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ブクドリ | BOOK DRIP

自己分析で見つからないのは、想像で答えを出そうとするから

キャリア・働き方
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目次

初対面の相手との5分間の会話を、自分が楽しめるかどうか。相手のプロフィールと写真を見るより、見知らぬ他人1人の感想を聞くほうが、よく当たります。

ハーバード大学のダニエル・ギルバート氏らが2009年に『Science』で報告した実験です。女子学生が、初めて会う男子学生との5分間のスピードデートをどれくらい楽しめるかを、事前に予想しました。

一方の組は、男性のプロフィールと写真を見て予想しました。もう一方の組が見たのは、同じ男性と直前にデートした別の女子学生が付けた「楽しさ」の点数だけです。

予想と実際の差は、感想だけを見た組のほうが49%小さくなりました。ほぼ半分です。

ところが参加した女性の75%は、プロフィールを見たほうが正確に予想できると考えていました。

自己分析も、これと同じ種類の予想をしています。

自己分析は、まだやっていない仕事の「楽しさ」を予想する作業

「やりたいことを見つける」とは、言い換えると、未来の自分がその仕事を楽しめるかを当てることです。

ギルバート氏らは、人が自分の感情の予想を外すおもな原因を、出来事を不正確に想像することに求めています。人は出来事の中心になる部分を想像し、付随する部分を想像しません。始まりの場面は思い浮かべても、そのあと続く時間は思い浮かべにくい。

たとえば企画職を想像すると、アイデアを出して提案する場面が浮かびます。実際の毎日を占める関係部署との調整や、数字の詰めの作業は、想像の中にほとんど出てきません。

もう1つ、材料の問題があります。けんすうさんは『物語思考』で、人は他人を評価するのと同じように自分の行動を見て、「自分はこういう性格だ」とあとから判断していると書いています。心理学者ダリル・ベム氏の「自己知覚理論」として知られる考え方です。

自分についての知識が行動から作られるなら、やったことのない仕事について、判断の材料はほとんどありません。内省でできるのは、手元にある材料の並べ直しまでです。材料そのものは増えません。

理由を書き出すと、好みが「説明しやすいほう」へずれる

材料が足りないまま考え込むと、別の問題も起きます。

バージニア大学のティモシー・ウィルソン氏らは1993年、女子学生43人にポスターを5枚見せました。モネとゴッホの絵画が2枚と、ユーモラスなポスターが3枚です。ユーモラスな3枚は、動物のイラストが1枚と、一言が添えられた猫の写真が2枚でした。半数には、それぞれのポスターを好きな理由、嫌いな理由を書いてもらいました。

最後に1枚を持ち帰ってもらうと、理由を書かなかった組は21人中20人(95%)が絵画を選びました。理由を書いた組で絵画を選んだのは、22人中14人(64%)でした。

平均25日後に電話で尋ねると、理由を書いた組のほうが、選んだポスターへの満足度が低くなっていました。部屋に飾っているか、この先も手元に残すつもりか、といった質問への答えです。

研究チームの説明はこうです。理由を考えると、人は言葉にしやすく、もっともらしく聞こえる特徴に目を向ける。けれどもそれが、最初に好きだと感じた本当の原因とは限らない。書き出した理由に引っ張られて好みが一時的に変わり、時間がたつと元の好みが戻ってくる、というわけです。

自己分析で「なぜその仕事がいいのか」を書くと、年収、安定、成長できる、社会の役に立つ、といった言葉が並びがちです。どれも説明しやすく、世間でよく聞く理由です。

ロバート・スティーヴン・カプラン氏も『ハーバードの自分を知る技術』で、社会通念は一人ひとりの個性や能力を汲み取ってくれないと注意を促しています。

ただし、これはポスター選びの実験です。キャリアの大きな決断にそのまま当てはまるとまでは言えません。言えるのは、理由をきれいに書けることが、その選択に満足できる保証にはならない、というところまでです。

他人の「感想」は当たるが、「助言」は当てにならない

冒頭の実験に戻ります。他人の感想が、自分の想像より当たったのはなぜか。

ギルバート氏らは理由を2つ挙げています。1つは、何を快く感じ、何を不快に感じるかは、人によって思われているほど違わないこと。もう1つは、人は好みや性格の似た相手と付き合う傾向があるので、身近な人の感想はさらに当たりやすいことです。

2つ目の実験では、学生88人が「仲間からの評価」を受けたあとの気分を予想しました。評価の中身を事前に詳しく知った組より、同じ評価を受けた別の学生の気分だけを知った組のほうが、予想の誤差が63%小さくなりました。

限界もあります。対象はハーバード大学の学生で、1つ目の実験で予想をした女性は25人です。論文自身も、人による違いが大きい場面では、他人の感想より自分の想像のほうが当たると書いています。

もう1つ、区別しておきたいことがあります。カプラン氏は同じ本で、善意の家族や友人からのアドバイスは、あなたの性質を踏まえたものになりにくく、その人自身の経験や願望、社会通念に沿ったものになりがちだと指摘しています。

2つを合わせると、他人から聞くべきものが見えてきます。「あなたはどうすべきか」という助言ではなく、「実際にやってみてどうだったか」という感想です。これは研究結果と本を突き合わせた私の解釈です。ただ、実験で当たったのも、体験した人の気分の報告でした。

適性は、試した量のぶんだけ見えてくる

他人の感想の次に効く材料は、自分で試した経験です。

デイビッド・エプスタイン氏は『RANGE(レンジ)』で、経済学者オファー・マラムド氏の研究を紹介しています。イギリスでは、イングランドの学生は大学に出願する時点で専攻を決めます。スコットランドの学生は、最初の2年間に複数の分野を学んでから専攻を選びます。

マラムド氏が1980年の大学卒業生のデータを分析すると、スコットランドで学んだ人のほうが、卒業後に専攻と無関係な職種へ移る割合が低くなっていました。推定の差は約6ポイントです。スコットランドの卒業生で専攻と違う分野に就く割合が約42%なので、小さな差ではありません。

専門を学ぶ時間は短くなっても、先にいくつか試して相性を確かめたほうが、結果として自分に合う分野にとどまりやすかった。マラムド氏はそう解釈しています。

エプスタイン氏はこの相性を「マッチ・クオリティ」と呼び、組織行動学者ハーミニア・イバーラ氏の「試して学ぶ」というやり方を勧めています。キャリアの転換は、まず動いてみて、その経験から自分について学ぶことで進む、という考え方です。

試す場所は、今の職場の外とは限りません。カプラン氏の友人は、金融業界で働きながら社内で環境保護の事業を立ち上げる企画を指揮しました。その実績が評価されて、のちに環境保護団体のトップに招かれています。

想像を、確かめられる材料に置き換える

自己分析をやめる必要はありません。変えるのは、想像だけで答えを出そうとするところです。

誤解:自己分析シートを埋めれば、向いている仕事がわかる → 気になる仕事を今やっている人を1人探し、「先週いちばん楽しかった時間」と「いちばん消耗した時間」を聞きます。「私に向いていると思うか」は聞かなくて構いません。知りたいのは、その仕事の毎日の手触りです。

誤解:「なぜやりたいか」を言葉にできれば本物だ → 候補を比べるときは、理由を書く前に、直感での順位を先にメモしておきます。理由を書いたあとで順位が入れ替わったら、その入れ替わりを疑ってください。たとえば年収や安定のような説明しやすい言葉が、元の順位を押しのけていないかを確かめます。

誤解:試すのは、方向が決まってからでいい → 試すのは、決めるための材料集めです。たとえば別部署の仕事を手伝う、副業で小さな案件を1つ受ける、1日だけ現場を見学する。2〜4週間で終わる大きさにして、始める前に「どれくらい楽しめそうか」を10点満点で書き、終わったら実際の点を書きます。予想と実際のずれが、自分の想像の癖を教えてくれます。

おわりに

ギルバート氏らは論文の冒頭で、17世紀フランスの文筆家ラ・ロシュフコーの言葉を引いています。何かを強く望む前に、それをすでに手にしている人がどれだけ幸せかを確かめよ、という一節です。

やりたいことが見つからないときは、自分の頭の中をもう一度探す前に、その仕事をしている人の顔を1人思い浮かべてみてください。


この記事で参考にした本

『RANGE(レンジ)』デイビッド・エプスタイン → 専攻を遅く決めた学生のほうが自分に合う分野にとどまりやすかった研究と、「試して学ぶ」というキャリアの考え方

『物語思考』けんすう → 人は自分の行動を見て自分の性格をあとから判断している、という視点と、過去の分析よりも行動から自分を作っていく方法

『ハーバードの自分を知る技術』ロバート・スティーヴン・カプラン → 社会通念や善意の助言が個人の性質を汲み取らないという注意と、今の職場の中で新しい役割を試した事例


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