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ブクドリ | BOOK DRIP

ストレスを減らしたのに不調になる人が、手放していたもの

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約6分で読めます 健康・メンタル
目次

たとえば、忙しさで体調を崩しかけたので、上司に頼んで担当案件を減らしてもらったとします。責任の重いプロジェクトからも外してもらった。休日はしっかり休み、マッサージにも通った。

ところが3か月たっても、朝の体の重さは変わらない。それどころか、会社に向かう足が前より重くなっている。

ストレスは確かに減らしたはずです。では、何が残っているのでしょうか。

職場のストレス研究には、この「減らしたのに楽にならない」をうまく説明できる区別があります。ストレスの元を2種類に分けると、減らしていたのは片方だけだった、という見方です。

「ストレスを減らす」とき、実際に減っているもの

ストレスを1つの目盛りのように考えると、対策は目盛りを下げることになります。仕事の量を減らす、締め切りを延ばす、責任を軽くする。どれも交渉しやすく、減ったことが目に見えます。

一方で、減らしにくいストレスもあります。たとえば、何を期待されているのか分からない。上司と部長の指示が食い違う。承認のために同じ書類を何度も出し直す。こうした負担は量として数えにくく、頼んで減らしてもらう対象になりにくい。

鈴木祐さんは『超ストレス解消法』で、ストレスを3つに分けています。短期間で終わる「ショートストレス」、それを何度も繰り返す「ループストレス」、慢性化した「ロングストレス」です。

締め切りのようなショートストレスは、適度なら意欲の起爆剤にもなる。いちばん危ないのはロングストレスで、負担に慣れて自覚がなくなることが最大のリスクだと鈴木さんは書いています。

指示の食い違いや理不尽な手続きは、片づけても翌週また起きます。私は、これがループやロングに育ちやすい種類のストレスだと考えています。しかも慣れてしまうと、減らす候補にすら挙がらなくなる。

満足度と離職で、逆向きに働くストレスがある

この2種類の違いを、データで示した研究があります。

2000年、キャバノー氏らはアメリカの管理職1,886人のデータを、時期をずらして分析しました。職場のストレスを、成長や達成につながりうる「挑戦的ストレス」と、仕事の前進を妨げる「阻害的ストレス」に分けて調べたのです。

結果は、2種類で逆向きでした。仕事への満足度が高く、転職活動をしていなかったのは、挑戦的ストレスが大きい人です。反対に阻害的ストレスが大きい人ほど満足度が低く、転職活動をし、実際に辞めていく傾向がありました。

同じ「ストレスが多い」という自己申告でも、中身によって正反対の結果につながっていたわけです。ストレスを1つの目盛りで測っていたら、この差は打ち消し合って見えなくなります。

どちらも疲れる。意欲を生むのは片方だけ

では、挑戦的ストレスは体にいいのか。そこまでは言えません。

2010年にクロフォード氏らが、55本の論文と原稿(64の標本)をまとめたメタ分析があります。仕事の要求を2つに分け、燃え尽きと仕事への熱意(ワーク・エンゲージメント)との関係を調べました。

分類の中身はこうです。責任の重さ、時間の切迫、仕事量を「挑戦的な要求」とし、手続きの煩わしさ、感情的な対立、社内政治、資源の不足、役割の葛藤、役割の過重を「阻害的な要求」としました。

燃え尽きとは、どちらも正の相関がありました。責任や仕事量からくる負担も、人を疲れさせるわけです。ただし補正後の相関の強さは、阻害的な要求(0.30)が挑戦的な要求(0.16)のおよそ2倍でした。

熱意との関係は、向きが分かれました。熱意と正の相関を示したのは挑戦的な要求(0.16)で、阻害的な要求は負の相関(マイナス0.19)でした。

これを「減らす」側から読み直すと、冒頭の場面に説明がつきます。担当案件や責任を減らすと、疲れの源は少し減る。同時に、熱意の源も減る。そして疲れとより強く結びつき、熱意まで削る阻害的な負担は、手つかずで残ります。

残るのは、消耗するのに何も返ってこない種類のストレスだけ。休んで体力が戻っても、月曜にはそれが待っています。前より仕事がつらく感じても、不思議ではありません。

挑戦的ストレスは、健康の味方でもない

研究の限界も書いておきます。

クロフォード氏らの分析に入った研究の多くは、一時点の自己申告による調査でした。論文自身が、因果の順序を直接示す結果として読まないよう注意しています。仕事を減らしたら熱意が下がることを、実験で確かめたわけではありません。

2019年には、マッツォーラ氏らがこの枠組みを使った32の研究を見直し、厳しい評価を出しました。成果や熱意では2種類の違いが見られる。一方で、心理的な負担、体の健康、職場での問題行動との関係では、挑戦的ストレスも阻害的ストレスも一貫して悪い方向に結びついていた、というのです。

手応えや意欲をもたらす挑戦的ストレスも、体力はきちんと削っていきます。この記事の主張も、その範囲にとどめます。

もう一つ、同じ負担が挑戦になるか阻害になるかは、人と状況で変わります。クロフォード氏らも、対処しきれない要求が続くと、最初は挑戦だったものが阻害に変わりうると書いています。

先に減らすのは、何も返ってこないストレス

ここからは実務に置き換えます。

誤解:ストレスは総量で減らせばいい → 総量で考えると、交渉しやすい仕事量や責任から先に減り、熱意の源まで細ります。

正しいアプローチ:今週の負担を2列に書き分ける → 紙を縦に2つに分け、左に「進めれば前に進むもの」、右に「どれだけやっても前に進まないもの」を書きます。5分で終わります。右に並んだものが、阻害的ストレスの候補です。

誤解:まず仕事量を減らしてもらう → 量の交渉だけで終わると、右の列がそのまま残ります。

正しいアプローチ:減らす交渉は右の列から始める → たとえば「この件で期待されている成果を一文で教えてください」と確認する。食い違う指示は、どちらを優先するか上司に決めてもらう。量を減らしてもらうより、頼みやすい項目も多いはずです。

冒頭の例でいえば、外してもらった重いプロジェクトは左の列に入ります。一方、毎週のように差し戻される定例報告や、誰が決めるのか曖昧なままの会議は右の列でしょう。減らしたのは左で、右は丸ごと残っていたことになります。

自衛隊でメンタルヘルス教育に携わってきた下園壮太さんは、『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』で、減らし方の順番を指摘しています。

仕事そのものを減らさずに残業時間だけを規制すると、責任感の強い人ほど仕事を自宅に持ち帰る。休む場所がなくなり、疲労はかえって深まる。だから残業規制の前に、仕事を丸ごと切るべきだ、というのです。

ただし下園さんは同じ本で、疲れが深くたまった段階では、苦手な仕事や負担の大きい仕事から外し、何もしない休養を取らせるべきだとも書いています。苦手分野で鍛えるのは、元気なときに限る、と。

では、手応えのある仕事を残しておけば元気になるかというと、そうとも限りません。余力があるときには手応えを生み、余力がないときには消耗を早めます。疲れ切っているなら、まず休むのが先です。

眠れない、食欲が落ちたといった状態が続くなら、この記事の整理より、医師や産業医への相談を優先してください。

おわりに

ストレスを減らしたのに不調になったとき、減らした量は足りていたのかもしれません。見直したいのは、どれを減らしたかです。

紙の右の列に、何が残っているか。月曜の朝の重さの正体は、その中にあるかもしれません。


この記事で参考にした本

『超ストレス解消法』鈴木祐さん → ストレスを「ショート」「ループ」「ロング」に分け、慢性化したものほど自覚しにくくなると指摘する

『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』下園壮太さん → 残業規制より先に仕事を切る。疲れが深いときは苦手な仕事から外して休む、という順番


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