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ブクドリ | BOOK DRIP

高い会費を払ったのに、ジムに3ヶ月で行かなくなる理由

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約7分で読めます 健康・メンタル
目次

入会した日、週に何回通うつもりでしたか。

アメリカのあるジムで新規会員に聞くと、答えの平均は「週3回」でした。95%の人が「週1回より多く通う」と答えています。

ところが、3ヶ月目に実際に週1回より多く通っていた人は34%でした。3人に2人は、入会した日の自分との約束から外れています。

これを「意志が弱いから」で片付けると、来年の1月も同じことが起きます。つまずきの一部は、もっと手前にあります。入会の日の見積もりと、会費という払い方そのものです。

入会の日、通う回数を2倍近く見積もっている

冒頭の数字は、経済学者のマリアナ・カレラ氏らが2015年から2016年にかけて行った実験のものです。アメリカ中西部の商業ジムで、新規会員690人の入館記録を追いました。月会費の基本料金は59ドルです。

予定は週3回でした。実際には、最初の週で平均2回、2ヶ月目の終わりには週1回ほどまで落ちています。

「最初の6週間で9回以上通える確率」を尋ねると、本人たちの見積もりは平均78%でした。報酬の条件をつけなかったグループで、実際に達成できたのは48%です。

この「見積もりすぎ」を大きなデータで最初に示したのが、ステファノ・デラヴィーニャ氏とウルリケ・マルメンディア氏の2006年の論文です。題名は “Paying Not to Go to the Gym”、直訳すると「ジムに行かないためにお金を払う」。

2人はアメリカの3つのフィットネスクラブで、会員7,752人の3年分の契約と入館記録を調べました。月70ドル以上の月額会員は、平均で月4.3回しか来ていません。1回あたりに直すと17ドルを超えます。

同じクラブには、1回10ドルになる10回券がありました。月額会員の8割は、同じ回数を都度払いにしたほうが安く済んでいます。会員だった期間を通じて、平均で約600ドルを余分に払った計算です。

ショッピングモールで48人に聞いた小さな調査もあります。ジムに通っている人が見込んだ翌月の回数は平均9.5回で、クラブの実データ(月4.17回)の2倍を超えていました。対象が別の人たちなので参考程度の数字ですが、カレラ氏らの新規会員の結果と同じ向きを指しています。

週3回通うなら、月額会員は得な契約です。問題は、契約を選ぶ根拠になっている頻度が、実際より大きく膨らんでいることにあります。

先払いの会費は「今日行く理由」にならない

高い代金を払ったのだから、元を取ろうとして通うはず。直感ではそう思えます。『池上彰の行動経済学入門』でも、定額料金を払うと人は「元を取らなければ損だ」と考えやすいと説明されています。

ところが、デラヴィーニャ氏らのデータに出てきたのは別の姿でした。月額会員は、最後にクラブへ来てから解約するまでに平均2.31ヶ月かかり、その間に平均187ドルを払い続けています。2割の人は、この空白が4ヶ月以上ありました。

解約の手間は、手紙を1通出すか窓口へ行くだけです。著者たちの見積もりでは、15ドル分にも届きません。

会費が背中を押さない理由は、払い方の構造にあります。月会費は、今日行っても行かなくても同じ額が引き落とされます。仕事帰りに「今日は行くか」と迷う場面で、会費は損得の差を生みません。行けば疲れて、行かなければ楽。天秤に残るのはそれだけです。

しかも、「来月こそ通うから、解約はまだいい」と思えてしまう。著者たちの説明では、利用頻度を買いかぶる人は、自分がいずれ解約する見込みも買いかぶります。払い続けた187ドルは、この二重の見込み違いの代金です。

払ったお金に引きずられる心理そのものは、「せっかくここまで来たんだから」が、最悪の判断を生むで扱っています。

行くたびにお金をもらうと通う。止まると戻る

では、行った日にだけお金が動く仕組みにしたらどうなるか。これを確かめた実験がいくつかあります。

ゲイリー・チャーネス氏とウリ・ニーズィー氏は2009年、アメリカの大学生120人を3つに分けました。何もしないグループ、1週間に1回ジムへ行けば25ドルのグループ、さらにその後の4週間で8回行けば100ドルを上乗せするグループです。

報酬が終わったあとの7週間で、8回グループのジム利用は週0.60回から1.24回へ倍増しました。何ももらわなかったグループは、週0.59回から0.56回へ少し減っています。増えたのは、もともと定期的に通っていなかった人たちでした。

お金で習慣が作れたように見えます。ただ、続く研究の結果はもっと慎重です。

大企業の社員(ロイヤー氏ら) 調査に応じた社員1,000人を分け、社内ジムに1回行くごとに10ドル(週3回まで)を4週間払うと、期間中の利用は2倍になりました。終了後1ヶ月目に残っていたのは増えた分の25%ほどで、2ヶ月目にはほとんど消えています。

大学の学生と職員120人(アクランド氏とレヴィ氏) チャーネス氏らとほぼ同じ報酬で、終了後の回数は増えました。ただし増え方は小さく、4週間の冬休みを挟むと、その効果はおおむね消えていました。

新規会員(カレラ氏ら) 6週間で9回通えば30ドルか60ドル、または30ドル相当の品物を渡しました。9回に届いた人の割合は9〜10ポイント上がったものの、平均の来館数はわずかしか伸びていません。報酬のあとの通い方には、差がありませんでした。

カレラ氏らは、自分は楽に9回通えると思い込んでいた人には、報酬が追加のやる気にならなかった可能性を指摘しています。見積もりすぎは、ここでも効いていました。

金銭の報酬は、足を運ぶきっかけになります。ただし、支払いが止まると、きっかけも一緒に消えやすい。入会キャンペーンの特典や「3ヶ月通えばポイント」のような仕組みが、その先の習慣までは約束してくれないのはこのためです。

自分のお金を「行かなかったときだけ」失う形にする

ロイヤー氏らの実験には続きがあります。4週間の報酬が終わるとき、参加者の半数にだけ「自分のお金を賭ける契約」を提案しました。

条件は、その後2ヶ月、ジムを14日以上続けて空けないこと。破れば、賭けたお金は慈善団体に寄付されます。金額は自分で決め、上乗せの報酬は一切ありません。

契約を結んだのは、提案された人の12%でした。賭け金は平均58ドルで、結んだ人の63%が約束を守っています。

それでも、提案されたグループ全体で見ると、報酬終了後2ヶ月の来館頻度は、報酬も契約もなかったグループより50%多くなりました。差は1年後にも残り、掲載論文の要旨によれば、報酬が終わって数年たっても確認できたといいます。

月会費も、賭け金も、自分のお金です。違いは、行かなかったときにだけ失われるかどうかにあります。会費は行っても行かなくても出ていくので、今日の判断には効きません。賭け金は、今日行かなければ失う日が近づくので、今日の判断に効きます。

ただし、対象は1社の本社で調査に応じた社員です。提案された人の9割近くは契約を結んでいません。誰にでも効くとまでは言えません。ただ、縛られることを自分で選べる人にとっては、試す価値のある仕組みです。

オウェイン・サービス氏とローリー・ギャラガー氏の『行動科学が教える 目標達成のルール』は、こうした仕組みを「コミットメント・デバイス」と呼んでいます。本書では、進み具合を見張る第三者「コミットメント・レフリー」を立てることも勧めています。

ギャラガー氏自身、「週2回ジムに通う」と宣言し、同僚のサービス氏をレフリーに頼んだそうです。破ったら大嫌いなサッカーチームのシャツを着る、という罰を決めて続けました。失うものはお金に限らず、本人が本気で避けたいものなら仕組みとして働きます。

入会の前と、入会の日にやること

誤解:高い会費を払えば、元を取ろうとして通える → 会費は行っても行かなくても同じ額が出ていきます。今日行くかどうかの判断には効きません。

正しいアプローチ1:契約の前に、見込みの回数を半分にして計算する → たとえば月8,000円のジムに月8回通うつもりなら、1回1,000円です。半分の月4回なら1回2,000円になります。その金額を都度払いや回数券と比べて、契約を決めます。

最初の1〜2ヶ月は回数券で実際の回数を測り、それから月額に切り替える手もあります。

正しいアプローチ2:行かなかったときだけ失うルールを、入会と同時に作る → たとえば「14日続けて空いたら、友人に3,000円払う」と決め、月に一度、入館履歴を見せる約束をします。ロイヤー氏らの実験の条件を借りた形です。その友人が、あなたのレフリーになります。

正しいアプローチ3:見直しの日を、先にカレンダーに入れる → 「来月は通う」と思っているうちは、解約も先送りになります。入会日から3ヶ月後に「直近4週間の回数」を確かめる予定を入れ、月4回を下回ったら回数券に切り替える、と入会の日に決めておきます。

おわりに

3ヶ月で足が遠のいたのは、入会の日の計算がずれていたせいでもあります。会費はジムの経営を支えますが、今夜のあなたをジムまで運んではくれません。

次に入会申込書を前にしたら、「週に何回通うか」の数字を半分にしてから、サインしてみてください。


この記事で参考にした本

『行動科学が教える 目標達成のルール』オウェイン・サービス氏、ローリー・ギャラガー氏 → 未来の自分を縛る「コミットメント・デバイス」と、見張り役の「コミットメント・レフリー」という考え方

『池上彰の行動経済学入門』池上彰さん → 目先の楽を優先する現在バイアスと、定額料金を「元を取らなければ」と感じる心理の説明


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