カロリーを減らしても、計算どおりに痩せない理由
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「1日500kcal減らせば、1か月でこれだけ落ちるはず」。ダイエットを始めるとき、多くの人がこの手の計算をします。
ところが、減量で知られる米国のテレビ番組の参加者を6年間追った研究では、体重がかなり戻ったあとも、安静時に使うエネルギーが番組前より1日平均700kcalほど少ないままでした。
計算そのものが間違っていたのでしょうか。
収支の式は正しい。ただ、両辺が動く
体重は、食べたエネルギーと使ったエネルギーの差で決まります。この式は、この記事で紹介する研究者たちも前提にしています。
つまずくのは、式の使い方のほうです。「1日500kcal減らせば」という計算は、使うエネルギーがいつもと同じで、食べる量も決めたとおりに減らせる、という前提で成り立っています。
実際には、どちらも固定されていません。
- 体重が減ると、安静時に使うエネルギーが、体が小さくなった分以上に減ることがある
- 運動量を増やしても、1日の総消費はある程度で増えなくなるらしい
- 同じカロリーをそろえた食事でも、食べ物の種類によって食べる量が変わる
つまり、摂取を減らせば消費も一部下がり、消費を増やしても思ったほど伸びず、摂取は食べ物で動く。この3か所を、順に研究で見ていきます。
痩せたあとも、休んでいるときの消費が戻らない
米国立衛生研究所(NIH)のエリン・フォザーギル氏、ケビン・ホール氏らは、減量を競うテレビ番組「ビッゲスト・ルーザー」の参加者を追跡しました(2016年、学術誌 Obesity)。
参加者は重い肥満のある人たちで、30週にわたって厳しい食事制限と激しい運動をしています。当初調べた16人のうち、14人が6年後の追跡に参加しました。
- 番組終了時、体重は平均58.3kg減り、安静時代謝量(休んでいるときに使うエネルギー)は1日610kcal下がっていた
- 6年後、落とした体重のうち平均41.0kgが戻っていた
- それでも安静時代謝量は、番組前より1日704kcal低いままだった
体が小さくなれば、使うエネルギーが減るのは当然です。そこで研究チームは、体組成と年齢の変化から予測される分を差し引きました。それでも1日499kcal低く、この予測を下回る分を「代謝適応」と呼んでいます。
さらに、6年後に体重を多く落としたままの人ほど、代謝の低下も大きい傾向がありました。著者たちは、代謝適応は減量努力に比例して起きるが、努力をすべて打ち消すほどではない反応だろう、とまとめています。
実際、6年後の参加者は平均すると番組前より体重が11.9%少ない状態でした。ブレーキはかかるものの、減量が無意味になるわけではありません。
ただし対象は14人で、テレビ番組という極端な減量です。一般的なダイエットで同じ大きさの低下が起きるとは言えません。
この結果から私が受け取ったのは、減り方が途中で鈍っても、やり方が間違っているとは限らない、という見方です。たとえば、最初の1か月と同じペースが3か月目も続く前提で目標を立てると、体の反応を失敗と取り違えやすくなります。
運動を増やしても、1日の消費は頭打ちになる
では、食べる量はそのままで、運動で消費を増やせばいいのでしょうか。
人類学者のハーマン・ポンツァー氏らは、ガーナ、南アフリカ、セーシェル、ジャマイカ、米国の5つの地域に住む25〜45歳の成人332人を調べました(2016年、学術誌 Current Biology)。
1日の総消費エネルギーは、二重標識水法(特殊な水を飲み、尿から数日分の消費量を割り出す方法)で測りました。活動量は、体に付けた加速度計で記録しています。
体格の差をそろえて比べると、活動量が少ない範囲では、よく動く人ほど総消費も多くなっていました。ところが活動量の上位4割ほどでは、それ以上動いても総消費がほとんど増えなくなりました。
著者たちは、体がほかの部分の消費を抑えて、1日の総消費を一定の幅に保とうとしているという「制約モデル」を提案しています。何の消費が削られているのかは、まだ分かっていません。
この研究にも限界があります。一時点で多くの人を比べた調査で、同じ人が運動を増やしたときの変化を追ったものではありません。
それでも、「今日は30分走ったから、その分多く食べていい」という足し算には注意が要ります。運動の消費は、計算した分がそのまま1日の総消費に上乗せされるとは限らないからです。
運動をやめたほうがいい、という話でもありません。運動の効果は体重以外にも多くあり、それはカロリーの帳消しとは別の理由で続ける価値があると私は考えています。
同じカロリーを出されても、食べる量が変わる
ここまでは消費の側でした。最後は摂取の側です。
ケビン・ホール氏らは2019年、体重が安定している成人20人に、NIHの臨床センターで28日間入院してもらいました(学術誌 Cell Metabolism)。
くじで順番を決め、超加工食品中心の食事と、未加工の食品中心の食事を2週間ずつ出しています。超加工食品とは、工業的に作られた材料や添加物を組み合わせた食品のことで、菓子パンやスナック菓子、加工肉などが含まれます。
出す食事は、カロリー、エネルギー密度、三大栄養素、糖、塩分、食物繊維をそろえました。そのうえで「好きなだけ食べてよい」と伝えています。
- 超加工食品の期間は、1日平均508kcal多く食べていた
- 体重は、超加工食品の期間に0.9kg増え、未加工の期間に0.9kg減った
- 食事のおいしさの評価に、はっきりした差はなかった
- 超加工食品の期間は、食べる速さが速かった
なぜ食べすぎたのかは、この研究では決着していません。飲み物を除いた食べ物だけで比べると、超加工食品のほうがエネルギー密度が85%ほど高く、著者たちはこれが一因だろうと述べています。
限界も著者自身が書いています。20人、2週間ずつ、入院という特殊な環境です。値段や手軽さで食事を選ぶ日常の暮らしに、そのまま当てはめるのは難しいとしています。
安部司さんの『食品の裏側』は、この研究の20年近く前に、加工食品の作られ方を内側から書いた本です。安部さんは、塩と化学調味料とたんぱく加水分解物の組み合わせが、ラーメンスープからスナック菓子まで多くの加工食品の味の土台になっていると指摘しています。
この本の主題は添加物の情報公開で、食べすぎとの関係を論じた本ではありません。ただ、「強いうまみを、安く、同じ味で出す」ように設計された食べ物がどういうものかは、読むと具体的に見えてきます。
計算のうえで同じ500kcalでも、その食事の後にどれだけ食べるかまでは決まっていません。カロリーの数字だけを管理していると、この差が見えなくなります。
数字の管理から、ブレーキを織り込んだ計画へ
3つの研究から、計画の立て方で変えられることを整理します。いずれも研究の結果そのものではなく、私の提案です。
誤解:減らしたカロリーの分だけ、毎月同じペースで体重が落ちる → 体重が減るほど消費も下がります。たとえば、ペースが鈍る時期が来る前提で、目標を「3か月でいくら」と長めの幅で置くほうが、途中でやめにくくなります。
誤解:運動した分は、食べても帳消しにできる → 運動の消費は足し算どおりに増えないことがあります。運動は体調や体力のために続け、食べる量の言い訳には使わないほうが計算が狂いにくいです。
誤解:カロリーの数字さえ合っていれば、中身は何でもいい → 同じカロリーが並んでいても、食べる量そのものが変わることがあります。たとえば、毎日食べている菓子パンを、素材の形が残っているもの(ゆで卵とバナナなど)に置き換えてみる。
今日できることを1つ挙げるなら、いつも買う加工食品を1つ手に取り、原材料表示を読んでみてください。家の台所にない名前がいくつ並んでいるかを数えるだけで、その食品を「何でできているか」で見る習慣が始まります。
なお、持病がある人、治療中の人、妊娠中の人、急な体重の変化がある人は、食事を大きく変える前に医師に相談してください。ここで紹介した研究は、いずれも特定の人を対象にした限られた期間のものです。
おわりに
カロリーを減らしても計算どおりに痩せないのは、式が間違っているからではありません。式の両辺が、体と食べ物によって動いているからです。
体重計の数字が止まったとき、それは意志の弱さの証拠とは限りません。消費と摂取のどちらが動いたのかを考える材料として見てみてください。
この記事で参考にした本
『食品の裏側 みんな大好きな食品添加物』安部司 → 塩、化学調味料、たんぱく加水分解物を土台に、加工食品の味がどう設計されているかを製造の現場から描いた一冊
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