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ブクドリ | BOOK DRIP

考えれば考えるほど、動けなくなる

約4分で読めます 健康・メンタル
目次

転職サイト、3年前に登録した。

まだ1回も応募していない。

毎週「あなたにおすすめの求人」というメールが届く。開く。「いいな」と思う。でも応募しない。

「もう少し情報を集めてから」 「今の会社をもう少し見極めてから」 「タイミングが悪い気がする」

そう言い続けて、3年が経った。


なぜ「考える」と動けなくなるのか

不思議な話だ。

考えることは良いことのはず。慎重に分析して、最善の選択をする。それが賢い人間のあり方だと、ずっと教わってきた。

でも現実は違う。

考えれば考えるほど、選択肢が増える。選択肢が増えれば増えるほど、「もっと良い選択があるんじゃないか」と思えてくる。そして、動けなくなる。

これ、「分析麻痺」と呼ばれる現象だ。

脳科学の研究によると、人間の脳は「選択肢を比較する」ことにとてつもないエネルギーを使う。選択肢が2つなら比較は1回で済む。でも5つになると10回、10個になると45回の比較が必要になる。

脳が疲れる。だから「まだ決めなくていい」という結論に逃げる。

先延ばしは怠惰じゃない。脳のエネルギー切れだ。


「もっと調べてから」の罠

転職の話に戻る。

3年前の私は、本気で転職を考えていた。だから情報を集めた。業界研究をして、企業の口コミを読んで、年収データを分析して。

知識は増えた。でも、動けなくなった。

なぜか。

調べれば調べるほど、「この会社にはこういうリスクがある」「この業界は将来性が不安」という情報が見つかる。完璧な選択肢なんてどこにもない。だから「もう少し調べてから」を繰り返す。

心理学者のバリー・シュワルツ氏はこれを「最大化者の罠」と呼んでいる。

最善の選択をしようとする人ほど、選択できなくなる。逆に「まあこれでいいか」と思える人の方が、実際には幸福度が高い。

皮肉だ。

「ちゃんと考えよう」という姿勢が、人生を停滞させる。


プロ野球投手を壊した「考えすぎ」

リック・アンキールという投手がいた。

2000年のメジャーリーグ、プレーオフ。彼は21歳で先発のマウンドに立った。将来のスター候補と言われていた。

試合が始まった。

1回表。アンキールは暴投を連発した。ボールがまったくストライクゾーンに入らない。観客も、チームメイトも、彼自身も、何が起きているのかわからなかった。

結局その試合で5つの暴投。翌シーズンも回復せず、投手としてのキャリアは事実上終わった。

これ、「イップス」と呼ばれる現象だ。

何が起きたのか。

アンキールは、投球動作を「考えすぎた」のだ。

普段、投球動作は無意識に行われる。ボールを握って、振りかぶって、投げる。何千回も繰り返した動きだから、考えなくてもできる。

でもプレーオフという極度のプレッシャーの中で、アンキールは自分の動作を意識しすぎた。「腕の角度は正しいか」「リリースのタイミングは合っているか」。

考えれば考えるほど、体が動かなくなる。

これは投手だけの話じゃない。


日常に潜む「分析麻痺」

私たちの日常にも、同じことが起きている。

会議で発言しようとして、「これを言ったらどう思われるだろう」と考える。考えているうちに話題が変わる。結局、何も言えない。

好きな人に告白しようとして、「今日はタイミングが悪いかも」と思う。次のデートでも「まだ早いかも」と思う。気づいたら相手に恋人ができている。

副業を始めようとして、「まず勉強してから」と本を買う。読み終わる頃には「市場が変わったかも」と思う。また調べ直す。何も始まらない。

全部、同じ構造だ。

考えることで「正しい判断」をしようとしている。でも考えれば考えるほど、リスクが見えてくる。リスクが見えれば見えるほど、動けなくなる。


なぜ「考えない」ことが必要なのか

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏は、人間の思考を「システム1」と「システム2」に分けた。

システム1は直感的で速い。システム2は論理的で遅い。

問題は、システム2が優れているとは限らないこと。

複雑な状況では、むしろシステム1の方が正確な判断を下すことが多い。でも私たちは「ちゃんと考えなきゃ」と思って、わざわざシステム2を起動させる。

それが麻痺の原因だ。


動ける人がやっていること

じゃあ、どうすればいいのか。

「考えるな」と言われても、考えてしまう。それが人間だから。

でも、動ける人には共通点がある。

「まずやってみる」を先に決めている。

転職を成功させた友人がいる。彼は「3社応募するまで、情報収集しない」と決めていた。

なぜか聞いたら、「調べれば調べるほど動けなくなるから」と言っていた。

まず応募する。面接を受ける。その過程で、本当に必要な情報がわかる。そして、その情報を集める。

順番が逆なんだ。

情報を集めてから動くんじゃない。動きながら情報を集める。


今日、試せる一つのこと

「明日、考えずにやること」を1つ書き出す。

「考えずに」がポイントだ。

「朝9時になったら、あの件のメールを送る」 「ジムに着いたら、何も考えずにランニングマシンに乗る」 「帰宅したら、とりあえずパソコンを開く」

行動のトリガーだけ決めて、「やるかどうか」は考えない。


よくある失敗

「もう少し考えてから」と言ってしまうこと。

その「もう少し」が永遠に続く。30秒でメモを書いて、明日の自分に委ねる。


「完璧なタイミング」を待つこと。

完璧なタイミングは来ない。「今日はタイミングが悪い」と思った日が、実は一番良いタイミングだったりする。


参考書籍

  • バリー・シュワルツ氏『選択のパラドックス』 選択肢が増えるほど不幸になる「最大化者の罠」を解説。なぜ「まあいいか」が幸福度を上げるのかがわかる。

  • ダニエル・カーネマン氏『ファスト&スロー』 ノーベル賞経済学者が解き明かす、人間の2つの思考システム。直感と論理の使い分け方を学べる。


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