意識の眠り「マイクロスリープ」を引き起こします。本人は起きているつもりでも、脳波上は完全に眠っている。これが交通事故や重大なミスの原因になります。
そして多くの人が信じている対処法は、効きません。
「週末の寝だめごときで、睡眠負債は解決しない。」
ある実験では、毎日わずか40分の睡眠負債を返すために、14時間ベッドに入る生活を3週間も続ける必要がありました。一度ためた借金は、簡単には返せません。
ちなみに「短時間睡眠の達人になればいい」という考えも危険です。ショートスリーパーは訓練でなれるものではなく、時計遺伝子の変異による「遺伝」だと、著者は『Science』誌で発表しています。
なぜ「最初の90分」が黄金なのか
本書の最大の核心が「黄金の90分」です。睡眠の質は、レム睡眠とノンレム睡眠の周期にかかわらず、眠り始めの最初の90分で決まります。
「レム・ノンレムの周期にかかわらず、睡眠の質は、眠り始めの90分で決まる。」
この最初の深いノンレム睡眠の間に、3つのことが起きます。自律神経が整い、脳のコンディションがリセットされ、そして成長ホルモンが大量に分泌されます。
「グロースホルモン(成長ホルモン)がもっとも多く分泌されるのも、最初のノンレム睡眠が訪れたとき。」
成長ホルモンの実に70〜80%が、この第1周期に出ます。細胞の修復やアンチエイジングに関わるホルモンが、ここに集中しているのです。
だから著者は、どうしても深夜まで仕事がある日でも、徹夜はすすめません。まず眠ってしまい、最初の90分が終わる入眠100分後あたりに一度起きて作業する。そのほうが頭が冴えます。
なお「睡眠は90分の倍数がいい」という俗説は、本書がきっぱり否定します。睡眠周期は90〜120分と個人差があるため、倍数にこだわる意味はありません。大事なのは、あくまで最初の90分です。
眠りを生む2つのスイッチ――「体温」と「脳」
黄金の90分を手に入れるには、入眠時に2つのスイッチを操作します。
1つ目は、体温のスイッチ
人は、体の内部の「深部体温」が下がり、手足の「皮膚温度」が上がって、その差が縮まるときに眠くなります。覚醒時は深部体温のほうが2℃ほど高いのですが、入眠時にはこの差が2℃以下に縮まります。
「スムーズな入眠に際しては深部体温と皮膚温度の差が縮まっていることが鍵なのだ。」
ここで効くのが入浴です。40℃のお風呂に15分入ると、深部体温が約0.5℃上がります。大きく上がった深部体温は、その後大きく下がろうとする。元に戻るまでの時間が、ちょうど90分です。
「寝る90分前に入浴をすませておけば、その後さらに深部体温が下がっていき、皮膚温度との差も縮まり、スムーズに入眠できる」
時間がなければ「足湯」でも代用できます。足の血行を良くして熱放散を促せば、入浴と同等の効果があります。逆に、靴下を履いたまま寝るのは逆効果。足からの熱放散が妨げられ、深部体温が下がりにくくなります。
2つ目は、脳のスイッチ
脳は退屈すると眠くなります。この単調な状態を「モノトナス」と呼びます。
「基本は、寝る前は何も考えないこと。いってみれば『眠りの天才は頭を使わない』のだ。」
寝る前にスマホや仕事で脳を興奮させると、入眠のスイッチが切れません。いつものベッドで、いつもの時間に、いつものパジャマで寝る。このルーティンが、脳に「もう寝る時間だ」と安心させます。
「眠り」と「目覚め」は2つで1つ
本書のもう一つの柱が、覚醒の戦略です。良い睡眠が良い覚醒をつくり、良い覚醒がまた良い睡眠を呼ぶ。
「睡眠(寝ている時間)と覚醒(起きている時間)は2つで1つ。」
だから、夜眠れないときは夜の習慣だけでなく、朝の過ごし方も見直します。
まず、起床のスイッチを入れるのが朝の光です。光を浴びると、眠りを促すホルモン「メラトニン」の分泌が抑えられ、脳が覚醒します。
「ベッドから出たら、天候にかかわらず朝の光を浴びる。これは何があっても欠かしたくない行動習慣だ。」
次に、咀嚼です。朝食をしっかり噛むと、三叉神経から脳へ刺激が伝わり、一日のメリハリがつきます。冷たい水で手を洗うのも、深部体温と皮膚温度の差を広げて目を覚ますのに効きます。
目覚め方にも工夫があります。アラームは「2つの時間」でセットします。起きたい時間の20分前に微音で短く、本命の時間に通常のアラームを。浅いレム睡眠のタイミングで自然に起きる確率が上がります。
そして見落としがちなのが夕食です。
「夕食抜きは、眠りと健康にとってまさに『百害あって一利なし』なのだ。」
夕食を抜くと、覚醒物質オレキシンが過剰になって眠れなくなります。就寝1時間前までに済ませるのが理想です。
午後の眠気は、敵ではなくチャンス
午後2時ごろに襲ってくる眠気。これは「アフタヌーンディップ」と呼ばれ、ランチを食べても抜いても、体内時計の影響で必ずやってきます。
著者は、この眠気との付き合い方に視点の転換を提案します。
「『眠気=排除すべきもの』という意識を、『眠気=チャンス』とスイッチしてみる。」
我慢するのではなく、20分程度の仮眠(パワーナップ)をとる。短い眠りで脳を回復させたほうが、その後のパフォーマンスは上がります。
ただし、寝すぎは禁物です。ある研究では、30分未満の昼寝をする人は認知症発症率が習慣なしの人の約7分の1だったのに対し、1時間以上の昼寝をする人は発症率が2倍も高くなりました。仮眠は20分程度にとどめるのが鉄則です。
日中の眠気には、冷たい水で手を洗う、ガムを噛む、コーヒーでカフェインをとる、会議で積極的に発言するといった方法も有効です。会話は強力な覚醒スイッチになります。
明日から何を変えるか
本書のメソッドから、まず手をつける3つに絞ります。
1. 就寝の90分前に入浴を済ませる 逆算してお風呂の時間を決めます。忙しい日はシャワーか、寝る直前の足湯でも代わりになります。
2. アラームを2つの時間でセットする 起きたい時間の20分前に微音で1回、本命の時間にもう1回。浅い眠りのタイミングで起きるチャンスをつくります。
3. 朝起きたら、天気に関係なく光を浴びる まずカーテンを開けて外の光を入れます。良い覚醒が、その夜の良い睡眠の第一歩になります。
おわりに
本書を締めくくるのは、こんな一文です。
「人生の3分の1を変えれば、残りの3分の2も動き出す」
睡眠は人生のおよそ3分の1を占めます。そこを削って残りを頑張るのではなく、そこに投資することで残り全部が動き出す。
今夜、寝る90分前にお風呂を出る。それだけで、明日の頭の冴えが変わるかもしれません。
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『睡眠の質を高める科学的メソッド──「最初の90分」があなたの人生を変える』 本書の核心である「黄金の90分」をコラム形式でやさしく解説した記事。まず短く要点だけつかみたい人は、こちらから入ると本書が読みやすくなります。
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『午後3時、あなたの脳はもう使い物にならない』 本書が扱う「午後の眠気(アフタヌーンディップ)」とパフォーマンス低下を、仕事の視点から考えた記事。重要なタスクを午前中に寄せたい人におすすめです。


