体の設計図は、200万年前から変わっていない
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ダイエットをしている。睡眠も気をつけている。ストレスを溜めないよう工夫している。
それでもなぜか、慢性的に体調が優れない——そういう人が増えています。
問題は努力が足りないのではなく、「そもそもの前提が間違っている」可能性があります。
科学ライターの鈴木祐さんは『最高の体調』の中で、現代人の不調の根本原因を一言で説明します。
「進化のミスマッチ」。
体は200万年前の環境に適応している
人間の体は、おおよそ200万年かけて設計されました。その設計書に書かれているのは、狩猟採集時代の生活環境です。食料が乏しく、毎日大量に歩き、少人数のコミュニティで密接に関わり、夜になれば暗闇の中で眠る——そういう生活に最適化された体です。
ところが現代は違います。
食料は過剰にあります。ほとんど歩かなくていい仕事があります。スマートフォンで何百人と繋がっています。夜中まで部屋が明るい。
この「現代の環境」と「200万年前に適応した体」のズレを、鈴木さんは進化のミスマッチと呼びます。
注目すべきは、このミスマッチがわかりやすい病気ではなく「原因不明の不調」として現れることです。はっきりとした病名はつかない。でも疲れが取れない、気分が沈む、集中できない——こうした症状が積み重なっている場合、その正体はミスマッチである可能性が高いと鈴木さんは指摘します。
「慢性炎症」が万病の根っこにある
進化のミスマッチが引き起こす問題の中核にあるのが、「慢性炎症」です。
炎症自体は体の防御反応です。細菌やウイルスが侵入したとき、傷ついたとき、体は炎症を起こして修復しようとします。これは正常な機能です。
問題は、炎症が「慢性的に」続く状態です。
たとえば、高カロリーで加工度の高い食品を継続的に食べること。糖質や脂質の急激な変動が、血管や細胞を少しずつ傷つけます。体はその都度修復しようと炎症を起こしますが、食べ続ける限り炎症も続きます。
2005年のハーバードの論文では、トランス脂肪酸の摂取量が多い人ほど体内の炎症レベルが高いことが確認されています。また、スウェーデンの調査では「体調が悪い」と感じている人ほど炎症マーカーの値が高いという関係も報告されています。
慢性炎症は、うつ病や心疾患、糖尿病との関連も示されています。「なんとなく気分が重い」「原因不明の疲労感」の背景に、慢性炎症が潜んでいる可能性があります。
狩猟採集民との比較データも興味深いです。パプアニューギニアのキタブ族(旧石器時代に近い生活を営む)の調査では、糖尿病の発症率が約1%、がんの割合もほぼゼロに近いことが報告されています。これは現代先進国とは大きく異なる数字です。
自律神経が乱れるのも、ミスマッチの一種
もう一つ、ミスマッチが引き起こす問題に「自律神経の乱れ」があります。
自律神経の専門家である小林弘幸さんは「人間のパフォーマンスは、自律神経のバランスで決まる」と繰り返し指摘します。スキルがあっても、自律神経が乱れている状態では持っている力を出し切れない、と。
興味深いのは、自律神経を乱す原因の多くが「現代特有のストレス」だという点です。情報の過剰摂取、常に誰かと繋がっていなければならない感覚、休んでいるのに頭が休まらない状態——これらは進化の観点では「想定外の刺激」です。
小林さんが「メンタルの問題は、メンタルでは解決しない」と言うのは、この構造を知っているからです。自律神経の乱れは脳からのアプローチより、体への直接的なアプローチ(水を飲む、ゆっくり深呼吸する、身の回りを整える)の方が効果的です。
体が先にあって、心が後から追いかける——この順序を知ることが、調子を整えるうえで非常に重要です。
「もとに戻す」発想が、体には合っている
進化のミスマッチへの対処は、「新しい何かを取り入れる」よりも「本来の生活に戻す」という発想が基本になります。
食事の質を上げる:カロリーより「炎症を起こしにくいかどうか」を基準にする。加工食品を減らし、食物繊維を増やす。これは流行りのダイエットではなく、狩猟採集民が食べていたものに近づけることです。
意図的に動く:現代の生活では体を動かさなくても済んでしまいます。でも体の設計図には「毎日歩く」が組み込まれています。仕事の効率を上げるより、「動く機会を取り戻す」発想の方が体には合っています。
情報を意図的に遮断する時間を作る:脳が刺激の過少な環境に適応している一方、現代は刺激が過剰です。スマートフォンから離れる時間、自然の中に出る時間は「贅沢」ではなく「回復のための投資」と考えるべきです。テキサス大学の実験では、電源を切ったスマートフォンが視界にあるだけでも集中力が下がることが示されています。
健康に関する情報は「新しいもの」や「特別なもの」に目が行きがちです。でも現代の慢性的な不調の多くは、「当たり前のことを当たり前にする」——つまり、体の設計図に近い生活に戻すことで改善できる可能性があります。
200万年の設計書を無視して、20年の流行に合わせようとすること自体が、そもそもの間違いなのかもしれません。
この記事で参考にした本
『最高の体調 進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法』鈴木祐さん → 進化のミスマッチという枠組み。現代人の不調の根本原因が、体と環境のズレにあるという視点。
『整える習慣』小林弘幸さん → 自律神経のバランスが人間のパフォーマンスを決めること。体からアプローチする整え方の具体的方法論。
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