成功は、運や生まれ持った才能で決まる。多くの人がそう信じています。
でも『すべてうまくいく人はこう考える』は、その前提を静かにひっくり返します。著者のデイビッド・J・シュワルツ氏は、今億万長者になっている人の8割は、過去20年で普通の仕事から成功した人だと言います。違いは才能ではなく、自分の脳にどんな指示を出したか。
「資産とは、アイデアが実行に移された結果なのだ。」
つまり富も幸福も、まず頭の中でつくられる。そう考えると、スタートラインは案外、目の前にあります。
こんな人におすすめ
- 「いつか挑戦したい」と思いながら、何年も先延ばしにしている人
- 営業や人付き合いで、どうも相手の協力を得られないと感じている人
- 収入はそこそこあるのに、なぜか貯金が増えていかない人
- 失敗が怖くて、新しい一歩をなかなか踏み出せない人
派手な成功法則ではなく、今日から試せる小さな行動の本です。私はそこに好感を持ちました。
この本の核心――「願う」と「夢を持つ」は違う
新年に「今年こそ」と思うのに、年末には何も変わっていない。そんな経験はありませんか。
シュワルツ氏は、その原因を一言で突きます。
「願うことと夢を持つことは違う。願うことは受動的であり、頭も使わず努力もしない怠惰な気晴らしにすぎない。一方、夢を持つことは能動的であり、確かな行動計画に裏打ちされている。」
願いには行動計画がない。だからいつまでも願いのままです。一方、夢には具体的な計画がついている。
そして本書が強調するのは、完璧なタイミングを待たないことです。農業で土の乾き具合が完璧になるのを待っていたら、収穫はゼロになります。少しずつでも今すぐ始めれば、長い目で見て必ず状況は進んでいる。これが出発点です。
ケーキのアイシング――期待を、少しだけ超える
ここから本書は、人とお金の話に入ります。私が最も実用的だと感じたのが「ケーキのアイシング」です。
相手が期待しているものに、ほんの少しだけ多めに乗せる。基本のケーキに、クリームを一筆塗るように。それが好意と信頼を生み、結果として富を引き寄せる、という考え方です。
本書が挙げる例が印象的です。深夜に水道管が凍結したとき、忙しいなか「時間が空き次第すぐ伺います」と気遣いを見せた配管工がいました。その一言の対応が顧客の信頼を勝ち取り、さらなる仕事につながった。たいしたコストはかかっていません。
「大きく考える人にとって、小さいことは莫大な違いを生む」
ここで「平均でいい」という妥協を、シュワルツ氏は厳しく戒めます。
「平均とは、最高の中で最低であり、最低の中で最高である。」
平均で満足することは、成長を止める元凶だ、と。要求された以上の質を出す。その卓越性の追求こそが、アイシングの土台になります。
人は「利己心」と「自尊心」で動く
なぜアイシングが効くのか。その裏には、人間の行動原理があります。
人は、他人のニーズより、自分や家族の幸福に最も関心がある。これを本書は「利己心」と呼びます。だから相手を動かしたいなら、自分の利益を語るのではなく、相手にどんなメリットがあるかに全精力を注ぐ。
「成功の秘訣は、相手の利益を第一に置き、自分の利益を第二に置くことだ。」
奉仕を先にすれば、報酬はあとから自然についてくる。逆説的ですが、これが本書の一貫した主張です。
もう一つの鍵が「自尊心」です。人はお金のためだけでなく、自尊心のために全力を出します。その自尊心を満たす、最もコストの低い方法が、相手の名前を呼ぶこと。
「自分を尊敬している度合いに比例して、人々はあなたを尊敬する」
デール・カーネギーが見抜いたとおり、名前は持ち主にとって最も甘美な言葉です。会話のなかで相手の名前を正しく、何度も呼ぶ。それだけで「あなたを大切に思っている」という強いメッセージになります。
ついでに、本書は無益な習慣も指摘します。「私のほうが優れている」と張り合うマウント合戦です。勝っても相手に嫌われたら意味がない。自ら勝ちを譲るほうが、かえって自信の証明になり、実質的な協力を引き出せます。
恐怖は、行動した瞬間に消える
新しいことに挑戦したいのに、失敗が怖くて動けない。誰もが抱える壁です。
シュワルツ氏の答えはシンプルです。
「恐れていることをすれば、恐怖心はすぐに消える。」
恐怖は、行動しないことから生まれます。だから打ち破る唯一の方法は、行動すること。嫌なことを先延ばしにすると恐怖は募るばかりですが、いざやってみると、たいてい拍子抜けするほどすぐ終わります。
恐怖を減らすコツは、準備です。目上の人との面接で緊張するなら、「相手も同じ人間で、悩みを抱えている」と言い聞かせ、事前に十分な準備をし、笑顔で臨む。それだけで自信が生まれます。
そして失敗そのものを、本書は悪者にしません。
「成功の秘訣は、失敗を避けることではなく、失敗を通して成長することだ。」
失敗したら「何がよくなかったか」「どう是正するか」を分析する。失敗は避ける対象ではなく、改善のデータです。この捉え方一つで、挑戦のハードルはぐっと下がります。
明日から何を変えるか
本書のアドバイスから、今日始められるものを三つ。
1. 収入の10%を「経済的自由税」として先取りで投資に回す 本書は、収入と資産は別物だと言います。収入は稼ぐもの、資産は築くもの。多くの人は昇給すると生活レベルを上げ、使い切ってしまいます。
だから昇給を待たず、今の収入の最低10%を「自分への税金」として先に取り分け、投資に回しましょう。複利の力は、お金の量より時間が効きます。
2. 次の会話で、相手の名前を意識して何度も呼ぶ 「〇〇さん、どう思いますか」と、名前を会話に織り込む。たったこれだけで、相手の自尊心が満たされ、協力を得やすくなります。コストはゼロです。
3. 先延ばしにしている「嫌なこと」を一つ、今日やってしまう 苦手な連絡やクレーム対応など、気の重いタスクを一つ選び、思い切って片づける。やる前の恐怖が大きいほど、終わったあとの軽さも大きいはずです。
おわりに
本書には、リーダー向けの知恵もあります。優れた仕事には惜しみなく称賛を贈り手柄を相手に与え、うまくいかないときは自ら全責任を取る。そして口で指示するより、自分が手本を見せる。行動は、言葉よりずっと多くを教えます。
ただ、貫いているのは終始シンプルなメッセージです。前向きに脳を設定し、相手の期待を少し超える奉仕を行動に移す。それだけで、富と幸福は誰の手にも届く。
「犠牲を払うことは、未来に投資をするという意味になる。つまり、今日何かを手放して、明日それをもっと多く手に入れる、ということだ。」
今日、あなたが未来のために手放せる小さな何かは、いったい何でしょうか。
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